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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
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荷物、時を駆ける

 玄関から外へ出て、アンビーが物資を運んで来るのを待っているヒィ達。

 その間に、ヒィとユキマリは。

 過去の自分達に『自分の荷物だ』と認識させる、例の手紙を。

 既に書いていた。

 袋から取り出した時は、信じられなかった文言。


 《何とかなったから、頑張れ。》


 道理で筆跡が力強い筈だ、全て終わった後に書かれたのだから。

 今もなお、〔物体を過去に送る〕と言う特殊能力を疑っているユキマリ。

 この目で見るまでは、絶対に認めないんだから!

 そう自分に言い聞かせないと、精神が崩れる気がした。

 ユキマリにとっては、それ程大変な旅だったと言える。

 ずっと流浪の身だったヒィには、何て事無かったが。




 続々と、アンビーの指示のもと

 運び込まれる、サフィの注文した品々。

 縄梯子、アイマスク。

 巨大クロスボウとその台座、着地用マット。

 パラグライダー一式に、その場しのぎ用の干し肉。

 シール状だった、黒マットは。

 サフィが事前に用意していた。

 これは、〔カーボンファイバー製〕の特殊な物で。

『丈夫なのに、いざとなったら千切ちぎれる』と言う、不思議な特性が有る。

 魔力も前もって充填されているので、何時いつでも魔方陣が発動可能。

 これはネプテスに持たせていた〔結界樹の種〕と、セットにする事で。

 最大限の効果を発揮する。

 その事は、未だにヒィ達には知らされていないが。

 それ等をテキパキと入れて行く、アンビーの配下達。

 最初、『これ等を分解して、袋に入れて行くよ』と。

 アンビーに言われた時は。

 正直、『変な事を言い出したよ』と思っていたが。

 ドンドン袋へ入れているのに、パンパンに膨れる気配が無い事へ。

 驚きをもって、事実として受け入れる。

 アンビーも『本当だったんだ』と驚いてはいたが、指図する立場だったので。

 顔には出さず、平然とした態度を保ち続ける。

 それが怪しくなって来た頃、ようやく全部入れ終わった。

 袋を持ち上げ、トストスと上下に振るヒィ。

 あんなに沢山入れても、やはり軽い。

 凄いな、ネプテスは。

 思わず声に出していたらしい、袋の中から。

『光栄の極み』と返答され、ヒィの顔が少しニヤける。

 サフィはアンビーに、『これ位で良い?』と言いながら。

 相当な額のマールを渡す。

『こ、こんなに受け取れないよー』と、困惑するアンビーだが。

『特許料を貰うから、これでお相子あいこよ』と、サフィが返す。


「と、とっきょ?何それ?」


「少し、話そうか。その辺は、はっきりしとかないと。」


 立ち話で商談を始めるサフィ。

 長くなりそうなので、『これにて解散!』とアンビーは。

 配下の者へ申し渡す。

 サフィから受け取った報酬を、リーダー格の者に預け。

 門の前で『ふむふむ』と、サフィの話を聞くアンビー。

 ヒィとユキマリは、旅の時に持って行く衣服を詰めに。

 一旦、屋敷の中へと戻った。




 荷物を全部積め終わり。

 再び門の前へと出て来る、ヒィとユキマリ。

 ジーノに連れられて、少女姿のリディもやって来る。

 ヒィの荷物袋の傍で、『ポンッ』と言う音と共にヒナの姿へとなるリディ。

 それを見届けると、ヒィの髪の中に居たヒナは。

 ひょいっと飛び降り、こちらも『ポンッ』と言う音をさせて。

 少女の姿へと変わる。

 旅に同行していた方のリディへ、ねぎらいの言葉を掛けるヒィ。


「ありがとう。凄く助かったよ。」


「えへへ。」


 頭を優しく撫でられて、嬉しそうな顔をするリディ。

 その光景を、ヒナはジッと見つめている。

 今度はヒナの方へ近付き、手紙を差し出しながら。

 ヒィは言う。


「過去の俺を助けてやってくれ。君にしか出来ない事なんだ、頼んだよ。」


「ピーッ!」


 張り切っているのか、小さい羽をパタつかせ。

 大声で鳴くヒナ。

 くちばしに手紙をくわえると、ヒィの荷物袋の中へヒュッと飛び込んだ。

 ヒィは袋の中を覗き込みながら、ネプテスへ丁寧にお願いする。


「リディ共々、宜しく頼むよ。」


「承知。」


 ネプテスの返事を聞いて、安心するヒィ。

 そこへ、サフィも荷物袋を持って来た。

 あのギラギラした装飾を、未だにヒィは受け付けない。

 どうしてあんな目立つ物を、頻繁に使うのだろう?

 ヒィを初め、皆は知らない。

 それに込められた、サフィにしか分からない【想い】を。




 3人の袋が、門の前へ一塊ひとかたまりに並べられた。

 それを取り囲む様に、ジッと見つめるヒィ達。

 サフィは服の右ポケットから、例の自称〔神器〕を取り出し。

 大きな〔カヌーのオール〕形へと戻すと。

 荷物達へ向けて、スチャッと両手で槍の様に構え。

 呪文の様な言葉を唱え出す。




 《巡れ、巡れ。時よ、巡れ。》

 《回れ、回れ。時よ、回れ。》

 《なんじの時を、つかさどりし者よ。》

 《戻せ、戻せ。時を、戻せ。》




 すると。

 ズアアアアァァァァッ!

 袋達を中心にして。

 直径5メートル程の、光り輝く白い円が浮かび上がる。

 思わず飛び退き、円から距離を取るヒィ達。

 光の円の中に続々と、正五角形が生まれ出る。

 初めは、円に接する形で。

 次は、生まれた正五角形の。

 その一辺の中心を、それぞれ頂点として。

 その次も、同じ様に。

 その次も、その次も。

 連鎖する様に、円内へびっしりと。

 マトリョシカの様に、正五角形が浮かび上がって行く。

 そして円の周りに、不思議な文様もんようが。

 何処かの場所の文字らしく、つらつらと書かれているが。

 ヒィ達にはとても読めない、全く知らない文字形式だ。

 文様は、円の周りを時計回りに動き出すと。

 段々早くなり、白い帯となった所で。

 ビカァッ!

 円内から、柱の様な光が空中へ伸びる。

 その時、決め台詞とばかりに。

 サフィが叫ぶ。




「時の狭間を駆け抜けよ!タイム・テレポート!」




 シュンッ!

 文様、円柱。

 そして無数の正五角形と共に、その場から荷物袋が消えた。

 最後は余りにまぶしくて、目も開けていられない状態。

 しかし一瞬だった、目を伏せたのは。

 それなのに、綺麗に袋は無くなっている。

『ふう』と、やり遂げた様に。

 右腕で額をぬぐうサフィ。

 神器を再び小さくして、服の右ポケットへと仕舞うと。


「さーて、何か食べよっかなー。」


 お腹を空かせたらしく、急いで屋敷の中へと戻って行く。

 摩訶不思議な、一連の出来事。

 その秘密を知りたくて、ユキマリとアンビーは。


「ちょっと待ってーっ!」

「どんな原理なの!あたしにも教えてよー!」


 それぞれ、サフィを追い駆ける。

 やっと一息付けるなあ。

 一段落して、気が抜けたらしい。

 ドッと、体に疲れが出るヒィ。

 お、重い……。

 倒れそうになる所を、ジーノが咄嗟とっさに支えてくれた。


「あ、ありがとう。」


「大丈夫かい、兄貴?休んだ方が良いぜ?」


「ああ。そうさせて貰うよ。」


 ジーノに支えられたまま、ヒィも屋敷へと戻る。

 それを後ろから、心配そうに見つめ。

 トコトコと付いて行くリディ。

 こうして、荷物の。

 過去への転送は、無事完了した。




 旅の疲れを取る為、ヒィは。

 自警団から、何日か休みを貰い。

 ゆっくりと、自分の部屋で静養した。

 回復が早かったユキマリは、ジーノに手伝って貰い。

 お土産の肉や酒を、あちこちへと配り届けた。

 〔エルフ特製〕と聞いて、受け取った者は皆喜んだ。

 自警団の集会所では、それを使って酒盛りがもよおされる始末。

 これだけ喜んで貰えたら、エルフ達も本望でしょう。

 皆の笑顔を見ながら、ユキマリは思う。

 そう考えると、あの旅も悪く無かったなあ。

 懐かしく思い返し、頬を緩ませるユキマリ。

 ヒィよりも一足早く、働き口の居酒屋へと復帰した彼女の。

 しばらく続いた、その笑顔で。

 癒された客は多かったと言う。

 これを切っ掛けに。

 ユキマリの評判は、一段と高まったのだった。




 さて、この旅は。

 まだ終わっていない。

 残っている課題が有る。

 そう、〔エルフのたわむれ〕に在る筈のゲートだ。

 しかしゲートの解放には、ヒィの力が要る。

 彼の回復無しには、どうしようも無い。

 その間にサフィは、また何処かへとうろついている。

 そしてやっと、ヒィの体力が戻った時。

 サフィはヒィを連れ、ゲートが待っているであろう場所へ。

 颯爽さっそうと向かうのだった。

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