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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
4-1 重要な場なのに、ぐっちゃぐちゃ
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後見人、呼んじゃう?

「後見人、ですか?」


 ウェインがサフィに聞き直す。

『そう、後見人よ』とサフィは答える。

 そんな話、初めて聞いたぞ?

 怪しむアーシェ。

 サフィにボソッと尋ねる。


『お前も後見人なのか?』


『どっちかと言うと、〔サポーター〕かしらね。あたしは。』


『サポ?何だ、それは?』


『温かく見守るだけじゃなくって、傍で〔頑張れーっ〕って応援する係かな。』


『違いが良く分からんのだが……。』


『どうせその辺は、あの連中も聞いて来るでしょうよ。まとめて答えるわ。』


 サフィの指摘通り、椅子に着席している面々から。

 次々と質問が飛ぶ。


「後見人とは、どの様な役目か!」

「我々、監査人との違いは!」

「どうして我等の前に、その者達は姿を見せないのか!」

「数は!種族は!知っているなら教えて欲しい!」


 誰もが、その情報に飢えていたらしい。

 〔救世の御子〕候補の影に見え隠れする、謎の存在。

 こちらから接触を試みようとしても、候補を通じて話が出来る程度。

 監査人を信用していないのか、それとも姿をさらせない理由でも有るのか。

 その不可思議さも相まって、高ランクへと位置付けされている。

 候補の評価は、〔影の存在〕込みなのだ。

 唯一特別なのが、サフィ。

 アーシェがヒィと接触する前から、カッシード公国の動きを知っていた。

 しかも、その目的まで。

 敢えて知りながら、こうして今。

 大公やウェインの目の前に、堂々と立っている。

 かなりの胆力を備えていなければ、出来ない芸当だろう。

 だからこそ、ウェインは量りかねる。

 サフィの正体を。

 彼女をジッと見つめながら、眉間にしわを寄せるウェイン。

 その右耳へ『フッ』と、息の様な物が突如吹き掛けられる。


「ひっ!」


 思わず、悲鳴の様な声を上げるウェイン。

 バッと右側を向くと、そこには。

 ニコッと笑っているサフィが、前かがみで立っている。

 身体をビクッとさせると、ウェインは。


「いっ!何時いつの間にっ!」


「乙女の顔を無粋ぶすいに、ジロジロ見てるからよ。もっと肩の力を抜きなさい。」


 ポンッとウェインの右肩を、左手で軽く叩くと。

 シュッ!

 ウェインの目の前から消え、自分の席へと戻る。

 な、何っ!

 特別な魔力など、全く感じなかったぞ!

 原理は一体、何だ!

 戸惑うウェイン、知識の豊富な魔導士ゆえに混乱も激しいらしい。

 これはもう、司会を任せられんな。

 そう考えた大公が再び、場を取り仕切り始め。

 サフィに、尋問めいた質疑応答を。




「後見人とやらなら、この場に集める事が出来る。そうだな?」


「多分よ、多分。気分屋も居るでしょうから。」


「その者に聞けば、〔救世の御子〕候補の実態も分かるのだな?」


「教えてくれる気が有るならね。」


「なんだ。さっきから、あやふやな答えばかりではないか。」


「無責任に、明言は出来ないでしょ?それ位、分かるでしょうに。意地悪ね。」


「この者達に代わり、尋ねているだけだ。こちらにも、立場が有るのでな。」


「はいはい。」


 監査人達をグルリと見渡し、大公がそう言うので。

『しっしっ』と遠ざける感じで右手の甲を振り、適当に聞き流す振りをするサフィ。

 彼女の服の袖をグイッと引っ張り、アーシェが涙ながらに訴える。


「頼むから……これ以上……事を荒立て……ないで……。」


 ううっ……。

 目からしずくが垂れる、その中にはどんな感情が込められているのか。

 それに騎士らしからぬ、弱々しい声。

 流石に哀れさを感じたのか、サフィは。

 早く終わらせてやるかぁ。

 あたしもチャッチャと済ませて、おやつを食べにヒィの屋敷へ戻りたいしね。

『ふぅっ』と大きくため息を付き、服の左ポケットをゴソゴソ探ると。

 長さ20センチ程の、変な形の棒を取り出す。

 片方の先は球を取り付けた様に丸く、そこには格子模様が入っている。

 反対側は、少し先細り。

 全体はグレー掛かっていて、鈍く光っている。

 左手で、棒の中央付近を握り締め。

 端に在る球体へ向かって、サフィは話し掛け始める。


「えーえー、テステス。マイク、テス。マイク、テス。」


 何か、けったいな事をし始めたぞ。

 取り出した物が、ポケットに収まるとは思えない大きさな事にも驚いたが。

 発している言葉の内容も聞いた事が無く、意味不明。

 全てをまぶたに焼き付ける勢いで、カッと目を見開く連中を。

 その場に置き捨て。

 満をした様にサフィは、握っている物を通じて。

 不特定多数へ、元気に語り掛ける。


「みんなー!この声が聞こえてたら、返事して頂戴!」


 シーン。

『もしもーし!もしもーし!おーい!おーいっ!』と続けるも。

 サフィに対する返答は無い。

『何かが起こる』と身構えていた、監査人達は。

 生み出された静けさに、気が抜ける。

 皆がガクッと体の緊張を緩めた所に、サフィは語気を強めて。




「何で誰も答えないのよーっ!返事しない奴の分は、あたしが勝手にしゃべっちゃうからねーっ!都合が悪い事も、ぜーんぶよっ!」




 完全に怒っているサフィ。

 〔答えが返って来なかった〕事に対してと言うより。

 〔自分の呼び掛けを無視しやがった〕と感じたからだろう。

 威嚇いかくの様な、挑発の様な。

 脅しめいた言葉に、『これ以上は無視出来ない』と思ったのか。

 続々と声が帰って来る。

 それは様々なトーンで、天井から降り落ちる。


 《勝手な事を言うな!》

 《こっちにも、都合って物が有るのよ!》

 《大体!いつも独善的過ぎるのだよ、お前は!》


 声の主は。

 老若男女、種族も異なるらしい。

 しかし一致していたのは、全て〔サフィに対する文句〕だった。

 返って来た、罵声にも似た返答に。

 サフィは続ける。


「だったら直接!文句を言いなさいよ!あたしはここよ!それとも、あんた達!陰口しか叩けないってのっ!卑怯者っ!」


 胸を『バシンッ!』と、右手のひらで叩く。

 自分の居場所を、示す様に。

 こんなあからさまなけしかけに、果たして簡単に乗るだろうか?

 呆然とやり取りを見ていた監査員達は、そう思ったが。

 意外にも。


 《そこまで言うなら、行ってやろうじゃないか!》

 《丁度、鬱憤うっぷんまってた所よ!》

 《お前相手に、ストレスを解消させて貰おうか!》


 容易く乗って来たーっ!

 この場に居た者は皆、びっくりする。

 そして声の主が次々と、大広間に姿を現した。




 その後の事は、議事録に書かれていない。

 機密保持の為、内容が伏せられているのでは無く。

 単に、書く事が無かっただけ。

 つどった事は集ったのだが。

 サフィに対してののしる者、突っ掛かる者。

 収拾が付かなくなり、協議自体が中止されたのだ。

 後見人なる者が存在する、今はそれが判明しただけで十分。

 後は監査人自身が調べる事、そう割り切るしか無かった。

 それ程、場は荒れ狂い。

 カオスな状態の中、ただの人間にしか過ぎなかった監査人達は。

 テーブルの下に隠れて、嵐が過ぎ去るのをひたすら待った。

 大公も、部下に守られながら。

 魔導士のウェインも、大臣も。

 平等に、成すすべ無く。

 円形テーブルの下で共に、じっと。

 結局、どれがどの候補の後見人かさえも。

 確認出来無かったが。

 円形だった為、破壊される事を免れた大テーブル。

 しかし椅子や部屋の飾りは、大公の目の前でガラクタと化して行く。

 壁を削りながら、床を震わせながら。

 異形の者達が乱闘する、その迫力は。

 やはり人外、そう認識させる。

 その中で1人、ギャースカ叫びながら互角に渡り合っているサフィは。

 特に重要人物として、マークされる事に。

 その任を、大公直々にしかと命ぜられたアーシェは。

 ホトホト困り果てる。

 サフィがこれ程、手に余る者とは。

 思いもしなかった。

 良くもヒィは、サフィと。

 自然な形で、対等な関係を維持していられるな。

 改めて、ヒィの度量の大きさに感心すると共に。

 これから先の事に、頭を悩ますアーシェなのだった。

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