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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
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エルフとホグミス、見物に出かける

 ゆっくりと動いて行く、空中じま

 その動力源を、エルフ達は知らない。

 浮き上がった土地が、その元の場所に帰るまで。

 まだまだ時間は掛かる。

 サフィの話によると。

 掘っ立て小屋付近に、何かの植物の種を植え。

 種が発芽し成長して、あちこちに影響を及ぼしているらしい。

 上空から何も侵入して来ないのも、それが関係していると言う。

 話を聞いたエルフ達は、一目で良いからそれを見たくなった。

 町が空っぽになる事を、皆は懸念したが。


「その辺の事は、心配しなくて良いですよ。いざとなったら、サフィの瞬間移動でお送りしますから。」


 ヒィがそう言ってくれたので、心置きなく。

 エルフ達は軽い旅行気分で、支度を始める。

 ユミンの町付近でしか遊んだ事の無い子供達は、大喜び。

『見に行くだけよ』と母親らしき女エルフに諭され、『はーい!』と元気に返事するも。

 あわよくば、その先にも行ってみたい。

 そんな野心を、子供心に持っていた。

 子供達が良からぬ事をしないか、心配する親達だが。

 自分達も少々浮かれているので、多少の事には目をつぶろう。

 そうも思っていた。

 今回の大移動には、テルドも同行する。

『長として、事態の把握をする』と言う理由も有るが。

 それよりも、〔重要な役目〕を負っていた。

 サフィの提案に乗った形だが、テルドにとっては有り難かった。

 何せ、元の土地に戻っても。

 大木によって形成されていた結界が、完全復帰するとは限らない。

 この土地に在る3本、そして現地に残っている5本。

 合わせて8本の大木で、正八角形を描き。

 その中心に、宝物ほうもつは本来安置されていた。

 今現在、5本の大木の状況が分からない中で。

 どの様に宝物を守って行くか、喫緊きっきんの課題だった。

 それを解消してくれる、サフィからの話。

 だからテルドも、現地へ向かう。

 お付きのエルフ達は。

 人間の貴族が舞踏会へと臨む様な、派手な格好で行こうとするが。

 テルドがそれをめさせた。

『晴れ舞台だ』と考えていたお付き達は、大層残念がったが。

『平常心を自ら崩す事は無い』と、テルドに言われ。

 己の立場をわきまえた行動を取るべきだ。

 そう考え直した。

 身の引き締まる思い、エルフとしての誇り。

 テルド様は、何て立派な方なのだろう。

 お付き達は、『付いて来て良かった』と。

 長を、羨望の眼差しで見やる。

 テルドにとっては、当たり前の行動。

 この程度で浮かれていては、また変な輩に付け込まれてしまう。

 自分へのいましめとして、周りに接しているだけ。

 そのテルドの意識がかえって、長としての威厳を高めるのだった。




「〔タクシー〕みたいじゃないの、さっきの言い方。あたし、そんなんじゃ無いんだけどー。」


 エルフ達に向け言った、ヒィの言葉を受けて。

 ムスッとするサフィ。

 それに対し、ヒィは。

 た、たく……?

 唐突に、変な単語を出すなあ。

 どうせまた、ろくでも無い意味の奴なんだろうけど。

 ふぁんたじぃ? みたいな。

 まあ良いさ、気にしない。

 それよりも……。

 ユミンへの入り口、その左右に。

 ヒィとユキマリの荷物袋をそれぞれ置き、サフィが袋の中へ話し掛ける。


「これ位は〔おまけ〕で良いでしょ?ねっ?」


 侵入者から町を守ってくれる様、ちゃっかりネプテスへおねだりしている。

 にこやかにウィンクしながら、袋へ迫るサフィ。

『ううむ……』と、返事を渋るネプテス達。

『そこを何とか!』と両手を合わせ拝みながら、懸命に頼むサフィ。

 乙女のプライドを捨て、『お願いしますぅ!』と土下座までするので。

 ヒィとユキマリは哀れに思い、サフィの隣にそれぞれ座ると。

『お願いっ!』『どうか、力を!』と、共に土下座して頼む。

 おお!

 それでこそ、あたしの……!

 そこまで思って、サフィは止めた。

 自分にとって、彼等はどの様な存在か。

 既定する様で、何か嫌。

 今はまだ、ふんわりとした関係で有りたい。

 心の何処かに、そんな気持ちが居着いていたのだろう。

 そんなサフィを他所よそに、ヒィとユキマリは土下座を続ける。

 とうとう根負けしたのか、ネプテスの返事。


「まあ、これ位良かろう。」

「美味であったしな。」


「あ、ありがとう!あ゛り゛か゛と゛う゛ーーーーっ!」


 それぞれの袋を抱き締め、号泣するサフィ。

 そんなに必死だったんだ、町を守るのに。

 良かったねー。

 顔を上げニコッと笑って、サフィに向かい微笑むユキマリは。

 知らない。

『タクシー代わりにされたくない』、その意地だけで。

 ネプテスが願いを聞いてくれなければ、〔特別な何か・大切な何か〕を差し出すしか無かった。

 サフィの裏事情を。

 彼女と言えど、万能では無いと言う事を。




 取り敢えず、こうして。

 町の守りは、堅固となった。

 ホグミスは、沢山居るので。

 半分は町を守る為残り、もう半分は見に行くエルフ達へ同行。

 その後役割を入れ替わり、交互に見物けんぶつする事に。

 ホグミスは妖精、その気になれば直ぐにでも辿り着く。

 それでも、エルフ達に付き従う方を選んだ。

 間近で表情をじっくりと見たいらしい。

 ヒィ達が初めて出会ったホグミス3人の内、ワデとナモが居残り。

 メドが、付いて行く方へ加わった。

 ホグミス達を怖がらせない様に、サラは沈黙を保ったまま。

 サラなりの気遣いなのだろう、本当は俺の右肩から眺めたいだろうに。

 気の毒に感じるヒィだが。

 サラは、彼の頭の中に物騒な一言を。


『彼等が着く前に、見れば良いだけさ。気にしないで。』




 準備の出来た者から、シュンッ!と跳び立つ。

 エルフは、足のバネが強いので。

 ボールが弾む様にポンポンと、リズム良く木々の枝を跳ね進んで行く。

 それは、子供でも同じ。

 軽々と森林の中を跳び回る。

 子供と互角なのが、正直悔しいユキマリ。

 サフィは何を使っているのか、『ビヨーン、ビヨーン』と変な跳ね方をしている。

 その姿に笑う子供達、『黙らっしゃい!』とムキになるサフィ。

 滑稽なやり取りに、親達も微笑ましく感じる。

 しかしその中に、ヒィは居ない。

 エルフ達が森の中へ入って行った時、距離を取る様。

 サラから、事前に言われていた。

 それを承知しているのは、サフィのみ。

 だからヒィは、森からそっと離れ。

 森からもユミンからも外れた、横方向へと移動する。

 町が小さくなり、森も見えなくなった。

 周りには、咲き誇る花畑が広がるだけ。

 ホグミス達も今は、ここには居ない。

 サラに言われた通り、ヒィは剣を背負ったまま。

 そのつかを右手でギュッと握り、力を込める。

 するとヒィの全身から、淡い黄色の光が放たれる。

 そして、ヒィの身体がふわりと浮かび。

 スウッと宙へ舞うと。

 ビュッ!

 その場から消えた。




 森を早々に抜ける、エルフ達。

 その中にヒィの姿を視認出来ず、首をかしげるユキマリ。

 子供達に揶揄からかわれながら、同時に森を抜けるサフィへ。

 ヒィの行方を尋ねる。


「ねえ?ヒィは何処に行ったの?私達の脚に付いて来られるなんて、ちょっと考えられないんだけど。」


 そもそもヒィは人間、足は遅い。

 ピョンピョン跳ねて行くエルフ達や自分に、移動速度でかなう筈が無い。

 そう思っていた。

 思い込んでいた。

 だからサフィは静かに、指差す。

 その真上を。


「あいつなら、もう直ぐ【飛んで行く】わよ。」


「えっ?〔飛ぶ〕?〔跳ぶ〕じゃ無くて?」


「疑うならさ。少し立ち止まって、空を見上げててよ。通過するから。」


「通過って、そんな無茶な……あっ!」


 驚きの声が、思いのほか大きかったらしい。

 エルフ達もホグミス達も、その声に反応して立ち止まり。

 上を見上げる。

 すると、遠くから『ゴーッ!』と言う轟音が近付いて来る。

 そして、彼等の真上を。




 ゴオオオオオォォォォォォッッッッ!




 オオオォォォッッッ。

 黄色の光球が、勢い良く過ぎ去った。

 あんぐりと口を開けたままの、エルフの子供達。

 サフィはあっけらかんと、ユキマリに言う。


「ね?飛んでったでしょ?」


「あ、あれ!ヒィなの!」


「そうよ。サラも相当、鬱憤うっぷんが溜まってた様ね。おー、速い速い。」


「ひえーーっ。」


 腰が抜けそうになるユキマリ。

 横で会話を聞いていた子供達が、興奮して騒ぎ出す。


「すっげー!」

「人間って、空飛べたんだ!」

「あの人だけでしょ、多分。」

「俺も飛びたいなあ!」

「うんうん。」


 大人のエルフ達は、ヒィの滑空に感動と畏怖の念を覚え。

 ホグミス達は、『あの時彼に手出ししなくて、本当に良かった』と改めて思う。

 テルドは、ヒィがただ者では無いと確信する。

 宝物を預けるに相応しい人物なのでは?

 そこまでテルドに考えさせる程、衝撃的な光景だった。

 光球は、下界の者共の色々な感想を物ともせず。

 キランと遠くで小さく光ると、直ぐにエルフ達から見えなくなった。

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