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竜人・カワセミ科の心積もりは

「以上でございます。」


「うむ、ご苦労。明日に備えて休むがい。」


「ははっ。」


 ここは、竜人コミュ〔エンライ〕内の村【クラウ】。

 ミギィやネフライ達と話し合った内容を、【玉間ぎょくま】に居る輝竜帝へ。

 ウルオートが丁度、報告し終わった所。

 下がるウルオート、入れ替わりに青年の竜人が。

 輝竜帝の前へ進み出て、膝間づいた格好で報告する。


「リュード様のお姿が、また見えなくなりました。如何いかが致しましょう?」


「放って置け。どうせ明日、あ奴もあそこへ現れるだろう。」


「承知。」


 返事をすると、スッと下がる青年。

 リュードのお目付け役なのだろう、少し顔をしかめながら退出。

『ふうむ』とため息を付き、悩ましい顔をする輝竜帝。


「どうしようも無い奴に育ってしまったものだ。あ奴等さえ生きておれば……。」


 輝竜帝の息子で有り、リュードの父でも有る竜人。

 そして、その妻。

 リュードが生まれた後に起こった【或る戦乱】で、共に命を落としてしまった。

 竜人は数が少ない上に、寿命が長いので。

 コミュ数が、他の種族に比べて格段に少ない。

 だからこそ、竜人内の結束が大切なのだが。

 リュードはその環境から、甘やかされて育った。

 自分の力であるかの様に、〔輝竜帝の孫〕と言う立場を利用していたので。

 なかば、うとまれる存在に成りつつ有った。

 輝竜帝は、リュードの孤立化を心配しているのだが。

 本人は意に介さない。

 輝竜帝の地位が、手元へ勝手に転がり込んで来る。

 そうとでも思っているのだろうか。

 それ程、現輝竜帝は強かった。

 文句を付けて来る者は、片っ端から屈服させた。

 命を狙って来る者も、ことごとく返り討ちにした。

 竜人は、強さが正義。

 コミュをまとめる者も、〔血統〕では無く〔純粋な力〕で選ばれる。

 リュードが成れるとは、決まっていないのだ。

 それなのに我がままし放題、このままでは。

 次期輝竜帝を決める時に、コミュから追放されるだろう。

 〔誰も守ってくれないのは、とても恐ろしい事なのだ〕と。

 知った時には、手遅れになる。

 そう危惧していた。




 ネムレン大けい谷は、大河が流れる本筋と。

 そこへ合流する、9つの谷筋から成る。

 谷筋は〔イチスジ〕〔ニスジ〕〔サンスジ〕〔シスジ〕と、安直に名付けられ。

 9番目は〔クスジ〕。

 竜人には、土地の名前に対するこだわりは無いらしい。

 区別出来れば、それで良い。

 谷筋のそれぞれに竜人コミュは有るが、どれも規模は小さい。

 コミュ内は知った顔ばかり、他所よそ者は直ぐにバレる。

 おまけに気位の高い竜人は、他のコミュに対するライバル心も強く。

 余程の事が無ければ、竜人コミュ同士手を組む事は無い。

 基本的に、外からの干渉を嫌うのだ。

 だから、リュードがエンライを追い出されても。

 他のコミュへ行けば良い、と言う事にはならない。

 つまり〔エンライを追放される〕と、〔ネムレン大渓谷から排除される〕は同義。

 その恐ろしさを分かっていない。

 輝竜帝は、リュードに対して。

 何度も、諭そうとした。

 しかし、プライドだけは一人前のリュードは。

 例え相手がコミュの頂点で有っても、祖父で有っても。

 素直に聞く気にはならない。

 自分は竜人、種族の中でも強者きょうじゃ

 独りでも何とか成る、そう思い込んでいる様だ。

 諭すのを諦めた輝竜帝は、今回の事に期待している。

 図に乗った愚かな孫を、その者ならやり込めてくれる。

 〔あの方〕のお話が本当なら、必ずや。

 そこでどうか、謙虚さと言う物を学んで欲しい。

 監査人とやらに追い回された挙句、痛い目に遭って。

 心から反省し、腕と共に心も強くなった【あの子】の様に。

 そう、願わずにはいられなかった。




 一方、ミギィ達が仮宿かりやどへ引っ込んだ後。

 夜に成り、辺りが暗くなってから。

 例の森から、ラピスが帰って来る。

 いつもの様に、スーッと滑空しながら。

 平地に在るやぐらの横を通り過ぎようとした時。

 見張り役の鳥人から、声が掛かる。


頂鳥ちょうちょう様の所へ向かってくれ。お前に、特別な話が有るそうだ。」


「そ、そうなんですか?分かりました。」


 少し驚いたが、見張り役にそう返答し。

 上昇気味に、ネフライの居る横穴へと飛んで行く。

 お師匠様が言っていたなあ、そう言えば。

『珍しいな』って。

 お話と、関係が有るのかなあ。

 考えながら、ラピスは。

 群青色のつややかな翼を羽搏はばたかせ、横穴へ飛び込むと。

 ふわりと着地し、てくてくと歩いて行く。


「ラピスです。御用でしょうか?」


 入り口の少し手前から、中へと呼びかけるラピス。

 すると。

 従者が1人、中から出て来て。

『ご苦労、入ってくれ』と、ラピスを促す。

『はい』と明るく返事をした後、従者の後に続いて。

 ラピスは、中へ入る。

 頂鳥の暮らす横穴は、部屋が幾つも在る。

 他に並列する横穴が無いので、強度が許す限り部屋数を増やしているのだ。

 従者の住まう部屋、来客用の部屋。

 そして、ネフライ自身が暮らす部屋。

 装飾は無い、綺麗な物だ。

 その代わり、掃除は行き届いている。

 美意識からか、単にカワセミ科が綺麗好きなのか。

 本人達は、これが当たり前の様だが。

 廊下を歩き、幾つかの分岐を過ぎて。

 突き当りのY字を、左に折れる。

 そこが、客間。

 重要な会議等は、ここで行われる。

 長老達がぎゃあぎゃあ話し合うのも、この部屋。

 なので客間は、一段と綺麗に。

 壁と天井はピッカピカ、床には鮮やかな紺色の絨毯じゅうたんが。

 これが唯一の贅沢ぜいたく、〔ケッセラ〕を通して取り寄せた一級品。

 その上に、木で出来た四角いテーブルと。

 椅子が何脚か、置かれている。

 その内の1つに座る様、従者から言われ。

 大人しく従うラピス。

 従者が出て行って、直ぐに。

 ネフライが入って来た。

 会釈をしようと立ち上がろうとするラピス、『そのままで良いよ』と告げるネフライ。

 真正面に向き合って座る、ネフライとラピス。

 そしてネフライは、〔今日の出来事〕と〔話し合いの内容〕を。

 切々と、ラピスへ話した。




「と言う訳で、明日は町にとどまって欲しいのじゃ。」


「分かりました。」


 自分のあずかり知らぬ所で、とんでもない展開になっていたなんて……。

 反省しきりのラピス。

 ネフライはラピスに言う。


「お主が懸念すると思って、伏せておいたのじゃ。賢者殿からは、何も聞かされておらぬのじゃろう?」


 その言葉に、コクリと頷くラピス。

 平気な顔で、森へと入って行くので。

『尾根に現れる影の存在を、オイラスからは知らされていない』、そう考えたネフライは。

 心優しい女性となったラピスに、精神的負担を掛けない様気を使った。

 本来なら、森へ通うのを止める立場のネフライなのだが。

 ラピスの成長が、我が子の事の様に嬉しくて。

 つい、引きめそびれていた。

 それがかえって、この様な事態を招くとは。

 話を聞いて、困り果てた顔付きとなったラピス。

 その表情を見ると、『やはり話すべきだったか』と思ってしまうネフライ。

 気持ちを整理し、思い直して。


「早くお帰り。夜遅く呼び立てて、済まんかったのう。」


 これだけを言うので精一杯。

『いえ、それでは失礼します』と、立ち上がって。

 ネフライに一礼し、客間を後にするラピス。

 上手い事、事態が収拾されれば良いのだが……。

 明日の事を考えると、少し憂鬱ゆううつになるネフライだった。




 こうして、カワセミ科・竜人共に。

 顔合わせの前日は過ぎて行った。

 夜が明け、日が昇ると。

 双方、顔合わせに向け動き出す。

 ウルオートは、嫌がるフォウルを連れて。

 迎えに来たケイムと共に、ボーデンクライフへと向かう。

 ラピスは、面会相手を色々と想像しながら。

 衣服が変ではないか、入念にチェックしている。

 ネフライは、会場を整える様に従者へと命ずる。

 櫓の前に設置されている、ドーナツ状の大テーブルの上には。

 渓流付近で咲いている花が、そこかしこに飾られる。

 お菓子や飲み物も、急きょ倉庫から取り出され。

 テーブルの上に並べられた。

 日が天高く昇る頃、ウルオート達の姿が宙に見えた。

 それを受け、仮宿でとどまっていたミギィ達も呼び出される。

 ラピスはネフライと共に、会場入り。

 カワセミ科と竜人、そしてミギィ達が。

 テーブル周りのベンチ型の椅子へ、それぞれ着席する。

 その周りは、カワセミ科の住人で埋め尽くされている。

 滅多に無い光景、恐怖より好奇心の方がまさったか。

 らん々と目を輝かせ、ミギィ達を見ている。

 特に前日、櫓内で怖がっていた子供達は。

 今度は〔櫓の最上階〕と言う特等席から、興味しん々で会場を見つめる。

 徐々に、緊張感が張り詰めて来る場内。

 そして、ネフライの咳払いを切っ掛けに。

 顔合わせが、正式に始まった。

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