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『ファンタジーだから!』なんて言葉で、俺が納得すると思うか?  作者: まにぃ
3-2 戯 (たわむ) れも、ほどほどに
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うねった細い道は、まるで

 最早街道とも言えない、細々とした道。

 獣道と間違えてもおかしくは無い、それは。

 薄暗い森の中を、緩やかに蛇行しながら。

 フキの南西方向へと伸びている。

 先行するのは、この道に明るいブレア。

 その後ろにヒィ、サフィと続いて。

 一番後ろはユキマリ。

 本当はヒィと並んで歩きたかったが、幅が狭いので仕方無い。

 おまけに表面が凸凹していて、あちこちに草が生えているなど。

 普段から手入れされていない感丸出し。

 本当にこっちで合ってるの?

 ユキマリは心配になる。

 それとは対照的に、サフィは表情1つ変えずスタスタと歩く。

 こいつがこうなら、合ってるんだろうな。

 ヒィはそう思いながら、ブレアの後を歩くが。

 到着するまでブレアは、一度も後ろを振り返らなかった。




「あっ!あそこっ!」


 前方を指差すユキマリ。

 前に広がる木々の中から、光が漏れ出ている。

 それは近付くにつれ、段々まぶしくなって行き。

 目の前がひらける頃には、町中まちなか並みの明るさとなっていた。

 そこで急に立ち止まる、ブレア。

 ヒィが『どうした?』と尋ねるも、黙っている。

 構わず進もうとする、サフィとユキマリ。

 足を動かさないブレア。

 その対照的な態度を見て、サフィがブレアに言う。


「やっぱり、〔見えていない〕のね。」


「どう言う事だ?」


 不思議に思うヒィ。

 未だに振り向かないブレアを怪しみ、ユキマリが抗議の声を上げる。


「ちょっと!何してんのよ!」


 肩を震わせながら、それでもじっとうつむいているブレア。

 顔からポトリポトリと落ちる物は……涙?

『大丈夫か?』と優しく声を掛けながら、ブレアの右肩に手を添えるヒィ。

 それに思わず反応し、バッとヒィの方を振り返る。

 ブレアの顔は真っ赤で、目からツツーッと涙がしたたり落ちる。

 そして、『何で、何でよ』と繰り返しながら。

 ボロボロと涙を流し、その場にしゃがみ込んでしまう。

 手で顔を覆っているので、表情はうかがい知れない。

 でもブレアは悔しそうだった、嗚咽おえつに似た声で分かる。

 共にしゃがみ込み、ヒィがブレアに声を掛ける。


「何か思う所が有るなら、話してくれないか?友達じゃないか。」


 何とかしゃべろうとするも、上手く口が回らないブレア。

 そこへ。




「もう良いだろ?ブレア。」




 ヒィ達の後ろから聞こえた声は。

 ネロウだった。

 ブレアに代わり、彼が話す。


「寂しかったんだよ。ヒィがドンドン、遠くなる気がして。」


「えっ?」


「『置いて行かれる、離れてしまう』。そう思ってたんだよ。」


「……。」


 ヒィは言葉に詰まる。

『そんな事は無いよ』と、軽々しく口には出来ない様に感じた。

 一方で、ユキマリは。

 何と無く、ブレアの気持ちが分かる気がした。

 自分もそうだから。

 今回は同行出来るけど、待たされている間は気持ちがモヤモヤしていた。

 あこがれと恋心が混ざった、複雑な感情。

 それをこの子もいだいているんだ……。

 しかしユキマリは、ブレアに何もしてやれない。

 それはブレア自身の、心の問題。

 自分で折り合いを付けるしかないのだから。

 サフィはヒィへ、涼しい顔で告げる。


「だから言ったでしょ。『結果は変わらない』って。」


「で、でも……。」


 オロオロしながらも、どうしたら良いか悩み出すヒィ。

 それに構わず、『先に行ってるわよー』とサフィは光の先へと進む。

 すると、サフィの姿が見えなくなる。

 チラッとブレアの方を見ながらも、ユキマリもサフィに続く。

 ユキマリの姿も見えなくなった。

 ヒィはまだ悩んでいる。

 2人の傍へ近付き、しゃがみ込むネロウ。

 そして、ブレアに向かって言う。


「待っていよう。ヒィの帰る場所を守りながらさ。」


「ううっ……。」


 まだ泣き止まないブレア。

 それでもネロウは言う。


「これ以上、ヒィを困らせるなよ。そんな事、望んじゃいないだろう?」


 その言葉でブレアは、ヒィの方を見やる。

 眉間にしわを寄せ、何とかならないか打開策を見出そうとしているヒィ。

 難しい顔をして、自分の為に苦しんでいる。

 そうね、これは私の我がままだよね。

 だったら、もう……。

 やっとの思いで、涙を止めると。

 スクッと立ち上がり、ニコッと笑う。

 覗き上げるヒィ、見えたブレアの笑顔ははかなく感じた。

 ネロウも立ち上がり、ヒィの身体を起こす。

 力が抜けていたヒィの身体は、思いのほか軽かった。

『私はもう、大丈夫だから』と、ブレアは。

 ヒィの背中を、軽くトンと押す。

 困った顔が少し和らぐと、ヒィも決めた様だ。

 光の有る方向を向くと、足を踏み出す。

 そしてヒィも、光の中へと消えて行った。




 ブレアは確かに、ここまで来た事が有る。

 しかしエルフに受け入れられる事も無く、早々に追い返されていたのだ。

 だからヒィ達の視界に入っていた、開けた場所の様子は。

 ブレアには、〔ただの行き止まり〕としてしか視認出来なかった。

 そこで思い知らされる、選ばれし者との差。

 ヒィの話を聞く度に思っていた、『自分も旅がしたい』と。

 目くるめく冒険劇、その先はワクワク感しか無い。

 ヒィは自由な中に身を置いている、そう思い込んでいた。

 しかしネロウは、知っていた。

 過酷な状況に遭った時などで辛く感じた思いを、ヒィは敢えて伏せている。

 良い事ばかりでは無い、ブレアは夢を見過ぎだ。

 妄想を膨らませて、それが限界に達しようとしていた。

 だからヒィに、連れて行く様お願いした。

 それは〔自覚させる〕事よりも、〔夢を目標に変える〕方が主眼か。

 現実に引き戻した所で、旅への憧れやヒィへの微妙な思いは消え去らないだろう。

 ならばせめて、実現可能な範囲に落ち着かせる方が良い。

 ネロウのブレアに対する思いは、果たして〔恋心〕か?

 それとも、妹の様に接して来た事から生まれた〔兄心〕か?

 ただ1つ、はっきりしている事は。

 ヒィには到底敵わない、それだけ。




 ブレアはネロウに付き添われ、その場を後にする。

 ヒィの無事を願いながら。

 その頃、ヒィ達は。

 キラキラと周りが煌めく中を飛び回っている、3人の妖精を見ていた。

 しかしそれ等は、エルフでは無く……。

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