表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
119/1285

自称〔女神〕、女神らしい事をする

 枯れ草の様な、薄茶色の草原。

 そこは。

 岩場の上に建つエルフの宿泊所から、ファルに襲撃を受けた2本目の大木を通り。

 その先に有った地域。

 9日間の旅の内5日目、道のりで言うと丁度真ん中。

 つまり、空中じまの中心付近に当たる。

 草原の中に建つ、掘っ立て小屋は。

 或る意味、目印の様な物。

 その傍に現れる、あの人物。

 入り口のドアをガシッと蹴り飛ばし、ズカズカと中へ入る。

 そして、一言。


「まーた、ここに来ちゃったか。分かってた事とは言え、何だかなあ。」


 辟易へきえきした口調でつぶやくと。

 ヒィ達が補強の為に貼った〔黒シール〕が、どの場所に有るかをチェックして行く。

 ふむふむ、ちゃんと【指定した所】に貼ってあるわね。

 良い仕事してるじゃないの。

 感心しながら、右ポケットを探り。

 マッチ棒の様な物を取り出すと、右手のひらに乗せ。

『ほいっ!』と宙へ投げ上げる。

 それは顔位の高さで、ポンッと変化へんげし。

 透き通った水色の、〔カヌー用オール〕みたいな姿になる。

 すかさず中央部分を、『ガシッ』と左手で掴むと。

 そのまま天に高々と掲げ、叫ぶ。




「【サファイア】の名にいて命ずる!展開せよ!聖なるよ!」




 すると。

 あちこちに貼ってあった黒シールから、虹色に輝く真円しんえんが出現し。

『シュルルル』と、直径を広げて行く。

 真円全てに、魔方陣を描く際に記入する文言が。

 円の内側に接する正五角形と、その中に浮かぶ☆との隙間に。

 びっしりと並ぶ。

 幾つも重なり合っているので、小屋の中は虹色の光で溢れている。

 単に隙間を埋める為、小屋の壁や床へ。

 サフィは出鱈目でたらめに黒シールを張らせた訳では無く、正にこの為だったのだ。

 展開が終わると、サフィは左ポケットを探り。

 ネプテスから投げ渡された際、サフィの顔面に炸裂さくれつした物を。

 ガバッと取り出す。

 それは、手のひらサイズの大きな【種】。

 クルミの様に表面が固く、多少のしわが付いている。

 サフィが痛がる訳だ。

 そんな昔の事は、もう忘れた。

 そう言わんばかりに、無表情で。

 小屋の真ん中に当たる場所へ、ゴトッとそれを置くと。

 両手を使って、オールの様な形の自称〔神器〕を頭上で回す。

 クルクルと、バトンの様に。

 そして『カツン』と、種の上へ片端かたはしを当てる。

 再び、サフィは叫ぶ。

 今度は、吠える様に。


「目覚めよ!」


 声に呼応して、固い種の表面がピシッと割れ。

 中からニョキッと、芽の様な緑色の物体が顔を出す。

 その横から、根っこの様な細く白い物が。

 何本か伸びる。

 サフィの絶叫は続く。


「結べっ!」


 2枚の小さい若葉が『カッ』と、青白い光を放つ。

 それと同時に、白い根っこが。

『バシュッ』と、小屋の床を貫いて。

 地下へとドンドン伸びる。

 その間に、若葉がグングン大きくなり。

 小屋の中で、パンパンに膨らむ。

 サッと小屋の入り口から、サフィが飛び出すと。

 種から生じた芽は、更に成長を加速させ。

 小屋の屋根をぶち破り、上へと成長して行く。

 一方根っこは太く長く、地中を駆け巡った後。

 下の世界に面する側へ、ビシュッと出っ張る。

 はみ出た根っこは、真っ直ぐに〔或る方向〕を目指す。

 ズアアアアァァァァッ!

 地中で何百本にも分かれていた、根っこの先は。

 空中で勢い良く伸び、とある地面へと突き刺さる。

 突き刺さった後も、地中へ伸び続け。

 何十メートルもの深さまで達した後、ようやく伸びが止まる。

 そのタイミングは。

 宝物ほうもつの力が完全に切れ、ふんわりと島が落下し始めた矢先だった。

 地上へ根差した根っこが、島を手繰たぐり寄せる様に。

 今度は、ゆっくりと縮んで行く。

 スピードとしては、馬が駆ける速度位か。

 縮み始めの急加速の為、初めは島を傾かせたが。

 直ぐに体勢を立て直し、島の上部を水平に保つ。

 この時の衝撃で、ヒィ達と対峙していた白巨人が転倒したのだ。

 これも、サフィの計算の内。

 上へと伸びた芽も、直径1メートル程の幹となった後。

 成長を鈍化させる。

 小屋は最早バラバラとなり、辺りに破片が散らばっている。

 黒シールから現れた魔方陣も、役目を終えたのか。

 ヒュッと消えた。

 島が宙を進み始め、その速度が一定になった事を確認すると。

 満足な顔で、サフィが幹に寄り添う。

 その肌を撫でながら、『後は宜しくねっ』と優しく声を掛けた後。

 シュンッ!

 ユミンの町へと、サフィは戻って行った。




「テルドさん!テルドさん!宝物は回収しましたよ!」


 大声で叫びながら、テルドの屋敷に入って来るユキマリ。

 かなり興奮しているらしい、ユキマリらしからぬ気遣いの無さで。

 ドタドタと、廊下を走って行く。

 ユキマリが、テルドの待つ部屋へ飛び込むと。

 椅子に座って目をつぶり、戦況を祈っている長の姿が目に入った。

 その目の前に回り込むと、『えーい、面倒臭いっ!』と。

 荷物袋を逆さまにし、中身をドサドサと床に落として行く。

 まずは衣服、次にアイマスク等。

 女性の下着が混ざっていたので、テルドは慌て。

『お、落ち着いて!』と、両手のひらをユキマリの方へ突き出し。

 顔を背け、赤らめる。

 それでもユキマリは、構わず続ける。

 うずたかく積まれた、衣服の山。

 その頂点に、ポスッと落っこちる物が。

 明るい緑色の光を放って、存在を主張しているそれは。

 確かに、テルドには見覚えが有った。

 顔を背けてはいたが、視界にそれが入ると。

 思わず手を伸ばしてしまう。

 その時、彼の口から漏れ出た言葉は。


「ち、父上……!」


 掴みたいが、届かない。

 椅子から立ち上がれない。

 気が付くと、足がガタガタ震えていた。

 消えさまを思い出したのだろう、テルドは再び椅子へ腰掛け。

『ふう』と深呼吸して、気を落ち着かせる。

 ユキマリが宝物を掴むと、テルドの方まで抱えて行き。

『はいっ!』と手渡しする。

 受け取ったテルドは、目をうるませながら。

 そのひざの上で、しっかりと感触を確かめるのだった。




 〔クシュピ〕を務めていたエスペルは、テルドの父だった。

 父は命をして、宝物を守り。

 結果、息子の目の前で消滅した。

 こんな事態になった責任を、息子として痛感したテルドは。

『島に暮らすエルフ達を、しっかりと守らねば』と使命感に燃え。

 この時まで長を務めて来た。

 順風満帆だったとは言えない、これまで期間を。

 今は、愛おしく思う。

 そして、父の形見でも有るこの宝物を。

 今度は守り通したい、そう新たに誓う。

『宝物が取り戻された』と聞いて、他のエルフ達が続々と屋敷を訪問。

 代わるわるに、宝物を眺めては。

 目をウルッとさせる者有り、ホッとする者有り。

 しばらくすると、島がゆっくり動き出す感覚を。

 この土地で生活する、全てのエルフと全てのホグミスが感じ取る。

 何と無く皆が空を見上げた時には、静かに夜が明けようとしていた。

 そこでやっと、『再び地上で暮らせる』と言う実感がいて来て。

 何処からともなく、歓声がき上がるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ