ミギィ達、発進
平地に建つ櫓まで来た、ミギィ達。
この下には、地下室が有る。
食料や武器等が備蓄してある、保管庫の役目。
結構広いが、それでも横穴5つ分位か。
ネフライが中を案内すると言う体で、ミギィ達は地下室へ。
ウロウロと適当に歩いた後、森とは真反対の側へと行き着く。
ネフライがミギィに言う。
「今の内ですぞ。」
「分かりました。ジーノ、頼んだぞ。」
「合点承知!」
ジーノはその場にしゃがみ込み、『頼んますよー』と呟く。
そして床を擦りながら、やや小声で叫ぶ。
「土の精霊よ!オラ達の前に、道を示し給え!」
すると、ミギィ達の立っている範囲の床が。
ズボッと窪み。
ズズズと下がって行く。
少し離れた所から、その様子を見ているネフライ。
辺りに誰も居ない事を、警戒しながら。
5メートル以上は下がっただろうか。
次にジーノは、森の有る方角へ。
横穴を開ける。
ズズズズズ。
「良し。オッケーだぜ、兄貴。」
ジーノがミギィに声を掛ける。
ミギィは、上に見えるネフライに告げる。
「それでは、行って参ります。」
「御武運を。」
手を振りながら、ネフライは答える。
ミギィ達が横穴へと消えた後、穴は再び。
ズズズと閉まって行く。
そして完全に閉じると、元の綺麗な床に戻った。
頼みましたぞ……。
心の中でそう呟くと、ネフライはその場を後にした。
一連の光景をこっそり見ていた、カワセミ科の子供達3人。
少年2人、少女1人の構成。
オイラスが仰々しく、ミギィ達を連れ。
地下室へと入って行ったのを、偶然見かけ。
『面白そう』と考えて、後を付けて来たのだ。
『すっげー!』『何あれ?』『ふっしぎー』と。
目の前で起こった事に対し、思い思いに口にする。
これは早く、みんなに伝えないと。
そう考え、ダッシュで階段を駆け上がろうとするも。
目の前に、ケイムが立ち塞がる。
「何だよー!」
「邪魔!邪魔!」
「退いてくれよー!」
文句を付ける子供達。
その時ケイムが、一瞬怖い顔になった。
怒られるっ!
子供達は皆、腕で顔を隠す。
しかし、意外にも。
「皆には黙っていてくれ!頼む!」
深々と頭を下げるケイム。
上げた顔を見て、子供達は驚く。
年甲斐も無く、目に涙を溜めていたのだ。
ケイムは続ける。
「全てはラピスを救う為なんだ!この通りだ!」
再びバッと、頭を下げるケイム。
その必死さに、たじろぐ子供達。
『どうして?』と言いながら、ケイムの肩に手を乗せる少女。
その時、ケイムの身体が震えているのを感じた。
心にグッと来る物が有ったらしい、少女は少年2人に言う。
「この事は、黙っておこ?」
「えーっ、勿体無いぃ。」
不服そうな少年。
しかしもう1人の少年も、少女に同意。
「〔ラピスお姉ちゃんの為〕って言ってたし。黙っていた方が良いんじゃないかなあ。」
「そ、そう言われると……俺も辛いぜ……。」
渋々同意する少年。
『その代わり、何か美味しい物を食べさせて!』と。
少女はケイムに言う。
口止め料にしては、安い気もするが。
未だに文句を垂れている少年を宥める為の、交換条件のつもりなのだろう。
『お、おう!』と、ケイムは喜んで応じる。
少女は、渋っていた少年へ言う。
「ね?これで良いでしょ?」
「良いよ、良いったら!もう。」
『じゃあ、あれ!』と、リクエストを出す子供達。
囲まれながら、ケイムは地下室を後にする。
ラピスを、どうか宜しく……。
ミギィ達に、心の中でそう呼び掛けながら。
ネフライに悟られない様、子供達を速やかに地上へ上げると。
さっさと櫓を後にする、ケイムだった。
どうしてケイムが、ミギィ達の動きを知っていたのか?
ラピスに親身になる訳とは?
それはケイムが、〔階級を表す羽を付けていない〕事と関係が有るのだが。
それが明らかになるのは、もう少し先の話。
横に開いた穴を、進んで行くミギィ達。
進むと言っても。
ベルトコンベアーの様に自動で、表面の土が運んでくれている。
先頭には、〔白く輝く鉱石〕入りのランタンを手に持ったジーノ。
続いてミギィ、アンビーと続き。
最後方はアーシェ。
ジーノの前の土壁が次々と、パッカーンと開けて。
そこへスルリと運ばれる。
4人が過ぎ去った後、直ぐに後ろが土で塞がれて行く。
ミギィ達を包んだ空間が、土の中をゴゴゴと動いて行く感じ。
ジーノが嬉しそうに言う。
「いやあ、楽ちんだなあ。」
「あんたの力じゃ無いでしょ。」
「良いじゃねえか。発動させたのはオラなんだし。」
「良く無いわよ。はっきりさせとかないと、調子に乗るでしょ?あんたが。」
「の、乗らないやい!」
賑やかに言葉を交わす、ジーノとアンビー。
その間に挟まれているミギィは、少々困惑顔。
グネグネと動く周囲を眺めながら、『大丈夫なんだろうな……』と少し不安気なアーシェ。
これは、オイラスが。
この辺りの土の精霊に協力を求め、実現した物。
ラピスは1人で森に入らなければならない、でないと向こうに怪しまれるから。
こっそりミギィ達が森へと到達するには、土の中を通過した方が良い。
幸いにも、土の精霊の加護を受けているドワーフが。
ミギィ達の中に居る。
精霊の力の発動、その切っ掛けを与えられる存在が。
ここを訪れていたのは、オイラスにとって行幸だった。
もっとも、旅立つ前に。
サフィが『役割が有る』と発していた事を、覚えている者にとっては。
『サフィが仕組んだ事』、そう捉えてもおかしく無かったが。
とにかく、向こうに悟られる事無く。
森へと移動するミギィ達。
カワセミ科さえも近付かない場所に、不安と期待が入り混じりながら。
どんな場所か思いを馳せる、一行なのだった。