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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
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荷解(ほど)きの前に、荷作りを

 〔エルフのたわむれ〕に、ヒィ達が向かってから。

 帰還するまでに、15日程経過していた。

 アンビーの関係者に、パラグライダー一式の回収をお願いして。

 ヒィとサフィ、そしてユキマリとリディは。

 ようやく、屋敷へと戻って来た。

 しかし、ヒィの心はまだ休まらない。

 そう、旅から戻って来たと言うのに。

 直ぐに、旅支度をしなければならないのだ。

 リディと遊んでいたジーノは、『またどっかに行くのかい、兄貴?』と聞いて来るが。

『そうじゃないよ』としか、今は答えられない。

 ジーノのもとに居た方のリディは、ヒィの髪の中を覗こうとする。

 ここで出くわすのは不味いっ!

 話がややこしくなる!

 焦ったヒィは、サフィに助け舟を求める。

 はなはだ不本意では有るが、口八丁手八丁でかわすのは得意なサフィに。

 任せると言うより、説明役を押し付けた方が。

 スムーズに進みそうだ。

 そう考えての事。

『ピコーン!』と、サフィの頭の中に。

 何かがひらめいたらしい。

『良いわよ』と、あっさり引き受けたサフィは。

 変なニヤけ方をしていた。

 不気味に感じるも、この場をしのぐには仕方無い。

『頼んだぞ』、そう思うヒィの頭を。

 グイッと手繰たぐり寄せ、髪の中に話し掛けるサフィ。


「出てきたら?みんなをびっくりさせてやんなさい!」




「ピーッ。」




 げっ!

 ち、違うだろ!

 慌てふためくヒィを差し置いて、赤い髪の中から『ピョーン!』と飛び出し。

 ストッと左肩へ着地する、赤いヒナ。

 ジーノの傍に居たリディが、ヒナを指差して言う。


「あっ!うちみたいだ!」


「ピーッ。」


 肩の上でクルリンと回って、一鳴きするヒナ。

 それで分かったらしい、〔あれは自分だ〕と。

 どう言う事か分からないけど、何だか嬉しそう。

 気になるなあ。

 でも、お兄ちゃんが困った顔をしてる。

 まだ、聞かないでおこう。

 リディはそう思ったらしい。

 ジーノの手をキュッと握る力には、少し哀愁が漂っていた。

『あ、後で話すよ』と、ヒィは。

 荷物袋を置きに、そして取りに。

 屋敷の奥へと向かうのだった。




「それで。これこれ、こう言う訳なのよ。」


「ふうん。」


 ユキマリが、事の顛末てんまつつまんで話している。

 それを客間で聞いている、ジーノとアンビー。

 リディも着席しているが、こっちは留守番していた方。

 アーシェはまだ、カッシード公国から戻って来ていない。

 そこへ荷物袋を持参したヒィが、サフィと共に加わる。

 この袋も、部屋に置いてあった物。

 旅で持ち歩いていた方は、区別する為に台所へ置いてある。

 ヒィの髪が、ゴソゴソ動いている。

 ヒナが入っているのだ。

 これからの都合上、まだヒナの姿のまま。


「あれがこの子、ねえ。」


 席に座っているリディと、ヒィの頭に居るヒナを見比べながら。

 不思議に思うアンビー。

 アンビーもまた、リディを『ヒィの親戚の子だ』と思っていた。

 だからその事実を、すんなりとは受け入れられなかった。

 しかも1人と1羽が、同時に存在する。

 ややこしい事、この上ない。

 逆に、こんな事に慣れっこのジーノは。

『そうなんだあ』と、軽く受け流す程度。

 一々びっくりしていたら、兄貴の傍には居られないからな。

 普段からそう心掛けていたので、ジーノの心境に変化は無い。

 早速ジーノは、ヒィへ質問を投げ掛ける。


「それで?帰って来たばっかりなのに、何でまた旅支度するんだい?」


 今度はオラも付いてくぜ。

 目をキラキラさせて、ジーノが尋ねるので。

 ヒィは答えにきゅうする。

 代わりにサフィが、ジーノへ答える。




「送るのよ。【過去の自分】に。」




「過去にだって?〔過去〕って、〔昔の〕って事だろ?そんな事出来んのかよ?」


 呆れるジーノ。

 アンビーも同様のリアクションをしている。

 口をあんぐりと開けたまま。

 しかし、広場へと着地したサフィから言われた言葉を思い出し。


「そう言う事かあ!」


「ん?何だい、姉ちゃん。何一人で納得してるんだい?オラを置いてかないでくれよー。」


「【注文通り】って、この事だったのね!」


「そう。〔あたし達が、フキまで戻って来る道中に使った〕物を、これから過去へ輸送するのよ。」


 サフィがアンビーに、そう説明する。

 でも、ちょっと待って!

 あれもこれも、袋詰めするには大き過ぎない?

 アンビーの頭に浮かんだ疑問を、そのままサフィにぶつけてみる。

 すると、意外にも。

 ここで説明しようとせず、席から立ち上がるサフィ。

 そして皆を連れて、或る場所へと移動する。

 そこは……。




「何で【中庭】に?」


 瞬間移動やらなんやらで、たび々使っていた場所。

 今は植えられた植物が2本、立派に育っている。

 サフィが気紛きまぐれで買って来た物だが。

 それは地面へと突き立てられた、背丈程の長さの棒へ。

 つる植物の様に、クルリと茎を巻き付かせ。

 棒に沿って、上方へとわせている。

 そしてそれぞれには、天辺てっぺんに水差しの様な物がぶら下がっている。

 例えるなら、〔ウツボカズラ〕が近いだろう。

『おっ、育ってる育ってるぅ』と、サフィが傍まで寄ると。

 体長10センチ程に成長した水差し部分へ、優しく話し掛ける。


「あたしは〔サファイア〕。〔サフィ〕で良いわよ。早速で悪いんだけど……。」


 そして、サフィは。


「美味しい話が有るんだけど、乗らない?」


「何、話し掛けてるんだ?頭がおかしくなったのか?」


 サフィの滑稽な姿に、呆れるジーノ。

 一方で。

 あれ、これは……もしかして……。

 アンビーは、記憶の海を辿り始める。

 何処かで見た事の有る様な……。

 今までは何と無しに、離れた所から見ていたけど。

 うーん……。

 中々思い出せないらしい。

 対してヒィとユキマリは、その正体にもう気付いていた。

 なるほど、そう言う事か。

 それで、袋の持参を……。

 その考えは、サフィの言葉で確信に変わった。

 サフィが言う。


「あんた達も感じてるんでしょ?満腹感にひたった、自分の存在を。乗って損は無いって。ねえ、【ネプテス】ぅ。」


 すると。

 水差しの様な形の物の、開いた上部から。




「確かに。臭いはするな。まさか、我自身とは思わなかったが。」




「しゃ、しゃべった!」


 突然の声に、腰を抜かすジーノ。

 アンビーの後ろにサッと隠れて、警戒する様にジーッと見ているリディ。

 やっぱりな。

 ヒィとユキマリは思う。

 変な奴の所には、変な物しか集まらないのか?

 ヒィはそう言いたかったが。

 それは下手をすると、サフィがこの場に居る全員へ当てはめかねないので。

 のどの上辺りで止めた。

 サフィは話を続ける。


「じゃあ、契約成立って事で。良いわよねっ?」


「「しかり。」」


「じゃあ、早速ー。」


 承諾の返事をネプテスから貰うと。

 サフィは『プチップチッ』と、茎から水差し部分を千切ちぎって。

 両手に持ちながら、ヒィとユキマリに言う。


「袋を出して。入って貰うから。」


「ああ。」

「オッケー。」


 ここではすんなりと、サフィの言う事を聞く2人。

『ネプテスの協力無しには、旅の成功は無い』と。

 身をって体験したから。

 スポッと袋の中に、ネプテスを入れるサフィ。

 袋の中から、『ひゅーん』と言う変な音が聞こえた後。

 ネプテス達が言う。


「「定着完了。して、我等に何を?」」


「空間を拡張して頂戴。今からその中に、たっくさん詰め込むから。」


「「了解。」」


「アンビー。頼んでいた物を、屋敷の門の前まで運んでくれる?」


「え、ええ。分かったわ。ちょっと待ってて。」


 サフィに促され、慌ててアンビーは屋敷を飛び出す。

 ジーノは未だに、『あわわわ』と腰を抜かしたまま。

 そこへ、トテテテとリディが駆け寄り。

 腰をスリスリと撫でてやる。

『す、済まねえな』と、リディに支えられながら。

 ジーノはやっと立ち上がる。


「ふいーっ。流石のオラも、喋る植物は初めて見たぜ。」


「俺もだよ。心臓に悪いよな。」


「違いねえや。」


 アハハハハ。

 ジーノとヒィが笑い合う。

 複雑な表情で、それを見ているユキマリ。

 はーっ、この後服とかを入れなきゃいけないんだー。

 乙女の下着が、ジロジロと見られるなんて。

 憂鬱な心持ちになるユキマリを、サフィが励ます。


「言ったでしょ。『下着なんかはいじらない』って。」


「それでも気持ちが悪いのよっ!」


 乙女なんでしょ、同調してよ!

 そう言いた気な、ユキマリの顔付き。

『まあまあ』となだめながら、サフィは皆と中庭を後にする。

 そして真っ直ぐ、玄関へと向かうのだった。

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