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影、三叉路に

 街道口で、ネロウとブレアに手を振られ。

 ヒィとサフィ、ジーノの3人は。

 北方へと伸びる街道に入って行った。




 街道は太く、幅15メートル程。

 片側2車線の通行を成してもまだ、両端に歩道が設けられそうな位。

 この世界の主要な街道の1つに数えられる、それには。

 人が歩いて1日分に相当する間隔で、簡易宿場が存在する。

 旅を快適にする事で、通行量を増やし。

 それに伴い物流が活発と成り、街道で結ばれている町々も成長する。

 それなりに考えられているのだ。

 フキの町から簡易宿場を2つ過ぎた少し先に、例の影の目撃現場が有る。

 街道がY字に分かれている三路。

 そこから北東へ進むと、幾つかの村を経た後〔ネコ系獣人の町【シャーオ】〕へ。

 北西に進むと、これまた幾つかの村を過ぎ〔イヌ系獣人の町【ゴーラ】〕へ達する。

 それぞれの町へ行き着く前に通り過ぎる村々には、人間と獣人が混在して暮らしている。

 獣人と言っても、獣に近い種族からほぼ人型の種族まで様々。

 その姿形から、コミュとしては人間と比較的友好的に接している。

 行商人としては無視出来ない町なのだが、一般の旅人は純人間コミュであるフキを目指す。

 そのルートは、大体。

 三叉路からシャーオ・ゴーラまでの途中で接続している、別の街道を利用する。

 荷車が1台対面通行出来る位の幅で。

 主要な街道のランクをA級とすれば、A級から脇に逸れるそれはB級。

 この世界ではB級が一番多く、街道のランクはC・D・Eまで存在する。

 E級は俗に言う獣道程度で、道とするにはギリギリの物。

 だから、目撃現場の三叉路は交通の要所。

 ギロッと見ているだけの影も、そこなら何かを見つけ出す事が出来ると考えているのだろう。

 何を探しているかまでは、流石に分からないが。

 街道のふちは50センチ程の芝生、その外側に深々とした森林が有る。

 軍隊の様な者達が潜む空間を、敢えて作らない様にしている。

 旅人の安全に配慮し、且つ町へ簡単に攻め込ませない為の工夫。

 その芝生の上に座っているのだ、異質に見られても仕方無い。

 逆にそこまでして、固執するモノを抱えているのだろう。

 とにかく、行くしか無い。

 ヒィは気を引き締めて、街道を進んで行った。




 対照的に、サフィの気楽さと言ったら。

 獣人の中にはウマ系統も居るが、獣としての純粋な馬も居る。

 牛も然り。

 だから馬車も牛車も存在し、乗り物用や荷運び用として活用されている。

 獣人は、『自分達とは別の存在』と言う見解なので。

 それ等を見ても虐待とは考えないし、奴隷従属とも思っていない。

 獣人とて人、動物を捕らえては肉を食らう。

 そんな倫理観。

 馬車に揺られて『楽ちんねー』とご機嫌のサフィを責める者は、誰も居ない。

 馬車と言っても、一行が使っているのは簡易性の物で。

 馬1頭に、車輪付きのやや大きな木箱を曳かせる様な構造。

 運転席には、手綱を掴んでいるヒィ。

 その左隣りには、ジーノが座っている。

 サフィはさながら、『これから売られて行く商品』と言った所か。

 外野から見れば、そんな風に感じるだろう。

 サフィの呑気さが、それを助長していた。

 すれ違う旅人達の関心を、一身に浴びる。

 視線が集まるので、益々サフィは調子に乗り。

 投げキッスを、所構わず振り撒いている。

 余りの下品な態度に、我慢ならなくなったジーノが。

 後ろのサフィへ大声を上げる。


「少しは自重してくれよ!オラ達まで、変な目で見られるじゃねえか!」


「これからもっと注目を集めるのよ。この程度で参ってどうすんのよ。」


「変人としてなら、御免こうむるね!」


「まあ、酷い!変人じゃ無くて、〔スター〕よ!輝く星になるのよ!」


「訳の分からん事を言って、誤魔化すんじゃないぞ!」


 軽く受け流すサフィに、突っ掛かるジーノ。

 興奮してプルプル震えているその右肩に、左手をそっと乗せるヒィ。

 右方を向き直す彼に対し、ヒィは黙って首を横に振る。

 真面に相手すると、反って疲れる。

 放って置いた方が良い。

 ヒィの考えを察し、ジーノも黙る事にした。

 運転席からの反応が無くなって、サフィも面白く無くなり。

 自然と大人しくなった。

 簡易宿場までは。




 1日分進んだら、仮の宿に泊まる。

 それが旅の常識。

 今回も例に漏れず、ヒィ達は一っ風呂浴び。

 さっさと寝る。

 簡易なのでフカフカの寝具など無く、毛布を上に掛け床に雑魚寝。

 右を向いても顔、左を向いても顔。

 サフィは当然、愚痴をこぼす。

 それが、何の解決策にも繋がらない事を承知で。




 朝になり、また街道を進む。

 そして夕暮れには簡易宿場で1泊。

 次の日。

 街道を進む事、数時間。

 漸く、目的地の三叉路へと近付いた。

 さて、どうするか。

 取り敢えず、目の前を通り過ぎてみよう。

 北東側へ向け、馬車を進めるヒィ。

 左側通行なので、運転席から確認するにはこれが一番近くなる。

 3人はすんなりと、三叉路へ到達。

 すると確かに、ボロの毛布にくるまれた何者かが。

 街道へ向け、鋭い視線を送っている。

 寡黙に、朴訥ぼくとつに。

 淡々と使命を全うするが如く。

 妙に淀んだ気配を感じるが、殺気とは異なる。

 そのまま三叉路を、右へ折れる。

 少し進んだら、また引き返して来よう。

 そう考えていたヒィ。

 何事も無く、影の前を通り過ぎようとしていた。

 その時。




 ビュウッ!




「あっ!」


 突風が吹き、ジーノの被っていたとんがり帽子が飛ばされてしまった。

 街道の地面をコロコロ転がって行く。

 慌てて馬車から降り、『待てーっ!』と追い駆けるジーノ。

 その行く先は。


「ジーノ!止まれっ!」


 馬車を急停車させ、運転席から飛び降りるヒィ。

 サフィへ向けて、叫びながら。


「馬車を頼む!」


「え?え!」


 のんびりしていたのに、急ブレーキが掛かったので。

 後ろの荷車部で、前に向かってゴロゴロドッスーン。

『イタタタ……』と頭を掻きながら、〔神器〕と自称していた棒を使って起き上がり。

 のっそりと、運転席へと移るサフィ。

 そこから見えた光景は。

 サフィを驚かせるのか、それともニヤリとさせるのか。

 ジーノの帽子は、りにもって影の真ん前へ。

 ヒィからの檄に反応するも、それは帽子を拾い上げた直後。

 スッと立ち上がる影、懐を探り。

 ヌッと煌めく長物ながものを抜き出すと、ジーノへ向け横一閃。


「ひえーーーっ!」


 影に背を向け、その場で丸まるドワーフ。

 土の精霊よ、オラを守り給えーっ!

 そう叫ぶのが精一杯。

 もう駄目だっ!

 長物の先が、ジーノの背中へ届きそうになった時。




 ガイーーンッ!




「あ、兄貴!」


「間に合った……ふう。」


 ジーノの背中を庇う様に、ヒィが抱え込んでいた。

 ちっこい背丈を飛び越し、相手との間に割り込むと。

 背負う剣を盾代わりにして、相手の先っちょを弾き返す。

 咄嗟の行動だったが、上手く行った。

 その反動で、馬車の方へとグラつく2人。

 後ろから『チッ』と、舌打ちの様な声がする。

 ジーノを『バンッ!』と馬車の方へ突き飛ばし、遠くへ逃がすと。

 剣を抜き、影と向かい合う体制へとヒィは動く。

 しかし。


「消えたわよ、もう。」


 馬車の方から、拍子抜けした様なサフィの声。

 三叉路には既に、影の姿は無かった。

 コロコロ、トーン。

 馬車に衝突するも、衝撃は軽く。

『助かったぁ』と呟きながら、立ち上がるジーノ。

 と同時に、申し訳無い気持ちに成る。

 不可抗力とは言え、影の正体を確認する間も無く。

 不意に飛び出してしまった。

 結局、何処かへ逃がしてしまう事に。

 完全なる失態。

 何だ何だ?

 一連の出来事に関心を示した旅人達が、足を止める。

 騒ぎが騒ぎを呼び、野次馬はどんどん膨れ上がる。

 こうなるともう、追跡も出来まい。

 ヒィは無く無く、諦める事に。

 もう二度と、現れなくなってくれれば良いけど。

 そう願うしか無かった。




 念の為、影の居た付近を捜索してみたが。

 手掛かりとなる物は、残されていなかった。

 ずっとその場に座り続けていたからなのか、芝の一部がしなっと倒れていただけ。

 その面積と具合からサフィは、大体の人物像を把握したが。

 ヒィ達には、内緒。

 何故なら……。




 三叉路の調査も終え、一路帰途へ着くヒィ達。

 道中1泊、また一泊し。

 フキの町へと近付いて来た時。

 事件が起こる。

 それは三叉路を引き返す時点から、サフィが想定していた事態だった。

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