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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
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結局、〔奴〕の正体は?

 ユミンの町の入り口に無事、ワープ完了。

 大手を振って、町中まちなか凱旋がいせんするサフィ。

 それにヒィ、足元をふら付かせるエルフ達と続く。

 瞬間移動初心者特有の、あの〔酔い〕に。

 余計なダメージを食らったらしい。

 それを〔戦闘にる疲れ〕と勘違いした住人達が、わさぁっと集まる。

眩暈めまいがするだけだ』と、周りを落ち着かせるスニー。

 そこへ、クロスボウを解体し終わったクロレ達も駆け付ける。

 テルドの屋敷から、『宝物ほうもつが無事戻って来た』との知らせを受けていたクロレは。

 スニーにそれを伝え、共に喜ぶ。

 クロレはスニーに尋ねる。


「それで?奴はどうなった?」


「それが……。」


 困った顔をして、サフィの方を見る。

 当の本人は、『フンフンフーン』と鼻歌を歌いながら。

 ヒィの荷物袋を、クロレの配下から受け取っている。

 そこへ、宝物を届け終わったユキマリもやって来る。


「これで、全部終わったの?」


 そう、サフィへ声を掛けるも。

 ニコッと笑って、ユキマリの方へ右手を差し出しながら。

 サフィは言う。


「渡して。」


「えっ?」


「あんたの荷物袋よ。早くぅ。」


「え、ええ。良いけど。」


 サフィが〔変に甘えた、背筋がかゆくなる様な声〕で要求して来るので。

 戸惑いながらユキマリは、サフィへ自分の荷物袋を差し出す。

 それをバシッと奪い取ると。

 ヒィの袋と2つ、地面へ並べ。

 口に左手を当て、呼び掛ける様に言う。


「ご苦労様ー。これ、【約束のブツ】よー。」




「「お見事。」」




 袋の中から声がし。

 真っ黒な右手がニュッと、それぞれ飛び出す。

『ほいっ』と、サフィが。

 右手に持っていたあの糸球いとだまを、宙に軽く投げ上げると。

 バシッ!

 両側から、2つの右手が。

 手のひらを合わせる様に、それを挟み込む。

 その間から、『ガリガリッ!』と言う物騒な音が漏れ出る。

 余りの五月蠅うるささに、エルフの中から耳を塞ぐ者が続出する程。

 ガリガリガリガリッ!

 ガリガリガリガリッ!

 ガリッ!

 ブフッ。

 ゲップの様な音を発した後、黒い右手達はまた袋の中へ引っ込む。

 そして袋から、声がする。


「「美味。満足。堪能。」」


 シーンと静まり返る、袋の周り。

 見ていたエルフ達、ヒィとユキマリも。

 呆気に取られ、何が何だか。

 その中からいち早く正気に戻ったヒィが、サフィに詰め寄る。


「今のは!どう言う事なんだ!」


「契約だったのよ。『力を貸して貰う代わりに、珍しい物を食べさせてあげる』ってね。」


「契約って、ネプテスへの事か!」


「他に何が該当するってのよ。ホンット、呆れるわぁ。」


 やれやれ、あんたもまだまだね。

 そう言いた気な、サフィの表情。

 それを見て、急に気持ちが冷めるヒィ。

 こいつと真面まともにやり合ったら駄目だったな、そういや。

 思い直し、落ち着きを取り戻して。

 ヒィはサフィに尋ねる。


「で?〔森にひそんでいた怪しい奴〕の正体は、一体何だったんだ?」


「ああ、それね。ネプテスの性質と、関係有るんだけど……。」


 そう前置きした後、サフィは答える。

 それは、答えを望んだスニーやクロレも。

 予想だにしないモノだった。




「あれは【悪意】よ。あくどい感情。」




「感情?それが独り歩きしたってのか?」


 ヒィが気の抜けた声で、サフィに投げ掛ける。

 サフィが答える。


「ネプテスはねぇ。物に染み付いている、感情や思いを食べるのよ。喜怒哀楽関係無く、濃ければ濃い程美味うまいんだってさ。」


『どう?分かった?』と、サフィは主張するが。

 彼女の発言に、合点が行かないのか。

 スニーもクロレも、他のエルフ達も。

 納得の行く説明を、サフィに求める。

 それに対し、サフィはあっさりとした感じで言う。


「感情は感情よ。或る意味、執念深さが強く残ったんでしょ。誰かさんの。」


「誰かさんとは、誰の事でしょうか!」

「ぼかした表現をされても、理解しがたいのですが!」

「もっと分かり易く!説明して下さい!」


 鬼気迫る様な、エルフ達の懇願こんがん

 それに段々イライラして来たのか、サフィの眉間にしわが浮かんで来る。

 エルフ達も興奮しているらしい、サフィの周りへと詰め寄って。

 辺りがぎゅうぎゅう詰めになって行く。

 不味いっ!

 あいつの怒りが爆発する!

 ヒィは割って入り、サフィとエルフ達の押し問答を止めようとする。

 ユキマリも、ヒィの手助けをしようと。

 群集の中へ飛び込もうとする。

 しかし、その時。




「うわぁーーーーん!」




 群集の中から突然、大きな泣き声がする。

 遠巻きにやり取りを見ていたが、何時いつの間にか群衆の中へ巻き込まれたエルフの子供が。

 周りからの圧迫感に耐えられず、心の叫びを上げたのだ。

 それを受け、サフィが周りに言い放つ。


「これがそうよ!あんた達、子供に対して何やってんの!」


 自分の欲求を満たそうとして、周りが見えなくなり。

 誰彼だれかれ構わず攻撃して。

 結果的に、関係の無い者まで傷付ける。

【無意識の悪意】。

 皆が持つであろう、普段は意識しない感情。

 その強烈なバージョンが、あの侵入者だ。

 サフィは切々と、周りに語る。

 その間に。

 子供はヒィによって、外へ無事連れ出され。

 ユキマリに慰められている。

 身体的に痛かったのもそうだが。

 血走った目でサフィへと詰め寄る大人達に、底知れぬ恐怖感を覚えたらしい。

 子供の身体がまだブルブル震えているので、ユキマリは優しく抱き寄せる。

 それで漸く落ち着いたらしい、『ひっく、ひっく』と小声で泣いている。

 外側から順に、エルフの取り巻きが解けて行く。

 各々が、感情のコントロールを失った事に。

 反省しきり。

 ヒィには、エルフ達の行動も理解出来た。

 自分達の暮らしをおびやかしていた者が、そんなモノだなんて。

 にわかには信じられない。

 それと同時に。

 こんな空中へ、無下むげにも追いられ。

 宝物を奪おうと侵略して来た奴等と、それを招いた人間達に。

 恨みを募らせていた。

 自分達が生み出して来た、負の感情が。

 もしかして、奴を引き寄せたのかも知れない。

 その可能性を考えると、自分達にも非がある。

 断じて認められない、認めたくない。

 そんな気持ちも有った。

 心中は結構、複雑に違いない。

 ヒィは、エルフ達が哀れに思えた。

 サフィはそんな事、お構い無しだが。

 改めて、サフィは言う。

 エルフ達を諭す様に。




「これを機に、猛省なさい。あんた達の恨み節が、気付かない内に実体化して。無関係な者達へ、襲い掛かっていたかも知れないんだから。」

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