ヘンテコな巨体がこの森で暮らす、その訳とは
「なんだ、あいつ等では無いのか。詰まらん。」
「しゃ、喋った!」
大きな姿を現し、穴の手前で座り込む姿は。
ゾウの様な、マンモスの様な。
ユキマリには、小高い丘の様に感じた事だろう。
対してサフィは、何事も無かったかの様に。
その巨体へ話し掛ける。
「あんた、人獣ね。」
「ほう、あっさりと見抜くとは。あいつ等とは違うな。」
少々感心気味に、そう話す巨体。
人間に話し掛ける時と同じトーンで、サフィが尋ねる。
「何してんの?こんな所で。」
「それはこちらの台詞だ。人間なんて、殆どやって来ない筈だがな。」
「それがね、聞いてよー!あのエルフ達がさぁ……!」
「スト!ストーップ!」
平然と話をしている巨体とサフィに、思わず突っ込みを入れるユキマリ。
その気持ちは分かるヒダリィ。
初対面だろうに、どうして仲良く言葉が交わせるんだ?
巨体の声に反応したのか、髪の中のヒナも目を覚まし。
隙間からその姿を見ると、『ピッ!』と一鳴きして。
体伝いに、地面へ下りる。
そして『ポンッ』と言う軽い音と共に、幼女の姿へ。
巨体の方へトコトコ歩いて行くと、一礼して話し掛ける。
「こんにちは、おじいちゃん。」
「お、おじ!俺はそんなに年を取っていないぞ!」
「だって、その姿。毛がフサフサして、おじいちゃんみたいなんだもん。」
「そうよ。人間の姿にならないと、誤解は解けないわよ?」
サフィは上手く誘導した。
人間の姿に成らせて話し込めば、大体の事情が引き出せる。
そう見込んでの事。
『仕方ねえなあ』と、むっくり起き上がると。
シュルルルーーーッ!
急速に体が縮み、20代後半の男の姿へと変貌。
右手で頭を掻きながら、男は言う。
「これで俺が、『じじいじゃねえ』って分かったろ?訂正しな。」
「てーせー?」
下から男の顔を、少し首をかしげながら見上げるリディ。
イライラしたのか、思わず声を荒げる男。
「『若いって認めろ』って事だよ!」
「ううぅ……。」
いきなり大声を出すので、ひるむリディ。
『そ、それが!小さい子に対する態度なの!』と、ユキマリがリディの所まで駆け寄り。
自身も怖がりながら、リディを庇う。
続けてサフィが、冷静に男へ。
「あんたも落ち着きなさいよ。正体不明なのは、お互い様なんだから。自己紹介がまだでしょ?」
「そ、そりゃそうだ。」
諭す様に言われ、納得する男。
その間にヒダリィも、リディの傍へ。
『辺りにあの連中、居ないよな』と確認した後。
男は自己紹介する。
「俺は人獣の一種、【ワーエルプス】の【キサ】ってんだ。宜しくな、変な奴共。」
一通り、自己紹介が終わると。
改めて、話をし出すキサ。
「何しに来た?穴に落っこちてたみたいだけどよぉ。」
「そうよ、そうそう!あいつ等、あたし達をここに放り込みやがったのよ!酷いと思わない!?」
キサに早速、絡み始めるサフィ。
忠告めいた事を、キサへ話すヒダリィ。
「同意しておいた方が良いよ。でないと、話が長くなるから。」
「〔ヒダリィ〕は黙ってて!」
「その呼び方、何とか成らないのか!いい加減、うんざりなんだけど!」
「しょうが無いでしょ!分割中なんだから!嫌ならとっとと、用事を済ませる事ねっ!」
「だから今から、その相談を……!」
むむむむむーっ!
ふんっ!
睨み合った後、プイと顔を背ける2人。
『いつもこうなのか?』と、呆れ気味に尋ねるキサ。
それに対し、『うん!』と元気に答えるリディ。
人型に変わる性質が共通している、キサとリディは。
自己紹介前までとは打って変わって、普通に話せる仲へとなっていた。
大きい巨体の時は、やや茶色い毛にフサフサと覆われ。
長い鼻の横から上向きに反った、一対の白い牙を。
自慢気に掲げていたが。
人型になると、服装からは粋がった印象は薄れ。
薄茶色の長袖に長ズボン、上には毛皮で出来た様な濃茶のベストを羽織っている。
靴も革製で、フニャッとしている。
鉄砲でも担げば、マタギみたいだ。
完全に狩人、そんな装い。
森に居てもおかしくは無い、エルフから無用な警戒はされないだろう。
では何故、人間の姿では無くて。
体高が5メートル程も有る、マンモスの様な姿でこちらへと来たのか?
その答えは、ヒダリィ達がここへ放置された事と関係が有った。
それは。
「あいつ等、この森を潰そうとしてんだよ。ふざけやがって。」
「潰す?何で?」
ユキマリが尋ねる。
辺りの様子をうかがうに、他にも動物が沢山生息している。
狩りをする場としては、草原だらけのカテゴリーでは寧ろ保護すべきなのでは?
ユキマリは率直にそう言うと、『そうだな、普通はな』と返すキサ。
『普通じゃ無いって事ね、あいつ等は』と、サフィが言う。
どこがどう、普通では無いのか?
ヒダリィは、そこが聞きたかった。
その疑問の答えとして、キサが提示したのは。
「ここは、鳥人の本拠地だったんだ。」
「えっ?ヴァリーみたいな、オレンジ塗れの?」
「〔ヤマガラ科〕と会ったのか?まあ、近いな。」
「他にも居たのかい?鳥人が。」
「ああ。元々エルフと〔ガラ族〕は、縁が深かったんだ。〔持ちつ持たれつ〕って奴だな。」
「それが、何で……。」
「そうそう、あいつ等が言ってたのを聞いたんだけどよ。」
今度はヒダリィに、キサが質問する。
「『飛んでった土地が戻って来た』って、本当か?」
「ああ、その事なら……。」
喋りかけたヒダリィに、サフィが被せる。
「あたし達が戻したのよ!凄いでしょ!」
「なるほど、だからか……。」
一人で納得するキサ。
『何が?』と尋ねるサフィ。
『お前等をここに置いて行った理由が、だ』と答えるキサ。
今一飲み込めないユキマリ。
そこへ、キサが話し出す。
意外な、裏事情を。
「実はな。〔あの土地がぶっ飛んだのは、あいつ等が原因〕なんだ。」
「うん?」
テルド達から聞いていた話と、違うなあ。
首をかしげるユキマリ。
『エルフ達の中でも、一部しか知らない事なんだがな』と前置きして。
続きを話すキサ。
「あいつ等は元々、人間の移住に反対していた。なのに、或る時から急に。人間達の入植を、積極的に推進し始めた。何故だか分かるか?」
「そうなの?そうねぇ、うーんと……。」
考え込むも、結局思い付かないユキマリ。
ヒダリィは何と無く、察していた。
少し悲しそうな表情になるヒダリィ、その代わりに。
サフィが答える。
「【宝物絡み】、でしょ?」
「そうだ。あいつ等の狙いは、宝物だった。あれを奪取して、エルフの頂点に居座ろうとしたんだ。その為に、人間共を利用しようとした。」
「ひっどーいっ!」
思わず大声になるユキマリ。
キサは続ける。
「利用出来るモノは、何でも利用する。狡猾な奴等だ。でもその企みは、失敗した。」
「土地毎、宝物が飛んでったから?」
「そうだ。お前もやっと、分かって来たじゃねえか。」
「えへへ。」
ツンと立った耳をピコピコさせながら、照れるユキマリ。
続けるキサ。
「この森に住んでいた、【シジュウカラ科】の奴等がな。あいつ等の行動の一部始終を、エルフのお偉方に報告した。その報復に遭って、ここを捨てざるを得なかったんだ。」
『何時でも帰って来られる様に、俺様が代わりに守っているのさ』と、キサは付け加える。
完全に痕跡を消そうと、躍起になる連中から。
この森を保護する為、巨体の姿で突如現れ。
奴等の姿を見かけては、襲い掛かって。
連中の脳裏に、恐怖を植え付けていたらしい。
キサにすっかり慄いた連中は、罠を仕掛ける等対策を講じたが。
正体が人獣とは知らない為、何も効果無し。
それからは、時々やって来る程度。
罠を確認しては、掛かっていない事に落胆する。
その繰り返し。
『あんな化け物が居るから、どうせ生き残れないだろう』と考えて。
お前等を放置した、そんな所だろう。
キサは推測を述べる。
しかし連中には、誤算が有った。
相手の本質を見抜く事が得意な、サフィの存在を。
その悪意を見破られ、まんまと利用されて。
放置した後は、自分達と敵対する者とも仲良くなっている。
そんな事は、思いもしないだろう。
一連の事情を聴いて、サフィはキサに提案する。
それはキサも、願ったり叶ったりの物だった。
「ねえあんた、あたし達に依頼しない?【あのエルフ擬きを一掃して欲しい】って。」