表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/1285

飛ぶ、そして、開く

 ヒィとサフィ、そしてナンベエが向かった先は。

 〔ソイレン〕の町へと、ヒィが足を踏み出した場所から。

 中央を挟んで、真反対だった。




 スッスッと、先頭のナンベエが道を曲がる。

 それに続き、2人も移動の向きを変える。

 町中は、網目の様に細い道が行きっていた。

 しかし幸いにも、全て直角に交わっていたので。

 人間でも通りにくくは無かった。

 ただやはり、住民の関心の高さか。

 目的地へと近付くにつれ、見物のドワーフ達が増えて行く。

 その人混みの中を通過する事になるので、必然と足が鈍る。

退いた退いた!』と。

 ナンベエが両手で掻き分けながら、2人を案内するが。

 窮屈極まりない。

 どさくさに紛れて、サフィの胸や尻を触ろうとする輩も居た事だろう。

 それに構っている余裕が無い位、前へ進むのが困難となって来る。

 どうする?

 ヒィは考える。

 脅すか?

 頼み込むか?

 どちらにせよ、ドワーフ達も身動きが取れないだろう。

 無理な話だ。

 地面を掘って、地中を進むか?

 それも無茶だ。

 万策尽きるヒィは、空しく肩を落とす。

『むふーっ!』と言った顔で興奮しているサフィへ、仕方無く。

 こう働きかける。


「これだけ込み合ってるんじゃあ、辿り着きようが無いぞ。日を改めて、また来よう……。」


 それを言い終わるかどうかのタイミングで。

 何故か、ゴミゴミしているドワーフ達の頭頂部が。

 段々と低くなって行く。

 ドワーフ達の身長が縮んでいるのでは無く、自分の身体が浮き上がっている事に気付いたのは。

 サフィの甲高い一声からだった。




「もう!切りが無いわ!飛んでくわよ!」




「と、飛ぶ!?」


 驚きの声を上げるナンベエ。

 彼の身体もまた、宙に浮いていた。

 同じく浮き上がっているサフィが、ヒィとナンベエの首根っこを掴み。

 ひゅるるるーーーっ!

 弧を描く様に、宙を滑空して行く。

 ナンベエの声に、天を見上げるドワーフ達。

 金色の輝きを放ちながら、絶壁の方へと消えて行く3人を見て。

 一斉にざわめき立った。

 そしてここから先へと進めない事に、大層残念がった。




 モンジェとお付き2人が、板の着地点へと辿り着いた頃。

 空から3人が降って来た。

『ぎゃああああっ!』と、悲鳴を上げるナンベエ。

『うわあーーっ!』と叫びたいのを、必死に抑えるヒィ。

 そして。

 この行為が当然であるかの様に、『ふふん』とい気になっているサフィ。

 それぞれ対照的な態度の3人が、無事到着。

 モンジェの目の前で、フワッと舞い降りる。

 静かに着地した後、ペタリと座り込むナンベエ。

 彼にとって〔宙を舞う〕とは、想像を絶した事だろう。

 もう一歩も動けない。

 それ位、脱力している。

 彼の役目も、ここまで。

 ブルブル震えているナンベエに対し、ねぎらいの言葉を掛けるモンジェ。

 慰めになって無いかも知れないが、何もしないよりはましだろう。

 そして、ヒィとサフィの方を向き直るモンジェ。

 何とも不可思議な人間達よ。

 彼等だから、【これを修繕出来た】のか……。

 そう考え、言葉を投げ掛ける。


「儂等は、余りこれを歓迎せんのじゃが。」


「でしょうね。」


 サフィが答える。

 その間に、気持ちを落ち着けたヒィ。

 改めて、土の絶壁を見る。

 そこには、綺麗に埋まった先程の板。

 斜めでは無く、ちゃんと地面と垂直になっている。

 黒く鈍い光を放っているのは相変わらず。

 ただ若干、模様の彫りの深さが鮮やかとなってる様に思える。

 初めて見た時より、新しくなっている感じ。

 気のせいだろうか?

 違う。

 確実に、板自身の時が巻き戻っている。

 核心を問わねば。

 ヒィの目線は、熱くサフィへと注がれる。

 それを『自分の美貌がそうさせたのだ』と、前向きに勘違いするサフィ。

『仕方無いわねー』と呟いた後、サフィは話し始める。


「板の真ん中に触れて見なさい。軽くで良いわよ。」


「そうすると、どうなるんだ?」


「開くだけよ。」


「どんな風にだ?」


「それは触れてからのお楽しみ。ふふっ。」


 不吉な笑い方。

 気になりながらも、モンジェ達の前とあって。

 渋々了承。

 一辺が3メートル程の、正方形の板の前に立つヒィ。

 手前に『バカッ!』と開くかも知れない、そう思って。

 モンジェを初めとする見物客は皆、後ずさりする。

 板から10メートル離れるのがやっと、それ以上は後ろがつかえている。

 押すな押すなの賑わい。

 変な期待はしとくれよ……。

 苦い顔をしながらも、何が起きても動じない覚悟を秘め。

 ヒィはそっと左手で、板の中央に触れる。

 すると。




 ギラッ!

 ピッカピカーーーーッ!




 触れた先から、縦線に沿う様に。

 再び虹色の光が漏れ出す。

 そして真ん中から、2つに板が割れ。

 スウッと左右に開いて行き、虹色に輝く面積が増えて行く。

 横幅は変わらず、つまり左右の端で金属板が何処かへ消えている。

 全開になった後、光が漸く収まって行く。

 そこから見えた景色は。


「あれは……何処だ……?」


 あちこちを旅して来たヒィでさえ。

 見た事も無い景色が、中に広がっている。

『バッ!』とサフィの方を振り返るヒィ。

 ニヤリとするサフィ。

 恐る恐る、板の有った傍まで近付くモンジェ。

 チラチラと覗き込み、うんうん頷くと。

 サフィの方を見て、ゆっくりとした口調で尋ねる。




「あれが、【神々の住まう世界】なのかい?」




「ざっんねーん。そこへ行くには、あそこからもう1ステップ必要よ。」


 右手を上に向け、人差し指を立ててクルクル回しながら。

 軽い口調でサフィが答える。

 ドワーフの長が発した単語。

 〔神々〕。

 そして自称〔女神〕の、偉そうな物言い。

 そこから導き出される答えは……?

 わなわな震えながら、ヒィがサフィに問う。


「行き来するのは、もしかして【神】なのか?」


「そうよ。何で?」


「何でって、そりゃあ……。」


 あっけらかんと答えるサフィに、困惑するヒィ。

 この世界の神と言えば。

【天上】とも【上の世界】とも称される、空高い区域に住まうと語られている。

 彼等は、地上の種族を良い方向へ導く存在。

 そう認識されている、自分達とは全く別次元のモノ。

 直接姿を現す事は、殆ど無い。

 仮に見せたとしても、それは『奇跡』として語られるのみ。

 地上への移動手段が伝えられる事は無い。

 それを、こうもあっさりと……。

 ヒィは尚も、サフィへ尋ねる。


「お前も女神なんだろう?そんな事バラしても良いのか?」


「良いのよ。こんな風になるまでほったらかしにしている【あいつ等】が悪いんだもの。」


「お前も、同じ様な手段で来たって言うのか?」


「それは内緒。ふっふーん。」


『どう?信じる気になった?』と言わんばかりのドヤ顔。

 サフィの得意気な態度とは対照的に、悩み続けているモンジェ。


「本物なのじゃな……困ったのう……。」


 噂を聞き付けた、神々を良く思わない連中が。

 大挙して押し寄せて来るかも知れない。

 そう危惧しているのだ。

 しかしサフィは、『心配要らない』と言う。


「〔あたしが認めた者〕以外は、ここを通れないから。」


「何故そう言い切れるんじゃ?」


 まだ悩み顔を崩さないモンジェに、サフィは。

 ヒィを指差しながら、ウィンクする。




「【開放】したのが〔こいつ〕だからよ。理由は、まあ……『ファンタジーな世界だから』って事にしておいて。取り敢えず、ねっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ