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授与式、開催されるも

殲滅せんめつだと!戯言ざれごとを!」


「それはどうか、なっ!」


 ミギィは湯船から飛び上がると、そのままスタッと洗い場へ着地。

 そこへ、ジリジリへとにじり寄る男達。

 ラピスは攻撃を何とか掻いくぐりながら、ミギィの下へ。

 それを追い駆けて、女達も降り立つ。

 連中はどうやら、同じ種族らしい。

 こうして、オイラスの考えた策は。

 お互い水着の格好のままで、んずほぐれつの様相を呈しながら。

 一先ひとまず、山場を迎えるのだった。




 同じ頃、ヒダリィ達は。

 ウチェメリー章授与式の会場へ、入ろうとしていた。

 会場は、かつ宝物ほうもつが安置されていた場所に舞台を造り。

 数十メートル程間隔を空けて外側に、大きな垂れ幕が下がっている。

 授与式が見たければ、幕の中へ入って来い。

 そう言ったメッセージ。

 大々的に開催される割には、その辺りが矛盾している様に感じる。

 急ピッチで建設された舞台は、結構しっかりした造り。

 半径20メートル程の円形で、高さは1.5メートル程。

 円に接する様に、舞台上には正八角形が描かれている。

 図形の頂点は、結界樹が位置している方向と一致している。

 水色を基調とし、深緑と茶色で綺麗に塗り尽くされて。

 鮮やかさを演出している。

 四方向に階段が設置され、そこから上がる仕組み。

 円形にしたのは、何処からでも見える様にしたかった為。

 それは果たして、観客に対する配慮か?

 それとも……。




 幕をくぐって、控えの場所へと移動するヒダリィ達。

 貴ひん席は少々、居心地が悪い。

 正面側として設置されている階段は、他の物よりやや幅が広い。

 これで、立ち位置等を間違えずに済む訳だ。

 その階段に向かって右に、ヒダリィ達が座っている席。

 左に、レッダロン達主催者側が座る席。

 向こう側には。

 何故か座っている、司会者のユキマリと。

 徽章、そして宝物が。

 数人のエルフに守られている。

 受賞者の頭に宝物を掲げ、『祝福有れ』と唱えるのが慣習らしい。

 その為、宝物も持ち込まれているのだが。

 〔らしい〕との表現には、訳が有る。

 何せ、この前に行われた授与式は。

 何十年も昔、事件が起きる前なので。

 詳しい事は伝わっていないのだ。

 ヒダリィ達が着席するのと同じ時間に、レッダロン達もやって来て。

 席に座る。

 その頃には、舞台の周りはエルフ達やヤマガラ科達で一杯。

 一般客には椅子は無い、その場に座り込むのみ。

 あらかじめ敷物を用意する、ちゃっかり者も居た。

 人獣達もきっと、〔ムーランティスの森〕で。

『見たかった』とボヤいている事だろう。

 問題は、ピノエルフの動向と。

 ヒースの母親を連れてこちらへ向かったらしい、2人組の居場所。

 一応厳重に、辺りは警戒している。

 それでも不安はぬぐえない。

 何かが起こる前に、さっさと済ませたい。

 ほとんどの者が、そう願うのだった。




 日も高くなって来た頃。

 ようやく、式典が始まった。

 前もって用意された式次第にのっとって、厳粛に進めるユキマリ。

 内心は、『私も客なんだけどなあ』と思っていた。

 しかし、おろそかにする訳には行かない。

 これは、ヒダリィの晴れ舞台だから。

 それと同時に、ユキマリには。

 司会とは別に、役目が有ったから。

 エルフとヤマガラ科からの祝辞が、代表から読み上げられた後。

 ユキマリが、手に持っていたマイクの様な物を使ってアナウンスする。


「それでは、本日の主役にご登壇頂きましょう!盛大な拍手を!」


 幕から響くユキマリの声、その言葉に沸き立つ観客。

 パチパチパチ。

 あちこちから、祝福の嵐。

 それを一身に浴びながら、ヒダリィがまず舞台へ上がる。

 続いて、右肩にヒースを乗せた幼女姿のリディが。

 最後に、サフィ。

 階段でずっこけそうになって、観客の笑いを誘うも。

『どもどもー』と、にこやかに誤魔化すサフィ。

 本音は、『笑ってんじゃないわよー!』だろうが。

 ユキマリに『受賞の感想は?』とマイクを向けられ、『うーん』と考えた後。

 ヒダリィは言う。


「ここに居る皆さんの喜びとなって頂ければ、この上無い幸せです。」


 謙虚に答えるヒダリィ、一段と歓声が大きくなる。

 リディも、『うちも嬉しいよー!』とピョンピョン跳ねる。

 仕草の可愛らしさに、見ている者も癒される。

 サフィにもマイクを向けるユキマリ、その時サフィに奪われてしまった。


「ちょ、ちょっと!何すんのよ!」


「良いじゃない。ちょっとしたサービスよ。」


 みんなー!ありがとうー!

 観客に手を振って応えるサフィ、アイドル気取りなのだろうか。

 それでもサフィは、曲がりなりにも美少女。

 黄色い歓声が、観客席から飛ぶ。

『わーい!』と両手を上げ、ブンブン振ると。

 満足した様に、『はい、返すね』と。

 ユキマリにマイクを手渡す。

『もう、妨害しないでよねー』と呟いた声を、マイクが拾ったらしい。

 サフィとユキマリのやり取りを面白いと思ったのか、観客席から再び笑い声が。

 恥ずかしくなり、顔が真っ赤になるユキマリ。

 何とか議事を進行させようと、今度は。

 プレゼンター役のレッダロンと、宝物を掲げる係のテルドを。

 壇上に呼び込む。

 すると急に、場の空気が引き締まる。

 これからが重要なのは、この場に居る者全員が理解していたから。




 四角いお盆の様な板の上に乗せられ。

 運ばれて来る、徽章と宝物。

 ヒダリィの首へ掛けようと、徽章を取ろうとするレッダロン。

 その時、運んで来た者の顔を見て。

 レッダロンが告げる。


「お主……誰だ?」


 それは、エルフでは無かった。

 鼻はとがっていない、ピノエルフでも無さそうだ。

 ヤマガラ科か?

 それにしては、格好がおかしい。

 鳥人は、羽搏はばたく為の羽を。

 腕の中に仕舞っている。

 何時いつでも飛び立てる様に、服は半袖。

 しかしその者は、長袖を着込んでいる。

 と言う事は、鳥人でも無い。

 再び、レッダロンは問う。


「誰だ?」


 警護に当たっていたエルフ達が、慌てて壇上へ向かう。

 その時、ヒースが。


「クゥ!クゥ!」


「お兄ちゃん!【ヒースのお母さん】だって!その人!」


「何だって!」


 リディの叫び声に、ギョッとするヒダリィ。

 この人が、ヒースのお母さん!?

 しかし外見は、まるで人間。

 30代前半の女性、少しくたびれている様にも感じる。

 フサフサと毛をなびかせるウサギ姿のヒースとは、全く違うが……。

 どう言う事だ?

 ええい、考えている暇は無い。

 様子が変だ、彼女の目が血走っている。

 何をするか分からない、そう考えたヒダリィは。

 お盆ごと、徽章と宝物を取り上げようとする。

 その時、ヒースの母親は。

 あらぬ方向へ、お盆をブン投げた。

 それを空中でキャッチする者。

 あれがどうやら、ヒースの母親をここへ連れて来た2人組らしい。

 動物達から聞いた目撃情報と、姿が一致していた。

 特に、頭に付けていたピンクの髪飾り。

 チューリップの花弁はなびらの様なそれは、見間違える訳が無い。

 観客席からも、それが見えたのか。

 ギャアギャアと騒ぎ出す。


「あれはもしや、【シジュウカラ科】か!?」

「どうしてここに!?」

「それよりも!宝物が持ち去られるぞ!」


 観客の叫び声に、気持ちが高揚したのか。

 ニタァッと笑うと、大声でこう告げた。


「これは、お前達には過ぎた物だ!俺達〔シジュウカラ科〕が貰い受ける!さあ、景気良く暴れよ!」


 すると。

『ググゥ』とうなっていた、ヒースの母親が。

 苦しみ出したかと思うと、表面が真っ黒と成り。

 ボンッ!

 煙がその場に立つ、中から現れた姿は。

 ヒースをやや大きくした、ウサギ。

 そして急激に、巨大化して行く。

 慌てて壇上から降りる、ヒダリィ達。

 レッダロンとテルドも、下へ避難する。

 壇上を覆い尽くすまでに大きくなったウサギ、その重みで。

 舞台がグチャッと潰れる。

 グオオオオォォォォッ!

 黒ウサギは、一吠えすると。

 その場でバタバタと暴れ始めた。

 今の内だ!

 この場から離れ、逃げようとする2人組。

 その前へ、邪魔する様に回り込む者が。

 黄色い炎に包まれた、ヒダリィだった。

 ヒダリィは、2人組に言い放つ。


「返せっ!」


「い、嫌だね。」


 たじろぎながらも。

 ヒダリィの命令を拒絶する、2人組の内の1人。

 もう1人が、ヒダリィに言う。


「あっちは放って置いて良いのか?大惨事だぞ?」


 黒ウサギはビョンビョン跳ね回り、幕が破れまくっている。

 観客席はボロボロ、しかし怪我人等は出ていないらしい。

 無事に避難した様だ。

 チラッと黒ウサギの方を見やるヒダリィ、その隙に逃げようとする2人組。

『こんなヘンテコな奴よりも、自分達の方が速い』と思ったのだろう。

 しかしあっさりと、ヒダリィはその行方ゆくえを妨げる。

 そして低いトーンで、威圧気味に。

 ヒダリィは、2人組へ告げる。




「今の俺は、手加減が出来ん。死にたく無ければ、とっとと返せっ!」

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