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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
4-1 重要な場なのに、ぐっちゃぐちゃ
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カッシード公国における、〔救世の御子〕関連の会議にて

 アーシェが現在居るここは、【フージェン宮殿】。

 〔カッシード公国〕を治める為政者、〔ヘイゼル大公〕が住まう王宮。

 この中に在る【接見の間】にいて、続々と報告が成される。

 内容は勿論、〔救世の御子〕関連。

 アーシェの様に各地へと派遣された【監査人】が、それに該当するか経過観察し。

 その報告書を元に、候補をランク分けしている。

 〔ランク1:原石〕・〔ランク2:研磨中〕・〔ランク3:整形中〕と言った具合に。

 ランクを制定するのは、ヘイゼル大公直轄の組織で。

 監査人からの報告・レポートを精査する、【エビライ機関】。

 今回は、各地へ散らばっていた監査人が久し振りに集合し。

 大公へ直々に報告する、【上奏会】が開かれている。

 上奏会を経て、情報が更に精査され。

 最有力候補に該当するランク5の〔トップジュエリー:TJ〕には、3人が認定された。

 1人は。

 〔ヘムライド王国〕内に在る湖で暮らす、水の妖精〔レプラコーン〕の青年。

 1人は。

【ネムレン大渓谷けいこく】一帯を支配する【竜人りゅうじん】コミュに属する、【ふう竜人】の少女。

 最後の1人は、ヒィ。

 それぞれが、〔神器を越えると言われる物〕を所有し。

 それを駆使して戦う。

 一説によると、3人のバックには。

 各自、超常的な何かが存在し。

 Kへの対抗勢力を築きつつあるとの事。

 その情報を、お抱えの魔導士〔ウェイン〕から補足説明されると。

 大公はあごに左手を添え、緩く撫でながら考え込む。


「3人か……多いのか少ないのか、判別が難しいな。」


おっしゃる通りです。」


 ウェインが相槌を打つ。

 現時点では。

 〔研磨中〕に相当する、〔腕は立つがまだ粗削あらけずり〕な人物が。

 ポツポツと現れれば、良い方だ。

 大公は、そう考えていた。

 なのに、『最高ランクに3人も認められた』と言うのは。

 裏を返せば、『〔ゼアズ・ワールド〕に迫る危機が、想定よりも早い』と言う事なのでは?

 そう危惧される事態でも有る。

 ここは、慎重に動かねばなるまい。

 そう考え、大公は。

 TJ及び〔ランク4:宝石化〕に認定された者を担当する、監査人を。

 大広間に集め、意見を聞く事にした。




 大広間に集められた、監査人。

 直径30メートル程の円形の大テーブルが、ドーンと中央に置かれ。

 その周りに並べられた椅子へと、皆着席している。

 構成するのは、貴族だったり騎士団員だったり。

 ウェインを師と仰ぐ、魔法使いも居た。

 特殊工作員も2名、普段は各方面への諜報活動に就いているのだが。

 活動過程で、偶然候補を見つけたので。

 そのまま監査人へとスライドした。

 色々な役職が混ざる十数名を前にし、大公が告げる。


「残って貰ったのは他でも無い、〔これからの監査活動に付いて〕である。TJに当たる者が3名、その下に当たる者が数名。それぞれ認定された。それは皆の承知の通りだ。」


「何か問題でも?」


 或る監査人が、大公へ質問する。

 大公は答える。


「天啓が降りてから数カ月。この短期間にしては、『多過ぎだ』と思わないか?」


「なるほど。確かに。」


 別の監査人が、大公の言葉に頷く。

 更に大公は、この場に居る者へ呼び掛ける。


「この事態をどう思うか、忌憚きたんのない意見を聞きたい。」


「申し上げます。」


 騎士らしき者が、スッと右手を挙げる。

 大公の左隣に座っていた、この国の大臣が指名すると。

 スックと立ち、意見を述べる。


「これ程早く候補が見つかるのは、寧ろ喜ばしい事かと。」


「ほう。何故だ?」


「はい。現れるであろう敵に対して備えを持つには、時間が掛かります。早々に取り掛かれる程、こちらに有利かと。」


「もっともな意見だ。他には?」


「申し上げにくいのですが……。」


 ソーッと右手を挙げる、魔法使いらしき人物。

 大公の右隣に座っているウェインが、発言を許可する。

 魔法使いは立ち上がり、物申す。


「確かに、早過ぎます。この場に居られる方を、疑っている訳では無いのですが……。」


「何だ?はっきり申してみよ。」


「はい。不正確な報告をされている方が、中にはいらっしゃるかも知れません。」


「何故、そう思う?」


 大公の鋭い眼差しに、少し臆しながらも。

 魔法使いは告げる。




「お互い、監査対象を。この目で見た事が有りません。いつわるのは容易いかと。」




「何と無礼な!」

「他に言い方が有るだろうが!」


 そう、怒る者も居れば。


「人によって、監査基準が違うやも知れんな。」

「誤差は或る程度、出て来るだろう。」


 魔法使いの意見に同調する者も有り。

 魔法使いは要するに、『監査人の報告が正しいとは限らない』と言う主張をしているのだ。

 では、どうしたら良いか?

 手っ取り早いのは、〔救世の御子〕候補を。

 大公やウェインに直接、引き合わせる事なのだが。

『それは難しい』と、貴族らしき人物が言う。


「地元を離れられない事情を、抱えている者も居りましょう。全員をこの場へ集めるのは、現実的では無いと考えられます。」


『ならば』と、ウェインが。

 取って置きを提案する。


「地元を離れても大丈夫な者が。別の候補の元を訪れて、お互いを見比べさせてはどうか?それなら融通も利くでしょう。」


「それは正論だが……。」

「ここへ戻って来るにも、かなり時間が掛かるのに。各地を尋ね歩ける者が居るとは……。」

「それに我々も、いつも対象の傍に居られる訳では無い。実現は難しいのでは?」


 けんがく々と、議論が飛び交う。

 そこへウェインが、目を伏せっているアーシェに話を振る。


「ゼストリアンきょうよ。そなたの報告の中に在った【あれ】は、他の者は使用可能でしょうか?」


 ギクッ!

 やっぱり、懸念していた通りの流れになったか。

 だからなるべく、目立たない様にしていたのに。

 アーシェは意気消沈。

 大公の真反対から、ややズレた席へと就いていたのも。

 意見を求められるのを逃れる為。

 前に誰かさんによって、思い切り赤っ恥を掻かされたので。

『大公へ合わす顔が無い』、そう思っていたのだ。

 しかし魔導士直々の御指名だ、答えない訳には行かない。

 他の監査人も、『〔あれ〕とは何ぞや?』と言った顔付きをしている。

 仕方無い、話すか。

 アーシェは、重い口を開ける。


「それは、〔ゲート〕の事でしょうか?」


「ゲート?」

「聞いた事が無い名だな。」

「一体、どの様な物か?」


 貴族の令嬢で、騎士も務めている人物が。

 言い出しにくい事なのだ。

 相当凄いに違いない。

 場の空気は、期待に高まる。

 ウェインがアーシェに返答する。


「そう。別の場所へ瞬時に移動出来る、不思議な扉の事です。」


「そんな便利な物が!」

「この世界に在るとは!」

「それが有れば、我等も移動が楽になる!」


 ああ、期待値が上がって行く。

 この後、ポッキリと折れるかも知れないのに。

 しかしここは、正直に答えるアーシェ。

 ウェインに向け、話し始める。


「分かりません。」


「『分からない』とは?」


 ウェインが、少し曇った表情となって尋ねる。

 アーシェは、真剣な顔で答える。


「現物は確かに、真直まじかで見た事が有ります。しかし私自身は、通った事が有りません。しかも関係者によると、『通れる人物は制限されている』との事。これ等は、報告書の通りです。」


「ほう。」


「その関係者の言葉では、『神々が作った通り道ゆえ、神々の許可が下りた者しか利用出来ない』らしいのです。」


 ほらほら、もう諦めてくれ。

 でないと、変な事態になりかねない。

 あの者は、こう言うややこしい場に。

 率先して首を突っ込みたがるタイプだ。

 もう、あんなはずかしめはこりごりだ。

 フキへの引っ越しの前の出来事を思い出し、身体がプルプル震えているアーシェ。

 彼女の言葉に存在を思い出したのか、大公が声を上げる。


「おお!その関係者とやらはもしや、いつぞやの……!」


「そ、それ以上は成りません!またご無礼を働いてしまいましょう!」


「不思議な奴だったな。いきなりそなたと現れたかと思えば、『引っ越させるから、宜しく!』だったか。流石の私も面食らったぞ。」


 ワハハハハ!

 大笑いする大公。

 こんな姿、滅多に見せない。

 上機嫌な大公に、驚く一同。

 大公の指摘を止めるのに失敗して、逆に恐縮するアーシェ。

 来るな!

 来ないでくれ!

 そう心の中で願っていたが、その思いは叶わず。

 大公の座る、豪華な椅子の後ろから。

『ムキーッ!』と言う、怒った様な少女の声が。

 そして大公の背後から、両手をヌッと突き出すと。

 その頬に、グリグリとげんこつをえぐり付ける。


「な、何奴!」


 皆が一斉に、椅子から立ち上がり。

 大公の下へ駆け寄ろうとする。

 しかし、その者は。

 直ぐにパッとげんこつを解き、ヒュッと後ろへ引っ込めると。

 大公の左側からスッと、姿を現す。

 それは、残念な事に。

 アーシェが一番、この場へ来て欲しく無かった者だった。




「何よーっ!乙女に対して、〔奴〕呼ばわりは失礼でしょ!あっ、アーシェ!あんまり遅いから、迎えに来てやったわよ!光栄に思いなさい!」

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