サフィから、有り難い御高説を賜(たまわ)る
「エルフ擬き?あいつ等は、〔純粋なエルフじゃ無い〕のか?」
「当ったり前でしょ?あんな、変な形の鼻なのよ?」
ヒダリィの驚きに、平然とそう答えるサフィ。
言われて見れば、確かにおかしい。
鼻もそうだが、耳も尖っていなかった。
〔大きさ〕や〔尖りの向き〕に差は在れど、尖っているのには変わり無い。
それなのに連中の耳は、人間の物と同じで丸っこい。
格好はエルフの衣服、それは憧れから来ているのだろうか。
それとも、エルフに擬態しようとしているのか。
とにかく、サフィの話とキサの証言から。
良からぬ連中だと言う事だけは、確定的。
だったら尚更、レッダロンの下へ急がねばならない。
連中は今度こそ、宝物奪取の完遂を目指すだろうから。
〔大恩有る方〕と、ヒダリィ達を表現したのも。
『宝物を地上へ戻してくれて、ありがとよ』と言った皮肉。
今となっては、そう推察出来る。
ここまで考えて、ヒダリィは。
連中の正体をまだ知らない事に、少しばかり不安感を覚える。
そこでヒダリィは、キサに尋ねる。
「結局あの連中は、何なんだ?エルフじゃ無いんだろう?どうしてカテゴリーに居られるんだ?」
「ズバッと核心を突いて来るなぁ。嫌いじゃ無いぜ。」
まどろっこしいのは苦手だ、そんな感じ。
腹を割って話した方が、手っ取り早い。
それはサフィも同じ、だから。
「で?正体は?」
「あんたは予想が付いてるんだろ?大体。」
「まあね。でもその口から、直接聞きたいの。」
「良いぜ。他の奴等は驚くなよ?あいつ等はな……。」
ゴクリと唾を飲み込んで、キサの発言を待つユキマリ。
ジッと、キサを見つめるヒダリィ。
リディは余り興味が無いのか、ヒダリィの隣で身体を左右に揺らしている。
キサは話す、奴等は……。
「【エルフに成れなかった】者の、成れの果てさ。」
「エルフに……成れなかった?」
キサの変な言い回しに、良く分からないユキマリ。
サフィが、『出来そこないのエルフよ』と付け加えると。
何と無く分かった気がする、でも〔気がする〕だけ。
『全く、面倒臭えなあ』と、キサがユキマリに言う。
「エルフは妖精、それは分かるな?」
「それ位、常識でしょ。」
自信満々に答えるユキマリ。
キサが続ける。
「じゃあ、妖精がどうやって生まれるか。知ってるか?」
「え?んーと……。」
ユキマリの自信が、急激に小さくなって行く。
人間族と獣人、鳥人や人獣は。
その作りが基本的に同じ、人間ベースなので。
子供を作り育てる点は、共通している。
だからその辺の事は、容易に想像出来る。
しかし妖精は、神族・天使や魔族に近い存在。
精霊が何処から生まれて何処へ行くのか、分らないのと同じく。
精霊の加護を受けている妖精もまた、出生や死に付いてははっきりしない。
〔ドワーフ〕のジーノや、〔エルモン〕のドギンの様に。
子供の姿をした妖精も居るので、年齢と言う概念は在りそうだが。
キサは話す。
「妖精も不死じゃねえ、何時かは消える。消えた後は……。」
「精霊に成る?」
ユキマリは、思わずポツリと。
『惜しいな』と、キサは首を横に振る。
そして告げる。
「精霊の糧となる。詳しい事は、俺も知らねえがな。」
「『精霊の力の源になる』って事よ。」
そう、サフィが付け加える。
『えーっ、良く分かんないよー』と、ユキマリは呻く。
『俺も同意見だ、もっと分かり易く』と、ヒダリィが要求する。
キサがサフィに言う。
「あんた、この手の話題に詳しそうだな。ついでに俺にも、ご教授願えるか?」
「殊勝な心掛けね。良いわよ、話したげる。」
「知識を補完したかった所だったから、助かるぜ。」
「えっへん!あたしを褒め称えなさい!」
「はいはい、話が有意義だったらな。」
「まっかせーなさーいっ!」
キサの言葉を受け、調子に乗り始めるサフィ。
『ちょろいな』と、ヒダリィにヒソッと話すキサ。
『ふふっ』と笑うヒダリィ。
ここから少し、サフィの妖精に関する講義が。
脈絡も無く、始まった。
皆は地面に座り込んで、耳を傾ける体制を取る。
その内容は、以下に。
精霊ってのはね、【意思を持った魔力】なの。
魔力は、この世界に存在する〔エネルギー〕。
力の源ね。
あたし達が動いたり話したりする時には、エネルギーを使うの。
こっちは厳密に言うと、【生体エネルギー】なんだけどね。
それとは別に、〔無機質タイプ〕も存在する訳よ。
こっちの世界でも【魂】だとか【幽霊】だとか呼ばれてるのが居るけど、あれは魔力じゃ無いの。
あれは【霊体】、エネルギー状態じゃ無い〔意思〕。
霊体と精霊は近しい存在、互いに引き合うの。
精霊の周りに纏わり付いている内に、精霊が操る魔力を浴びて。
霊体が実体を持とうとするの。
それに成功したのが〔妖精〕、失敗したら普通は霧散して。
霊体はバラバラになって欠片へと変化すると、ウロウロこの世界を彷徨い出して。
或る程度欠片同士集まった所で、別の霊体に生まれ変わるのよ。
そうやって、魔力と霊体に関するサイクルが出来上がってるって訳。
精霊の周りに落ち着かず、人型系の胎内に居着いたのが〔魂〕で。
人型系が死んだ後霧散せずに、うろついている霊体が〔幽霊〕。
妖精も死ぬよ、その時魔力と霊体が分離して。
霊体の霧散が始まるの。
でも中には、執念じみた奴が居て。
何とか妖精へ戻ろうと、霧散途中で足掻くのよ。
その結果、異形の者に変質しちゃった。
素直に諦めてれば良かったのにねえ。
そう言う経緯が有るから、妖精に対してこだわりは凄いの。
勿論。
霊体にとって最適の器である、人間にもね。
精霊の力に縛られず、活動出来るんだから。
羨ましがるのも当然なんだけど。
これで分かったでしょ?
妖精は個々に、属する精霊が違う事も。
属する精霊によって、妖精が行使出来る魔力は質・量共に制限される事も。
そして精霊を、妖精が崇める事も。
精霊は、妖精にとって親も同然。
そっぽを向かれると、消されちゃうし。
下手な事は出来ないから、この世界でとんだ悪事を働こうとまでは考えない。
でも、異形の者は別。
不完全な状態で存在しているから、精霊の干渉を受けにくい。
それに気付いた連中が、あちこちで暴れ回ってるって訳。
ヒダリィには、〔Kの手下に成りうる存在〕って言えば。
実感が湧くかしら?
とにかく厄介な連中なのよ、あいつ等は。
あそこまで攻撃的なのは、久し振りに出会ったけど。
ここまで話し終えて、『ふう』と一息付くサフィ。
相変わらず、付いて行けないユキマリ。
対照的に、『ほうほう、そう言う事か』と頷くのはキサ。
不完全な者が完全に成ろうとして、宝物を狙っている。
その線も考えられるのか……。
ふむふむ。
ヒダリィは理解出来無い部分もあるが、大体は把握した。
念の為ヒダリィは、サフィに尋ねる。
「妖精が複数の属性を持たないのは、親となった精霊が1種類だからか?」
「そう言う事ね。例外も居るけど。」
「魔法使いに関しても、その辺が関係有るのか?」
「まあね。人間は精霊の制限を受けないから、色々な契約の形を取れるのよ。精霊の方が偉いのは変わらないけどね。」
「じゃあ何でサラは、俺と対等で居てくれるんだ?」
「それは……。」
言い掛けて、サフィは止める。
『あたしが明かす事じゃ無いから』、そう思って。
「自分で聞きなさい。今のあんたに答えるとは思えないけど。」
「はいはい、そうですか。」
サフィからの明確な答えは、期待していなかったので。
特段の心理的ダメージは無い。
気にしない素振りで、ヒダリィは適当に返事する。
まあ良いか、その話題は今は置いておこう。
それよりも、本題を進めないと。
そう思い直して、ヒダリィは。
頭がこんがらがっているユキマリと、のほほんとしているリディを。
置き去りにしたまま。
キサとサフィの3人で、今後の事を話し合うのだった。