ヒダリィ達、進むのに苦戦している所へ
一方こちらは、草原を進むヒダリィ達。
腰近くまで伸びた、青々と茂る草々。
道無き中を、黙々と歩く。
遠くに見える〔ハイエルの樹〕、全然近付いている様に感じない。
それもそうだ。
空中島に在った大木、その間を移動するのだけでも。
徒歩で3日掛かったのだ。
中心を挟んで向かい合わせに立っている大木間でも、単純計算で7日以上の道のり。
だだっ広い草原で、遠近感は狂っているかも知れないが。
目的地は見掛けよりも、結構遠いのだ。
途中で何処か、休める場所が在れば良いんだけど……。
そう考えながら、ヒダリィは草を掻き分ける。
余りに草が鬱陶しいので。
リディはヒナの姿になって、ヒダリィの髪の中へ。
今はスヤスヤと眠っているらしい、静かなものだ。
このままずっと、徒歩じゃ無きゃいけないの?
ピョンピョン飛び跳ねながらの方が、早く着くと思うんだけどなあ。
ユキマリはそう思い、サフィへ相談を持ち掛ける。
「ねえ、飛び跳ねて行かない?草の中は何か、チクチクして気持ち悪いんだけど。」
「出来たらそうしてるわよ。でもここじゃあ、無理ね。」
「何で?サフィが元気なんだから、結界は無いんでしょ?」
「有るわよ、今はまだ不完全だけど。」
「え?だってあなた、平気そうじゃないの。」
「あれは宝物の力のせいよ。結界のせいじゃ無いから。」
「えーっ!じゃあ瞬間移動だっけ?それも出来るんじゃないの?何でヒダリィの言葉通り、それをやらないの?」
「味気無いからに決まってるじゃない。折角、のんびり旅をしてるのよ?楽しまなきゃ。」
「だったらせめて、飛び跳ねようよ。その方が早いでしょ?ねっ?」
尚も食い下がるユキマリ。
しかしサフィは、ヒダリィを見ながら言う。
「こいつはどうする気?置いてくの?」
「前の時みたいに、火の玉になって飛んで行けば……。」
「2つに分けたから、炎を上手く操れないのよ。ねえ、サラ?」
『呼んだかい?』
ヒダリィの背中から、声が聞こえる。
サフィが、剣に向かって話し掛ける。
「あんたの力、こいつが制御出来ると思う?」
『難しいだろうね。不安定だから。あ、この事は。向こうのヒィにも伝えてあるから。』
「ほらね。こいつには、素早く移動出来る手段が無いの。なんなら、あんたが背負って跳んでく?」
「そ、それはちょっと……。」
サフィからの提案を、ユキマリはやんわりと拒絶する。
何しろヒダリィは、リディと2人分の荷物を背負っている。
それだけでも、かなりの重量。
ユキマリも自分の荷物を抱えている、ヒダリィを背負って跳ぶとなると荷物は3人分。
パワータイプの獣人で無いユキマリには、とても無理だ。
『うーん、仕方無いかあ』と残念がるユキマリ。
一方で、彼女の言い分も分かるサフィ。
ちんたら歩いてたら、何時着くか分からない。
さっきは『味気無いから』って誤魔化したけど、本当は違う。
今下手に術を使うと、復活しかかっている結界に乱れが生じてしまう。
不安定な状態のヒダリィが居るなら、尚更。
だから、瞬間移動は使えない。
ユキマリもヒダリィも、その辺には気付いていないみたいだけど。
でも、このままじゃあねえ……。
頭の中であれこれ考えるも、段々面倒臭くなって来るサフィ。
こんなの、あたしの役目じゃない!
やーめたっ!
あっさり、思考を放棄。
そして、『まあ、何とか成るでしょ』と。
一人で勝手に開き直り、自分の幸運に賭けるサフィなのだった。
開き直りが功を奏したのか、本当にサフィの幸運が勝ったのか。
ヒダリィ達の前に突然、謎の集団が現れる。
草の中に身を隠している、見つからない様に屈んでいるのだろう。
感覚の鋭いユキマリの耳を掻い潜り、何時の間にかヒダリィ達を取り囲んでいた。
集団の内の1人が、ヒダリィ達に対して。
威嚇する様に、一言怒鳴る。
「何者だ!貴様等!」
急な大声に、ビクッとなるユキマリ。
サフィは全く動じない。
ヒダリィは、髪の中のリディを気遣いながら。
辺りを見回す。
そして集団に付いて、冷静に分析をし出す。
手に何か武器を持っているな、ナイフの様な物か?
殺傷能力はそれ程高く無いらしい、意外に距離を取っている事からも分かる。
戦わず穏便に、事を済ませようってか?
それなら、願ったり叶ったりなんだが。
しかしこれは、見事な陣形だな。
こちらからは身動きが取れない様、上手く配置してある。
相当な手練れだな、『戦い慣れている』とも言えるけど。
ここまで考えてヒダリィは、サフィの様子をうかがう。
『何か腹案が有るかも知れない』、そう思って。
ヒダリィと目線が合ったサフィは、ニヤリと笑い。
その頭に向かって叫ぶ。
「リディ!起きなさい!ヒダリィの危機よ!」
「ピッ?」
疑問形の鳴き声を発した後、ヒナは。
「ピーーーーーッ!」
大きく一鳴きした後、小さい羽をパタつかせ。
ヒダリィの髪の中から飛び上がる。
ピョーン、パタパタ。
スーッ。
ピョーン、パタパタ。
スーッ。
上昇と下降を繰り返し、その姿を辺りに見せつける。
すると、取り囲んでいた集団から驚きの声が。
「あれは何だ!?」
「も、もしや……焔鳥っ!」
「あの、噂の!?」
「だとすれば、彼等は……!」
大声で戸惑う集団。
そこへ間髪入れず、サフィが周りに叫ぶ。
「ここに居る彼こそ!あんた達の同胞をこの地へ返した英雄よ!」
そしてヒダリィに、『招待状を見せてあげなさい!』とせっつく。
言われるままに、ヒダリィは。
懐から、レッダロン直筆の招待状を取り出し。
高く掲げながら。周りへじっくりと示す。
その文面とサインを確認したらしい、本物だと分かると。
皆ガバッと、草の中から立ち上がり。
ヒダリィ達に対して、一斉に頭を下げる。
「「「「「「「「失礼致しましたーっ!」」」」」」」」
顔を出した、その姿は。
身なりこそエルフに似ているが、顔の形が少し違う。
耳は尖っていない、人間族と同じ。
しかし鼻の先から、枝の様に。
5センチ程の、棒状の突起が有る。
瞳の色も、やや緑がかっている。
深緑の中に〔黒と濃い茶色〕の斑模様が入った、エルフ独特の服とズボン。
頭には、高さ15センチ程の尖り帽子。
こちらは柄の無い深緑で、先端はやや垂れ下がっている。
草むらの中へ隠れる為に、わざと折り曲げたのだろう。
顔を出したのは8人、その中で一番偉いと思われる。
ヒダリィの正面に居た者が、スススッと近付き。
もう一度、深々と頭を下げる。
「大恩有る方とは露知らず!申し訳ございません!」
「良いんですよ。あなた方が警戒するのはもっともですから。」
ヒダリィはにこやかに、そう返す。
自分達のテリトリーに、ズカズカと乗り込んで来たのだ。
怪しむのは当たり前。
しかも今自分は、右半分が薄い状態。
気持ち悪い事、この上無い。
誰でもそうする、俺でもそうする。
彼等は本分を果たしたまで、誰が責められようか。
ヒダリィの返しに、ホッとしたのか。
残りの者達も、近付いて来て。
頭を下げた後、にこやかに笑い掛ける。
ユキマリは自慢の器量良さで、『宜しく!』と握手を交わす。
「これで、時間短縮に関して。打開の芽が出て来たわね。」
サフィはそう言うと。
取り巻きの者達に、提案する。
「レッダロンを待たせる訳には行かないの。協力してくれない?」
「おお!レッダロン様のお知り合いでしたか!」
最初に近付いて来た者が、そう声を上げ。
名乗りながら、要請を承諾する。
「私は【ピノエルフ】のコミュ【タッカード】に属しております、【フレメン】と申します。私共、喜んでお力添え致しましょう。」