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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
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不思議道具、不思議袋

 ファルはエルフの中でも若い方で、見かけの年はヒィに近い。

 それでも数十年は生きている。

 ただ小さい頃から、老エルフの恨み節ばかり聞かされていたので。

 〔人間=悪〕と言う構図が、頭の中で出来上がっていた。

 だから、ヒィ達に襲い掛かったのだが。

 それでは何故、スニーとクロレはヒィを受け入れたのか?

 土地が分離する前から生きていた事も有る。

 銀の切り株が発見されてから、視察の為地上に降りる事が多かったのも作用しているだろう。

 しかしやはり、決定打となったのは。

 背中にっている〔不殺ころさずの剣〕と、そこから感じ取れる聖なる力。

【あれ】に近しい物と考えたのだ。

 その所有者が、私達にあだなすとは思えない。

 何せそれは自分の意思で、使い手を選ぶから。

 彼の剣とあれを引き合わせば、事態を打開出来るかも知れない。

 そんな淡い期待も有った。

 エルフ達の選考理由を、ヒィは知らない。

 知る必要は無い。

 彼は選ばれし者だから。

 少なくとも、サフィにとっては。




 これまでは、薄暗い場所が在ったので。

 十分な睡眠を取る事が出来た。

 今回の休息は、大木の根元とは言え。

 前回の物より葉っぱは生い茂っていない為、木陰が小さい。

 浮遊しているこの土地は、ずっと明るく照らされている。

 日が傾く事は無く、夜の様な暗闇も訪れない。

 それが如何いかに厄介か、ヒィとユキマリは思い知る。

 中々寝付けない。

 反対にエルフ達は、この環境下で暮らして来たので。

 寝つきが良い。

 疲労感が有る、サフィとリディは。

 気を失った様に、何時いつの間にか眠っている。

 どうしようかと考えていた時、ヒィは思い出す。

 そして荷物袋を探り、或る物を取り出すと。

 目隠しする様に装着する。

 ユキマリもそれを見て、自分の袋を探ると。

 同様の物を発見。

 ヒィの真似をして、顔に装着する。

 これで目の前は真っ暗、漸く眠る事が出来る。

 横になると、睡眠を取る2人。

 袋に入っていたのは、アイマスクの一種。

 まるでこんな事態を想定していたかの様に、ご丁寧に詰められていた。

 袋には他にも、『何故こんな物が……』と思わせる幾つかが入っていたが。

 これから必要となるのだろう、そう自分に納得させて。

 ヒィとユキマリはそれ以上、気にしない事にした。




 空中島に来てから、5日目。

 ファルが加わり、団体旅行と化して来た一行。

 大木を離れてからは、再び草原の中を。

 こちらは、青々としていた通過済みの草原と違って。

 やや枯れかかっているらしい。

 茎や葉が薄茶色っぽい。

 そしてこちらも、花を付けている物は見当たらない。

『流石におかしい』、そう思ったヒィは。

 駄目元で、クロレに尋ねてみる。


「どうしてここに生えている草は、花を咲かせないのですか?」


「それは……。」


 少し間を取った後、クロレは言う。


「【副作用】です。」


「えーっ、何それ。意味が分かんないんだけど。」


 ユキマリは納得が行かない。

 具体的に言ってよ、遠回しに言われても理解出来無いよー。

 そう主張している。

 ファルは『口の利き方に気を付けろ』と、ユキマリに抗議するが。

 スニーがユキマリに答える。


「申し訳無い。しかし今私達が話せるのは、そこまでなのです。」


「察してくれ、って事だよ。」


「ヒィまで、そんな事言うの?酷ーいっ。」


 ムスッとするユキマリ。

 どうせもう直ぐ着くんだから、話してくれたって良いじゃない。

 疑問を感じたら、はっきりさせたい性格のユキマリは。

 プクーッと頬を膨らませて、黙ってしまう。

 対してヒィは、クロレの言葉でおおよそを把握した。

 それには。

『ここで話すと、聞かれたく無いモノにも聞かれてしまう』と言う、エルフ側の裏事情も含まれていた。




 薄茶色の風景の中を、歩いて行くと。

 て小屋の様な建物に辿り着いた。

 簡素な造り、最近誰かが住んでいた気配も無い雰囲気。

 ここもエルフが移動する際は、ただの通過点。

 誰が何の為に建てたのかも、知らないらしい。

 しかしこれだけは分かる、エルフによる建築物では無い。

 何方どちらかと言えば、人間のコミュで見られる物に近い。

 一時的に風雨をしのげれば上等、そんな考えだったのだろう。

 ギギギイッと扉を開けると、中はボロボロ。

 床が抜けている所在り、壁に穴が開いている箇所も在り。

 これでは、眠るのに使えないな……。

 ファルはそう考え、小屋から出ようとする。

 すると、ヒィとユキマリがまた袋の中をあさる。

 紙の様な物を取り出すと、穴と言う穴に千切ちぎっては貼って行く。

 のりも使わず、くっ付くそれは。

 エルフにしてみれば、不思議なアイテム。

 しかも、上に乗っても破れる事が無く。

 丈夫な事この上なし。

 私達が地上から離れている間に、どれだけ文明が発達したのか。

 見当も付かない。

 そう考え、マジマジと近くで観察し。

 真似が出来ないか、考えるスニー。

 クロレも加わって、解析に躍起やっきになるが。

 結局、分からずじまい。

 モヤモヤを抱えたまま、エルフ達は就寝。

 ヒィ達も、無駄な穴が塞がった事を確認して就寝。

 全ては埋めない、換気用に。

 カラカラとした空気の為、必要な措置。

 この紙の様な物、実は真っ黒で大きな〔シールのマット〕。

 エルフ達に解析出来ないのは当然、これはサフィが持たせた物だから。

 製法や製作場所は秘密、ヒィとユキマリはサフィの指示で作業したまで。

 ヒィ達も、これが何か分かっていなかった。

『気にしない』と決めたので、ここでは追求しないだけ。

 この旅が終わったら、纏めて聞いてやろう。

 ユキマリには、そう考えている節が有るが。




 翌朝?。

 ボロい小屋を後にする、ヒィ達。

 貼り付けたシールは、そのままにしておく。

 また誰かが使える様に。

 心なしか軽くなる荷物、元々そんなに重く無かったが。

 綺麗好きのサフィは、スニーが洗浄してくれるとは言え。

 何着もの衣服を、袋に詰めていた。

 キラキラに輝く外見、赤と緑で構成されたチェック柄。

 リュックサック型のサフィの袋は、セージとの旅に持参した物と同じ。

 旅では目立つのに、愛用品なのか。

 それとも、何か特殊な機能を備えているのか。

 ヒィとユキマリの荷物袋も、いつものとは感触が違う。

 見掛けは普段使用している物と同じ、でも詰められる量が物凄い。

 それでいて、担いでも余り重量感を感じない。

 大きさは背中を覆う程度なのに、だ。

 不思議な袋だ、そう思わざるを得ない。

 この便利袋、何か名前を付けたいなあ。

 何と無くそう思ったユキマリは、前を歩くサフィに尋ねる。


「この袋ってさあ、元々私の所有物よね?」


「そうよ。今回の旅に合わせて、改良してあるけど。」


「じゃあ。自由に呼んでも、私の勝手よね?」


「好きにすれば?」


 意味の有る行動とは思えないけど。

 サフィはそう思いながら、背中のリディを気遣ってそれ以上は言わない。

 ウキウキのユキマリは、『何て名前にしようかなー、どうしよっかなー』と嬉しそう。

 隣りでその様子を見ているヒィは、何処どこと無く呆れ顔。

 よーし、決めたっ!

 担いでいる袋を前に持って来ると、ユキマリが命名する。


「不思議な袋よ、あなたは今日から〔マリル〕と呼ぶわ!良いわね!」


 すると、袋の中から。




「否。我、【ネプテス】なり。」




「しゃ、しゃべったーーー!」


 驚いて、袋を落としそうになるユキマリ。

 ヒィの背中に担がれている袋も、声を上げる。


「我、ネプテス。るお方より、この中を預かりし者。」


「ネプテスはねー、空間を司る魔物の一種なの。ギブ&テイクで、その中に住んで貰ってるのよ。」


 仕方無く、サフィが補足説明する。

しかり、然り』と、袋達は同調する。

 サフィが、もう一言付け加える。


「安心して。物体そのものに興味は無いから。下着なんかもいじらないわよ。」


「余計な情報、どうも!」


 少し怒っているユキマリ。

 改良って、これ?

 ちょっと、酷くない?

 相談も無しに、この仕打ちは……。

 プンスカ感情を表に出しているユキマリへ向け、サフィの背中から。

 リディがボソッと呟く。




「お姉ちゃんは『オッケー』って言ってたよ。むにゃむにゃ……。」




 ドキッとするユキマリ。

 リディが呟いた事もそうだけど、まさかサフィに同意するなんて。

 疑問が疑問を呼び、頭がごちゃごちゃになる。

 その一方で、サフィもドキッとしていた。

 まだよ、まだ!

 ネタ晴らしは、もっと後!

 そう、心の中で叫んでいた。

 その焦りの色に、うっすらとヒィは気付いていたが。

 サフィの事を思って、敢えて見逃すのだった。

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