竜人、到来
「きりゅーてー?何だそりゃ?」
竜人の女性の言葉に、思わずジーノがポロッと。
女性は続ける。
「輝ける竜人の頂点、それが輝竜帝だ。」
「王様みたいなもんか?」
「そうだ。」
「ふうん。」
漸く納得したらしいジーノ。
対して女性は、ミギィに質問を投げ掛ける。
「付かぬ事を聞くが。お主は何故、半分が薄いのだ?」
「ちょっと訳有りでして。ははは……。」
笑って誤魔化すしか無い、ミギィ。
説明しても、納得してくれないだろうな。
そう思ったから。
しかしその時、女性へ。
アーシェが切り出す。
「彼は〔救世の御子〕候補なのだ。この姿は、傍に付いている〔後見人〕の仕業なのだよ。」
「お主は?」
「カッシード公国から派遣された者だ。監査人として、見極める為にな。」
竜人の女性に対し、素性を明かすアーシェ。
アーシェは確かめたかった。
救世の御子候補の最高峰、TJの中には。
竜人の少女が居た筈。
ミギィの事を明かせば、何かのリアクションが有る。
あちらにも、後見人とやらが付いているのなら……。
アーシェの狙いは当たった。
女性がアーシェの発言に食い付く。
「ほう。彼が、あの……。」
アーシェはミギィに後ろ向きになって貰い、背中の真っ赤な剣を女性に見せる。
彼こそ、カワセミ科に協力する条件として。
竜人側が、『連れて来い』と要求して来た者だぞ。
さあ、どう言った反応を見せる?
ジーッと、女性の顔を見つめるアーシェ。
『ううむ』と唸りながら、剣を見定める女性。
その横から、竜人の男性も覗き込む。
この場に一時、緊張感が走る。
しかしそれを、呆気無くブチ壊す者。
ハアハア息を荒げながら、ミギィ達の下へ辿り着くそれは。
「『待ってー!』って、何度も言ったのにー。人間ほど持久力は無いのよ、ネコ族はー。」
ヘトヘトな顔をした、アンビーだった。
荷物を背負っている訳でも、重い鎧を付けている訳でも無いのに。
今日は随分と疲れ果てている。
『夜中じゅう、笑い転げていたからだろう?』と、迷惑そうにアーシェが言う。
騒がしい中アーシェは、何とか寝付けたのだが。
アンビーは笑い過ぎて、腹の筋肉が攣ってしまったらしい。
ずっと寝付けず、そのまま朝になってしまった。
ヘロヘロな状態で、旅の再開と相成ったので。
思いの外、体力を消耗してしまったのだ。
『肩、借りるねー』と、ジーノの左肩に右手を突き。
ハアハア、ハアハア。
ハアーーッ。
呼吸も落ち着いて来た所で、やっと気付く。
仲間でも案内人でも無い、別の存在に。
『うわっ!』と、思わず後ろへ飛び退くアンビー。
ミギィをじっくりと観察して、満足気な顔のその者達に。
指差しながら、アンビーは叫ぶ。
「だ、誰よ!あんた達!あたし等をどうしようって言うの!て言うか、名を名乗りなさいよ!礼儀でしょ!」
「落ち着けよ、アンビー。俺達だって、まだ名乗って無いんだ。」
「へ?そうなの?じゃあ何で、こんな事に?」
ミギィの言葉に。
目をパチクリさせて、辺りを見回すアンビー。
呆れた顔の仲間、驚いた顔の鳥人達。
あー、やっちゃったかー。
そう思いながらも、『あたしは悪く無いっ!』とふんぞり返るアンビー。
『彼女の言う事ももっともだ、我々も名乗ろうか』と。
ミギィを正面に置いて、女性は名乗りを上げる。
「私は【ウルオート】。【水龍】に近しい者。こちらに控えしは【土龍】に近しい者で、【フォウル】だ。」
「宜しく。」
竜人の男性フォウルも、ウルオートからの自己紹介を受けてお辞儀する。
ミギィ達も、ウルオート達に。
名を名乗って、頭を下げる。
顔を上げた時、アーシェは。
やや侮蔑気味の、フォウルの視線に気付いたが。
敢えて無視した。
『竜人とはそう言う者』だと、心の中で割り切って。
竜人の〔髪と鱗の色〕は、属する精霊の種類によって決まる。
ウルオートは〔水〕だから水色、フォウルは〔土〕だから茶色。
身に付けている衣服は。
鱗の強度に耐え得る、特殊な材質で作られていて。
精霊の協力が得られれば、形状変化も可能。
ただ、複雑な色付けが難しく。
絵柄も細かい模様は無理なので、ファッション性には乏しいと言える。
例えば、ウルオートの服は。
水色を基調とした、青と白の迷彩塗装で。
フォウルの服は。
茶色を基調とした、黒と深緑の迷彩塗装。
あくまで実用重視。
かと言って多種族の衣装を見ても、羨ましいとは思わない。
オシャレに無頓着な訳では無く。
『着飾らなければ、存在を主張出来ないのだろう』と言う、多種族への意識を抱えているからだ。
竜人にも多様性は有る、ただ人間族よりも個々の違いがはっきりしている。
独自色が強いので、服装で自らをアピールする必要が無いのだ。
こう言った、衣服に纏わる意識の違いから見ても。
竜人コミュは、他の種族コミュとは一線を画している。
力は強いが、付き合い辛い相手。
周りからは、そう認識されているかも知れない。
プライドと言うよりは、〔我々竜人は、唯一無二の存在だ〕との自意識過剰感を。
全面に押し出している影響か。
仲が深まれば、『そんな考えの者は極少数だ』と気付くのは容易いのだが。
色々誤解を招き易いのもまた、竜人の特色。
その原因である、尊大な態度は。
本気でそう考えているからだったり、『威厳を保たねば』と言う使命感からだったり。
単に見栄っ張りだからだったりと、理由は複雑。
一括りには出来ないのだ。
それを良く理解しているのは、付き合いの長いカワセミ科カワセミ族位だろう。
だからカワセミ科は、竜人が多種族の前へ現れる度に心配する。
また誤解を受けないだろうか、と。
良き隣人として、気遣っている。
竜人もまた、カワセミ科にだけは迷惑を掛けまいとする。
それが態度に表れていたのが、ウルオートで。
少し怪しいのが、フォウル。
そして図々しいのが、輝竜帝の孫である少年。
と言う訳だ。
ミギィ達の下から飛び去った、竜人の少年は。
3人の竜人に、散々追い回された後。
〔エンライ〕の在る谷筋【ニスジ】へと、一旦戻って来た。
「くそう、あいつ等め……!」
追い込まれる様に帰還した事へ、不満を露わにする。
そこへ現れた、別の竜人。
【緑の髪と緑の鱗の、少女】。
少女は、少年に気安く声を掛ける。
「ちょっとは大人しくしたら?」
「うるさいっ!俺が何処で何をしようが、俺の勝手だろ!」
「はいはい。それで?会って来たんでしょ?」
「ああ。大した事の無い奴等だったよ。ただ1人、変なのが居たな。」
「変なの?」
「左半分が薄かった。あんな人間、初めて見たぞ。おまけに俺の攻撃を防ぎやがって。今度会った時は……。」
「半分が、ねえ。」
「気になるのか?」
「まあね。」
そう言うと、『邪魔したわね』と言い残し。
少女は飛び去る。
心の中で、『【おじ様】が言っていたのは、そいつかしら?』と思いながら。
少女は、自分の住処へと帰って行くのだった。