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人工絶壁と平地の間で

 ミギィ達の荷物を絶壁へ運び終わった鳥人達が、再び戻って来る。

 竜人の姿を見付けると、かしこまり少し後ろへ下がる。

『あちらへお知らせして来ます』と、ケイムはウルオートへ告げると。

 竜人の少年が去った方へと、勢い良く飛んで行った。

 ワッセーが、ミギィに言う。


「私達も参りましょう。我等が住処すみかの、【ボーデンクライフ】へ。」




 ボーデンクライフは、カワセミ科コミュ〔セセラ〕の中心にして。

 唯一真面まともに、カワセミ科が暮らす都市。

 互い違いに横穴が開いていて、その中に鳥人は住んでいる。

 しかし、多種族を招き入れる事は滅多に無い。

 竜人も、〔双方不可侵〕と言う暗黙の了解が有るので。

 訪れる事はまれ

 そんな特殊な都市に、足を踏み入れる事となったミギィ達。

 名誉な事なのか、いまだに良く分からないが。

 〔不可抗力〕できっと、片付けられるのだろう。

 そう考えながら、山道を登って行くミギィ。

 絶壁に近付くにつれ、意外と高さが有る事に驚く。

『竜人が造成してくれた』と言うので。

 規模は小さいと、勝手に思っていた。

 ところが、絶壁の手前に。

 まずは、真っ平な土地が横たわる。

 そこには小屋の様な物も有り、キャンプ場の様な施設も有り。

 そして造成後に植えられたのだろう、やや小ぶりな常緑樹が所々に育っている。

 ワッセーの話によると、ここは〔鳥人の憩いの場〕で有り。

 〔いざと言う時、緊急対策本部が置かれる場所〕でも有ると言う。

 何故、この様な空間が有るのか?

 それは、もっと絶壁に近付いてから分かるのだった。




「わあーっ、広ーい!」


 感嘆の声を上げるアンビー。

 平たい土地は、横幅も相当だが。

 奥行きもかなりの物。

 そして、絶壁の詳細がようやく把握出来る所まで。

 ミギィ達は、近付く事となった。

『あそこで休みましょう』と、ワッセーが声を掛ける。

 座れるスペースが在るらしい、そこで一先ひとまず休憩を。

 声を掛けられた者の中には、ウルオートとフォウルも含まれていた。

 これから以下は。

 休憩の合間に成された、ワッセーの話の内容である。




 鳥人は〔飛ぶ〕。

 つまり移動は、大抵が〔飛行〕による。

 その性質上、飛び立つ地点は。

 地面より高ければ高い程、空中の風を掴み易い。

 と言う訳で、横穴の開いている地点は。

 平面から、低い所でも約5メートル。

 ここは上級者用、風の流れを掴むのが下手な者は住まう事を許されない。

 飛び出した途端落下するのでは、怪我をするだけ。

 羽搏はばたくのに慣れない者は。

 地上から10~15メートルの高さの横穴に、住まいを限定される。

 子供等の初心者は、広場に在るやぐらを練習場としている。

 ここなら、辺りの監視の為に常駐している大人が居り。

 子供の挙動にも目が届く。

 櫓は3階建て、丁度3階が約8メートルの高さ。

 下には防護ネットが有り、子供でも思い切り飛び立てる。

 そして、辺りがもし緊急事態におちいった時。

 平地の小屋や施設が、最前線と化す。

 住まいは絶壁に開いた穴の中、そこから地上へ垂れ下がる縄など無い。

 敵が侵入しにくい様、普段から階段等は設けていない。

 高さの有る穴へ、羽を痛めた怪我人を運び入れるのは。

 輸送者にとっても、かなりの負担になる。

 だから地上に病院を設け、飛べる様になるまでそこで治療する。

 感染症等の病気を管轄する診療所も、『病人を隔離し易い』との理由で地上に在る。

 要は、地上と絶壁の用途を。

 事情に応じて、使い分けているのだ。

 飛べる種族は限られている、攻撃力が高い者は尚更。

 竜人と仲良くしているのも、敵勢力となる種族を出来るだけ減らす為。

 機動力・攻撃力・守備力に優れた竜人を、味方に付ければ。

 おいそれと、ここを襲おうとはしない。

 そう言った考えが、土地の使い分けを後押ししたのだ。




 こんな理由から、ボーデンクライフは陸路ではへき地。

 後ろには、高い山脈が控えている。

 人間族コミュ〔ケッセラ〕へは、セセラを避ける様に。

 尾根伝いに向かうので。

 絶壁の辺りに、人間は現れない。

 尾根の途中に、宿泊小屋が幾つか有り。

 陸路で向かう者はまず、そこを目指す。

 絶壁から上方の斜面にも、高さが腰程の低木が生え。

 斜面が土砂崩れを起こすのを防いでいる。

 それにしても、竜人は。

 上手い事、土地を造成したものだ。

 切り立った絶壁は、〔高さ約25メートル×幅2~3キロメートル〕。

 平地は、〔奥行き約250メートル〕。

 これだけ切り取る為に退かした土を、一体何処へ運んだと言うのか。

 相当な量の区画を埋め立てられそうだが。

 それとも、エルフの居た〔あの空中じま〕の様に。

 浮遊させ、別の場所へと流したのだろうか。

 とにかく、竜人はきっちり仕事を果たした。

 だから鳥人も、竜人には協力的。

 寧ろ、向こうがうんざりする位尽くして来た。

『あれが欲しい』『これが欲しい』と言った、様々な我がままも。

 ケッセラを通して、叶えて来た。

 人間族と竜人との間の、良き緩衝かんしょう材として機能していた。




 当然、それをこころよく思わない者も居る。

 ヤンゴタけい流を手中に収めたい者、単に鳥人が邪魔な者。

 竜人を独占している様で、気に食わない者。

 大概が〔ねたそねみ〕、しくは〔やっかみ〕だ。

 強力な軍隊を従えている雰囲気、それが羨ましいのだ。

 だから何とかして、両者の間をこうとする。

 これまでは、それも徒労に終わって来たのだが……。




 最近、賢者に師事する女魔法使いの周りを。

 怪しい影が付きまとい始めた時、コミュ内は騒然となった。

 そいつ? は何故か、空路では無く陸路でやって来た。

 そして、チラチラとこちらに姿を見せつけては。

 何処へとも無く去って行く。

 不気味で仕方が無い、カワセミ科のお偉方は。

 竜人に助けを求めた。

 いつもなら二つ返事で、応じてくれるのに。

 今回は珍しく、条件を出して来た。

 対処に必死だった、カワセミ科のお偉方は。

 疑問に感じつつも、それに従い。

 その結果、ミギィ達が呼ばれたと言う訳だ。




 ボーデンクライフの成り立ちから、ここにミギィ達が到達した流れまで。

 論点整理と言う形で、以上の様なワッセーからの解説が入る。

 平地を見渡せる中心からやや渓流寄りに在る、ドーナツ状の大テーブル。

 その周りに置かれた、2人掛けのベンチの様な椅子に。

 ミギィ達、ウルオート達と分かれて着席し。

 ワッセーの話を聞いていた。

 絶壁側には、例の櫓と防護ネットが見える。

 正にそこが、平地の中心地点。

 ミギィ達が姿を見せるまでは、鳥人の子供達が。

 元気良く遊んでいた。

 しかし今は、望まぬ訪問者に警戒心をあらわ。

 それは人間の事か、はたまたドワーフか獣人か。

 意外にも、竜人かも知れない。

 とにかく、子供達は。

 櫓の中から、じっとこちらをうかがっている。


「嫌われてるのかなあ、オラ達。」


 思わずジーノが、口にする。

『悪気は無いのです、ご容赦を』と、ワッセーがなだめるも。

 子供に敬遠されるのは、ドワーフとしては辛いらしい。

 フキの町でも、人間の子供と仲良くやっていたので。

『鳥人とも、そう成れる』と、心の何処かで信じていた様だ。

 その思いが打ち砕かれた感じ、とは言い過ぎか。

 櫓越しに、絶壁が見える。

 穴はトンネルの様なアーチ状で、下が真っ平。

 高さと幅は、大体5メートルか。

 これだけ大きな穴が壁面に開けられるのも、竜人の尽力のお陰だろう。

 だから、ウルオート達を怖がっているとは思えない。

 鳥の本能が、少し残っていて。

 ネコの姿をしたアンビーを、無意識に恐れているのかも知れない。

 しかし、それも違う様だ。

 消去法では、騎士の姿をしたアーシェと。

 左半分が薄いミギィの、二択となるのだが。

 子供達の視線の交わる先は、やはりミギィか。

 そりゃ、そうだよな。

 俺でも、突然現れたら気持ち悪いもんな。

 ホント、厄介な事をしてくれたよ。

 あいつは。

 この件が片付いて、元の姿に戻ったら。

 どうしてくれよう。

 そんな、マイナス思考に陥りがちのミギィを。

 アーシェが励ます。


「その姿にも、きっと意味は有るのだ。そう信じよう。」


「ごめんな、気を使わせて。」


「いや、私の方こそ。」


 ウルオート達に、〔救世の御子〕候補関連の話を振る為とは言え。

 ミギィには、嫌な役目を押し付けてしまった。

 済まない、心からそう思っているアーシェ。

 ミギィ達の関係を、はたで見ていて。

 少し羨ましく思う、ウルオート。

 竜人には、気位きぐらいの高い奴が多過ぎる。

 彼等の様に、もっと穏やかに接する事は出来ないものか……。

 そんなウルオートに対して、依然ムスッとした顔のフォウル。

 何時までここに居る気だ?

 もう帰ろう、そう言いた気。

 しかしウルオートには、まだ用事が有った。

 その為には、直接話を……。

 彼女がそう考えていた時、ワッセーが席から立ち上がる。

 そして、この場に居る者達へ告げる。




「セセラを治めます【ネフライ】様が、こちらへ来られます。これからの詳細は、ネフライ様からお聞き下さい。」

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