序章 第四話 慧と纏
~纏~
相手はまだ来ていない。
地形を確認しなきゃ。
永遠に続くかのような青空に真っ白な石でできた大地。そして、50m程度の間隔で置かれた黒い板状の石。神気を込めて黒い石を殴ってみたけど、破壊できる気がしない。これ、邪魔だなぁ…
そんなことをしていたら相手が現れた。
銀髪の大学生くらいのおにーさんだ。ちょっとかっこいいかも知れない。
「マトイ! やばいよ!」
どしたの?タマちゃん。
「相手は戦人として覚醒してる! ムラクモとカガミが戦闘形態だ! カガミが金色、ムラクモが銀色だから本来の能力が使えるはずだ!」
どんな能力?
「カガミは遠距離と自動防御。ムラクモは間合いを無視した斬撃を放てるんだ。長期戦は非常にまずいよ」
いきなり全力でいけばいいの?
「うん。そういうこと」
おっけー。でも、一応挨拶はしないとね。
「こんにちは! 私は櫛名纏です。よろしくお願いします!」
なんか…ぽかーんとしてる。なんでだ?
まぁいいか。
私は四神を全部召喚した。相手が構えたら全力でいこう。
~慧~
相手は先に来ていた。
女の子だ。かわいい。
「ケイ…あれはまずい…」
どうしたムラクモ。
「タマが七色に輝いている。適正値が最大なんだろう」
どんな能力なの?
「接近戦に特化した能力だ。神眼で見てみろ」
言われた通りに見てみる。うん。防御がやばい。
「はぁ? 四神もいるじゃないの!」
どうしたカガミ。
「私たちは二つ神器があるわ。相手は一つ。でも、相手は四神を召喚できるのよ。四匹全て召喚できるとしたら、神器一つ分くらいの力になるわ。つまり、互角ね」
なるほど。どうしたら勝てる?
「最初から全力攻撃!」
ムラクモとカガミは口を揃えた。
「こんにちは! 私は櫛名纏です。よろしくお願いします!」
自己紹介されてしまった。ていうか…女の子に攻撃とかできる気がしない…どうしたらいいんだ…
「えーと…俺は緋山慧です。女の子と戦うのは正直ためらってる」
「あら。優しいんですね。でも、気にしないでください。私、強いです。お互いに、この力がなくても、私は空手をやっているので緋山さんに負けないと思います。」
「あ。櫛名さん、テレビで見たことあるかも。天才空手少女だったかな」
「それ、恥ずかしいから触れないでください。緋山さんが構えたら私は全力でいきます。よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げられた。かわいいなぁ。こんな子が彼女だったらいいのにな…
「ケイ、油断してると即死するぞ。あの子は強い」
ムラクモに怒られた。よし、全力で行くか!
俺がムラクモを構えると、櫛名さんは視界から消えた。
と思ったら目の前にいた。カガミが防御障壁を展開するが、金色に輝きながら炎を発する拳は容赦なく障壁をブチ破る。
即座に後ろ回し蹴りを放ってきた。防御障壁を張り直す時間がない。ムラクモで斬るしかない。ごめんよ櫛名さん。足もらうね。
何か金属のようなものを斬った。途中で刃が止まる。ムラクモに水銀のような金属がまとわりついていた。
「白虎の自動防御だ! ケイ、距離を取れ!」
バックステップで下がると白虎はムラクモからはがれた。
櫛名さんはニコニコしてる。きっとバトルジャンキーだ。手加減無用なんてレベルじゃない。手足は金色に輝きながら朱色の炎をあげている。体にはうっすらと水のような膜が張っているし、周囲を水銀の球がいくつか浮いている。
これは、オモイカネ様に唯一攻撃を当てた方法でいくしかない。
俺はムラクモを構え、櫛名さんに対して次元斬を立て続けに放った。
器用に避けていく。勘が鋭い。きっと、直感がスキルにあったからそれだろう。たまに直撃するが白虎が防御している。間髪を入れずにカガミで追撃する。さすがに避けきれないのか被弾していた。当ったところが消滅する。血とかは出ない。
消滅した穴は植物の根が生えて、即座に修復されていく。攻撃の速度を上げる。接近されたら負ける。とにかく集中砲火だ。
このまま削りきれるかと思った瞬間、櫛名さんは防御無視で突っ込んできた。
渾身の右ストレートだ。炎がうねりを上げて眼前に迫る。直撃する瞬間、俺は目の前の空間を四角に切り取り、そこに入り込んだ。
出口は櫛名さんの真後ろだ。白虎の自動防御が追いついていない。
俺は袈裟切りに櫛名さんを斬った。
「いった…最後の何?」
「ムラクモは空間を斬れるんだ。目の前の空間を斬って、櫛名さんの背後に出たんだ。」
「女の子を後ろから斬らないでよね」
そう言ってニコリと笑った。かわいい。惚れそうだ。
「止めを刺して。貴方の勝ちよ。私は神力が尽きたみたい。回復が遅いわ」
「できない…」
「え?」
「これ以上攻撃できない…」
「どうして?」
「櫛名さん…かわいいし…」
「ありがと。でも、あなたの勝ちよ。」
「アマテラス様!聞こえますか?俺はこの子を守りたい!」
「ちょっと! え? なんで?」
「俺、一目惚れしたみたいだ…」
「はぁ?」
櫛名さんは真っ赤になって下を向いてしまった。
~高天原~
「これはどうしたもんかのう」
「どうしたもこうしたもありません」
「どちらかが勝たねば神器が揃いませんからなぁ」
「ケイは何を血迷ったことを…」
「相変わらずだな姉貴」
「その声は素戔嗚?」
アマテラスは声がした方向に日輪の光を撃ち込んだ。
「いきなり攻撃するな! 相変わらず頭いかれてんのか!」
「ええい! 機織り所に獣の死体を投げ込むような弟に頭がおかしいとは言われとうないわ!」
「まぁ、聞け! 日輪の光をやめろ!」
「死ぬがよい! 黄泉の国に行くがよい!」
「天照様、落ち着いてくだされ」
オモイカネが二人の間に入った。
「な…なんの用じゃ…」
「おう。今回の戦人な、二人でいいんじゃないか?」
「三種の神器は三つ揃ってこそじゃ! 一つや二つではゼウスやオーディーンの眷属に勝てぬわ!」
「そこはよ、俺らが親父に頭を下げて秘密兵器を貸してもらおうぜ。」
「伊弉諾様の力を借りると言うのか?」
「そうだ。千年以上会ってないが、たまの親孝行も兼ねて会いに行こう」
「ふむ。まずは、ケイと纏とやらに確認じゃ。それからじゃな」
~纏~
どうしよう…
惚れたとか言われても…
先週、調子に乗って壁ドンしてきた男子はボディーブロー一撃で吐瀉物をまき散らしながら消えて行った。
男子に興味はなかった。
でも、緋山さん、私より強くて、私のこと守るって…
こんなはずじゃなかったのに、好きになっちゃった、なんて曲を最近聞いた。ありえないと思ったのに、今なら分かる気がする…
緋山さん、真っ赤になって下向いちゃった。
かわいいとこあるんだ。
そんなことを考えていたら、上空が金色に輝き、スサノオとありえないくらい綺麗な人が現れた。
「マトイ、こいつに惚れたか?」
「ちょっと! 何なの急に!」
「照れるな照れるな。ふははははははは!」
「ケイはこの娘が好きなのですか?」
綺麗な人が緋山さんに問いかけると、彼は小さく頷いた。
「よし。お前たち夫婦の契りをかわせ!」
スサノオが意味不明なことを言っている。即座に綺麗な人がレーザーを撃ち込んでいた。ナイスです。
「冗談だ。お前たち、二人で戦人となり、大和の代表として戦ってもらう。しかし、このままじゃ勝てん。そこでな」
「俺たちの親父に会いに行くぞ」
もう何が何だかわかりません。私は言われるままに頷いた。
序章は次回くらいで終わる予定です。