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入学試験

夕食を食べ終わり、時雨は雫と朔耶に学校のことを詳しく聞いていた。相変わらず卓真は睨んでくるが無視することに決めたらしい。


「終業式が終わったってことは、もう春休みなの?」


先ほど朔耶と雫は今日が終業式だったから早く終わったのだと言っていた。今の季節は春なので雫たちは三学年に上がることになる。


「そうですね、一週間と少しだけ休みです」

「意外と長いんだねぇ」

「そういえば時雨さんは学校に行ってないんですか?」


朔耶は素朴な疑問を投げかけてくる。ちなみにハルは夕飯を食べ終わってから満足げな顔で仰向けになって寝ていた。


「行ってないよぉ」

「行きたくないの?」

「う〜ん、行きたいとは思ってるんだけどねぇ…。僕の歳だと高校生からだから行けるかどうか怪しいんだよねぇ」

「私としては行っては欲しくないのですが…」


朔耶が何かをつぶやいたようだが二人には聞こえていなかった。高校からは義務教育ではなくなる。そのため中学に行っていない時雨がどこかの高校に入れるかどうかが怪しいのだ。そのことを知らない二人には時雨が何を言ってるのかが分からなかった。


「もしかして、時雨って…頭が悪いの?」

「あはは、どうかなぁ…誰かと比べたこともないし分かんないや」


学校に行っていないということは当然、テストなどを受けたこともなく時雨くらいの年齢の人がどのくらいのものなのか分からないのだ。そんな話をしているとそこに銀杏が現れた。


「やぁ皆、何やらおもしろそうな話をしているね」

「聞いてたの?銀杏さん」

「リビングで話してれば嫌でも聞こえてくるさ…。それよりもさっきの話しのことだよ」

「僕の頭が悪いかどうかって話?」

「そうそう、時雨は測ってみたいと思わない?」

「う〜ん…」


時雨としては気になるところではあるのだが、学校に通えないとなるとあまり意味のないことなのだ。大体、学校のテストは社会的にはあまり使わないものが多いため、学校に行けないのであれば測る必要性も感じていない。


「そんなに迷うほどのことかい?」

「いやぁ、測ってもいいんだけど…別に学校に行けるわけでもないしなぁ」

「…じゃあ…行けるかもしれないって行ったらどうする?」

「…」


銀杏は面白そうにそう言う。時雨は銀杏のことを真っ直ぐに見据えて、嘘をついていないか見定めていた。


「…本当に行けるの?」

「嘘はつかないさ、その高校の理事長とちょっとしたコネがあってね。ある程度の学力があるなら入学も認めてもらえると思うよ」


銀杏は嘘をついていない。時雨は銀杏の挙動からそう判断して二つ返事で返す。


「そっか、なら私の書斎にテスト用紙があるからそっちでやろうか」

「随分と用意がいいね」

「なんとなく予想はしてたからね」


銀杏はウィンクをして時雨に言う。二人は銀杏の書斎へ行くためにリビングから出ようとドアノブをひねった時に…。


「待ってください」


朔耶が後ろから引き止めた。時雨は不思議そうな顔で、銀杏はニヤニヤと笑った顔で振り向いた。朔耶は何かを決心したような面持ちで胸の前で手を握り締めている。雫は状況がつかめていないのかハルと一緒に銀杏と朔耶を交互に見ていた。


「え?朔耶どうしたの?」

「朔耶、何か用かい?」


朔耶は銀杏にそう問われると時雨の顔を見てから意を決して言った。


「私にもそのテストを受けさせてください」

「「…は?」」


困惑の声をあげたのは時雨と雫だ、銀杏はこうなることが分かっていたのか、別段どうじたようすわ見られなかった。銀杏はニコニコとし朔耶は銀杏の反応を待っている間、雫がどこかドキマキした様子で声を発した。


「…えっ!?なんで朔が受けるの!?」

「それは私も聞いておきたいね」

「それは…早く高校に進みたいからです」


理由としてはとても薄い発言だ。


「中学校はもういいのかい?友達は?」

「…」


朔耶は思いつめた顔をして顔を伏せ、そして、時雨の顔を見る。数秒間、沈黙があったが朔耶は言った。


「大丈夫です」

「後一年で高校に行けるのにかい?」

「今じゃないとダメなんです」

「…分かったよ」


結局、折れたのは銀杏のほうだった。


「まぁ、私は子供達の自主性を一番に考えているからね。朔耶に後悔がないならそれでいいよ」

「ありがとうございます」


朔耶は銀杏にお辞儀をして感謝の言葉を述べる。時雨は終始困惑していたが、雫はどこか余裕のない様子で状況を見守っていた。


「それじゃあ二人とも、私の書斎においで」

「はい、行きましょう時雨さん」

「えっ?あぁ…うん」


訳がわかっていない時雨は状況に流されることにしたらしい。時雨たち三人がリビングから出ようとすると、雫からまた、声が掛かる。


「待って!」

「…雫?」


脳内処理が追いついていない時雨は雫の方に顔を向ける。どこかデジャヴ的なものを感じていた。


「わ…私も受ける!」


…案の定である。


「うん、いいよ」

「軽っ!しかもいいのかよ!」

「今更、二人も三人も変わんないよ」

「そうゆう問題じゃないでしょ!なんか…こう…そう!学力的な問題が…」

「あぁ…それなら問題ないよ」


銀杏がそう応えた。その顔は今日一番の笑顔だった。


「この娘達をあんまり甘く見ないことだね」

「…?」


時雨は頭に疑問符を浮かべたまま試験に臨むことになってしまった。

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