表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/1285

影、再び

 大きな成果が得られないまま、フキの町へと帰還する3人。

『手入れが大変なのに』と愚痴をこぼしながら、荷台のサフィは髪を弄っている。

『オラのせいだ』と、未だに気にしているジーノ。

『俺が全責任を持つよ』と励ましながら、ヒィは前をしっかりと向いている。

 対照的な、3人の態度。

 街道口へと差し掛かろうとする時。

 町の中から馬車の方へ、駆け寄る人影が。

 それは。


「お疲れー!」


「ネロウじゃないか!どうしたんだ!」


 櫓から姿を確認したのだろうか。

 まだ町中からは見えない筈なのに。

 3人の帰還を知っていたかの様に走って来る、ネロウだった。

 ヒィの驚きの声に、大声で返す。


「話は後!それより、行って欲しい所が有るんだ!」


「え!」




「例の影が、【デイヅ】の町に出やがったんだ!しかも何故か、お前達を御指名だとさ!」




 訳の分からないまま、方向転換。

『やっと休める』と思っていたジーノは、肩透かしを食らう。

 運転席をネロウに譲り、サフィの居る荷台へ移ると。

『はあーっ』とため息。

 呆れ顔のサフィが、思わず言ってしまう。


「まだクヨクヨしてんの?そんなんだと、強い奴には程遠いわね。」


「お前には、分かんないんだよ。オラの悔しさが……。」


「ふうん。だったら……。」


 弱気のジーノに、ニヤリと笑いながらサフィが言う。


「次で挽回する事ね、精々頑張りなさい。」


「次なんて、何時有るか分かんないじゃないか!」


 声を張るジーノに、サフィは前を指差す。

 ヒィとネロウが、何やら話し込んでいる。


「あいつ等の話を、良ーく聞く事ね。その【次】に関する事だから。」


 後はフフッと笑うだけ。

 サフィの表情に少し寒気を感じながら、運転席の2人の会話に耳を傾ける。

 聞こえて来たのは、影に関する話だった。




 フキと、町に一番近い簡易宿場との間には。

 実は、西方へと折れる街道が有る。

 ランクはC級、荷車が1台通れる程の幅。

 荷車同士が、対面ですれ違う事は出来ないので。

 相手に道を譲る為のスペースが、所々街道の幅を広げる形で設けてある。

 その内の1つ、デイヅの町に近い箇所で。

 ヒィ達を待ち受けているらしい。

 デイヅから知らせが来て、自警団の集会所にその情報がもたらされた。

 どうやら、ヒィ達にご執心らしい。

 そこで、戻って来るヒィを気遣って。

 伝令役をネロウが買って出た。

 〔別の町に出た〕と言う事は、〔確認をしくじった〕と言う事。

『意気消沈しているだろう』と考えたのだ。

 これは或る意味、名誉挽回のチャンス。

『間近で励ましたい』と言う思いも有った。

 ネロウの心遣いに感謝しながらも、ヒィの心にやる気が戻って来る。

 今度こそは……。

 そう考えるヒィの目は、燃えていた。




「ね?次が来たでしょ?」


 得意気のサフィ。

 前から聞こえて来る話の内容に、驚くと共に。

『こう成る事を、前もって知ってたんじゃないか』と、サフィの心中を勘繰るジーノ。

 こいつの手のひらの上で、オラ達は転がされてるんじゃ?

 首をかしげるジーノ。

 しかし、前の失態の借りを返せるチャンス。

 よーし、オラも頑張るぞ。

 下を向きっ放しだった、ドワーフの顔にも。

 少しだけ余裕が戻っていた。




 何回か、荷車や馬車とすれ違い。

 ヒィ達は目的地へと向かう。

 フキからデイヅには、馬車では半日で着く距離。

 今回は敢えて、普段より急いだので。

 夕暮れ前には、デイヅの手前まで来れた。

 すると何やら、前が騒がしい。

 人だかりの中で、『下がれ!下がれ!』と言う声。

 明らかに、女性のトーン。

 まずネロウが馬車から降り、人混みを掻き分ける。

 そして馬車から見える様に、野次馬を脇へ下がらせる。

『これから物騒な事になる!怪我したく無いなら、遠くから見てろ!』と、必死な顔で怒鳴りながら。

 ここまで過剰に煽らなければ、野次馬はそのまま居座るだろう。

 何か刃傷にんじょう沙汰でも起これば、ヒィが責任を問われる事になる。

 それは避けたい。

 これがネロウに出来る、精一杯の事。

 後は、頑張れよ。

 ヒィに目で合図を送る。

 コクンと頷くヒィ。

 ジッと、人垣が割れた先を見る。

 ソッと荷車から、サフィとジーノも視線を向ける。

 その先には、三叉路で見たのと同じ影。

 相変わらず、ボロの毛布にくるまっているが。

 ギャラリーを追い払う為既に、ジーノを襲った剣が抜かれている。

 毛布の中から、ヒィの姿を見つけると。

 大声を上げる。




「安心安全な場所に、のうのうと我が物顔で居座る者よ!今一度その価値、見定めてくれよう!」




「兄貴!どうする!オラも加勢しようか!」


 落ちない様に設置されている荷車の柵へ、ガシッとしがみ付き。

 語気を荒げるジーノ。

 しかし冷静に、ヒィが制す。


「指名されたのは俺だ。ジーノは、万が一の時に備えて待機していてくれ。」


「で、でも……。」


 迷うジーノ。

 あの時のミスを取り返したい。

 その気持ちから、態度に焦りが見られる。

 ジーノの気持ちを受け止めつつ。

 ヒィはしっかりと彼の顔を見つめ、強い口調で言う。


「ここは俺に任せてくれ。たまには、カッコつけさせてくれないか?」


「あ、兄貴……!」


 目をウルッとさせるジーノ。

 またあの凄い光景が見られるかも知れない。

 そう予感させる、ヒィの引き締まった顔に。

 ジーノが声援を送る。


「バシッと決めてくれよ!」


 両手をバタバタ振り、大きく体を動かして応援するジーノ。

 対して、サフィは。

 とっとと荷台から姿を消し、運転席から降りようとしているヒィの傍まで来て。

 右手に持つ棒を前へ振り、その先で影を差して言う。


「ちゃっちゃと済ませなさい!あたしはいい加減、ゆっくり休みたいんだから!」


「ご期待に沿えるよう、頑張るさ!」


 ヒィは運転席からバッと飛び降り、シュタッと地面に着地。

 背中の剣を握り、前へとかざしながら。

 ゆっくりと影の前まで進み出る。

 その間、1・2分少々。

 短い間では有るが、周りで見ている連中に緊張感が生まれる。

 そしてそれは、この場を素早く支配して行く。

 まるで雷鳴が轟いているかの様な、ピリピリとした雰囲気。

 影とヒィとの距離が、剣のつばぜり合いが出来る程まで縮まった時。

 ズイッ!

 影が毛布を纏ったまま、ヒィへと襲い掛かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ