とにかく、明日って事で
ミギィをこちらに寄越す様要求したのは、TJにランク付けされている竜人の後見人。
そう明らかにした、ウルオート。
では何故、そんな要求を出したのか?
そこまでは、ウルオート達も聞かされていないらしい。
後見人と輝竜帝の間に、何らかのやり取りが有ったらしいのだが。
『詳しい事は、末端に伝えなくとも良い』、そんな方針なのだろうか。
輝竜帝達を少し無責任に感じる、ミギィ。
それはアーシェも同じだった。
ウルオートに尋ねるアーシェ。
「それで?この後の事に付いては、何か言われているのか?」
「それを話し合うのが、今回ここを訪れた目的だ。まさか、【リュード】様がいらしているとは思わなかったが。」
「リュード?」
「彼を襲おうとした、〔輝竜帝の孫〕に当たるお方だ。」
「ああ、さっき話に出ていた……。」
そう言ってアーシェは、ウルオートと共に。
ミギィの方を見やる。
ミギィに突っ掛かる形で対面した、鉄の様な髪をした少年。
あれの来訪は、予定外だった様だ。
ウルオートは続ける。
「大方、話を盗み聞きしていたのだろう。」
『全く、困ったお方だ』と、うんざりする様な口調で話すウルオート。
〔権力者の身内〕と言う立場を笠に着て、やりたい放題らしい。
それは、フォウルの顔付きからも分かる。
リュードの名前が出た途端に、嫌な顔をした。
迷惑を被っている内の1人の様だ。
『話を進めてくれ』と、ウルオートに促すフォウル。
ウルオートはネフライに尋ねる。
「私達も、その女魔法使いに対する聞き取りを行いたい。本人だけが知っている事が、係わっているやも知れんからな。」
「尾根に現れる影は、彼女と顔見知りだとでも?」
ネフライはウルオートに、眉をひそめながら聞き返す。
そんな風には見えない、お互い距離を取っている様子だった。
ネフライも影を見た事が有るので、ウルオートの言い方には少し棘を感じた。
『誤解を招いたのなら、謝罪する』と、頭を下げるウルオート。
その上げた顔を見た時、ウルオートの瞳に。
信念めいた物を感じ取ったネフライは、一旦引き下がる。
ウルオートが、話を続ける。
「とにかく。ミギィ殿と女魔法使いとの顔合わせに、私達も同席したい。それ如何によって、こちらの立ち回りも変わろう。」
「承知した。それで、そなた方が納得されるのなら。」
「では、時間を決めようか。私達は、一旦コミュに戻って。了解の旨を、輝竜帝にご報告せねばならぬのでな。」
「そうさのう……。」
ウルオートとネフライが、時間に付いて話し合おうとするその矢先。
ジーノが口を挟む。
「さっきから〔女魔法使い、女魔法使い〕って、もう良いから。そろそろ本当の名前で呼んであげないと、その子が可哀想だぞ?」
平然と正論をぶち込む、ジーノ。
それには、ミギィも同意。
「まずはお名前をお教え願いたい。それだけでも、随分と話の進み具合は変わりましょう。」
「確かに、仰る通りですな。まさか、ドワーフに諭されるとは。」
「ドワーフを馬鹿にしてるのかい?」
少しムスッとするジーノ。
オラ達だって、頭が悪い訳じゃ無いぞ。
そう言いた気の表情に、『いやや!違うのだ!』と慌てて訂正するネフライ。
ミギィの方をチラッと見るジーノ、『許してやれ』と言った顔付きのミギィ。
それでジーノは、顔をニヤッとさせる。
ホッとしたネフライは、女魔法使いの名を告げる。
「彼女の名は【ラピス】。青よりも青し、群青色の羽毛の持ち主です。」
ネフライとウルオートとの、話し合いの結果。
ラピスとの顔合わせは、明日の昼過ぎとなった。
細かい時間が提示されなかったのは、輝竜帝の機嫌次第で遅刻する可能性が有ったから。
どれだけ同胞に対して尊大なのだろう、輝竜帝は。
心の中で呆れながらも、ミギィはその時間に同意する。
ジーノは、荷物を運んだ鳥人と。
今夜の宿の下見に行った。
アーシェはウルオートと、話したがる素振りを見せていたが。
『それでは』と、急いで飛び立たれてしまったので。
手持ち無沙汰で、ブラブラしている。
そこへ、ずーーーっと退屈だったアンビーが。
早速、絡みに行く。
『か、揶揄われるのは!もう御免だからな!』と言い切る、アーシェに対し。
『そんな事しないってー』と、別の何かに付いて相談しようとするアンビー。
ボーデンクライフに来てから、アンビーの脳裏には。
ピンと来る物が有った。
ここなら、〔あれ〕が売れるかも。
『商談に漕ぎ着けるには、どうしたら良いか』と言う、意外と真面目な話らしい。
『それなら』と、アーシェも耳を貸す。
ミギィはミギィで、再びネフライからの熱視線を浴びている。
綺麗に真半分が薄いのだ、興味が湧かない筈が無い。
観念して、相手をするミギィ。
リクエストに応じて、服を揺すったり左右に回したり。
ネフライの予想では。
服を移動させても、〔薄さの境界は、体の真芯から動かない〕と思っていた。
つまり〔服の右半分を左側に回したら、右半分の濃い色が薄く変わる〕と。
しかし服は服で、境目は決まっているらしく。
服とズボンを左右真逆に回したら、薄さの境目も互い違いになった。
『これは一体、どう言った原理なのじゃろう?』と、益々不思議がるネフライ。
ミギィにはもう、どうでも良い事だったが。
何せ、半分に分けられた時から。
もう片方の自分の事が、感じ取れないのだ。
ミギィはヒダリィが、ヒダリィはミギィが。
何をしているのか、知る方法は無い。
同時並行で完全存在している唯一の者、サラに。
話を聞く他には。
「兄貴ーっ!」
宿の下見を済ませたジーノが、ミギィの元へ戻って来る。
興奮気味に、ミギィへ話し掛けるジーノ。
「横穴ん中、すっごかったぜー!まさか、家がおっ建ってるなんて!」
「へえ。」
「なんでぇ、もうちっと驚いてくれよー。」
ミギィのリアクションの薄さに、残念がるジーノ。
ネフライへの対応で、ミギィの精神はヘトヘトだったのだ。
そこへ代わりに、アンビーが。
「なになに?どうだったの?」
「それがさあ!すっげーんだよ!穴ん中に家が有るんだぜ!」
「どんな?」
「岩をくり抜いた様な、頑丈な家なんだよー。正直鳥人を侮ってたよ、オラは。」
土のスペシャリストであるドワーフが、そう言うのだ。
大した出来なのだろう。
楽しみになって来るアンビー。
そこでもう1つ、アンビーは尋ねる。
「部屋割りは?」
アンビーには、そこが肝心。
旅に出てからと言う物、ミギィと同部屋になった事が無い。
折角、距離を縮めるチャンスなのにー。
いっつも、このむさ苦しい女騎士と組まされるんだもん。
ジーッとアーシェの方を見るアンビー、当のアーシェは『?』と言った顔。
ジーノは、申し訳無さそうに言う。
「鳥人の家を1軒、宿代わりに使う事になってさー。嫌かも知んないけど……。」
「で?で?」
ズイッとジーノの顔に迫る、アンビー。
『近い!近い!』と叫びながらも、ジーノは告げる。
「空いてるのが1部屋しか無くってさー。4人相部屋だって。」
『兄貴、済まねえ』と、謝るジーノ。
『仕方無いさ、俺達は借りる身だからな』と、聞き分けの良いミギィ。
それに対して、アンビーは。
「やったーーーーーーーーっ!」
両手を上げて、万歳のポーズ。
そこら中を、ピョンピョン跳ね回っている。
呆気にとられるミギィ、それを見て。
スッとミギィの後ろへ立ち、アーシェがボソッと。
「くれぐれも、変な気を起こすなよ?許さんからな?」
ひっ!
変な声を上げるミギィ。
内容が怖かったのでは無い、照れ臭そうに言ったアーシェが不気味だったからだ。
色恋沙汰に関する乙女の恥じらいと言うか、貴族のお嬢様らしい免疫の低さと言うか。
意外な時に、堪らない色気を見せるアーシェ。
その衝撃は、例えミギィと言えども耐え難い物が有る。
並みの男なら、アンビーの様に小躍りするだろう。
《そんな気は無いよ。》
《本当に?》
《無いよ、無い無い。》
《ホントー?》
《無いっつーの!》
自問自答を繰り返しながら、悶々と成りそうな気持ちを。
何とか押さえ付けようとする、ミギィ。
『やっぱり兄貴、困ってるーっ』と、オロオロするジーノ。
はしゃぎ回るアンビー、少しなよっとしているアーシェ。
それでも何も起こりそうに無いのが、こちら側のグループ。
サフィなら、何かを仕掛けるかも知れないが。
ともかく4人は、その家の主人である鳥人に案内されて。
一番下の段に在る、横穴へと。
色々な気持ちを織り交ぜながら、向かうのだった。