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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
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それは、或るエルフの〔信念〕からだった

宝物ほうもつ……発動……緊急事態……うーん……。」


 テルドの言葉は、ユキマリにはピンと来なかった様だ。

 左手であごを支え、左ひじをテーブルに付けて。

 探偵が推理する時みたいに、じっと考え込む。

 それもそうだ。

 宝物と呼ぶに値する、凄い物と言えば。

 ヒィの剣位しか、見た事が無い。

 具体的なイメージがかないのも、当然か。

 対してサフィは、全く動じない。

 想定の範囲内だったから。

 と言うか、『それしか無いでしょ』と思っていたから。

 ヒィも薄々そう感じていたが、改めて明言されると困った顔になる。

 何しろ、問題解決の為。

 サフィから事態を押し付けられる、これからの展開が。

 ありありと思い浮かぶからだ。

 正に、とばっちり。

 エルフからのでは無く、サフィからの。

 こいつ、余計な事を言い出さないだろうな……。

 そう心配しながら、ヒィはテルドに言う。


「具体的には、どの様な事が有ったのですか?それを知らない事には、動きようが有りませんので。」


「承知しました。そうですな……この土地の概要からお話ししましょうか。」


「お願いします。」


 ヒィの言葉に、『コホン』と軽くせき払いし。

 テルドは、話し始めた。




 元々、今空に浮かんでいる土地は。

 宝物を守っていた〔結界〕の一部分。

 不浄な輩を遠ざける為、悪魔のたぐいを侵入させない強固な魔方陣が張り巡らされた。

 その中央に宝物が保管され、代々受け継がれて来た。

 何時いつからそれが有るのかさえ、知る者は最早居ない程。

 長い年月が経ち、エルフ達からその存在が忘れ去られようとしていたのだが。

 或る時、宝物が『ここだよ』と呼び掛ける様に。

 結界の力が急速に弱ってしまい、宝物の場所に異変が起きた。

 結果として不審人物の中への侵入を許し、宝物にまつわる大事件が起きた。

 それは。

 他民族に対し寛容に振る舞う〔カテゴリーの頂点〕の施策が、皮肉にも起因していた。

 結界は盤石、そうおごったのだろうか。

 それとも、『変な考えを持つ者は、結界内では暮らせない』と過信したのか。

 結界内に暮らす者をエルフに限定していた、その規制を緩めたのだ。




 これからは、他のコミュと連携しなければ生き残れない。

【昔々の或る出来事】から、そう思う様になっていた者。

 それがおさ中の長、カテゴリーの頂点である【クシュピ】と呼ばれる役職。

 それに当時就いていた、【エスペル】と言う名の男エルフ。

 エスペルが〔クシュピ〕として推し進めた、移民政策は。

 〔多種族の力を借りて、結界内の守りを固める〕と言う物だった。

 前の失敗は、二度と繰り返さない。

 並々ならぬ決意から、他のエルフを説き伏せ。

 まず第1陣として、鳥人が入植した。

 鳥人はエルフと違って、空を飛べる為。

 上空からの監視と高台への荷物輸送によって、エルフの暮らしに貢献した。

 鳥人の働きにより、移民政策が上手く行ったので。

 次の入植をスタートさせた。

 それが、人間。

 ホント、何処どこにでも出没するものだ。

 エルフ達は念入りに面接を重ねた後、取り敢えず少人数を受け入れた。

 彼等は〔商人〕と言う職業柄、統一通貨〔マール〕をエルフ内に浸透させ。

 マール無しには、物資のやり取りを出来ない様にした。

 勿論、エルフ内から反発は有った。

 しかし人間は既に、世界中に物流を拡大させ。

 ありとあらゆる物を取り扱っていた為、それ等がエルフコミュ内に流入し。

 結果エルフの生活が豊かになったので、文句を言う者は何時の間にか居なくなっていた。

 そして、商人を起点とする様に。

 馬車曳きや荷運び屋、宿屋等が開店し。

 エルフコミュは、ます々便利になって行った。

 それに伴い、人間の出入りは止まらなくなる。

 言い表しようの無い、見えない恐怖に対し。

 危機感を持ったエルフ達は。

 自主的に関所を設けるなど、人間からの自衛手段を保持する様になった。

 エスペルは『施策に逆行する』と反対したが、他の長達に押し切られ。

 認めざるを得なかった。

 そしてそこで、エスペルは。

 自身の失敗を、まざまざと見せつけられる事となる。




 或る時、事件は起こった。

 結界内は、深い森で埋め尽くされていたのだが。

 流入する人間の多さに、エルフ達の対応が追い付かず。

 人間達が町を築く度、木々は伐採され。

 森林の量が減って行った。

 このままでは森が無くなって、木々で隠していた結界があらわになってしまう。

 エルフの長達が、そう危惧した矢先。

 故意では無かったのだろう、町として切り開く為。

 大木が伐採されかけた。

 結界は正に、その大木で形作られていた為。

 その効力が、一時的に弱まった。

 無理やりその場所から人間を引き離すエルフ達、事情を知らないので反発する人間達。

 その機会に乗じて、結界にいた隙間から中へ侵入する軍団が。

 それは悪魔を伴い、次々と町を襲った。

 逃げ惑うエルフ達。

 彼等を見捨てる様に、人間達はさっさと何処かへ消えてしまった。

 鳥人も簡単には手出し出来ず、空で傍観するのみ。

『軍団の目的は宝物に有る』、そう考えたエスペルは。

 自分の安易な発想によって、同胞を危機に陥れてしまった償いとして。

『命を賭して、これは守る』と、保管されていた場所から宝物を持ち出した。

 結界の境界近くまで何とか逃げたものの、直ぐそこまで軍団は迫っていた。

 エスペルは決意し、自分の生命エネルギーを魔力に変え。

 宝物に注ぎ込んで、その能力を発動させた。

 代償としてエスペルは命を落とし、能力発動の反動で陸地の一部がえぐり取られ。

 境界付近へ避難していたエルフ達諸共もろとも、天高く飛び立った。

 そして一定の高度を保ったまま、宙を漂い始めた。

 それがこの、空中島。

 この出来事以降、この土地では〔クシュピ〕は禁句とされ。

 誰も成りたがらなかった。

 幸いにも、荒らし回った軍団は地上に置いて行かれ。

 宝物を奪われる事態だけは避けられた。

 そして、人間に対する憎悪は収まる事無く。

 現在に至る、と言う訳だ。




「何て、酷い……。」


 話を聞き終わり、ユキマリが言葉を詰まらせる。

 反対にテルドは、晴れやかな顔。

 結果的に、エスペルの〔ここを守りたい〕と言う信念がもたらした悲劇。

 ただエルフ達も、クシュピの施策を受け入れた事実が有る。

 エスペル1人を責める事は出来ない。

 彼は自分の命と引き換えに、立派に宝物を守ったのだ。

 だから怒りの矛先を、人間に向けるしか無かった。

 肝心な時に、行方をくらませた奴等は。

 許せない、絶対に。

 何とかしようとしたが出来無かった、鳥人の方がまし。

 鳥人の中には、浮かんだこの土地に降り立とうと試みた者も居た。

 しかし宝物が張っている、強力なバリアの様な物にはばまれ。

 引き返す他無かった。

 その姿を何度も見ていたので、鳥人に対する恨みは無い。

 寧ろ、その無事を祈っていた。

 一方で。

 地上にそのまま残ってしまった仲間達はその後、どうなってしまったのだろうか。

 それも気になっていた。

 でも、地上との連絡手段が無い。

 飛び降りるにも、エルフには高過ぎる。

 Kに早くから備え、力を蓄える為大人しくしていた神々は。

 宝物の放つ力を押さえられないのか、エルフ達に手を差し伸べてはくれなかった。

 ところが最近急に、事情が変わった。

 浮遊していた土地の動きが止まり、その調査に神が手助けしてくれた。

 地中から、何時埋まったのか分からない謎の切り株が発見され。

 これによりようやく、地上と行き来が可能となった。

 偶然なのか、必然なのか。

 レッダロンとの巡り合わせによって、ヒィ達がここへ参上。

 そこにテルドは、希望を見出していた。

 彼等こそ、神が遣わしてくれた者達。

 何とかしてくれるに違いない。

 ヒィの背負う剣を見て、そう確信した。

 やっと肩の荷がりる気がして、ホッとしたのだろう。

 テルドの表情に、それが表れた。

 となると、ヒィがテルドに掛ける言葉は1つ。

 遂に、ヒィは尋ねる。

 彼等、エルフの真意を。


「元に〔戻したい〕ですか?いや、元に〔戻りたい〕ですか?」


「戻りたいです。願わくば、ひっそりとエルフのみで暮らしていた時代に。」


「分かりました。俺に出来るかどうか分かりませんが、最善を尽くしましょう。」


「ありがとうございます!」


 ヒィとテルドは共に立ち上がり、固い握手を交わす。

 ユラリ揺られて、リディはまだ夢心地。

 ユキマリは、自分の事の様に涙ぐんでいる。

 テルドの両脇に立っていたお付きの2人は、表情を変えない。

 ヒィの事を、心の底からはまだ信用していないらしい。

 そんな中、サフィだけは。

 冷めた口調で、こう言った。




「パッパと済ませましょ。どうせ、元に戻るのは【既定路線】だもの。」

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