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5日目、進んだ先に

 翌日。

 サフィとユキマリは、歩いて〔ナパーレ〕へと向かった。

 前日に辿り着けなかったとは言え、ほとんど目と鼻の先だったので。

 ヤマガラ科はここで、お役御免となった。

 しかしそのまま〔ゴンドウの森〕へ引き返さず、サフィ達と共にナパーレへ。

『ヤマガラ科の労をねぎらいたい』とのゲイリーの意見を、採用した形。

 ユキマリも、『ハイ終わり』とはしたく無かった。

 折角ここまで運んでくれたのだ、彼等にも相応の対価を。

 見合うモノは何か、ユキマリ自身にも分からなかったが。

 それは、レッダロン辺りに任せれば良いだろう。

 無責任かも知れないが、ユキマリは何と無くそう思っていた。




 空気が澄んで、湿度も低いせいか。

 快適に歩ける事へ、喜びを感じるユキマリ。

 毛並みがネコと同様のアンビーなら、もっと喜んだろうに。

 向こうはけい流、きっと毛も。

 水分を多く含んで、ビチャッと倒れる程のジメジメ感。

 ユキマリは少し、アンビーを気の毒に思う。

 微ウサギ系なので、外気の身体への負担は人間族に近い。

 耳と尻尾にさえ気を付ければ、何て事は無い。

 毛づくろい等も考える心配は無い、気楽なものだ。

 一方でサフィは、考え込む顔と晴れやかな顔を繰り返している。

 何ともややこしい、その表情の変わりようは。

 これから待ち受ける事に対する、脳内シミュレーション。

 それを知っているのは、ユキマリと。

 サフィの周りにうっすらと見られる、精霊位だろう。

 何の精霊か悟られない様に、魔力は極力抑えている。

 属性によって、魔力の質は変わる。

 エルフなら、見分けるのも容易だろう。

 それを防ぐ為、と言う事は……?




 サフィとユキマリが、出発した頃。

 ヒダリィ達も、ズロを初めとする精霊達に見送られながら。

 〔アマレイ〕を後にした。

 サフィから精霊達を通して、ヒダリィに伝言が有った。

 それは、『あたし達が通った後を、そのままなぞるな』と言うもの。

 何か意図が有るのだろう、でなければわざわざ言い残さない。

 あいつ、何を企んでいるんだ?

 そう思いながら、ヒダリィは。

 リディとヒースと共に、ヒースの母親を追い駆け。

 一路、ナパーレへ。

 忠告通り、〔モウレン〕へは寄らない。

 回して進む事に成るが、ヒダリィ達はこの辺りの地理に明るく無い。

 そこでズロが、2名のベインを案内役として付けてくれた。

 ヒダリィよりも少し年上に見える案内役は、動き易い様に。

 上半身は、羽織はおりを脱いで小袖こそで姿に。

 はかまも、すそがやや短めに。

 足元は、草履ぞうり足袋たびの様な物を着用。

 ベインの姿を端的な言葉で言い表すなら、〔弓道の格好〕がお似合いか。

 随分すっきりしたものだ、軽やかに歩くベイン達。

 それでもヒダリィには、違和感が有る。

 別の世界に来たみたい、こちらでは見かけない格好だから。

 気にせずどんどん進むリディ、衣服に対する先入観が少ないからだろう。

 寧ろヒダリィの方が、気にし過ぎかも知れない。

 この世界には、ヒダリィが。

 お目に掛かった事の無い種族も、多数居るだろうから。




「結構な年数を生きてるけど、お前さんの様な人間は初めてだよ。」


 案内役のベインの1人、【ルク】が。

 そう、ヒダリィに話し掛ける。

 恐縮するヒダリィ、『自分も同じだ』と言いたくなる。

 〔半分が薄い人間〕など、世界の大多数が経験していないのでは?

 ルクの言葉に、もう1人のベイン【ムッカ】も同調する。


「お前さんからは、不思議な感じがするよ。何て言うのかな……そう、精霊っぽい!」


「そ、そうでしょうか……。」


「敬語なんて、気を使いなさんな。ウラ達は、お前さんよりちょこっと長生きなだけだから。」


「そうそう、ムッカの言う通り。ウラ達は、少し年上なだけさ。」


「ど、どうも……。」


 調子が狂うヒダリィ。

 若いベインは、自分の事を〔ウラ〕と呼ぶらしい。

 ジーノが使う〔オラ〕の変形だろうか?

 要らぬ考えを巡らすヒダリィ。

 ベインは、背丈がヒダリィのまた下程。

 リディよりも低い。

 でも、年上。

 ややこしい関係、せい比べでは負けないのに。

 見た目はリディが年下、それでもリディは。

 ベインよりもお姉さんで居たいらしい。

 幼心おさなごころに、競争心が芽生えたのか。

 胸を張って、威張る格好と成り。

『むっふー』と言った表情で歩き続ける、リディだった。




 ルクとムッカの案内で、スムーズに進んで行くヒダリィ達。

 森は若干湾曲しているので、意外とこちらのルートの方が近道かも知れない。

 カテゴリーの中心側を、上手い事直線状に突っ切って行く。

 モウレンを避けた結果、時間短縮に繋がった。

 それでも、スイーッと鳥人に宙を運ばれて行ったサフィ達には。

 到底追い付けず。

 歩いては休み、歩いては休みを繰り返して。

 その日は暮れる事となった。

 サラを通じて、道中に漂う精霊達へ。

 ヒースの母親に付いて、話を聞くと。

 母親を連れている連中も、ここを通ったらしい事が分かった。

 向こうも、エルフの町・村を避けている様だ。

 あれだけ着飾って、周りへ見せつけているのに。

 どうしてエルフを避けるのか、そこが謎だ。

 洞察力の優れているヒダリィでも、それ以上の事は分からない。

 サフィなら、裏事情に感付いているのだろうが。

 恐らくここに居ても、『後でのお楽しみっ!』とか抜かすのだろう。

 早く合流するしか無いな……。

 そう考えながらも、辺りは薄暗く。

 これ以上は、もう進めない。

 ヒダリィ達は。

 ルクとムッカが生み出してくれた、やや風の舞う空間で。

 雑魚寝ざこねする事となった。

『母親に近付いている』と、自身でも感じているのか。

 ヒースは少し、ゆらゆらしている。

 ご機嫌なのか、緊張しているのか。

 彼とボソボソと話しているリディは、その胸の内を『ないしょ』と言った。

 色々考えても仕方無い、サフィが上手い事やってくれるだろう。

 尻ぬぐいだけは、俺に押し付けるだろうけど。

 ヒダリィは、そんな気持ちのまま。

 リディやヒースと、早き眠りに就くのだった。




「へっくしゅーーーんっ!」


「何よ、サフィ。変なくしゃみをして。」


「誰か、あたしの噂をしてるわねー?人気者は辛いわぁ。」


「いやいや。そんなに人気無いでしょ、あなた。」


「しっつれーねーっ!あたしにメロメロな奴なんて、腐る程居るんだから!」


「本当に腐ってたりして。」


「むむむーっ!あたしの人気に嫉妬してるの!?」


「そんなんじゃ無いわよ。ただ……。」


「ただ?」


 言うのを少し躊躇ためらう、ユキマリ。

『ん?』とした顔で、ユキマリを見つめるサフィ。

 ユキマリは、『はぁーっ』と大きくため息を付いて言う。


「このタイミングで、あなたの噂をするとしたら。〔ヒダリィ〕位じゃないの?」


 どうやら、少しサフィが羨ましいらしい。

 離れていても、彼ならきっと気遣っている。

 私よりも、彼女を。

 ユキマリにはそう思えて、続きを言い辛かったのだ。


「なーんだ。そんな事かあ。」


「〔そんな事〕って……!」


 そんな事って……。

 軽々しく口に出来る位、サフィはどうでも良いらしい。

 私には結構、重要な事なんだけどなあ。

 気に掛けてくれる人が居るってのは、素敵な事なのよ?

 そう言いたいのを、グッとこらえる。

『誤解させちゃったみたいね』と、サフィはユキマリに言う。


「あんたの知ってるあいつが、あんたの事も心配しないと思う?」


「……そうね。」


 彼は優しい、とてもとても。

 ついででも良い、私の事を考えてくれれば。

 乙女心は複雑の様だ。

 しんみりしているユキマリ、その肩をグイグイと揺すって。

 前を指差しながら、らん々と目を輝かせ。

 サフィが叫ぶ。

 それは丁度、ヒダリィ達が就寝した頃だった。




「あれじゃない?ナパーレって!?やっと着いたーっ!」

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