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ヒダリィとサフィ、宿での密談

 マーボロ地方へ来てから、7日目にして。

 ようやくヒダリィ達は無事、ナパーレへと着いた。

『折角だから』と、ルクとムッカも授与式を見て行く事にした。

 宿へと入るヒダリィ達、とんだ珍客に驚くも。

 ヒースを歓迎する、宿の主人。

 ルクとムッカは、町に常駐しているベイン達の下へ。

 ヒダリィ到着の報を受け、早速レッダロンが宿へ尋ねて来る。

 一先ひとまずの感謝の言葉と、授与式を明日り行うむねをヒダリィへ伝え。

『後は、その者に聞いてくれ』と、サフィを指しながら。

 レッダロンは戻って行った。

 バニーガール姿のままで、ふくれっ面のユキマリ。

 今は着替えを全部洗濯し、乾かしている最中で。

 これしか着る服が無いらしい。

 サフィに仕組まれた気がしてならない、ユキマリ。

 しかしレッダロンからも直々に頼まれ、引き受けざるを得なくなった。

 いつもとは違う場での司会、不安が高まる。

 そこへヒダリィが、ユキマリに声を掛ける。


「俺から。誰か別の者に変わってくれる様、頼んでみようか?」


 その顔に、同様の不安を感じ取ったユキマリは。

 反省する。

 一番不本意なのは、きっとヒダリィ。

 謙虚な心遣いから、授与を断っても良かったのに。

 彼の一世一代の晴れ姿、その場を仕切れるなら。

 これ以上のほまれは無い。

 そう思い直し、ユキマリはヒダリィに答える。

 今一番の笑みを浮かべながら。


「大丈夫。任せといて。」




「おい、サフィ。」


「なあに?」


 宿で食事を取りながら、ヒダリィがサフィに尋ねる。

 内容は勿論、〔どうしてこうなったのか〕。

 着いていきなり、授与式が行われる事。

 ユキマリが急きょ、司会役となった事。

 その他、もろ々。

『こいつが関係している』、そう思った事は全て。

 食堂には、ヒダリィ達の他には。

 宿の主人しか居ないが。

 聞かれたくないらしい、『ここでは話せない』と言う。

『しょうが無いなあ』、そう答えると。

 ヒダリィは、さっさと食事を済ませる。

 どうせ、俺の部屋でだろ?

 そう言い残し、ヒダリィはお先に自分の部屋へ。

 モグモグ、パクパク。

 リディとヒースは、食べ切るのにまだ時間が掛かりそうだ。

『ここは見ておくから』と、ユキマリが言うので。

 お言葉に甘えて、サフィは。

 1人で、ヒダリィの部屋へと向かった。




 宿では、1人1部屋となっている。

 但し、ヒースはリディと同部屋。

 見掛けは小さいウサギなので、『幼女のペットだ』と思ったのだろう。

 主人が、そう手配した。

 コンコンコン。

 一応、入り口のドアをノックして。

『お邪魔するわよー』と、サフィはヒダリィの部屋へと入る。

 部屋の間取りは、どの部屋も同じ。

 入り口から見て右奥にベッド、右手前に小さな机と椅子。

 机の上には、〔オレンジ色に輝く鉱石〕の入ったランプが置かれている。

 左奥には、花のけられた花瓶が。

 小さなテーブルの上に乗っている。

 飾られている花は、ナパーレ近郊に咲く【アワユリ】と言う草。

 淡いオレンジ色の花びらが、ユリの様な形をしているから。

 そう名付けられた。

 この世界のユリは、ベルの様な形の花を咲かせる。

 〔スズランを大きくした物〕、と言ったら分かるだろうか。

 但し、1本のくきに1つの花びら。

 そこがスズランとは違う。

 何故ここでアワユリについて、わざわざ言及するのか?

 それはこの花が、結界を張る役割を果たしているから。

 対角線上の先、ランプの方向に。

 花の咲く向きを合わせる事で、2つが共鳴し合い。

 外部から、邪悪なモノを寄せ付けない仕組み。

 大切な客人を守る為の、特別な仕掛けなのだ。

 残念ながら、生けられた状態のアワユリは。

 1日半しか効力を発揮出来ないので。

 次の日は、新しく生け直す必要が有る。

 まさしく、VIP待遇ならでは。

 ここでなら、ひそひそ話をしても大丈夫と言う事。

 ベッドに腰掛けているヒダリィ、その前の床にサフィが座る。

 これまで澄まし顔で町中まちなかを過ごして来て、息が詰まっていたのだろう。

 胡坐あぐらを掻いて、リラックスモードのサフィ。

 思わず下着が見えそうだ、それでもヒダリィになら構わないらしい。

 一方、ヒダリィはたまった物では無い。

 ユキマリやリディが入って来た時、変な風に思われると厄介なので。

『これで隠せよ』と、サフィにタオルを放り投げる。

『別に良いのにー』と言いながらも、股の辺りにタオルを広げる。

 そして一言、ヒダリィへ余計な事を。


「後で、変な事に使わないでよ?」


「使うかっ!」




「で?どうなってるんだ?」


 改めて、サフィに尋ねるヒダリィ。

 ここからは、少し小声で。

 するとサフィは、あっさりと。


「全ては予定通りよ。」


「着いて直ぐに、式が行われる事もか?」


「ええ。」


「ユキマリが司会をやる事になったのもか?」


「それが彼女の役割なのよ。司会なら、会場全体を見渡せるでしょ?」


「その言い草だと、何かが起きるみたいだな。」


「【起きる】じゃ無くて、【起こす】のよ。わざとね。」


「どうしてだ?」


 そこが良く分からない、ヒダリィ。

 誰かに動かれなくては困る様な言い方。

 サフィは、ジッとヒダリィを見ながら告げる。

 その真剣な眼差しに、ヒダリィはドキッとしてしまったが。




「因縁にけりを付ける為よ。エルフと【あいつ等】とのね。」




『それに協力してあげてるのよ』と、サフィは続ける。

 あいつ等、か。

 と言う事は、ヒースの母親の件も絡んでいるのか……。

 怪しい2人組と共に行動している、ヒースの母親。

 サフィの言う、因縁とやらに。

 巻き込まれてしまったらしい。

 一応、報告しておくか。

 2人組に付いて、特徴などをサフィに話すヒダリィ。

『ほうほう』と相槌あいづちを打ちながら、サフィは聞きっている。

 聞き終わると、サフィは言う。


「中々の成果ね。そっちを任せて正解だったわ。」


「じゃあ、やっぱり……。」


「関係大有りよ。油断したわね、あいつ等。」


「ヒースは悲しむだろうな。」


 残念がるヒダリィ。

 母親が、変な事に利用されそうになっている。

 その事実を知ったら、きっと辛い気持ちに成る。

 サフィは、黙ってうつむいているヒダリィへ言う。


「だったら、頑張る事ね。あんたに、全てが掛かってるんだから。」


「簡単に言うなよ。」


 俺は、ただの人間だ。

 万能じゃ無い。

『全て』って言われても、困る。

 手の届く範囲は限られてるんだ。

 そう言いた気な、ヒダリィの表情。

 困惑の感情が、もろに表へ出ている。

 その両ほほを、手のひらでムニュッと挟み。

 グニュグニュとね繰り回すと、パッと離し。

 ヒダリィの顔にズイッと、自分の顔を近付け。

 諭す様に言う。


「みんなの前でそんな顔をしたら、ぶっ飛ばすからね。」


「そ、そんなに情けない顔だったか?」


「弱気丸出しもいいとこよ。それじゃあ、不安になるでしょ?特に、リディが。」


 今までヒダリィが。

 事あるごとに、比較対象として名前を挙げて来たリディを。

 引き合いに出して、してやったり。

 のつもりは無く、珍しく純粋な励まし。

 それを実感したからこそ、ヒダリィは心を引き締める。

 サフィは心を込めて、ヒダリィに言う。


「あんたなら大丈夫。出来るわ。何たって……。」


「『ファンタジーだから』、だろ?」


 そう答えると、ニヤッと笑うヒダリィ。

 その眼差しにはもう、一点の曇りも無かった。

 やれる事をやるだけだ。

 ヒダリィはそう固く、決意するのだった。




「それで良いのよ。それが、あんたらしい。」


『つくづくそう思う』と言った風に、サフィは告げると。

『ふう』と息を吐き、後ろに両手を突く。

 そのまま胸をらし、『うーん』とうなると。

 気懸かりが取れた様に、晴れやかな顔をするサフィ。

 その時丁度、ユキマリ達が入って来た。

『お話は終わったの?』と言う、リディの言葉に。

『ああ』と、明るく答えるヒダリィ。

 優しく頭を撫でてやると、嬉しそうに笑うリディ。

 こんな子に、余計な心配を掛けられない。

 ヒースの母親も、取り戻さないとな。

 チラッと、ヒースの様子をうかがいながら。

 ヒダリィは思う。

 ユキマリの腕の中で、『クゥ』と鳴きながら跳ねているヒース。

 温かい眼差しで、ヒースを見守るユキマリ。

 全部ひっくるめて、みんな守ってやる。

 でも、俺一人じゃ無理だ。

 だから。

 ヒダリィはサフィに、了解を取ると。

 ユキマリやリディ、そしてヒースに。

 話せる範囲で、打ち明ける。

 そして、告げる。


「協力して欲しい。みんなの力を貸してくれ。」


 深々と頭を下げるヒダリィ、それに対し。

『頭を上げて』と、ユキマリが言う。


「しょうが無いなあ。私が居ないと駄目なんだから。」


 頼られるのを嬉しがるユキマリ。

『うち、頑張る!』と、元気に答えるリディ。

『クゥ!』と、ヒースもひと鳴き。

『ありがとう』と言いながら、ヒダリィは。

 皆と、固い握手を交わすのだった。




 それぞれの部屋に戻り、明日の式典に備える一同。

 とうとう〔カテゴリー〕に、問題の日が訪れる事となった。

 一方、ヤンゴタけい流を訪れて4日目に。

 ネフライの住まう横穴へと向かった、ミギィ達は……。

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