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愚鈍なリュード、聡明なラピス

「な、何かって!ミギィ、お前!自覚が無いのか!」


「何を驚いてるんだ、アーシェ?」


「あ、足元!足元っ!」


「ん?」


 促され、下を向くミギィ。

 そこには。

 無様にもきたならしく横たわる、リュードの姿が。

 ミギィは『おっ!』と、びっくりした声を上げると。

 やや後ろへ飛び退き、リュードの身体を抱え起こそうとする。

 しかしリュードは、『ひぃっ!』と情けない声を上げながら。

 差し伸べられた筈の、ミギィの手を振り払うと。

 ゴロゴロと横へ転がった後、慌ててウルオートの下へ駆け寄る。

 得体の知れない者に、急に出くわした感じで。

 目を真ん丸にさせながら、尻込みした様な声でウルオートへ尋ねる。


「あ、あいつは!何なんだ!」


「私にも分かりかねます。ただ……。」


「ただ?」


 リュードの声は裏返っていた。

 顔からは、強者の余裕が綺麗に消え去り。

 焦りで満ちている。

 ウルオートが答える。


「私達の理解を超えた者、そう言えるでしょう。」


「そ、そんなのは分かってるわ!あんな人間、居てたまるか!」


「だーかーらー。兄貴は〔普通の人間〕なんだって。疑ってんじゃねえよ。」


 冷静な口調で、ジーノはリュードへ物申す。

 リュードが地面へ叩き付けられた時の衝撃で、ジーノもハッと我に返ったらしい。

 その後のミギィの言葉で、『兄貴、元に戻ったんだー』と分かると。

 ミギィの姿に安心して、落ち着きを取り戻した。

 彼本来の優しさを知っている、アーシェとアンビーも。

 正気に返ったミギィに、胸をろす。

 フォウルはミギィの力に驚きながらも、内心ではリュードに対して。

『ざまあみろ』、そう思っていた。

 全く、いい気味だ。

 どうせなら、もっとコテンパンにしてくれても良かったんだぜ?

 そこまで思う程フォウルは、リュードにうんざりしていた。

 滅多に見られない物が見られた、それだけでここに居る価値は有ったな。

 既にフォウルは満足してしまった。

 これからが本題だと言うのに。

 ウルオートも、リュードを気の毒とは思わない。

 今までの行いが、自分に跳ね返って来ただけの事。

 これを機会に悔い改めて下さると、輝竜帝もお喜びになるのだが……。

 リュードの改心を少しだけ期待する、ウルオートだった。




 結局リュードは、この場に居残った。

 破壊された椅子は藻屑もくず諸共もろとも撤収され、新たにベンチ状の椅子が1脚用意される。

 そこに大人しく座るリュード。

 屈服はしていないが、じっと我慢する事を覚えたらしい。

 悔しそうな表情を時折見せては、ミギィの様子をチラッとうかがう。

 何も変わっていないと分かると、ホッとする。

 その繰り返し。

 正直、自分でも何がしたいか分からない。

 だが直感が、〔ここに居る事〕を選択した。

『ぐぬぬ』と思いながらも、リュードは。

 緑色の髪・鱗を持った竜人の少女が、ミギィの事を気にしていたのを思い出す。

 あいつ、もしや。

 こいつの事を知っていたのか?

 だから、あんな素振りを……。

 となると、結構手強いのかも知れん。

 ヘンテコな格好は、伊達じゃないって事か。

 冷静に判断を下してさえいれば、リュードでも。

 そこへ考えが行き着くのは、容易だっただろうに。

 図に乗って、ちょっかいなど掛けなければ。

 痛い目に合わなかったかも。

 まあ全て、後の祭りだが。




 ようやく場が落ち着いた所で、再び話し合いの続きを。

 尾根に見える影は、ラピスと係わりが有る。

 でもラピス自身は、関与していない。

 となると、導き出される答えは2つ。

 1つは、〔こちらに対して敵意の無い第三者が、敢えて介入している〕と言う事。

 もう1つは、カワセミ科の長老達が認めたがらない内容だが。

 〔賢者オイラスが、意図的に影を作り出している〕と言う事。

 そのどちらかしか無いだろう、との意見にまとまった。

 前者は。

 オイラス及びラピスから、影が距離を取っている現状から言える事で。

 尾根で待ち構えていれば、影を捕らえ正体を暴けるかも知れない。

 多少の危険をはらんではいるが。

 後者は。

 本人に直接、理由をただせば済む事だ。

 しかしラピス以外に、居場所を知る者は居ないし。

 ラピス自身も、オイラスの居所いどころを明かしたりはしない筈。

 どうやってオイラスに確かめるか、それが課題。

 両者の何方どちらから、手を付けるか。

 カワセミ科と竜人の間で、話は進む。

 長老達は、竜人へ。

 尾根で見張ってくれる様、頼もうとするが。

『それはオイラスが許さないだろう』と、ウルオートが告げる。

 本当に森に住まうのなら、変な探りは入れられたくない。

 オイラスの立場になって考えれば、おのずとそうなる。

 ではラピスに、オイラスへ聞いて貰うのはどうか?

 長老達はラピスに、それが可能か尋ねるも。

 良い顔をしない、ラピス。

 〔私に知らせていない〕と言う事は、〔私に話す気は無い〕と言う事。

 お伺いしても、無駄でしょう。

 ラピスのこの意見は、説得力が有った。

 これにより、場は行き詰まる。

 話し合いの際中ずっと、リュードは思っていた。

 いっその事、森ごと消し飛ばしてしまえば良い。

 賢者を曲がりなりにも名乗っているのなら、その程度の攻撃なんてどうって事無いだろう。

 そして奴は、ここでは無い何処か遠くへ引っ越し。

 この辺りの平和は、あっさりと取り戻せる。

 それで良いじゃねえか。

 何て単純な解決法、俺ってすげえ!

 自慢したくなるのを、グッとこらえるリュード。

 こう言うのは、タイミングが大事だ。

 センセーショナルに発表してやれば、インパクトはデカい。

 そうなれば、俺に対し。

 拍手喝采かっさい、間違い無しだ。

 ぐへへ。

 独りで下衆げす笑いを浮かべるリュード、ウルオートは敢えて放置。

 あんな態度を取っている時は、要らぬ考えを思い付いている時。

 構ったら負けだ、そう考えていた。

 この話し合い、しばらくミギィ達は加わらなかった。

 ジーノとアンビーは、蚊帳の外なので。

 2人で勝手気ままに、ああだこうだと話している。

 対してアーシェは、ミギィと。

 或る相談をしていた。

 それが纏まると、アーシェは。

 ネフライに提案する。


「意見を述べても宜しいか?」


「どうぞ。丁度、場が煮詰まっているのでのう。申されても構わぬよ。」


「では……。」


 アーシェはミギィに、合図を送る。

 コクンと頷くと、ミギィは背中から剣を取り出す。

 濃い方を手前にして、テーブルに置くと。

 剣を指しながら、アーシェが言う。




「〔彼〕に、賢者殿へ尋ねて貰おう。」




「彼とな!」

「ただの剣ではないか!」

「これで何をしようと言うのか?」

「儂等には、そなたの意図がさっぱり……。」


 長老達は、口々にそう言う。

 やはり、頭の中身が凝り固まっているらしい。

 ここか?

 ここが良いタイミングか?

 森ごと尾根を吹っ飛ばす案を、ここぞとばかりに話そうとするリュード。

 それを妨げる様に、ラピスが。


「意外と良い案かも知れませんね。」


「やはり、魔法使い。気付いていたか。」


「はい。先程の〔あれ〕で、確信しました。」


 〔あれ〕とは、リュードがやられた一件の事。

 剣に何かの精霊が宿っているのは、ミギィと会った時から感じていた。

 しかし揺らぎのせいか、その本質までは分からなかった。

 ラピスが魔法使いとして未熟な訳では無い、勝手に分割したサフィが悪いのだ。

 不安定な存在にしてしまったから、把握出来無いだけ。

 それが、リュードをとっちめた時。

 わずかながら、正体の一端が見えた。

 だからラピスは、アーシェの提案に賛成した。

 普通の種族なら、一目合う事さえ叶わぬだろう。

 しかし彼なら、きっと……。

 その思いが、ラピスを後押しした。

 ろくな案が出ないので、〔物は試し〕と。

 ネフライもウルオートも、賛成に回る。

頂鳥ちょうちょうが賛成するなら』と、長老達も渋々同意。

 何が起こるか知らないが、どうせ徒労に終わるだろう。

 その時には、豪快に笑ってやるとも。

 リュードはそう思っていた。

 逆に、度肝を抜かれるとも知らずに。




 さて、舞台は整った。

 満を持して、ミギィは。

 剣に向かって、話し掛けた。

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