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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
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エルフの暮らしには相応(ふさわ)しく無かろう屋敷で

 ユミンの町並みは、人間が暮らす町と似ている。

 建物も、基礎はレンガでその上は木造。

 屋根はやや傾斜していて。

 風を受け流し、雨もしたたり落ちる。

 煙突も付いていて、今も煙をもくもくと上げている。

 まるで、人間が住み付いている様だ。

 この世界のエルフは、森に住んでいるのが通常。

 〔隠れている〕と言う表現の方が妥当か。

 鬱蒼うっそうと茂っている、その一部を間借りし。

 木の中をり抜いたり、枝を重ねたりして。

 なるべく地面から高い場所に、住まいを構えている。

 夜間に多種族から襲われても、撃退し易い様に。

 モンスーコが占拠している小屋群は、一般的なエルフの住居に近い。

 だからこそ、モンスーコはねぐらにしているのだ。

 ならば何故、この土地のエルフ達は。

 ユミンに居付いているのだろうか?

 それは、この土地が歩んで来た歴史に関係している。




「どうぞ、こちらへ。」


 お付きの1人が、サフィの荷物を担ぎながらヒィ達を案内する。

 その前には、もう1人のお付きに守られているテルドが。

 テルドは見掛け、60代後半の人間に見える。

 外見による人間とエルフの違いは、分かり易い所だと耳の形か。

 後は、エルフはややせ形で。

 太っている者はほとんど居ない事。

 スラッとしたシルエット、それはテルドも同じ。

 決して痩せ衰えているのでは無く、その体型をしっかりと維持しているのだ。

 だからテルドは、お付きの足取りに遅れる事無くスタスタ歩く。

 ユキマリはそれを気にする素振りを見せず、逆にヒィは不思議がる。

 サフィは、さも当然と言った顔。

 獣人や妖精に、〔老齢〕と言った概念が有るのか。

 ふと思ったヒィは、ユキマリに尋ねてみる。


「獣人って、みんな長生きなのか?」


「種族にるわね。短い者も居れば、長い者も居るわ。でも大抵は、人間より長生きかな。」


「老人も、中には?」


「居るわよ、当然。でも見掛けでは、判断し辛いかな。自分の力が衰えている事を、他人に知られたく無い人が多いから。」


「そうなのか。」


「何でそんな事、急に聞くの?」


「いや、俺達の常識と違うのかなあって。」


 人間は、獣人や妖精に比べれば遥かに非力だ。

 助け合わなくては、生きて行けない。

 だから、子供や老人の様な弱き者には。

 優しく手を伸ばし、安全安心を確保してやる。

 それが強き者の役目、人間の常識ではそうだ。

 対してそれ以外の種族は、個々の力が優れ。

 群れる者も居れば、孤独を好む者も居る。

 何処かでうっかり死んでも、それは自己責任。

 協力する時はするが、それは『弱者を守る』と言う観点には立っていない。

 必要だから、手を組むだけ。

 コミュの中で生活はしているが、それは自身が守られる為では無く。

 寧ろ、縄張りの様な物。

 活動し易くする為の協定なのだ。

 その点が、決定的に人間とは違う。

 だからヒィは気になったのだ。

 このまま交流範囲が広がって行くと、いずれゆがみが生じて。

 弱者を切り捨てるか、それとも丸ごと抱え込むか。

 選択を迫られるのではないか、と。

 獣人で有ろうと妖精で有ろうと、弱い者を見捨てるのは御免だ。

『みんな仲良く』と言う、自分の主義に反する。

 ヒィはそう思っているが。

 アーシェはともかく、ジーノやユキマリ達は。

 その辺りを、どう考えているか。

 時々、不安がぎるのだ。

 その気持ちを察したのか、ユキマリが心配そうにヒィへ言う。


「『何か思う所が有ったら言って』って、前に話したでしょ?」


「あ、ああ。ごめん。」


「で?何?」


 話そうかどうか、躊躇ためらうヒィ。

 しかし、ユキマリの気遣いを無下むげには出来ない。

 ヒィの目の奥に、覚悟の炎がともる。

 突き放されても良い。

 ユキマリには、誠意を尽くしてきちんと話そう。

 歩きながらヒィは、ユキマリにゴニョゴニョと耳打ちする。

 リアクションが気に成り、ドキドキしているヒィ。

 しかしユキマリは胸を張り、腰に手を当て。

 あっけらかんと返事をする。


「考え過ぎ。以上っ!」


「え?」


「だから、ヒィと同じ考えだっての。私も。」


「そ、そうか……。」


 ホッとして、目に涙を浮かべるヒィ。

 彼が、どうしてそこまで思い詰めるのかは分からない。

 元の家庭環境に、原因が有るのかも知れない。

 でも今は、そんなのは大した事では無い。

 〔仲間〕として、一緒に居るのだから。

 ユキマリは、ヒィに惹かれる理由の一端に触れた気がした。

 これはまだ、ヒィと自分だけの秘密。

 〔まだ〕、だけど。

 そう考えると、ちょっと嬉しいな……。

 大切な物をゲットした様に、にこやかなユキマリ。

 2人のやり取りを、聞こえない振りをして見逃したサフィは。

 ユキマリが少し、羨ましく思えたのだった。




 そうこうしている内に、テルドの屋敷に到着。

 リディはサフィの背中で、すやすやと目をつぶったまま。

 やっと一息付けるわね、あたしもこの子も。

 背中をチラッと見りながら、サフィは思う。

 と同時に、こんな面倒臭い事態をとっとと解消したい。

 そう考えたサフィは、主のテルドに続いて。

 ズカズカと屋敷へ上がり込む。

 ヒィとユキマリも、屋敷へと入る。

 テルドの屋敷は、外見そとみはヒィの屋敷と同規模。

 部屋も幾つか有るらしい、廊下も長く続いている。

 しかしヒィには、どうしてもせぬ部分が有った。

 内装が、人間の手にる物としか思えない出来なのだ。

 細やかでつ、栄華を誇る様な豪華さ。

 様々な動植物がられている、柱やはりには。

 金銀のはくが張られているのだろう、キラキラ光っている。

 こんな物をエルフが好むとは、到底考えられない。

『どうぞ』とお付きのエルフに案内された部屋には、大きなテーブルと幾つかの椅子。

 椅子も、エルフが座るには不向きに見える。

 ゆらゆらと前後に揺れる形式で、まるで揺りかごの動き。

 背もたれもやや傾いていて、そのまま座ると斜め上を向いてしまう。

 これでは、エルフも落ち着かないだろう。

 それを敢えて使っている、そう感じた。

 主の席に、テルドが座る。

 案の定、テルドの椅子は。

 自分の意思に反するかのごとく、ゆらゆらと揺れ出す。

 テルドに向かって右側へ、サフィとリディが。

 左側には、ヒィとユキマリが席に着く。

 揺れ心地が丁度良いのだろう、リディはスヤァッと眠ってしまった。

『らっくちーん!』と喜ぶのは、サフィ。

 ユキマリは、この形式の椅子には慣れていない様だ。

 複雑な表情で、横に在る手すりを掴みながら座っている。

 それ等を差し置いて、ヒィがテルドに話を切り出す。

 長の意思を確かめる為に。


「いきなり本題で、申し訳無いのですが。あなたは、この土地が元に戻る事を望んでいますか?」


「元に、とは?」


 テルドが返す。

 これまで、スニーもクロレも。

 ファルもモンスーコも。

 この件に付いては明言しなかった。

 だから敢えて言う、ヒィの方から。




「切り離され漂う前の状態、つまり【地上の元の場所】へです。」




「あれ?エルフのコミュって、浮かんでる島に在るんじゃないの?」


 疑問に思ったユキマリが、ヒィに尋ねる。

 〔カテゴリー〕と呼んでいた、エルフコミュの集合体とやらは。

 おっきなおっきな、空中の島で。

 そこから分かれたんじゃあ?

 ユキマリは、そう思っていたらしい。

 しかし、ヒィが言うには。


「じゃあ何で、〔地上とここを行き来していた〕んだ?銀の切り株が見つかった後に。」


「そりゃあ、そうだけど……。」


「何より。レッダロンさん達は、どうやって武闘会の会場まで来たんだ?精鋭部隊と、親交を深めていたんだろう?その辺は聞いていないのかい?」


「仲良くは成ったんだけどねえ。『住んでる所は、詳しくは話せない』とか何とかで。上手い事、濁されちゃったのよ。」


「そこだよ。向こうにも、伏せる理由が有る。その理由の1つが〔ここ〕って事さ。」


「良く分かんないなあ。」


 考え込むユキマリ。

 その辺りの説明は、長であるテルドに譲るとしよう。

 ヒィは、テルドに話を振る。


「どうですか?俺の指摘は外れていますか?」


「それは……。」


 難しい顔をするテルド。

 そこへサフィが口添えをする。

『さっさと話を進めたい』と言わんばかりに。


「レッダロンを通して話が行ってるって事は、つまりそう言う事よ。今更伏せる必要も無いでしょ?」


「確かに、そうですな。では、お話ししましょう。」


 改まって、テルドが語り出す。

 今回の件の核心を。




「こんな事になったのは、【或る宝物ほうもつを発動させたから】なのです。緊急事態につき、仕方無かったのですが……。」

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