エルフ、ヒダリィ達に随伴す
ミギィとヒダリィが共にゲートを潜ってから、3日目。
ミギィは〔ネオム〕を発ち、ヒダリィは〔ペテフ〕を発っていた。
4日目で漸く、本題に入る事が出来たミギィ。
一方で、ヒダリィは……。
ペテフの在る〔ゴンドウの森〕から、エルフコミュ〔セキブ〕の在る〔ローレンの森〕へと。
運ばれて行く、ヒダリィ達。
大きな布の両端を持って、ゴンドラの様に形作っているのは。
〔ヤマガラ科ガラ族〕の鳥人達。
ヒダリィ達は、布の中央にそれぞれ。
1人ずつ座っている。
ヒナは相変わらず、ヒダリィの髪の中に鎮座したまま。
ゴンドウの森の中を滑空している時は、あんなにはしゃいでいたサフィも。
すっかり、しおらしくなっている。
前日、『アホの子と思われたくないんなら、大人しくしとけ!』と。
ヒダリィに怒鳴られた事が、まだ響いているらしい。
森が変わったから、前のはノーカン!
ここでは、素敵な乙女で通すんだから!
サフィはそう思っていた。
エルフコミュへ入った事で、鳥人への良く無い印象を払拭し。
汚名返上、名誉挽回するつもりらしい。
そんな事が出来るとは、甚だ疑問だが。
ローレンの森へ入った時から、ヒダリィ達に随伴する者が追加された。
それは、エルフ。
元々、外敵が森へ侵入するのを阻む為。
或る程度の数は常時、森と開けた土地との境目に配置されていたのだが。
マーガがレッダロンへ、ヒダリィ達の到着を伝えたので。
客人を招く要員が派遣され、森との境へ出張って来たのだ。
ヒダリィは気付いていた。
ローレンの森へ入った直後に、鳥人が首から下げている〔パス〕が。
キラリと光ったのを。
パスの輝きは、一瞬で敵味方を判別している証拠。
ヒダリィ達を取り囲むと、エルフ達は。
『客人がお越しになられたので、〔ナパーレ〕まで護衛する様に』との通達通り、任務へと入った。
通達の中身には、〔ピノエルフがヒダリィ達にした行い〕は含まれていない。
つまり、ヒダリィ達が受けた仕打ちを知らされないまま。
エルフ達は、任を遂行しているのだ。
敢えて他のエルフには伏せる様、サフィがレッダロンにお願いしての事。
何故か?
それは、後に分かる事となろう。
元は1つの森だったので。
ゴンドウとローレンでは、生えている木の種類も大して変わらない。
情景が大差無いので、サフィは詰まんなさそう。
かと言って騒ぐと、〔ヒダリィからの怒声〕と〔エルフ達の冷たい視線〕が飛んで来そうで。
じっと我慢する。
サフィの中で、鬱憤が溜まって行く。
発散する先を失い、サフィの気持ちが暴発しそうだ。
その様子をハラハラしながら見ているのは、随伴するエルフ達。
お客人が、何か不満そうな顔をしていらっしゃる。
我等に粗相でも有ったのだろうか?
枝から枝へと飛び移りながら、サフィの顔色をうかがっているエルフ達。
その間、サフィは。
百面相の様に、コロコロと表情を変えていた。
泣いたり、怒ったり。
眉間にしわを寄せたかと思ったら、今度は急に『プププ』と吹き出し始める。
サフィの考えが掴めないエルフ達は、大弱り。
ヤマガラ科は、客人とその荷物を運ぶ任務で手一杯。
赤ん坊の様に、気難しく感じるサフィの。
相手をしている余裕は無い。
そう、対面を重んじる余り。
サフィは、〔気難しい人〕と思われ始めていたのだ。
こんな風に受け取られるとは、サフィ自身も思っていまい。
良かれと思ってやっている事が、悉く裏目に出る。
サフィらしいと言えば、らしいのだが。
その点に気付いたらしい、ユキマリが。
少し前を飛んでいるサフィへ、気遣う様に話し掛ける。
「周りの様子がおかしいよ?あなた、何かやらかしたんじゃないの?」
「あたし?何にもしてないけど?」
「でも、付き添ってるエルフ達の様子が……。」
え?
ユキマリに言われて、漸くサフィは。
周りを見渡す。
さっと顔を背けるエルフ達、目を合わせてくれない。
えーっ!
な、何で!
あたし、大人しくしてたのに!
「何でよーっ!」
思わず声に出る、サフィの魂の叫び。
ギョッとするエルフ達、そこへ一筋の光が。
サフィの前を飛んでいたヒダリィが、敢えて前を向きながら。
理由が分かっていない彼女へ、一言。
「誰と〔にらめっこ〕してたんだ?」
はあ?
急に何を言い出すの、こいつ?
にらめっこなんて……。
そこまで考え、やっと気付くサフィ。
ハッとした顔に変わると、全てを悟った。
鬱憤を紛らわせようと、あれこれ考えていた。
それが、表情に出てしまっていた事を。
あわわわわ!
あたしとした事が、何たる失態!
そーっと、エルフ達の顔を見やるも。
複雑な表情をしている。
サフィは慌てて、『あたし、変な奴じゃ無いから!』と訴え掛ける。
初めは明るく、次第に弱々しく。
理解してくれない、その悲しさに溺れそう。
そこでヒダリィが、口添えの様に。
周りに居るエルフ達へ、呼び掛ける。
「こんな感じで、心に思ってる事が直ぐ顔に表れる奴なんです。寧ろ単純なんですよ。ご安心を。」
「〔単純〕は言い過ぎでしょ!ばかっ!」
「ほーらね。この通りです。分かって頂けましたか?」
サフィの返しを、上手い事利用したヒダリィ。
彼の発言で、『何か、機嫌を損ねる様な真似をしてしまったのだろうか?』と言う懸念が。
エルフ達の頭の中から、綺麗さっぱりと取れたので。
本来の、澄ました顔付きへと戻る。
ホッとしながらも、ヒダリィの言い回しに怒りを感じるサフィ。
もっと、言い方が有るでしょうに。
嫌味ったらしく、ヒダリィに言うサフィ。
「良い性格してるわね、あんた。」
「そりゃどうも。」
キーッ!
前を向いたままサラッと流すヒダリィに、プンスカ怒るサフィ。
そのやり取りを見て、ユキマリは安心する。
あの2人に、緊張感は無いみたいね。
こんな、未知の領域を飛んでいるのに。
私だったら、心細くなるなあ。
ユキマリも、旅をした事は何度か有るが。
本格的な遠出は、彼等と出会ってから。
ドキドキワクワクと、少しブルブル。
高揚感と不安感が、未だに入り交じっている。
経験の差からか、それとも獣人ならではの習性によるのか。
心が晴れやかでないまま、ユキマリは旅を続けている。
何処かで気持ちを整理しないと、〔ヒィの隣〕に並べないなあ。
アンビーと良く似た思考に陥りながらも、ユキマリは切望する。
自分の未来に、彼が共に居る事を。
エルフと鳥人、2種族の群衆が。
ローレンを進み続けて、1時間ちょっと。
エルフの住まうらしき場所が見えて来る。
この辺りは、セキブとは異なるエルフコミュ【イリコ】の管轄下。
〔ムーランティスの森〕の側にも、もう1つエルフコミュが在り。
3つのコミュは、良好な協力関係に有る。
そうでもしないと、ピノエルフの悪事は抑えられない。
それだけ、『厄介なモノを相手にしている』とも言える。
エルフにも種類が有り。
それは共に暮らす精霊の、微妙な違いから来ている。
空中島のエルフは、〔ホグミス〕だった。
〔雲や霧に近い水〕属性の、水の精霊。
対してセキブのエルフが共に過ごしているのは、〔風を纏った水〕属性。
そしてイリコのエルフは、〔木や草の成長に作用する水〕属性。
エルフと相性の良い精霊は、どれも水属性なのだが。
性質が異なる為、発揮出来る力も変わる。
それを生かし、連携する事で。
外敵に対峙しているのだ。
もっとも、現在敵と言えるのは。
ピノエルフ位のものだが。
空中島の一件で、エルフは移民政策に懲りて。
積極的には、移住を推進しなくなった。
〔カテゴリー〕の中は、自然と。
エルフとヤマガラ科のみに、集約されて行った。
浮上した土地の跡は、えぐり取られた様な。
残酷な印象を与える景色を残し。
それを見る度、エルフはうんざりしていた。
人間に対する感情も、初めは最悪だったが。
時と共に薄れ、顔を合わせる位は何とも無くなった。
関係が前向きに改善したのでは無い、人間族の進出力が余りにも凄まじくて。
その物流網を活用しないと、真面に多種族と交流出来ないまでに達し。
結果エルフもヤマガラ科も、人間族の勢いに押されている状況なのだ。
一言で表すなら、〔仕方無く〕。
それが、飛んで行ってしまった土地を戻したのも。
人間の力によると聞いた。
改めて複雑な気持ちに成る、カテゴリーの者達。
宝物と共に帰って来た、テルド達からの使いが。
カテゴリー内に存在するコミュの、あちこちに派遣された。
人間族との蟠りを解こうと、テルド達自ら動いてくれたのだ。
『カテゴリー外との関係が、少しでも良く成れば』と。
彼等の行動が、結果として〔ウチェメリー徽章授与〕へと導いた。
それ程、宝物の帰還は。
カテゴリーに属する者達の悲願だった。
無くしたのも、取り戻したのも。
人間によるとは、何とも皮肉な因果。
まあ、人間らしく無い姿のヒダリィと。
彫像が動き出したのかと思わせる位、外見『は』良いサフィと。
ウサギ耳をピョコリと生やした、愛嬌の有る獣人のユキマリの。
仲の良い、3人のやり取りを見ていると。
『彼等が人間かどうか』なんてどうでも良くなる、随伴者達なのだが。
と言う訳で、ヒダリィ達は。
イリコ内に在る村【ダーセ】へと到着。
歓迎も毛嫌いもされない、不思議な空気に。
ヒダリィ達は、戸惑う事と成るのだろうか?