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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
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空中島(じま)の旅は、結構大変で

 ようやく、大木の根元まで来た一行。

 木の幹は太く、直径3メートルは有ろうか。

 高さはざっと30メートル以上、下からは頂点が見えない。

 幹には色々な種類のつたが巻き付いていて、大木を支えている。

 所々にこけも見える、かなりの長寿なのだろう。

 張り出した根元の間に、荷物を置き寝転がるユキマリ。

 フカフカとした草で、まるでベッドに横たわっている感覚。

 だからこそ、休憩地点になっているのだろう。

 エルフの身体能力なら、ここで宿を取る事も無く。

 通過点に過ぎないのだろうが。

 ただの人間には、そうは行かない。

 いつもは元気なサフィだが、今は無理してから元気。

 背中のリディをそっと降ろし、スッと寝かせ。

 その傍で座り込むと、優しくリディの頭を撫でている。

 サフィのその姿は、女神と名乗るのに相応しいこう々しさ。

 普段のアホの子っぷりを見て来ているヒィは、そのギャップに慣れないらしい。

 そわそわして落ち着かない。

 スニーはチロリアンハットを取ると、それを右手に掴んだまま辺りへと振り回す。


「洗浄!」


 スニーがそう叫ぶと、帽子の中から霧状の水が噴き出し。

 ヒィ達を覆う。

 ふんわりと包まれたかと思うと、衣服や顔に付いていた汚れなどが綺麗に落ちた。

 帽子をかぶり直し、スニーが言う。


「私に出来るのは、これ位ですから。」


「助かります。」


 ヒィは頭を下げ、感謝の意を表する。

 クロレもベレー帽を取り、ゴソゴソと中を探ると。

 種の様な物を取り出し、『どうぞ』と1粒ずつ皆に配る。

 アーモンドに似た形のそれは、クロレ曰く〔非常食〕らしい。

 勘繰りながら口に入れ、カリッとんでみるユキマリ。

 カリカリカリ、ゴックン。

 お世辞にも美味しいとは言えないが、数分も経たない内にお腹が一杯。

 疲れも短時間で取れて行く。

『凄ーい!』と驚くユキマリ。

 ヒィも、これの有用さに感心する。

 サフィは粒を何とかすり潰し、リディの口に含ませる。

 寝惚ねぼまなこのリディも、口をモゴモゴさせ何とか食べる。

 すると、顔が若干ほころぶ。

 サフィの背中で眠っていた様に見えて、リディも疲弊していたらしい。

 それを見届けて、サフィも口に頬張る。

何時いつ食べても慣れないわねー』と言いながらも、ゴクッと飲み込む。

 状況が落ち着いた所で、ヒィがサフィへ尋ねる。


「話せる範囲で良い、どう言う事か教えてくれ。」


「この子に負担を掛けちゃったものね、少し位は……。」


 チラッとエルフ達の方を見る。

 コクッと頷く、スニーとクロレ。

 許しは出た様だ。

 サフィが話し出す、この現状を。




 簡単に言うと、【或る物】の影響下に有るの。

 この土地も、今ここに居るあたし達も。

 だから体調を崩したり、特定の技が行使したり出来なくなってるのよ。

 勘の鋭いヒィなら、もう察してると思うけど。

 〔この土地が分離した訳〕とも繋がってる訳よ、それは。

 あたしはその影響をもろに受けた、それを相殺する為にこの子が背中へ乗ってくれた。

 この子はこんな成りでも、あんたが考えている以上に凄いのよ。

 今話せるのはこれ位ね、後はエルフの長に聞いて頂戴。

 もう寝るわね。

 この子を降ろして、ちょっと疲れて来てるから。




 そこまで話すと、『ふわあぁっ』と欠伸あくびして。

 サフィは眠りに就いた。

 スニーとクロレも、ゴロンと横になる。

 辺りはまだ明るいが。

 大木の長い枝に在る葉っぱの茂りで、広く木陰が出来。

 何とか寝付ける程の薄暗さとなっている。

 ヒィも横になる、その隣でユキマリがひそひそ話し掛けて来る。


『分かった?今の話で。』


『何とも言えないな。ただ……。』


 そこまで言って、ヒィは。

 アーシェの言っていた、〔魔導士の予言〕を思い出していた。

 Kが集めようとしている、世界に散らばる宝物ほうもつ

 それが干渉しているなら、或いは……。

 これはあくまで、仮定に過ぎない。

 長に聞くまで、断定は出来ないので。

 ユキマリには話さず、伏せて置いた。

 それは、ユキマリを。

 〔救世の御子〕に関する一連の出来事に、深く関わらせたく無い。

 どうなるかも知れない未来に、これ以上巻き込みたく無い。

 そんな優しさからだった。

 もっともユキマリには、大きなお世話だったが。

 この旅に付いて来た事からも分かる様に、巻き込まれ上等。

 楽観も不安視もしていない、ただ自分は知りたいだけ。

 私の気持ちをこんなに駆り立てる、この少年が。

 一体何者か、と言う事を。

 だから途中で話を止めたヒィに、不満顔。

 少し不貞腐ふてくされた振りをして、ユキマリは眠りに就く。

『もっと構って欲しい』と、アピールするかの様に。




 〔翌朝〕と言う表現が、正しいかどうか分からないが。

 ひと眠りした一行は、数時間寝た後。

 のそのそと起き、ストレッチみたいな体操をする。

 身体を少し動かして、歩ける体勢を整えると。

 再びユミンへ向け歩き出す。

 一度目を覚ましたリディは、またサフィの背中へ。

 スヤスヤとした表情のまま、夢うつつ。

 大木を離れ次に目指す、近場の目標は。

 草原を抜けた後に広がる、鬱蒼うっそうとした森林地帯。

 局地的にワッサァと茂っている、高さが凸凹のそれは。

 複数種の木々から成り立っている様に見えて、実は1種類だそうだ。

 成長の具合が、木々によって違うのも有るが。

 木々の枝が、何かの影響で変異しているのも一因らしい。

 そうエルフ達から聞かされながら、ヒィ達は森林を目指す。

 休憩を挟みながら、数時間歩き。

 やっと森林の前まで到達。

 後ろを振り返ると、一泊したあの大木が遠くに見える。

 その周りに広がる草原を見て、ヒィは気付く。

 草の中に、花を咲かせている物は1つも無かった事を。




 森林地帯への入り口手前で、一泊する事になった一行。

 森の中を歩くのは、相当体力を使うらしい。

 それに、生い茂る中で休める場所は限られ。

 しかも、寝転がれる所は皆無。

 そんなエルフ達からの進言で、ここで就寝するヒィ達。

 思ったより中々進まない旅路に、もどかしい思いのエルフ達。

 それをひしひしと感じてはいるが。

 こちらの能力が限定されているので、これ以上のスピードアップは望めない。

 心の中でエルフ達に謝りながら、この先の事に思いを巡らせるヒィだった。




 目を覚まし、進む準備を整えた一行は

 いよいよ森林の中へ、足を踏み出す。

 初めは道の様になっていたのだが、進むにつれて道とは呼べない状態へ。

 木々に天からの光が妨げられているからだろうか、地面が緩い。

 水分をたっぷりと含み、半ばぬかるみと化している。

 エルフはそれを避ける為。

 普段の移動では、木々の枝を飛び跳ねて移動するのだが。

 今回はヒィ達の案内役、共にぐじゅぐじゅの地面を歩く。

 ゆるゆるの地面は歩き慣れていないらしく、エルフ達は足を取られ滑りそうになる。

 そこをり気無くフォローするヒィ。

 悪路走破は、人間の得意とする所。

 どんな環境にも対応出来る、柔軟性を持っている。

 種族としての優位性を持たないからこそ生み出された、独特の歩き方。

 対して。

 身体能力の高さから、複雑な歩き方を捨て去って来た側からすると。

 感心する部分も有り、面倒臭く感じる部分も有り。

 それはユキマリも同じだった。

 こんな地面では、足を踏ん張るのも一苦労。

 高くジャンプしようとしても、ズルッと滑ってしまう。

 森に入る前から、木々の枝に飛び移っているのが正解。

 その点では、エルフ達と考えは一致していた。

 人間って、不便な種族なのね。

 そう感じていたに違いない。

 まあ、サフィにとっては。

 その人間臭さこそ、尊くも有ったのだが。




 想定よりも時間は掛かったが、何とか森林地帯を抜けた。

 そこからは再び、草原が続く。

 と思いきや、今度は岩場ばかり。

 どれだけ起伏に富んでいるのだろう、この土地は。

 ヒィ達は、そう思わざるを得ない。

 しかしこれだけの多様性が有ったからこそ、『今までエルフ達は生き延びて来られた』とも言えるかも知れない。

 森林から出て少し岩場を進んだ先に建っている、エルフの宿泊所を目の前にして。

 エルフ達の過去の苦労を想像してみる、ヒィなのだった。

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