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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
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俺は、招かれざる者なのか……?

 島に来てから、はや6日。

 その日も黙々と歩く、ヒィ達。

 ファルはこの旅路を、かったるく感じ始めている。

 それもそうだ、普段ならとっくに町へ着いて居る頃。

 人間とは、面倒な生き物なんだな。

 そう思うファルだが、一方では。

 文句1つ言わず歩き続けるヒィへ、畏怖の念も覚えていた。




 遠くに見えていた森林が、かなり大きくなって来ている。

 これで〔ユミン〕までの道のりの3分の2を、走破した事になる。

 森林の手前には、エルフの休憩所が有る。

 この辺りで良く狩りをしているのだろう、設備は万端。

 あのボロっちい小屋とは大違い、しっかりとした施設。

 風呂有りベッド有り、しかも3階建て。

 木造でこの高さは、大した物。

 感心するヒィ、『ふーん』と軽く流すユキマリ。

 地上の建物の方が、もっとしっかりしてるわ。

 ユキマリはそう考えていたが、大切な事を忘れていた。

 そう、ここは空飛ぶ土地。

 物資が限られているのだ。

 〔銀の切り株〕の周りに敷かれていた、石畳や白レンガは。

 地上とここを行き来出来る様になってようやく、地上から運び込まれた物。

 ここに元から在った物を活用したのでは無い。

 その事実を失念していた。

 如何いかに、限られた木材で高層建築を成し遂げるか。

 その難しさを、ヒィは分かっていた。

 だから素直に『凄い』と思ったのだ。

 休憩所に入る前、ヒィからその点を指摘され。

 やっと実感するユキマリ。

 そして、自分の知識内で物事を図っていた事を。

 つくづく、反省するのだった。




「な、何だっ!」

「に、人間!」

「どうしてここへ……!」


 エルフの先客が居たらしい、皆ヒィを見て驚く。

 初対面時のファルの様に、警戒心をあらわにする。

 そこを再び、スニーとクロレが割って入る。

 エルフと出会う度に、これを繰り返すのか……。

 もどかしい気持ちに成るヒィ。

 それと同時に。

 どれだけエルフ達の心に、深い傷を負わせているんだ!

 エルフと人間の中を裂く様な真似をした連中に、心の底から腹を立てていた。

 誤解が解けたらしい、警戒心を解いてくれるエルフ達。

 しかし、全ては受け入れ難いのか。

 一行がここに泊まっている間、ヒィの方へ近付こうとはしなかった。




 休憩所には、食料も有る。

 但し、ヒィだけは。

 他のエルフから牽制されている為、独りぼっちで食事を取る。

『一緒に食べようか?』と、ユキマリは言ってくれたが。

 人間に対し、馴れ馴れしい態度を取っているのを見られ。

『あいつも怪しい』と、ユキマリさえも敬遠されかねない。

 ヒィはそう心配し、丁重に断った。

 サフィと言えば、町に近付いて来たせいか。

 疲労感が酷くなっている様だ。

 リディと一緒に風呂に入ると、さっさととこに就いてしまった。

 ヒィから遠ざかっているユキマリは、スニー達と話をしている。

『エルフとの繋がりを、今の内に作って置こう』と言う算段だろう。

 武闘会の時に交流を深めた、エルフの精鋭部隊の中に。

 ユミンの民は含まれていない。

 事前に作ったコネクションは、ここでは役立たず。

 折角せっかく付いて来たのに、無能扱いされてはたまらない。

 きっと後々、役に立つ筈。

 ユキマリも獣人の端くれ、人間におくれを取りたく無い。

 そんなプライドが、心の片隅に有ったのかも知れない。

 エルフ達と話をしながら、ユキマリはふと思う。

 見掛けはサフィも、人間と同じ。

 なのに休憩所のエルフ達には、人間と認識されていない。

 どうしてだろう?

 ヒィとサフィに大した違いを感じていないユキマリには、そこが不思議だった。

 精霊的な何かが関係してるのかな?

 いいや、それなら。

 ヒィの剣に宿っている火の精霊に対して、何かしら反応を示す筈。

 うーん、分かんないなあ……。

 考えれば考える程、複雑になって行く。

 でもここでエルフ達に尋ねても、答えは返って来なさそう。

 だから、心で思うだけ。

 表情に出さず、明るく振る舞うユキマリ。

 喋り疲れたのか、気を張り過ぎたのか。

 ユキマリもいつの間にか、眠ってしまっていた。

 その身を気遣い、寝室まで運び毛布を掛けてやるスニー。

 エルフ達もまた、寝床へ入り。

 その日は、こうして終わった。




 何時間か寝た後。

 起きて朝食を取る、ヒィ達。

 先客として泊まっていたエルフ達は、既に居なかった。

 狩りに出かけたか、町へ戻ったか。

 とにかく、ヒィ達以外は誰も居ない。

 昨日素っ気ない態度を取ってしまったお詫びなのか、彼等が作り置いてくれた食事の内。

 ヒィの分は他の者と比べ、少しだけ量が多かった。

 それを有り難く頂戴している、と言う訳だ。

 彼等の複雑な心境を、ヒィも感じ取る。

 人間によってこんな現状へ追いられたと言うのに、それを解決してくれるのもまた人間。

 どう接していいか分からない、と言った所か。

 早く何とかしたいと思いながらも、おさの意向をまない訳にも行かない。

 何が正解なのか、正直ヒィにも分からなかった。

 ユミンの民が望む事、長が望む事。

 ズレているかも知れないし、一致しているかも知れない。

 ともかく、早く町へ辿り着いて。

 話を聞かないと。

 そう考えるヒィの、口に食事を運ぶ手は。

 無意識に早くなるのだった。




 食事も終わり、休憩所を出るヒィ達。

 目の前に広がる、青々と茂った森林地帯に圧倒される。

 中から、色々な種類の鳴き声が聞こえる。

 鳥の様な、獣の様な。

 そしてそれを追っているであろう、エルフ達の声も。

 ヒィやユキマリの方へ向き直り、スニーが話す。


「ここからは、猛獣が襲って来る事も考えられます。ご注意を。」


「心得ました。」


 ヒィがそう返事すると。

 キリッとした顔付きになり、スニーは先頭を歩き出す。

 その後ろにファル、リディを背負ったサフィ。

 ヒィとユキマリが続き、殿しんがりはクロレ。

 この森は、通り抜ける為に半日は掛かると言う。

 それも、エルフ基準で。

 と言う事は、下から歩いて行くと。

 どうしても、森の中で1泊しなければならなくなる。

『その辺りは、心配ご無用』と、クロレに言われたものの。

 ユキマリは気になって仕方が無い。

 それでも一行は、森の中へ入って行く。

 そこは意外にも。

 前に通り抜けた森とは、ガラリと様相が変わっていた。




 しっかりとした足取りで歩いて行く一行。

 道を形成している地面にぬかるみは無く、固くて歩き易い。

 相変わらずそれ自体は細いが、道として機能はしている様だ。

 周りには、種類の豊富な木々。

 様々な形の葉を、競う様に茂らせ重ね合わせてている。

 なので木漏れ日も多く、風もそよぎ。

 それで湿気も少ないのだろう。

 木の根っこ辺りには、小さな草が見える。

 草原に生えていた物とは、また別物らしい。

『不思議な組み合わせだな』と、ヒィは思う。

 何より。

 ここまで起伏に富んだ生態系を保持している大きさなのに、ずっと浮かび続ける土地の不思議さに。

 〔脅威〕と認めざるを得ない。

【何が】そこまでさせるのか、ヒィは知りたくなった。

 執念なのか、それとも信念なのか。

『キイーッ!』『ウケーッ!』と、奇声が飛び交う中。

 時には大きく曲がり、時には遠くを見据えて直進しながら。

 森の中を進むのだった。




 キラキラと、漏れって来る光が葉っぱに反射し。

 荘厳な雰囲気を作り出している森林。

 進む事数時間、最早ヒィにはどの方向に進んでいるか把握出来無い。

 エルフ達が頼り、その先頭を行くスニーの表情が変わる。

 少し緩んだかと思うと、一層引き締まる。

 そして、やや遠くの太い幹を指差して。

 後続を歩くサフィに言う。


「あそこで宿を借りましょう。」


 直径1メートル以上は有ろうかと思われる、太い幹に。

 太い枝を上空に張り巡らせている、少し変わった木。

 枝と枝の間に、何かが見える。

 あれは……小屋?

 ユキマリが気付く。

 人間のヒィには、遠い事に加え。

 手前の枝が邪魔をして、中々見つけられない。

 エルフは目も良いので、直ぐに分かるのだが。

 獣人のユキマリでもギリギリ。

 耳と脚が自慢のウサギ族なので、目はそれ程良く無いのだ。

 人間よりは優れている程度、これは微ウサギ系・本ウサギ系関係無しの事柄。

 焔鳥ほむらどりのリディは、既に小屋に居る者を感じている様だ。

『むにゃむにゃ』と、寝言みたいに訴え掛けている。

 それに同調する様に、ファルがスニーに言う。


「〔彼〕は、こころよく貸してくれるでしょうか……。」


「難しいかもしれないが、彼女達の為にも頼むしか無かろう。」


 サフィとリディの方を見やり、スニーは言う。

 2人の会話が気になり、ヒィがスニーへ尋ねる。


「何か、問題でも?」


「はい、実は。あの小屋の所有者は、少々偏屈へんくつ者でして。」


「偏屈、ですか?」


「〔変わり者〕と言うか、〔へそ曲がり〕と言うか。とにかく、気難しいのです。」


「他に休める所は無いのですか?」


「何人かがたび々、小屋を作ろうとしたのですが。ことごとく邪魔をされ、断念しました。どうやらこの辺りを縄張りにして、『自分が主だ』と誇示している様なのです。」


「ここの方々も、大変なのですね。」


 スニーとのやり取りでヒィは、エルフに対して少し親近感を覚えた。

 人間に近い部分も有るんだな。

 きちんと話せば、分かり合えるかも。

 そう、期待を持った傍から。

 小屋の方からダッシュして来る者が。

 勢い良くジャンプし、何かを振り下ろす。

 それはスニーを狙った攻撃らしく、彼女は何とか回避。

『ガンッ!』と、地面を叩く大きな音がし。

『ちっ』と舌打ちしたかと思うと、顔を上げ一行をキッと睨んで来る。

 そして、一言。




「ここは俺の支配下だ!俺の許可無しに入るなど、断じて許さん!とっとと出て行け!」

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