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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
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むっ、刺客(しかく)かっ!

 岩場に建つ、エルフの宿泊所。

 それは簡易宿場を、更に簡素化した物に見えた。

 分かり易く言えば、〔1LDKの部屋〕だろうか。

 キッチンと居間、それに寝室。

 洗浄の力を行使出来るエルフに、風呂場は不要。

 キッチンと言っても、さばく場所と釜が有るだけで。

 ナイフ等は置いていない。

『自分が得た獲物は、自分の武器で調理しろ』と言う事か。

 こんな時、ジーノが居れば。

 適当に調理器具を作ってくれるだろうが。

 仕方無く、ヒィ達は。

 荷物に入っていた、干し肉を取り出し。

 ヒィの剣で火を付け、軽くあぶる。

 これだけでも、味は変わる。

 初めは『何でこんな物が荷物に……』と、不思議がっていたユキマリも。

 納得せざるを得ない。

 道中ここまで、動物の鳴き声は聞こえたが。

 困難な道のりの中、捕らえる余裕など無かった。

 せい々、食べられる草を引っこ抜く位。

 そうやってきっ腹を誤魔化しながら、ここまで辿り着いた。

 これからも、食糧事情は厳しそうだ。

 そう考えながら、ヒィ達は食事を取る。

 リディは弱っているせいで、干し肉は食べられそうにない。

 代わりにヒィが荷物から取り出すのは、〔リディの食事用〕と書かれた麻袋。

 その中には、米に近い穀物が入っていた。

 それにスニーが水を振り掛け、ヒィの剣の上で熱し。

 おかゆ状にして、リディの口に運ぶ。

 もごもごしながらも、リディは食べてくれた。

 ホッと一息のヒィ、心配そうなユキマリ。

 サフィはリディの頭を撫でながら、エルフ達と今後のルートについて話し合っている。

 しかし結論は、『時間短縮は無理』。

 サフィの能力が制限されている以上、今のルートを通るしか無い。

 何とももどかしい表情となるサフィ。

 サラからの反応は無い、敢えて沈黙を保っている様だ。

 火を付けた時も、小さな炎しか出なかったし。

 サラの方にも、かなりの負荷が掛かっているのだろう。

 無理は出来ない、そう思うヒィだった。




 1泊した後、宿泊所を後にする一行。

 ゴツゴツした岩場を歩く。

 所々に、目印の様な跡が在る。

 エルフは跳ねながら移動するので、着地点が決まっていて。

 そこだけ地面がげているらしい。

 道理で、道らしき物が見当たらない筈だ。

 納得しながら、ヒィとユキマリは足を進める。

 まるで荒野、草が余り生えていない。

 砂漠化していないのが不思議な位だ。

 本日も、目印は遠くの大木。

 初日に目指した物と、外観が似ている。

 対になっているのかも知れないな。

 理由は分からないが。

 きっと土地が元の姿になったら、意味が分かるのだろう。

 ヒィはそう思った。

 大木から、神聖な何かを感じ取っていたから。




 数時間歩き、周りに草が増えて来た頃。

 目標物の大木が、一層大きくなる。

 それに伴って、辺りに段々モヤがかかって来た。

 まるで、大木の周りを隠す様に。

 更に歩く事、数十分。

 やっと大木の根元まで来た。

 来たのだが……。


何奴なにやつ!」


 ヒィ達に向かってそう言い放ち、高さ10メートル程の大木の枝に立ち尽くす者。

 それはどうやら、若い男のエルフ。

 怖い者知らずで、普段からいきがっているのだろう。

 弓に矢をつがえ、ヒィの方へ矢の先を向けている。

 慌ててクロレが、間に割って入る。


「彼等は客人だ!手出し無用!」


「信じられるか!」


 言ったと同時に、矢を放つ。

 ヒィに向かって、勢い良く飛んで行く。

 その前にはクロレが居たが、彼女の身体を避ける様に軌道が曲がり。

 グルリと周り込んで、ヒィの後ろから心臓辺りを狙う。

 しかしヒィは微動だにせず、背中の剣で矢を弾き返す。

 ポトリと地面に、力無く落ちる矢。

『ちっ』と枝の方から、舌打ちの様な声が聞こえたかと思うと。

 5本纏めて弓に番え、再び矢を放つ。

 今度はヒィの頭上から1本、背中から1本。

 左右1本ずつ、最後の1本はクロレの股をくぐって正面から。

 枝に立つエルフが言う。


「これはかわせまい!フハハハ!」


 高笑いしあざける、枝上のエルフ。

 リディを背中に背負ったままのサフィが、ボソッと言う。


「甘いわね、坊や。」


 ヒィは最初の矢を弾き返した時、既に剣へ手を掛けていた。

 そしてそのまま、5本の矢が飛んで来ると。

 ヒュッ。

 空を裂く音がする。

 カカカカカンッ!

 甲高い金属音がし、5本全てが地面に落ちる。

 しかしヒィは、剣に手を掛けたまま抜いていない。

 何だ!

 何をした!

 目を丸くし、一瞬硬直する枝上のエルフ。

 その横から。


「それっ!」


「うわぁっ!」


 枝に飛び移っていたユキマリが、足を引っ掛け。

 男エルフを、上から滑り落した。

 手に弓矢を持っていたせいで、ユキマリの不意打ちに耐え切れず。

 バランスを崩して、地面に叩き付けられそうになる。

 こなくそっ!

 咄嗟とっさに弓矢を手から離し、両手両足で着地する。

『難を逃れた』と思ったその先、かがめていた顔を上げると。

 目の前に、ヒィが構えた剣先が。

 落下したエルフの眉間に、剣先を突き付けながら。

 ドスの利いた低いトーンで、ヒィは言う。


「試す様な真似は、めて貰おうか。」


「くっ!」


 それでも、屈する態度は取らない。

 心の中では降参し掛かっていたが、そのを悟られたくない。

 強がりなのか、プライドが高いのか。

 しかし、ヒィの気迫は強烈だった。

 自分だけならまだしも。

 動きの悪いサフィと、その背中に居たリディをも。

 標的にする素振りを見せていたから。

 冗談にしても、許されない範囲が有る。

 それを知らしめる為、ヒィは尚も圧を掛ける。

 抵抗する様子の男エルフに、『止めないか!』とスニーが覆い被さる。

 スニーの身体の振動で、漸く自分の身体が震えている事に気付く。

 ヒィの前に、クロレも立ち塞がり。

 直ぐに膝間づいて、謝罪の弁を述べる。


「この者、若輩につき身の丈を知らず。ご容赦を。」


 ひらに、平に。

 頭を下げるクロレ、その光景が信じられない男エルフ。

 これでもスニーとクロレは、ユミンの民の中でも凄腕なのだ。

 なのに、人間如きにこんな醜態しゅうたいを……!


「頭を下げろ!お前も!」


 覆い被さっているスニーが、男エルフの頭を押さえ付ける。

 身体を震わせながらも、意地を張って『嫌だっ!』と抵抗する男エルフ。


「やれやれ。これ位しないと、分からないらしいな。」


 そう、吐き捨てる様に言うと。

 クロレ越しに、ギロッと睨みながらも。

 剣を振り上げ、シュッと振り下ろすヒィ。

 その刀身はクロレを真っ二つにし、男エルフの顔に剣げきが達した。

『バスッ!』と言う大きな音と共に、男エルフの纏っていた衣服が弾け飛ぶ。

 丸裸になる男エルフ。

 だが。

 その目が直後に捉えた〔真実〕に、身体が固まる。

 確かに刀身はクロレの身体を通過した、なのにクロレ自体には何のダメージも無い。

 何よりもヒィは剣を振り上げたまま、自分の衣服も破れてはいない。

 奴の気迫が、自分に幻を見せたのだろう。

 男エルフはそう考えたが。

 頬からポトリと落ちた赤い液体を見て、相手の恐ろしさを思い知る。

 思わず顔を背けた時、ヒィの方へ差し出した左頬に。

 切り傷を負っていたのだ。

 最小限のダメージで、最大限の効果を。

 男エルフの心は縮み上がっていたが、身体は固まったままで。

 最早、震える事さえ許されなかった。




「済まなかった!いや、済みませんでした!」


 今度は自発的に、心の底から謝る男エルフ。

 大木の下に広がる、フサフサした草原の上で。

 鮮やかな土下座を見せる。

 この男エルフ、名を【ファル】と言う。

 町の暮らしに飽き飽きし、この大木を住処すみかとして暮らしていた。

 大木周りにモヤが立ち込めていたのも、勢力を誇示するファルの仕業。

 そこを、スニーとクロレが通過したかと思うと。

 変な連中を連れて戻って来た。

 しかもその中には、事も有ろうに人間が居るではないか。

 おどして追い返してやろう、【積年の恨み】と共に。

 しかし、呆気あっけ無く返り討ち。

 ヒィも。

 ファルがサフィとリディを標的にしなければ、ここまで強硬な態度に出なかっただろう。

 反省しきり、シュンとなっているファル。

 ヒィに対し、クロレが説明する。


「申し訳ございません。ただ、こ奴の行動にも。一定の御理解をたまります様。」


「この土地が分離した事に、関係が有るのですね?」


「はい。この件に関しては、【人間が大いに係わっている】のです。」


「そうですか……。」


 なら、俺も頑張らないとな。

 同じ人間が仕出かしたであろう、とんでもない事の尻拭いに。

 その一方で。

 リディと一括ひとくくりでは有るが、自分が狙われた事へ怒りを隠さなかったヒィに。

 少し嬉しく思う、サフィだった。




 一騒動有ったが、大木で休む事になった一行。

 ヒィの力を目の当たりにして、刺激を感じたのか。

 それともその技に、興味をかれたのか。

 ファルも、『一行に加わる』と言う。

 らん々としたファルの目付きに、嫌な予感がしながらも。

 休息を取る、ヒィ達だった。

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