続々と、加わる
「小僧が!」
「粋がるなよ!」
シジュウカラ科の2人組は、ヒダリィへ反抗気味。
そこへ駆け付ける、ヤマガラ科の部隊。
「降参しろ!」
「もう逃げられんぞ!」
ヤマガラ科は、2人組を威嚇する。
しかし尚も、逃げる素振りをする2人組。
地上へ向かって叫ぶ。
「まだかよ!お前等!」
「指図すんじゃねえ!とっくにスタンバイしてるさ!」
地上から返って来た、謎の声。
2人組は、続けて叫ぶ。
「だったら早くしろよ!この無能が!」
「宝物の恩恵を分けてやらねえぞ!」
「やってやるさ!お前等に言われなくともな!」
破れた幕の後ろから、次々と現れる影。
それは事前の、レッダロンとサフィの見立て通り。
「来たわね。〔ピノエルフ〕共。やられた借りは、きちっと返させて貰うから!」
ムーランティスの森で、穴に投げ捨てられた。
その時の恨みを晴らそうと、張り切るサフィ。
その後ろで、『ど、どうすんの?どうすんの?』とオロオロするユキマリ。
戦闘には不向きな為、足を引っ張るまいと縮こまっている。
その一方で。
暴れる黒ウサギに向かって、必死に呼び掛けるリディとヒース。
「鎮まって!お願い!」
「クゥ!クゥ!」
しかし声が届かないらしい、止まる気配は無い。
リディとヒースへ、ピノエルフ達が襲い掛かる。
「計画の!邪魔を!するなーっ!」
「それはこちらの台詞だっ。」
ガキーンッ!
持っている武器と武器が、激しくぶつかり合う音。
固い木の棒しか手元に無かった、ピノエルフ達は。
透明なやや長めの棒を持つエルフ達に、押し返される。
到着したばかりの、精鋭部隊。
その中から、或るエルフがレッダロンの下へ駆け寄り。
膝間づいて、申し述べる。
「遅くなりました。【あちら】の安全は、既に確保済みです。」
「ご苦労。存分に働くが良い。」
「御意。」
そう告げると、サフィやリディの前に立つ。
その姿を見て、サフィが大声を上げる。
「あんた!あの時の!」
「お久しゅうございます。」
そう、そのエルフは。
イヌ族の長を決める武闘会、その開催時。
悪魔に身体を乗っ取られて、黒エルフと化していた女性だった。
彼女はサフィに告げる。
「あのウサギも、恐らく。〔前の私と同じ〕筈です。」
「〔悪魔に乗っ取られてる〕って事ね!」
「はい。浄化すれば、元に戻るかと。」
「サンキュー!」
エルフの言葉に、俄然やる気を出すサフィ。
おどおどしながら、そのエルフに守られるユキマリ。
サフィとの話を耳にして、傍へ駆け寄るリディとヒース。
リディは、宙に居るヒダリィへ叫ぶ。
「お兄ちゃん!ヒースのお母さん、浄化すれば元に戻るって!」
その言葉を言い終わるか否か、ヒダリィは。
素早く剣を抜き、後ろへ振り抜いていた。
ビュッ!
青白い炎が、黒ウサギ目がけ飛んで行く。
それを打ち落とそうとするピノエルフ、邪魔はさせじと戦いを挑むエルフ。
ボスッ!
黒い毛の中に、炎が潜り込むと。
ブワァッ!
幅50メートル、高さ20メートルは有ろうか。
その巨体が、青白い炎に包まれ。
『ジュッ!』と言う音がしたかと思うと、黒から真っ白へと変わる。
そして急激に、シュルルルルーッと縮んで行く。
人間の子供が横たわった位の大きさになると、『クゥーッ』と弱々しく鳴き。
グターッとなった。
「この役立たずがーっ!」
ピノエルフの1人が、ヒースの母親に攻撃を仕掛ける。
両手をバッと真横へ広げ、庇う様に立ち塞がるリディ。
ギロッと睨むその目は、幼女のそれでは無かった。
やられるっ!
身体が反応し、後ろへ飛び退くピノエルフ。
そして、空に居るシジュウカラ科へ向かって叫ぶ。
「こいつ等!手強いぞ!」
「分かってるわ!だから援軍を呼んどいたんだよ!……おっと、来やがった!」
ムーランティスの森の上空を飛び抜けて、飛来する大群。
100以上は居るだろうか、全員シジュウカラ科の姿をしている。
大群の先頭に居る者が、号令を掛ける。
「掛かれーっ!」
おーっ!
2人組を取り囲んでいるヤマガラ科に、襲い掛かるシジュウカラ科。
ヤマガラ科の数は30強、分が悪過ぎる。
それでも勇猛果敢に立ち向かう、ヤマガラ科。
地上では、数で圧倒するエルフが。
ピノエルフを追い詰め掛けていた。
そこでピノエルフは、人質を取ろうと。
森の中へ逃げ込もうとしているエルフの子供達を、何とか捕まえようとする。
子供達を守ろうと、抵抗する親達。
エルフの精鋭部隊がそれに加わり、ピノエルフの企みを潰して行く。
地上はエルフ有利、しかし空中は未だにシジュウカラ科有利。
この間に姿を晦ませようと、2人組は逃げに掛かる。
しかし、何時の間にか。
お盆は真っ二つに切られ、徽章と宝物は落下。
そして、ピノエルフの真っ只中に落ちた。
喜ぶピノエルフ、早速宝物の力を発動させようと力を込める。
だが、何の反応も無い。
1人の力だけでは駄目なのか?
数人が手を掛け、再び力を込める。
それでも、何も変わらず。
その様を見て、『ギャハハ!』と下品に笑う者有り。
「なっ、何がおかしい!」
ピノエルフが、笑い声のする方向を睨むと。
その主は、サフィだった。
サフィは、ねっとりとした口調で言う。
ピノエルフを、落胆させる様に。
「まだ分からないの?〔偽物〕よ、それ。まんまと引っ掛かったわね。バーカ!」