ウサギの親探し、開始
「そ、それは不味いのでは?」
ヤマガラ科から、懸念の声が上がる。
主賓であるヒダリィが、遅れて到着するなど。
有ってはならない事。
ウチェメリー徽章は、彼に贈られるのだから。
しかしサフィは、『だいじょぶだいじょぶー!』と。
明るく笑いながら返す。
「あたしが責任を持つわ。レッダロンにも、ちゃんと説明するから。それに……。」
「それに?」
首をかしげるヤマガラ科達。
サフィは、彼等に対して言う。
「その方が良いのよ。【これから起こる事】に対しては、ね。」
気になる言い方だが。
エルフのリーダーであるゲイリーが、サフィの提案を呑んだので。
心に蟠りを残しながら、他のエルフ達は従う。
ヤマガラ科も、それに同調する形を取る。
30分程の休憩を取る事になった、一団。
巨大ウサギがどっしりと構えているので、『辺りに危険は無い』と考え。
『それならば』と、これから中々取れないであろう休みを。
ついでに取る事にしたのだ。
元々、焦りからぶっ続けで飛んでいて。
疲労が溜まりに溜まった所で、うっかりユキマリを滑り落としてしまったので。
責任を感じていた、ユキマリ担当のヤマガラ科達。
もう、こんな過失は認められない。
次またやらかせば、厳罰が下るだろう。
そのプレッシャーで押し潰されそうになっている所を、ユキマリが。
明るく弾んだ声で励ます。
「あなた達のせいじゃ無いわ。共に頑張りましょ?」
「「あ、ありがとうございます……。」」
温かいユキマリの言葉に、少し救われた気がした。
そして、『もうミスはしない』と。
心に固く誓う、ユキマリ担当だった。
「じゃあねー。しっかりやるのよー。」
「お前に言われなくても、分かってるよ。さっさと行け。」
「もう、素直じゃ無いんだからーっ。」
離れたくないんでしょ?あたしから。
そんな意味を含め、発せられたサフィの言葉だが。
ヒダリィは無視。
虫でも追い払うかの様に、『しっしっ!』と右手の甲を振る。
『はいはい』と言い残し、サフィは。
ユキマリと、団を形成しているエルフ・ヤマガラ科達と共に。
向こうの方へと消えて行った。
残されたヒダリィとリディ、そしてウサギ。
どうしてこの2人が、ウサギの親の捜索に適任なのか?
それは、2人が持っている〔特色〕に有った。
「気配を感じない位離れたよ、みんな。」
遠くを見やりながら、ヒダリィが。
リディと巨大ウサギに向かって言う。
その声に呼応する様に、巨大ウサギの身体が。
シュルルルルーッ!
見る見る内に、小さくなって行く。
リディの小さい手のひらに、すっぽりと収まる程の大きさまで縮む。
リディがそれを救い上げると、ウサギは彼女の右肩へピョンと飛び移る。
『クゥ、クゥ』と鳴きながら、左右に揺れるウサギ。
その長い毛が時々首に触れて、少々くすぐったい。
『ふふっ』と笑ってしまうリディ。
ヒダリィが、リディとウサギに言う。
「それじゃあ、探しに行こうか。」
「うんっ!」
「クゥー!」
2人と1羽?は、元気に返事をし。
仲良く手を取り合って、森の中を歩き出した。
歩きながらの、2人と1羽の会話。
「この子、名前は【ヒース】って言うんだって。」
「クゥ。」
「『宜しくね』だって。」
「こちらこそ、ヒース。直ぐに、お母さんに会わせてあげるから。」
「クゥー!」
リディの右肩で、ピョコンと跳ねるヒース。
『こっちも本格的に行きますか』と、ヒダリィは。
背中の剣に訴え掛ける。
「サラ。少し頼まれてくれないか?」
『良いよ。辺りの精霊に尋ねたいんだね?』
「ああ。」
『前に見せた通り、ボクの実体化は不安定だから。剣の中に居たままだけど。』
「構わないよ。」
『はーい。なら早速。』
これ等のやり取りで。
どうしてヒダリィとリディが、ウサギの親の捜索に打って付けか。
お分かり頂けただろう。
リディは。
まだ人の言葉が話せないヒースと、自由に会話が出来る。
ヒダリィは。
サラを通じて、辺りに漂う精霊と話が可能。
空白域に住まう精霊は、実体化出来る程の魔力を有していない。
声も、かすかに聞こえるだけ。
サフィは聞き分けられるみたいだが、それは特殊なケース。
地獄耳の持ち主だから出来る事。
だからヒダリィが、サラを介して精霊に話し掛け。
ウサギの親の目撃情報を集め、それを精査し。
リディを通じて、ヒースに確認を取りながら。
何処に居るか、突き止めようと言う訳だ。
聞き取り調査を続ける内に。
ヒースの母親は、誰かに連れられて。
〔セキブ〕の在る方へ向かったらしい。
その〔誰か〕が問題となるのだが、精霊は渋って詳しくは聞かせてくれない。
最上位の精霊とは言え、サラも。
同じ精霊に、無理強いはしたく無い。
ヒダリィもサラの気持ちを組んで、過度な追及はしない。
精霊達の素振りからでも、何と無く正体は掴める。
ヒダリィは暫し、頭の中で検討を始める。
或る程度考えが纏まると、ヒダリィは。
リディに、ヒースへ聞いて貰う。
ヒースの記憶から、大体のイメージは返って来た。
やはり、現在〔カテゴリー〕に住まう者以外が。
この一件に係わっている様だ。
しかも、ゲートを潜ってからこれまで起こった事に。
深く関係しているらしい。
何とも悩ましい気持ちに成る、ヒダリィ。
『ん?』と、その顔を横から覗き込むリディ。
その度に、『大丈夫だよ』とヒダリィは答えるが。
それが反って、リディを不安にさせるのだった。
サフィ達は直線的に、ヒダリィ達は蛇行しながら。
結局は、同じ場所を目指す格好となった。
サフィ達は無事に、セキブ内へと入り。
境目近くに在るエルフの村、【モウレン】へと到達。
ここまで来れば一安心、心休まる気持ちに成るエルフ達。
モウレンで1泊する事になった。
緊張が多少和らぐので、疲労もかなり抜く事が出来。
明日はもっと、スピードを上げて進めるだろう。
もしかすると明日中に、〔ナパーレ〕へ辿り着けるかも知れない。
そう、ゲイリーから聞かされたユキマリは。
ワクワク・ドキドキ感が、より一層高まって行く。
逆に、大喜びしそうなサフィは。
しかめっ面で考え込んでいる。
あれがこうなって、それがこう動いて。
後は、ええと……。
ブツブツと独り言を言っているサフィに、ユキマリは話し掛けようとするも。
近寄り難い雰囲気に、スッと下がってしまう。
それだけ険しい表情になっていた、サフィ。
珍しく真剣な面持ち、これから先に何が待ち受けてるって言うの?
ただヒダリィが表彰されて、それだけで終わりじゃ無いの?
ユキマリは難しい事を考えるのが苦手なので、そう思うだけ。
突拍子も無い事を仕出かすサフィに、合わせる必要は無いか……。
そう思い直し、ユキマリは。
食事の輪の中へと加わるのだった。
ヒダリィは、辺りの精霊達を味方に付け。
守られながら、空白域で1泊する事になった。
ヒダリィの荷物は、手元に返されたので。
その中から、非常食の干し肉を取り出すと。
リディへと渡す。
ヒースはまだ干し肉が食べられないらしい、そこでヒダリィは精霊達に頼んで。
新鮮な草を、持って来て貰った。
精霊達に感謝しながら、食事を取るヒダリィ達。
色々と世話をしてくれる精霊達、自分達に出来ない事をヒダリィへ託している様だ。
その気持ちを汲み取り、何とかしようと模索するヒダリィ。
その横では、明るい表情で。
『早く会えるといいねー』とにこやかに会話する、リディとヒースが。
それが一服の清涼剤となって、辺りに振る舞われている。
心なしか、精霊達が元気になっている気がした。
精霊達の守護の下、ヒダリィ達は眠りに就く。
ベッドの上で安らかに眠っている、サフィ達とは対照的に。
フサフサした草むらに、直接寝そべって。
『これも悪くない』と、精霊達の揺り籠の中で。
ぐっすりと寝入る、ヒダリィ達だった。
こうして。
〔マーボロ地方〕へ来てから、3日が過ぎ去って行った。
翌日、それぞれが。
一路、目的地へと進み出す。
その道のりは、あっさりとした物か?
それとも何か、一波乱有るのだろうか?