再び、銀の切り株が在る広場へ
シュッ!
ヒィ達は再び、銀の切り株が在る広場へと戻って来た。
艶やかに輝く白レンガ、それが綺麗な階段を成している。
5段有る階段は、霧に包まれる事無く。
天からの光を浴びて、己の存在を強調している。
それに囲まれて、平らな石畳が広がり。
その中央に、切り株は鎮座している。
来た時は、全体をのんびりと眺める事が出来なかったので。
改めて、そのスケールの大きさに感動するヒィ。
それと同時に、これからサフィが何をさせるのか不安でも有った。
『よっ、よっと』と、サフィは。
ピョンピョンと、階段を跳ね降りる。
そしてタタタと、切り株の下まで小走りして。
『ふう』と、切り株の上に座ろうとする。
「あっ!駄目っ!」
ユキマリがそれを止めようとするが。
サフィはお構い無しに、トスンと座る。
ヒィも思わず、『おいっ!』と叫ぶが。
2人が懸念した様な事は起こらなかった。
ここへ来る時、地上に在る〔銀の木〕に触れた。
だから切り株に触れたら、逆にそこへ飛ばされる。
そう思っていたのだ。
しかし悠々と座っているサフィに、変化無し。
むむぅ……。
難しい顔をしながら、答えを求めて。
ヒィはサフィに尋ねる。
「何も起こらないのか?それに触れても。」
「ご覧の通りよ。それが?」
「それが?って、お前……。」
サフィが〔何とも言えない、平然としたリアクション〕をするので。
心配した自分が馬鹿らしく思え、言葉が出なくなるヒィ。
代わりにユキマリが尋ねる。
「地上から来る時、銀の木の幹に触ったでしょう?」
「ええ、そうね。」
「だったら今度は、切り株に触れたら地上に戻るんじゃ……。」
「ああ、そこ?気になってたのって。」
「当然でしょ。普通は、そう考えるでしょうに。」
「まあ、言わんとする所は分からんでもないか。」
そう言ってサフィは、スクッと切り株から立ち上がり。
座っていた方をチラッと見てから、ユキマリに言う。
「こいつはね。不可逆な代物なのよ。」
「ふか……ぎゃく?」
ユキマリには難しい単語。
首をかしげる素振りを見せる。
『面倒臭いなあ』と思いながらも、サフィは説明する。
「幹から切り株には飛べるけど、その逆は無理って事よ。」
「何で?どうして?」
ユキマリが抱く疑問は当然の物だ。
誰だってそう思うだろう。
そこへサフィは、簡潔に理由を述べる。
「【切り株が本体】だからよ。」
「もう!分かり易く説明してくれないと!頭から煙が出そうだよー。」
オロオロして、頭を抱え出すユキマリ。
彼女を通して、もっと噛み砕いた表現にして欲しい。
そう思っていたヒィは、敢えて口出ししない。
『やれやれ』と言った顔をして、サフィは続ける。
「ゲートの場合は、お互いを魔力が自由に行き来してる状態なの。だから双方向で繋がっている。〔部屋と部屋、それとその間に在る扉〕の関係に近いわね。でも……。」
「でも?」
「これの場合は、【無理やり切り分けられた】の。理由はまあ、置いといて。それで2つは常に、元の1つの形へと帰ろうとしている。」
「うんうん、それで?」
「木の幹の方は、切り株の方へ飛んで行きたがっている。幹に触った者は、その影響を受けてここに流されるって訳。」
「うーん、難しくなって来たなあ。」
腕を組んで悩み出すユキマリ。
サフィはまだ続ける。
「エルフ達はこれを〔転移装置〕って表現したけど、そんな大した物じゃ無いのよ。ファンタジーに良く有る、〔不思議な植物〕なだけ。」
「まーた出たな、〔ファンタジー〕。お前、何でもそれで片付けようとするよな。」
不服そうに、ヒィが満を持して介入する。
これ以上は、ユキマリの頭脳が可哀想だ。
今度はヒィが、サフィに尋ねる。
「で?何で、切り株からは移動しないんだ?」
「さっきも言ったでしょ。切り株から幹への流れが無いからよ。」
「おかしいだろ、それ。エルフは自由に行き来してたじゃないか。」
切り株が発掘されてから、下と行き交う事が可能になった。
そこでレッダロンと会い、話を聞いて。
今現在が在る。
その事実とサフィの説明とは、辻褄が合わない。
ヒィはそう言いたいのだ。
しかしあっさりと、サフィは切り返す。
「何か勘違いしてるみたいね。」
「何をだ?」
ヒィには思い当たる節が無い。
だからこそ、次のサフィの言葉が。
胸にグサリと突き刺さった。
「『切り株を使って下へ移動している』なんて、エルフは一言も言って無いけど?」
「え?じゃ、じゃあどうやって……。」
「どうとでも成るでしょ、【降りるだけなら】。上へ戻れる手段を手に入れたから、行き来が出来る様になっただけの事よ。」
相手の話は、もっと思慮深く聞くべきよ。
まだまだ甘いわね、あんたも。
そう指摘されると、流石のヒィでも何も言い返せない。
今考えると、確かにエルフは言っていない。
幹では無く切り株の方が、移動手段になっている事を。
それに。
幹には番人を配置していたが、切り株の在るここには誰も居ない事も。
それなら、納得が行く。
ここから下へ降りられないのだから、上の土地に住む者が訪れる理由は特に無い。
下の番人が、きっちりと機能する限り。
そしてそこから、ヒィは。
嫌な予感がした。
袋に入っていた、最後まで使い道が分からなかった物。
〔縄梯子〕も〔巨大クロスボウ〕も、落下するユキマリを受け止めた〔救急用マット〕も。
使用目的を達したので、そのまま置いて来た。
エルフなら上手く使いこなせるだろう、そう願いながら。
だから袋の中は、来る時よりカオス感が薄れている。
その中で今でも、異彩を放つ物。
それは……。
サフィが嬉しそうに、ヒィとユキマリへ言う。
ずっと、この時を待っていたかの様に。
「さあ!袋から〔あれ〕を取り出しなさい!帰りは粋に、〔パラグライダー〕と洒落込もうじゃないの!」