ユミンの町とは、ここでお別れ
ユミンの町へと戻ったエルフ達は、大急ぎで祭りの準備を。
取って置きの肉、秘蔵の酒。
それ等を持ち寄り、元在る場所への帰還を祝う。
それと同時に、ヒィ達へ多大なる感謝を。
照れながらも恐縮するヒィ、横でヒィのほっぺをツンツンするリディ。
サフィは、悪戯を仕掛けて来た子供達を追い回し。
ユキマリはここでもコネを作ろうと、テルドのお付き達と話し込んでいる。
交代で大樹を見に行ったホグミス達も、町の周りに戻って来て。
飲めや歌えやの大騒ぎ。
祭は夜通し続き、騒ぎ過ぎて疲れ果て。
皆屋敷へ戻らず、路上で眠ると言っただらしない光景を見せていた。
その様を見て、テルドは思う。
安心安全だからこそ、外でも堂々と眠る事が出来るのだな。
この平和を、守って行かなければ。
ひっそりと誓いを立てた後、テルドは。
屋敷内の寝室で、ぐっすりと眠るのだった。
翌朝。
起き上がったエルフ達は、スニーの前に列を成す。
スニーは被っていたチロリアンハットから、洗浄効果の在る霧を吹き出させる。
それを浴びてスッキリした体になった後、後片付けに入るエルフ達。
子供達は相変わらず、サフィに纏わり付いている。
『随分と懐かれたものだなあ』と、ヒィは思っていたが。
精神年齢が近く、リアクションも大きいので。
揶揄い甲斐が在るだけなのかも知れない。
リディは既にヒナの姿と成って、ヒィの髪の中に潜り込んでいる。
ここが一番落ち着くらしい、スヤスヤと眠っている。
荷物を詰め込み終わったヒィ達は、屋敷から出向いて来たテルドに別れの挨拶をする。
テルドはヒィに、感謝の意を表する。
「此度は色々と、ありがとうごさいました。」
「いえいえ、こちらこそ。勉強になりました。」
固い握手を交わす、テルドとヒィ。
その時、テルドがヒィにボソッと。
『宝物が必要になれば、何時でも持って行って下され。皆も宝物自身も、それを望んでおります。』
テルドの代わりに、スニーとクロレが。
町の入り口まで付いて行き、ヒィ達を見送る。
外には、メド・ワデ・ナモが立っている。
ホグミス達も見送りに来たらしい。
そこへ、ハアハア息を切らせながらやって来る者有り。
ヒィの凄さに魅せられ、彼を師と仰ぐ勢いのファルだった。
ファルはヒィを真っ直ぐ見据え、力強い口調で言う。
「あなたの元で修業したい!同行をお許し願いたい!」
「だってさ。どうするの?」
ユキマリが、左側からヒィの顔を覗き込む。
自分は、そんな立派な人間じゃ無い。
まだまだ未熟者、だから。
ヒィはきっぱりと断る。
「それは出来ないよ。」
「ど、どうして……!」
眉間にしわを寄せ、納得が行かない表情をしながら。
理由をヒィに尋ねる。
ヒィは答える。
「俺は弟子を取れる程、優秀じゃない。自らも、仲間と修行中の身なんだ。」
「で、では共に……!」
「その修行仲間には、ドワーフも居る。君達エルフは、仲が悪いんだろう?」
「そ、それは……。」
口どもるファル。
ヒィは続ける。
「あいつは多分、君が来ても受け入れるだろう。でも君の方は、仲間として見てくれるかい?難しいんじゃないのか?」
「ううぅ……。」
人間に対する蟠りも、未だに少しは持ち続けている。
それに加え、ドワーフの存在を許せるのか?
『その点が、心情的に未熟だ』と。
ヒィは暗に指摘しているのだ。
ヒィは更に続ける。
「それに、君には。ここで成すべき事が、沢山有る。そう思うけどね。」
そう言ってヒィは、ファルの後ろを追い駆けて来た影を指差す。
また突発な行動をして、誰かを困らせているんじゃないか。
そう心配したファルの両親が、少し離れた場所からこちらを見ていたのだ。
振り返り、2人の姿を見ると。
何故か涙が零れるファル。
こんなに苦労を掛けていたのか……。
うな垂れるファルに、ヒィが諭す。
ファルの右肩へ、左手を乗せながら。
「離れていても、〔仲間〕の様に。お互いを高め合う事は出来るさ。なっ。」
「は、はい……。」
涙を拭って、顔を上げるファル。
その顔は、引き締まっていた。
これは、手強いライバルになりそうだ。
その未来を楽しみにしながら、ファルと別れるヒィ。
そして、見送るエルフ達・ホグミス達に手を振りながら。
ヒィ達は、ユミンを後にした。
「あっさりと引き下がったわね、あいつ。」
ファルが両親の元へ帰ったのが、意外だったサフィ。
ジーノの様に、図々しく付いて来ると思っていた。
ヒィは言う。
「自分の立場を分かっている。立派じゃないか。」
「そんなもんかなあ。」
詰まんなそうに言うサフィ。
ヒィとユキマリの荷物袋には、エルフから持たされたお土産が入っていた。
ホグミスと協力して作っていると言う酒、ここの森にしか生息しないらしい獣の肉。
結構な量をくれたので。
ヒィは、この先のエルフ達の生活を心配したが。
『土地が元の場所に帰れば、何とかなりますから』と、強引に。
これでも、感謝の気持ちを完全に表わせていない。
と言うのが、エルフ達の言い分。
だからそれ以上は、何も言わなかった。
サフィは、ネプテスがお土産に変な事をしないか。
気が気で無いらしい。
『何もしちゃ駄目よ?』『承知』との問答を、延々と繰り返している。
対して、約束した物をサフィから受け取るのを。
楽しみにしているユキマリ。
ヒィは敢えて、尋ねない事にした。
『へへへ』と言う、気持ち悪い笑いを。
にやけながら、ユキマリは繰り返すので。
藪ヘビに成ると考えたのだ。
トコトコ歩きながら、ヒィは。
気を取り直して、問答を続けているサフィへ尋ねる。
「あそこに戻るんだろ?〔銀の切り株〕の所に。」
「まあね。」
「そこから、どうするんだ?何も聞かされて無いけど。」
「私も気になるなあ。ねえねえサフィ、どうするの?」
「ユキマリも食い付くかぁ。しゃあ無いなあ。取り敢えずは……。」
ヒィとユキマリの背中を、荷物袋毎掴み。
シュッ!
『この方が手っ取り早い』と言わんばかりに、瞬間移動で運んで行った。
さて、サフィは。
ここから何をしようと言うのだろうか?