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恋のライバル?

「やぁ、時雨、雫、朔耶」

「にゃあ!」

「それに春雨もお帰りなさい」


 一人で走り出した雫に追いついて孤児院まで帰った三人は、孤児院の扉を開くと玄関先に腕を組んで立っている銀杏が出迎えた。異様な銀杏の迫力に時雨もタジタジになってしまう。現在時刻は6時を回って7時に近い。


「「「た…ただいま」」」

「雫、朔耶…私が言いたいことは分かってるよね?」

「…はい」

「…」


 ばつが悪そうに俯きながら応え、朔耶が二の句を継ぐ。


「なんで連絡を入れなかったか…ってことですよね」

「分かってるようだね…君たちはまだ、中学生なんだよ。別に学校帰りに遊びに行くなとは言わないよ…。でもね、せめて連絡くらいは入れてほしかったな」

「「ごめんなさい」」

「うん、それならいいんだ。これからはちゃんと連絡をしてね」

「はい」

「は〜い」

「それじゃあ、もう少しで夕飯もできるから、着替えてリビングに集まってね」


 -軽いなぁ…もし、シノとの約束を破ってたら岩に頭をめり込まされるのに…。


「時雨また後でね」


 そんなことを時雨が考えていると、雫と朔耶は制服を着替えるために自室へと戻って行った。時雨はこのまま玄関にいても仕方が無いと思いリビングに向かおうとした。


「時雨、今日は楽しめたかい?」

「ん?…あぁそれはもう、知らないことばかりで今でもワクワクしてる始末だよ」

「それは何よりだね」


 我が子を見守るように時雨のことを銀杏が見つめ、時雨と一緒にリビングに向かう。リビングに入ると昨日と一緒の人達がソファや椅子などに座って近くの人と話し合っていた。キッチンの方からはいい匂いが漂ってくる。銀杏はもう少しでできるから待っててね…と、時雨に行ってキッチンに戻っていった。


 -夕飯ができるまでどうしようかな…。


 まさに時雨は時間を持て余していた。


 -雫と朔耶はもうすぐ戻っては来るだろうけど…ほかの人とも仲良くしておきたいんだけどなぁ…。


 時雨は初対面の人と話すのは苦手なタイプの人間だ、その人が困っていたりするのならば話は変わってくるが、基本的には人と仲良くなるのは苦手なほうだ。要するに何かしらの要因がないとその人と話がしずらいと言った感じだ。


 -う〜ん、あっちの世界じゃあシノたちが勝手に紹介してくれるから楽だったのになぁ〜。


 時雨はケイウス王国では、かなりの重役…一般の市民からしたら雲の上の存在だった。よって、シノたちが他国の人や友人を紹介してくれていたのだがここにはシノはいなく、時雨一人でなんとかしなくてはならないのだ。


 -あの時みたいにウサギでも踊らせてみようかな?でも、またあの時みたいになったら面倒だしなぁ…。


 どうしようかと考えている時雨のもとに一人の男の子が近づいてきた。なぜか、男の子は険しい顔をして腕を組んでいた。見た目は中学生ぐらいで雫たちと同年代か少し下くらいだろう。


「おい!お前!」

「…」

「おいってば!無視してんじゃねぇぞ!」


 男の子は時雨の肩を掴む、そこで時雨は初めて男の子のことを認識した。


「…あぁ、僕に用があったの?」

「他に近くに誰もいないだろうが!」


 いちいちピーピーとうるさい声を上げられ、時雨は顔をしかめながらもなんの要件なのかは聞いておくことにした。


「で?僕に何の用事?」

「お前、雫姉ちゃんと仲がいいのか?」

「いいのか…って言われても。昨日初めてあったばかりだし」

「そんなことはどうでもいいんだよ!俺は仲がいいのかどうかを聞いてるんだよ!」


 めんどくさい子供だ…時雨はそう思いながらも雫と話している時のことを思い出す。別に話しをすることを拒否されてはいないし、第一この孤児院に連れてきてくれたのは雫だ。仲が悪いわけが無いだろう。


「そうだねぇ…普通の友達並みには仲がいいんじゃないのかなぁ?」


 初対面でいきなり魔法という変なことをした人を自分の家に住まわせる程のことをしたのだから友達並みというのは微妙なところだ。


「そうか…ふぅ、よかった」


 どこか安心げな顔で男の子が胸を撫で下ろす。時雨はその行動と顔を見るとあぁ…と、なにかに納得した風に手を叩いた。


「…なるほどね」

「な、なんだよ…」

「いや、なんでもないよ…。ところで、君…名前は?」

「俺か?俺の名前は十一といち 卓真たくまだ」

「十一…流石に十一重じゅういちえとか、変なのではないけど…何か嫌だな」

「ん?なんか言ったか?」

「気にしなくていいよ」


 幸か不幸か十一の意味をまだ知らないようだ。にしても…将来苦労しそうな苗字だ。


「それで?くまさんの用はそれだけ?」

「くまさん?」

「たくま…だからくまさん」

「…そこから取る人初めて見たよ…」


 時雨の変な発想力に若干呆れながらももう用はないよ…と言ってきた。時雨はそれを聞くと周りを見渡してまだ夕飯が出来上がっていないのを確認する。卓真からの用事も終わったようだしどうしようかと悩み始めた。すると、リビングの扉が開いて雫と朔耶が制服から着替えて部屋着なのかラフな格好になって入ってきた。ハルは扉があくと同時に入ってきて時雨の頭に飛び乗った。


「二人ともお帰り。ハルも」

「ただいま…って、家の中なのに変だね」

「ただいま、時雨さん」


 雫と朔耶もハルに続いて時雨の傍にやってくる。時雨はちらりと卓真のほうを見ると。いつの間にか遠くの集団の方に混ざってしまっていた。これでは傍惚れのままで終わるだろうなぁ…と、時雨は肩をすくめ雫たちに視線を戻す。


「時雨、何してたの?」

「暇してたぁ」

「誰かとお話はしてなかったのですか?」

「さっきまでしてたけどあっち行っちゃった」

「へぇ、誰々?」

「くまさんだよ」

「くま?」

「あぁ、ごめんごめん卓真だよ卓真」


 そういうと雫は露骨に微妙な顔をして朔耶も苦笑いを浮かべていた。


「どうかしたの?」

「たっくんかぁ…」

「くまさんと何かあったの?」

「たっくん…昔はよく遊んでたんだけど、最近はなんか私ことを避けてるというか…」

「あぁ…」

「はぁ…」


 時雨はなんとなく原因が分かり卓真の小心ぷりに呆れ、朔耶も卓真の気持ちに気づいているのだろう、雫と遠くにいる卓真を見て溜息を吐いていた。唯一、雫だけがなぜだろうと、頭を悩ませていた。そこに、銀杏の声が聞こえてきた。


「皆!夕飯ができたよ!料理を運ぶの手伝ってね!」


 銀杏がキッチン越しにみんなにそう言うと、子供達は一斉に動き出して料理をテーブルに並べていく。こういう所の教育はしっかりと行き届いているようだ。


「時雨、隣いい?」

「時雨さん、いいですか?」


 料理を並び終えた雫たちが時雨の両隣の席を引いて聞いてくる。時雨は苦笑しながら二人に言う。


「僕が言うのも何だけど…家族なんだから、遠慮はいらないでしょ?」


 時雨がそういうと雫と朔耶は顔を見合わせて笑い、席に着く。時雨は不思議な心地の良さを感じながら対面の卓真を見ると…。


「…チッ」


 露骨に舌打ちをして時雨のことを睨んでいた。時雨は両手に花の状態でハゲタカにでも狙われているかのような奇妙な状態で夕飯を食べることとなった。


 追記…時雨の遠慮はいらない…っと言ったせいで雫と朔耶が悪ノリしてあーんと、やってきたせいで卓真にさらに睨まれることとなった。

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