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二章 第一話 黄泉比良坂(よもつひらさか)と黄泉の国

 出雲に来た。


 森の中にある古びた鳥居の向こうが黄泉比良坂よもつひらさかだとスサノオは言った。地下にあると思っていたのに、どうやらこの坂を上った先に黄泉の国の入り口があるらしい。


 「俺達はここまでしか行けぬ。一度その鳥居を潜ったらお袋に会わないと戻れなくなる。慧、纏、死ぬなよ」


 「私達はここで貴方達の帰りを待ちましょう。御武運を祈ります」


 アマテラス様とスサノオに見送られて、俺と纏は鳥居を潜った。


 そして、潜った瞬間、ここはもう異世界なんだと自覚する。全て闇。うっすらと坂道が青く光るだけで、空も森も全て闇。振り返っても既に鳥居はなく、戻れないのだと嫌でも自覚させられる。


 空気はどんよりと重く、かすかに何かが腐ったような匂いがする。生き物の気配は全くない。ただ、何かが俺達を見ているのだけは理解できる。


 纏も小さく震えている。彼女の直感が何かを感知しているのだろうか…


 「慧…ここ…ヤバイよ…足が前に進まない…」


 纏の手を握り、俺は一歩一歩坂を上っていく。


 「おい。小僧。いつになったら俺を使うつもりだ?」


 天之尾羽張あめのおはばりが語りかけてきた。


 「俺を鞘から抜いて正眼で構えろ。そして、手を離せ」


 言われた通りにすると空中で浮いたまま道を示してくれる。刀身は青く輝いている。とりあえずは安全なんだろう。俺達は坂を上っていった。


 体感時間にして一時間程度だろうか、上り続けると頂上らしき所に辿り着き、そこには巨大な門があった。門は地中に向って作られている。入口には巨大な岩が置かれ、注連縄しめなわが幾重にも巻き付いていた。


 「ねぇ、慧。これ、どうやって入るの?」


 「この岩をどけないと入れないみたいだけど、これってどかしちゃマズイんじゃない?」


 


 「フフフ。その通り。その岩を動かしてはいけないよ」


 不意に頭上で声がした。


 声の主はゆっくりと俺達の前に降り立った。


 男の子か女の子か分からない、10歳前後の見た目の人物だ。平安貴族のような服装をしている。中性的な顔立ちだが、整った端正な顔立ちだ。


 「僕は月読ツクヨミ。アマテラスの弟でスサノオの兄だよ。これから母様に会いに行こうとしているキミ達にアドバイスをしたくてね」


 「ここには入れないはずじゃなかったの?」


 「いい質問だよ。纏さん。僕はね、母様に愛されているからいつでも入れるのさ」


 「どういうこと?」


 「キミ達は神話を知っているかい? 母様の哀れで不憫で涙が出るお話さ」


 「私、古典とか日本史苦手だからわかんない…」


 「たしか、古事記か日本書紀にあった火の神様を生んでイザナミが死んだ話?」


 「慧クン、正解だ。なかなか勉強しているようだね」


 「そして、その火の神様はイザナギが殺したとか」


 「そうそう。大正解」


 「でもね、それはあくまで物語の一面でしかないのさ。キミ達には真実を知ってもらいたいんだ。いや、知らなければここからは生きて出られない。この先、キミ達にとって死神のような奴が待っている。覚えておいてね、三つ目の階段の下に彼はいる。彼と話をするんだ。じゃあ僕は帰るよ。忘れないでね、三つ目の階段だよ…」


 そう言うと月読と名乗る少年は消え、岩の陰に小さな扉が現れた。


 「ねぇ、慧。意味がわかんない…欠けた槍の穂先を集めればいいんじゃなかったの?」


 「俺もわかんないよ。でも、いくしかない。とにかく三つ目だ」


 俺達はその扉を開けた。


 一つ目の階段だ。


 長い長い階段だった。岩でできた人一人がギリギリ通れる階段をしばらく降りていくと天之尾羽張あめのおはばりが赤く染まっていった。


 やがて、岩でできた扉にぶつかる。恐る恐る扉を開けて外に出るとドーム状の空間の端の岩陰に出た。右手にはあの大岩をどかしたら現れるであろう階段から降りてきた先の出口が見える。俺達が通ってきた道は月読専用なんだと理解する。そして、左手には、腐りきった巨大な蛇がいた。


 頭の数は本来は八だったのだろうが、根元から四本が腐り落ちていた。眼窩は暗く、紫色の体液が流れ続けている。八岐大蛇ヤマタノオロチだ。


 ムラクモが語りかけてきた。


 「ケイ、安心しろ。俺に最大限の神力を込めて斬り続けろ。それで勝てる。防御はカガミがいる。恐れるな」


 マジかよ。そんなんで勝てるのか?


 「俺は八岐大蛇ヤマタノオロチの神力の結晶だ。俺が入っていないオロチは恐れるに足りんよ」


 先手必勝だな。俺はありったけの神力をムラクモに込めた。刀身が3m以上に伸び、激しく輝きだす。


 オロチもそれに気づき、鎌首をもたげた。


 




 本当にあっけなく終わった。渾身の力で振り下ろしたムラクモから衝撃波が発生し、オロチを肉片一つ残さず消滅させた。三種の神器は伊達じゃないと再確認する。


 オロチの後ろに大きな階段があったが、月読の階段を探した。


 先ほどの出口の正面の岩陰に、やはり小さな扉が隠されている。


 次の階へと進んだ。


 そして、次の階も楽勝だった。


 八雷神やくさいかづちのかみという八人の神が襲いかかって来たが、纏が殴り飛ばした。同時に八人と戦って一撃も喰らわない纏に底知れぬ恐怖を感じた。あの子はただの女の子じゃない。もっと得体の知れない何かだ…なんて考えていたら睨まれた。直感恐るべし。


 そして、三つ目の階段を探し降りて行った。


 ここまで楽勝過ぎたので、正直油断していたと思う。


 次の階にいたのは、全身が真っ黒で眼だけが赤々と燃えている人型の何かだった。


 岩陰に隠れてムラクモと話をしようとした瞬間、奴はこちらに突進してきた。


 俺も纏も自動防御を展開しながら回避行動に移る。


 奴は俺ではなく纏から狙った。


 纏は奴の手刀で胸を貫かれた。


 白虎の自動防御は一瞬で蒸発し、捌こうとした纏の右腕も真っ赤な鉄にバターでもぶつけたかのようにドロリと溶けて蒸発した。


 そのままゴミでも振り払うかのように纏を壁に叩きつける。


 胸に開いた穴は真っ黒に炭化していた…


 


 「ヨワイ…ヨワスギル…キサマラ何ヲシニキタ?」


 奴が距離を取った隙に纏の元に駆け寄った。


 「慧…ごめん…見えなかった…」


 「しゃべるな。青龍を召喚するんだ。」


 「痛い…痛いよ…」


 既に召喚しているようで、傷口はゆっくりだが塞がっていく。だが、炭化した傷口からジワジワと血が滲み出ていた。出血が多すぎて助かるのかは分からない。助かってくれ…


 「ごめんね…」


 纏が泣いている。何がごめんだ。何が纏を守りたいだ。何もできやしない。俺は纏の周囲の空間を斬り取り、扉の向こうに転移させた。


 「ホウ…ムラクモヲツカウノカ」


 全身の神経を集中させる。スピードでは足元にも及ばない。うまく空間を転移しながら戦うしかない。


 「ククク…スグニハシヌナヨ?」


 奴が地面を蹴ると、もう眼前にいる。カガミの防御障壁を最大にする。次々と破られるがタイムラグができる。


 即座に空間を斬り取り死角へと回り込むが、すぐに距離を潰される。


 攻撃に転じる隙が全くない。


 このままではいつか死ぬ。


 天井の岩の中に空間を作り、そこに逃げ込んだ。


 気配を消して相手を観察する。


 「ケイ! ケイ! 聞こえるか?」


 ムラクモか。あいつ、何なんだ? オモイカネ様より早いし強い。


 「あいつは火之迦具土神ひのかぐつちだ! しかも黄泉の国の民となっていない!」


 どういうことだ?


 「火之迦具土神ひのかぐつちは死んでない! 天津神だ!」


 本来死んだはずの神が生きてたってことか?


 「そういうことだ! 神眼で見てみろ」




 火之迦具土神ひのかぐつち(上位神)


 特性 不明

 適正 天津神

 武器 不明

 防具 不明

 HP  12000

 MP   8500

 攻撃  25000

 防御  22000

 神攻   6500

 神防  14000

 回避  20000

 命中  16000

 残       0


 スキル 不明




 辛うじて数値だけは見えたがあまりの自分との差に愕然とした。


 震えが止まらない。


 怖い。


 死にたくない。


 纏、ごめん。俺、戦えない。


 心が折れた瞬間、気配を消すのを忘れた。


 「ソコカっ!」


 火之迦具土神ひのかぐつちは天井に向って手をかざすと、アマテラス様の日輪すら比較にならないようなレーザーが発射された。


 あ、俺、死んだ。


 激しい爆発の後、俺は地面に落下していた。


 もう何がなんだかわからない。


 右肩が熱いと思ったら肩口から蒸発している。


 ムラクモ、カガミ助けろ…死にたくない…


 神力をうまく操作できない。


 ムラクモもカガミも反応しない。


 「ココマデダナ」


 無様に転がる俺の頭に火之迦具土神ひのかぐつちは手をかざした。


 俺の思考は停止した。

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