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苔むした岩々の間を縫(ぬ)って、ミギィ達の1日目が終わる

 こんもりと苔が盛られている岩の間を、スルッと抜ける様に進むミギィ達。

 先頭のワッセーは、この辺りの歩き方をわきまえているらしく。

 特に苦にする事も無く、平然と歩く。

 青いシルクハットと右胸に付けられた、〔ゴイノヒサギ〕の羽も。

 木々の上から差し込む日の光によって、鮮やかな赤青白のストライプ柄が引き立てられている。

 やや湿り気の有る空気も、涼し気な風が時折通り過ぎるので。

 不快に感じる程では無くなっている。

 隊列は、前を進むワッセーに。

 ミギィとアンビーが続き。

 荷物を運ぶジーノと、〔カワセミ科カワセミ族〕の荷運び係2人。

 そして最後は、守りの堅いアーシェ。

 上空には相変わらず、周りの安全を確認する為のカワセミ科2人。

 こちらは、ヒダリィ達の時とは違い。

 鳥人達が飛んで、荷物諸共もろともミギィ達を運搬する事はしない。

 それはきっと、この辺りの気候が関係しているのだろう。




 ヤンゴタけい流は。

 何十もの小川と、その周りに在る岩や石。

 川の流れを守る様に生えている木々、そして苔。

 それ等が組み合わさって出来ている。

 この仕組みを維持する為には、一定の降水量が必要で。

 いつ雨が降って来るか分からない、複雑な気候なのだ。

 当然、上空の気流もコロコロと変わり。

 単独で飛ぶにも、風向き等を神経質に見極めながらに成るので。

 人を運搬する余裕が無いのだ。

 もっと力強く飛べる種族なら、そんな事関係無く。

 自由に飛び回れるのだろうが。

 それに該当する者の1つが、〔ネムレン大渓谷〕に住まう竜人。

 そこは、大河こそ流れてはいるが。

 ヤンゴタ渓流とは違い、雨がほとんど降らず。

 地表は不毛の大地、普通の種族は暮らすのに適さない。

 敢えて竜人が、ネムレン大渓谷にとどまっているのは。

 外敵が少ない事と。

『こんな荒れ果てた土地でも暮らせる、強靭さを持っているのだ』と誇示する為と。

 ここにしか無い、【或るモノ】を守っているから。

 竜人にとっては、欠かせないモノなのだが。

 それが何かについては、また語るべき時に。




 とにかく、竜人は。

 大河で取れる魚らしき生き物以外に、食料を得る手段として。

 カワセミ科の鳥人と提携を行っている。

 時々上空から渓流を見回って、安全安心を担保する代わりに。

 渓流の更に上流に在る、人間族コミュ【ケッセラ】との取引を。

 竜人の代理として、請け負って貰っているのだ。

 竜人はプライドが高く、人間族を見下す傾向が有るが。

 連中の物流の活発さは、認めざるを得ない。

 各地から様々な物資を取り寄せ、それを一帯に売りさばく。

 その土地では得られない物も多数有り、無理に思える注文にも応えるスタイル。

 そうやって、地域の信頼を勝ち得て来た。

 竜人には、〔下衆げすな行為〕とも感じられるが。

 自分達もその恩恵を受けているので、声高こわだかには主張出来無い。

 信用・信頼はしていないが、利用する価値は有る。

 それが、人間族。

 その間に鳥人を介する事で、人間族に対する嫌悪感を和らげているのだ。

 物資を調達しているのは、あくまで鳥人達。

 決して人間の世話になっているのでは無い。

 そう言い聞かせているさまは、【あれ】にとっては滑稽な事。


 《【小娘】、お前もそう思うだろう?》


 〔あれ〕は、竜人コミュの傍から遠くを見上げ。

 そう投げ掛けるのだった。




 進んでは休み、休んでは進む。

 そうこうしている内に、ポツポツと天から水滴が。

 森の上空では、雨が降り出したらしい。

 ザアザア降りになるかも知れない、そう判断したワッセーは。

 足取りが早くなる。

 今は、小川に沿って上流へと向かっているが。

 あちこちからコンコンと湧き上がっているのか、小川の川幅と流量は変わらない。

 周りの景色も、ずっと同じ。

 間引きされた様に等間隔の木々、苔むした石と岩。

 緑の絨毯じゅうたんの中からニョキッと顔を出す、珍しい草。

 草は湿地帯で見られる様な物ばかり、それが分かるのはアーシェだけ。

 前にその知識を確認する機会が有ったので、はっきりと覚えていた。

 希少な植物とは、カワセミ科も分かっていないのだろう。

 何せ、滅多に遠出はしないから。

 ここの様に、澄んだ空気が好み。

 人間の住む辺りは魔力が淀んでいる、だから余り近付きたくない。

 ならば何故ケッセラには、積極的に訪れるのか?

 竜人との契約も有るが、それ以上に。

 他の人間族コミュとそこは、決定的な違いが有った。

 人間の町は大抵、住み易い様に土地を改良する。

 木々が有れば切り開き、ドロドロしていれば埋め立てる。

 強引に住める環境を作り出す為、魔力が変に掻き乱される。

 しかしケッセラは、その土地本来の姿を生かして。

 なるべく手を付けない様に作られたコミュ。

 自然を愛する者達の手で運営されているので、魔力の淀みも無い。

 しかもここにしか無い、特別な〔温泉〕が存在する。

 近くに熱源となる火山は無い。

 〔ヌプラーペ火山〕の様な巨大な物は、逆に温泉を排除する。

 でも、ケッセラには在るのだ。

 これが結構な効能で、鳥人の羽の艶やかさを保つのには持って来い。

 〔セセラ〕以外の鳥人コミュからも、訪れる者が居る程だ。

 それが幸いして、ケッセラは。

 物流の一大拠点になっている。

 自然に手を加えない、でも人間族コミュとしては栄えている。

 一見矛盾している様に感じるが、両立の方法は有る。

 それをただ実践しているだけの事。

 雨宿りの出来る小屋へ辿り着いた後に、暇潰しの様な感じで。

 ケッセラにまつわる話を、ワッセーから聞かされるミギィ。

 興味は有るが、今優先すべき事は別に在る。

 事が片付き、それでも余裕が有れば。

 行ってみようかな。

 それ位の意識。

 早足ながらも、雨が本降りとなる前に。

 何とか小屋へ入れたものの。

 今度は土砂降りに成りそうな勢い。

 今日はもう、これ以上進めそうに無いな。

 壁に付いている簡易式の窓を、そっと上げて。

 外を眺めながら、ミギィは思う。

 小屋は木製、あちこちに修繕の跡が在る。

 腐り易い土地柄か、壁ももろくなっているが。

 立て直すだけの建築材が中々運べないので、補強するので手一杯らしい。

 ミギィはヒソッと、サラに尋ねる。


『緑の炎で、新しい状態に直す事は出来ないかな?』


『難しいと思うよ。』


 そう返事をするサラ。

 やはり不完全な身では、炎のコントロールが難しく。

 生えていた時の状態まで、巻き戻ってしまうかも知れない。

 との事。

 それでは、小屋が使えなくなるばかりか。

 変な木を生やしてしまう事で、生態系を狂わせかねない。

 うーん、何とかしたかったんだけどなあ。

 そう漏らすミギィに、サラが話す。


『サフィを上手く言いくるめて、そう言う方向へ仕向けた方が早いかもね。』


『どうやって?』


『それは、その時に考えれば良いさ。意外と、何とか成るもんだよ?』


『ちょっと、あいつが気の毒になる言い方だな。』


『怒られるかもね。でもね、サフィも根は良い子なんだよ。それだけは分かってあげて。』


『今のままじゃ、当分無理かも。』


『あはは、言えてる。』


 そう言って、サラは引っ込んだ。

 さあて、これからどうしようかな。

 ミギィは考える。

 その時ジーノから、『兄貴ー!飯だってよー!』と呼ぶ声がするので。

 皆が集まっている所へ、ミギィも加わる。

 あらかじめ鳥人達が持ち寄っていた食料を食べながら、皆は相談する。

 明日朝早くここを発ち、上流へと進めば。

 夕方頃には、セセラ内の村【ネオム】へと着く筈。

 そこまで頑張ろう、そう励まし合って。

 床に雑魚寝する一同。

 朝になるまでには、すっきりと晴れると良いな。

 そんな事を思いながら、ミギィも寝付くのだった。

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