ピノエルフの賭け、2人組の賭け
切羽詰まった状態となる、ピノエルフ達。
くそう、ここまでかっ!
ならば!
覚悟を決めた様な目付きとなる、ピノエルフ達。
何かを仕掛けて来る、そう感じたエルフ達は。
観客の親子を無事逃がした後、ピノエルフから距離を取る。
ピノエルフの内の1人が、シジュウカラ科の2人組に叫ぶ。
「〔あれ〕だ!あれを寄越せ!」
「良いのか!? あれを使ったら、もう元には戻れんぞ!」
「このまま討ち死にするよりはましだ!早く寄越せ!」
「ふんっ!俺達を恨むなよ!」
「知った事か!」
2人組は、逃げると見せかけて急降下。
ビューーーーッ!
シュッ!
ピノエルフ達の背後に回り込むと。
胸元から怪しい瓶を取り出し、コルク栓を開ける。
シュポン!
そして、瓶の中に入っている黒い球をコロリと取り出す。
大きさはビー玉程、それを1つずつ。
ピノエルフ達の背中へ、ギュッと押し込んで行く。
その作業を終えると、『後は知らねえからな!』と捨て台詞を吐いて。
シジュウカラ科の大群の後ろへと、舞い戻った。
大将らしき者へ、告げる。
「済まねえ!使い切っちまった!」
「また補充すれば良い。それより今は、ここを凌がんとな!」
「でもどうする?結局あれは偽物だったぞ?」
「偽物が有るって事は、本物も有るって事だ。でなければ、こんな手の込んだ真似はしまい。」
「どうやって見つける?」
「知ってる奴に聞いた方が、早いだろうな。」
「そうか……。」
大将にそう言われた後、考え出す2人組。
ボソボソと話し合った後、或る事を閃いた。
この状況を利用すれば……。
そして、下で繰り広げられている戦況を。
じっくりと観察し始めるのだった。
「何?何をしたの?」
シジュウカラ科の不穏な動きに、胸騒ぎが止まらないユキマリ。
『仕方無いっ』と、サフィは。
服のポケットからドゥヌラーベを取り出し、先をヒースの母親に翳す。
ポウッ。
白く温かい光が母親を包み、見る見るうちに毛の艶やかさが戻って行く。
ふっさりとした白い毛が、サラッと流れるまでになると。
母親は『クゥ?』と鳴く。
クゥーーーーッ!
ヒースが、母親の毛の中に潜り込む。
すると、母親の身体がピカッと光り。
黒ウサギに変化する前の、30代前半の女性の姿に成った。
腕の中で、ヒースを抱きながら。
「ごめんね……ごめんね……。」
悲しそうに何度も呟き、ヒースを優しく撫でる。
「クゥ。」
満足そうに、明るい感じで鳴くヒース。
スクッと立ち上がると、サフィに頭を下げる。
「ご迷惑をお掛けしました。申し訳ありません。」
その目には、涙が溜まっていた。
色々と、不本意だったのだろう。
子供を巻き込んでしまった事、沢山の人に多大な迷惑を掛けてしまった事。
しかしサフィは、そんな事を気にせず。
ヒースの母親に叫ぶ。
「あんた!自分と、子供の身位!守れるわよね!」
その顔付きは、覚悟を強いている様だった。
サフィの言葉に応える様に、『はいっ!』と力強く返事をする母親。
『良し!』と頷いた後、サフィはユキマリに言う。
「あっちに向かうわよ!奴等の狙いは、多分〔彼〕だから!」
「わ、私も行かなきゃ駄目?」
戸惑うユキマリ。
サフィは怒鳴る様に返す。
「当たり前でしょ!それがあんたを連れてきた理由、〔あんたの役割〕なのよ!」
ぐううぅぅ……。
黒い球を押し込められた後、地面に蹲っているピノエルフ達。
それを見て、サフィの下に居た女エルフが。
レッダロン達に叫ぶ。
「気を付けて下さい!【悪魔の素】が、ピノエルフに埋め込まれました!」
「何だと!」
レッダロンは、この場を指揮する為。
テルドを守りながら、精鋭部隊の後ろに居た。
ジッと、ピノエルフ達の様子を観察している。
すると、ピノエルフの背中が。
ボコボコッ!
泡が出る様にブクブクと、凸凹な形へと変わり。
ボゴン!
直径30センチ程の黒い球が、背中から剥がれ落ちる。
1人に付き、5~7個。
黒い球は、形を変えながら。
ピノエルフへと変化。
あっと言う間に、ピノエルフの軍団が誕生した。
ぐううぅぅぅわあああぁぁぁぁ!
一斉に叫び出すピノエルフ達。
〔悪魔に魂を売った〕とは、正にこの事。
ピノエルフとしての自我は、殆ど無く。
残っていたのは、〔エルフは敵だ〕と言う感情だけ。
ドッと精鋭部隊に襲い掛かる、ピノエルフの軍団。
スピードやパワーが、増幅されているらしい。
精鋭部隊が、やや押されている。
「持ち堪えろ!」
レッダロンが、懸命の指揮。
一瞬意識が、テルドから逸れた。
その時、上空の彼方から。
勢い良く突っ込んで来る者達。
シジュウカラ科の2人組だった。
急降下し、テルドを襲う。
2人組の考えは、こうだった。
ここに在った宝物は、偽物だった。
しかし、ここの何処かに本物は在る。
その在り処を確実に知っているのは、帰還したエルフを束ねていたテルド。
あいつを捕らえて、隠し場所を吐かせれば……。
天から突っ込み、テルドの身を確保せんと。
勢いを増す。
捉えたっ!
そう思った時。
シュッ!
目の前を何かが通り過ぎ、テルドの姿が消えた。
そのまま地面に激突する、2人組。
ぐっ!
大きな怪我は何とか免れたが、羽を何処か痛めたらしい。
素早い羽搏きは、暫く出来そうに無い。
それよりも、あ奴は……?
テルドの姿を探す、2人組。
レッダロンは、『しまった!』と思った後に。
『でかした!』と叫んだ。
テルドは、キョトンとした顔の後。
一言、『済まない』と呟いた。
テルドの身を確保し、シジュウカラ科の2人組から救出したのは。
ユキマリだった。
元々身体能力の高いユキマリ、戦闘には向いていなくても逃げ隠れは得意。
狩られる側の系譜を受け継いでいる、ウサギ族ならでは。
サフィが叫ぶ。
「そのまま〔連中〕の所へ!」
「分かった!」
ユキマリはテルドを抱えたまま、ムーランティスの森へと駆けて行く。
「逃がすかっ!」
ユキマリを追おうとする2人組。
その前にスッと立ちはだかる、あの女エルフ。
名を名乗りながら、透明の棒を右手に握り。
2人組へと対峙する。
「黒き者にされた、この前の屈辱と共に!この【ヘンメル】が!お前達を討ち果たして見せよう!」