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ゲートの通行料は、結構お高いようで

「えーっ、俺がーっ?」


「そうよ。あんたなら出来るでしょ、簡単に。」


「言ってくれるなあ。」


 先駆けて実践する事には、特に抵抗は無いが。

 サフィの意のままに操られている様で、その辺りが気に入らないヒィ。

 自分の荷物をジーノに預け、背中に剣を仕舞うと。

 正方形に開いた、空間の穴を覗き込む。

 ええと、地面があそこまでしか無いから……。

 よし、これでやってみよう。

 俺が安心させてやらないと、みんな戸惑うだろうし。

 覚悟を決めるかあ。

 穴に飛び込む決心がついた様だ。

 他の者は少し、脇へ退いて。

 ヒィの動きを、ジッと見守る。

 地面が接する一辺の前に立ち、その場にしゃがむと。

 なるべく突入の勢いを殺す様に、軽くピョンと跳ねる。

 そして正方形の中心よりやや手前から、膝を抱えた格好で穴へと入り込む。

 空間の境界面を通過した瞬間、スライディングした状況と似た風に成り。

 背中から地面へ、ドサッと落ちる。

 いて、いててて……。

 背負っていた剣の分だけ、背中が凸凹でこぼこしていたので。

 着地の時、やや鈍い痛みが走る。

 それでも見ている仲間を怖がらせない様に、ニコッと笑って振り返り。

 軽く手を振る。

 そこへ間髪入れず、サフィから声が飛ぶ。


「ほら!直ぐに、横へゴロンよ!ゴロン!」


「はいはい、分かってるよ。」


 ホント、人使いの荒い奴だ。

 誰のせいで、こうなってると思ってるんだ?

 文句は後で、幾らでも言ってやろう。

 それよりも……。

 サフィへ返事してからこれだけ考えるのに、5~6秒。

『大丈夫!?』と慌てて覗き込む、ユキマリとアンビー。

 その時には既に、右側へゴロリと転がっていた。

 改めて周りを確認する為、スックと立ち上がるヒィ。

 そこは、下から数えて4段目。

 穴から段差までは、2メートルと言った所か。

 ヒィが転げ落ちなかったのが不思議な位に、幅が狭い。

 勢い良く飛び上がって、穴へと突入したら。

 あっと言う間に、底の広場まで達してしまうだろう。

 多大なダメージを負ってしまう、それは防がねばならない。

 皆の方へ呼びかけようと、穴の方を振り向くと。

 穴から見える景色が、実に奇妙。

 生い茂る木が、横に伸びている様に見え。

 目が回りそうになる。

 伏し目がちに成りながら、それでもチラッと見ると。

 穴の周りには、青い縁取りが。

 幅は、大体10センチ程だろうか。

 地面に接する辺だけは、下にめり込んで見えなかったが。

 それだけ確認すれば十分だ。

 穴の右側面へと回り、ヒィが残りの者達に呼び掛ける。


「その穴から段差まで、ひと一人ひとりちょいの幅しか無い!滑り込む様に入り込んだ方が良いぞ!」


「具体的には、どうやれば?」


 アンビーが心配そうに、ヒィへ問い掛ける。

『そうだなあ』と考えた後、ヒィは思い付く。


「まずは穴の縁に腰掛けて、膝から下をブラリとさせるんだ!それから『ズルッ』と言う感じで!」


「分かったー!やってみるー!」


 そう返事したのはいいものの、やはり躊躇ちゅうちょしてしまう。

『なら、オラが』と、ジーノが名乗り出る。

 兄貴に出来たんだ、オラにも出来るさ。

 根拠の無い自信だが、こう言う時には頼りになる。

 ジーノは言われた通り、縁に『よいしょ』と腰掛ける。

 その時、ヒィが追加で。

『何も背負ってない方が良いぞ!背中から落ちるから!』と言って来た。

 ジーノはもぞもぞしながら、背負っていた荷物を後ろへ下ろす。

 そして言われた通り、お尻を縁からズルッと滑らせる。

 すると、くぐった途端に。

 重力が足元では無く、背中から感じ。

 上手い事、トスンと。

 地面へと落ちた。

『どうだ?』とヒィに声を掛けられ、『こんなもんかなあ』と答える。

 特に痛みは走っていない、直ぐに左側へと転がる。

 ……ん?

 あれ、別に慌てて転がらなくても良いんじゃないか?

 ジーノはそこに気が付き、サフィの方へ申し出ると。

『てへっ』との返事が。

『また、口から出まかせかーっ!』と、大声を上げるヒィ。

『兄貴が怒るのも、もっともだぞーっ!』と。

 ヒィに呼応する様に、ジーノも叫ぶ。

 そして、2人同時に。


「「サフィ!覚えてろよーっ!」」




 その後は、すんなりと行った。

 まずは、荷物を通した方が良いだろう。

 こう言った、ジーノの提案で。

 穴の縁から、そろーっと袋を垂れ下げるアーシェ達。

 それを、向こう側に立っているヒィとジーノが。

 しっかりと受け止める。

 その後、左右交互に荷を下ろしながら。

 何回か繰り返すと、荷物の受け渡しは。

 無事に全て完了。

 次は、人の番。

 まずは、心配そうに中を見つめていたリディから。

 スルッと穴へ入り込むと、ヒィがガシッと受け止める。

 少し宙に浮いていたので、危うく転落する所だった。

 身体が軽かったので、何とか成ったが。

 まあ、リディの場合は。

 いざとなれば、ヒナへと変化へんげすれば良いだけの事。

 ヒィに抱き締められ、ニコッと笑うリディ。

 ゆっくりと地面へ下ろされると。

 とてとてと、ジーノが居る左側へ。

 それを見ていたユキマリとアンビーが、『次は《私・あたし》!』と立候補。

 じゃんけんの結果、アンビーが先に。

 縁に座り、『行くよー』と合図すると。

 ズルッと穴の中へ。

 かがんで待っていたヒィが、しっかとアンビーの身体を受け止める。

 その時、若干勢いが有ったせいで。

 アンビーの胸の辺りへ、腕を回す事になってしまい。

 ドキッとする、ヒィとアンビー。

 咄嗟とっさに『いやーん、えっちぃ』と、変な声を出すので。

 バッと突き放す様に、ヒィが離れる。

『うーん、いけずぅ』と、両手で胸を覆いながら。

 またもや、ユキマリを煽る様な事を言うアンビー。

 彼女なりの照れ隠しだったのだが、やり過ぎたらしい。

 穴の向こう側から、『それ以上言ったら、殴るからねーっ!』と。

 ユキマリに怒られる。

 ふふーん、これ位良いじゃない。

 ヒィとの初めての旅なんだから。

 そう思いながらも、アンビーは。

 ヒィの居る、右側へとける。

 次は、ユキマリ。

 アンビーとは違い、おしとやかに。

 穴へと滑り込む。

 そこをヒィが、がっしりと受け止める。

 今度は勢いが無かったせいで、ユキマリの腰辺りにヒィの腕が回る。

『ボフッ』とユキマリの胸の中に、ヒィの顔が埋まる。


「うわあぁぁぁぁっ!」


 悲鳴を上げたのは、ヒィの方だった。

『ご、ごめん!』と、アンビーの時と同じく。

 突き放す様に、慌てて離れる。

『こ、こちらこそ』と、顔が真っ赤になるユキマリ。

『あんた、狙ったでしょー!』と、言い掛かりを付けるアンビー。

『ち、違うわよ!』と、反論するユキマリ。

 両者は仲良く、ヒィの方へ捌けた。




 胸がまだドキドキしてるけど、今度は気合いを入れないと。

 そう思い直して、ヒィは。

 ジーノと2人で、受け止める体制を取る。

 そう、次は。

 鎧を身にまとったアーシェ。

 ここに来て、重厚な装備があだとなった。

 鎧を全部外したら薄着となり、下着が透けてしまう。

 騎士の格好での移動は、立ち回りの良さ前提なので。

 鎧の下は、普通の軽装よりもやや薄かったのだ。

 この様な事態を考えていなかった為、鎧を身に付けたまま通過するしか無かった。

 乙女の恥じらいは、こう言う時に邪魔となる。

『〔旅の恥は掻き捨て〕よ!』と、サフィに言われたものの。

 承服しかねるアーシェは、そのまま縁に座る。

 安心させる様に、ヒィがアーシェに向かって叫ぶ。


「どんと来い!」


「気合い入ってるわねー、あいつ。」


 ポツリと呟くサフィ。

 それが聞こえない位、アーシェは緊張していた。

 これからヒィに、抱き締められると思うと……。

 ええい、ままよ!

 シュルリと、穴の中へ滑り込むアーシェ。

 ガシッとヒィが、腰の辺りを受け止め。

 ストッパーの様に、ジーノがアーシェの足の裏を押さえる。

 何とか事無きを、『ありがとう』と感謝の言葉を述べながら。

 平静を装って、ゆっくりと立ち上がる。

 しかしその内情は、とんでもなくドッ散らかっていた。

 あわわわわ!

 この私が、男と抱き合ってしまった!

 い、いや! 冷静に成れ!

 相手はヒィだ、何の問題も無い!

 ヒ、ヒィならば良いのか!?

 いやややや!

 違う違う違う!

 こんな感じで。




 最後は満を持して、サフィが。

 しかしりにって、呑気にピョーンと飛び上がり。

『わーい!』と、万歳しながら。

 突入して来るではないか。


「こ、こらっ!」


 バッ!

 ガシーンッ!

 慌ててヒィが、サフィの身体に飛びつき。

 そのまま地面へ、『ドッスーン!』と。

 ふう、間一髪だった。

 こいつ、なんて無茶を……。

 その時、ヒィの右頬を『ムニュッ』と押す物が。

 ん? 何だ?

 ヒィがそう思ったのと同時に。

 周りから、『きゃあーーーっ!』と言う悲鳴が。

 上げたのはユキマリとアンビー、そしてアーシェ。

 ま、まさか……!

 恐る恐る、プルンとした物から顔を離すと。

『ふふっ』と言う軽い笑いと共に、サフィが一言。


「あたしの胸って、そんなに魅力的?ねえ?」


「な、何ぃーーーーっ!」


 ゴロゴロゴロ。

 咄嗟に横へ転がるヒィ、『ドスッ』と何かにぶつかった。

 見上げると、冷めた視線のアンビーが。

 思わず『うわーっ』と、漏らすユキマリも。

 アーシェは後ろを向いてしゃがみ込み、『見てない!見てないぞ、私は!』と連呼している。

 ジーノの後ろに隠れるリディ、見てはいけない物を見てしまった感覚。


「違う!やましい感情なんて、これっぽっちも無いから!」


 そう言い訳するヒィだったが。

 押し倒された格好から、上半身だけ起こして。

『むきになって否定されるとぉ、あたしぃ、困っちゃーう』と。

 頬に手を当て、恥ずかしそうに言うサフィの発言が。

 この場に追い打ちを掛け。

 予期せぬすったもんだが、不覚にも始まってしまうのだった。




 サフィの本心は、どうだったのだろうか。

 ヒィを困らせたくて、そんな事を言ったのか?

 それとも……。

 こうして、何やかんやで。

 一行はゲートを通り、〔ヘヴンズ〕へとやって来たのだった。

 ところで、ここから他のゲートを使用するには。

 〔既に復旧させている〕のが前提なのだが。

 その辺りは、大丈夫なのだろうか?

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