鍵、取り出される
「お前にとっては、そうなんだろうな。」
サフィのあっさりとした物言いに対し、冷静に返すヒィ。
こいつが言う様に、元に戻るのが既定路線なら。
土地が浮上する事態に陥ったのも、既定路線だった。
エスペルが命を賭けて、宝物を守った事も含めて。
それでは余りにも、やるせないではないか。
この時ばかりは、サフィの発言をスルリと流すしか無いヒィ。
感情に任せた反応を示したら。
エルフ達の悲しい歴史を、〔回避出来無い確定事項〕と認める事に繋がるから。
ユミンまで来る道中に、立ち寄った大木は。
どれも、結界を張る役目をしていた物。
道理で、神聖な感じを受ける筈だ。
そしてユミンは、曽て人間が暮らしていた町を。
そのまま再利用し、エルフの町へと変えた物。
人間を恨んでいても、それが齎した恩恵を全て否定する事は出来なかった。
矛盾を抱えながら、エルフは今もここで暮らしている。
元通りに返る事を夢見て。
土地が崩れないのも、草原に花が咲いていたりいなかったりするのも。
宝物が司る、守りの能力に因る物。
それをクロレは、自分達を守ってくれる力の〔副作用〕と表現した。
要するに、【外部の影響から守る為、部分的に時を凍結している】のだ。
現状維持、それが宝物の干渉の賜物なら。
サフィの力が抑えられ、緑色の炎が出せないのも。
納得が行く。
宝物と同質の力は、規模の大きさに圧倒され打ち消されてしまうから。
なら、弱ったサフィを回復させるリディの存在とは?
ヒィにはそこに、今回の鍵が有る様に思えた。
土地が浮かんでいる理由は分かった。
長を初めとするエルフ達が、地上に戻りたい事も確認した。
この時点で残る問題は、3つ。
1つ目は。
宝物の能力発動を止める事。
2つ目は。
それに伴い、力を取り戻して。
森林から襲って来るであろう、敵と思われる存在の撃退。
3つ目、これが一番問題なのだが。
1つ目を達成した後、落下し始めると考えられる土地を。
どうやって、元の場所へと戻すのか。
こればかりは、宝物並みのとんでもない能力が無い限り。
達成は難しそうだ。
そこでヒィは、改めて荷物袋の中を確認する。
入っていた手紙の文言が、〔未来〕を表しているのなら。
鍵となる物が、入れられている筈だ。
そう考え、ゴソゴソするも。
それらしき物は、中々見つからない。
念の為、ユキマリにも自分の荷物袋を確認してくれる様頼んだが。
そちらには特に、目ぼしい物は無かった。
サフィは……期待するだけ無駄か。
そんな都合の良い物は、自分では持たない。
こちらへ押し付けるだろう。
ヒィは尚も、袋の中を探す。
そしてとうとうヒィは、袋の中に顔を突っ込む。
何故か、袋の中が真っ暗になる。
そしてヒィの顔前に、ギョロリと目玉が1つ浮かび上がる。
思わずビクッとなる、ヒィの身体。
心配になって、ユキマリが歩み寄る。
『放っときゃあ良いわよ』と、サフィは涼しい顔。
目玉は、ヒィに向け話し掛ける。
「何用か?」
「何か、特別な物を預かってないか?所在を明かさない様、念を押された奴を。」
「それは、あのお方の御意思か?」
「ああ、そうだよ。使う時がやって来たんだ、持ってるなら出してくれ。」
「ふうむ……。」
目玉は間を置いた後、ヒィに言う。
「知らんな。」
「な、何で!」
思わず大声に成るヒィ。
目玉は続ける。
「知らんものは知らん。引っ込んで貰おう。」
何か強い力で、ヒィの頭が袋の外へ出されそうになる。
それでも何とか、交渉しようとするヒィ。
しかし成す術も無く、袋の外へ放り出されてしまった。
その勢いで、床へ尻餅を付くヒィ。
「く、くっそう……。」
間違い無い、何か隠し持っている。
でも渡してくれない、俺の袋なのに。
俺が入れたんだろ、それ。
そこまで考え、『あっ!』と閃くヒィ。
俺が入れたのなら、在る無しに言及する筈。
それをのらりくらりと、はぐらかしたと言う事は……。
バッとサフィの方を向いたヒィは、自分の袋をグイッと突き出し。
サフィに要求する。
「【お前が入れた】んなら、お前が取り出してくれ!」
「良く気付いたわね。」
「それしか考えられんからな!全く、何て余計な事を!」
珍しく、プンスカ怒っているヒィ。
ネプテスを荷物袋へ住まわせる時、それに持たせていたのだろう。
だからネプテスは。
ヒィの発言が、サフィの意向に因る物かどうか。
しつこく感じられる程、気にしたのだ。
『仕方無いなあ』と言いながら、ヒィの袋を手繰り寄せ。
ネプテスに話し掛ける。
その時サフィは、〔してやったり〕と言った風にニヤッと笑っていた。
「あたしよ。預けていた物を、渡して頂戴。」
『ふっふっふっ』と、不敵な笑みを浮かべながら。
サフィは取り出そうと、自信満々で袋に手を突っ込む。
しかし、意外にも。
「知らんな。」
突っ込んだ手を、逆に突っ返された。
ムキーッ!
怒ったサフィは、袋をブンブン振り回しながら。
『出しなさーいっ!』と怒鳴る。
対してネプテスは、知らぬ存ぜぬの一点張り。
むきになったサフィは、ヒィの制止を振り切って。
袋の中に顔を突っ込に、一喝する。
「あたしよ、あ・た・し!『とっとと出せ』って言ってんのよ!」
「ほう、本当に貴方でしたか。失敬。」
「もう!」
プクーッと頬を膨らますサフィ。
その顔面に向けて、『バンッ』と投げつける様に。
『どうぞ』と、ネプテスが渡す。
『ギャンッ!』と、痛さでサフィが思わず仰け反る。
スポッと袋から飛び出た、その顔には。
何かが張り付いている。
それは……。
とにかく。
鍵となるモノは、全て揃った。
そこでヒィ達とテルドは、色々と話し合う。
宝物の在り処及び、能力の解除法。
森に潜む怪しい奴の正体、その或る程度の目星。
等々。
方針が決まると、早速。
テルドが、町中に伝達する様お付きに命ずる。
それを受け、お付き達はユミンの中を走り回る。
急に賑やかになって来た、町内。
こうして、時の止まっていたコミュ〔アチェリン〕のエルフ達は。
怒涛の流れに飲み込まれる事となる。
その流れの行き着く先は、円満解決か?
それとも、多少の犠牲を伴うのか?
ここで正に、ヒィの【運命力】が試されるのだった。