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遭遇

投稿、遅れてしまって申し訳ありませんでした。

「あぁ…。満足した…」


 時雨はやけにツヤツヤとした顔で孤児院への帰路へとついていた。


 鎌鼬を担いでビルから飛び降りた時雨は、近場にあった廃ビルへと忍び込み、そこで鎌鼬の研究を始めた(道具などは空間魔法によって取り出した)。鎌鼬は絶え間なく叫び声をあげていたが助けは来なく…ただただ、時雨の悦楽に染まっていく笑い声が聞こえるだけだったらしい。


 実験が終わりビルの外へと鎌鼬を開放すると、


「うわぁぁぁぁん!おかあさ〜ん!」


 と、声を上げて飛んでいってしまった。時雨は別れの挨拶が出来なかったことを残念に思ったのだが、実験をさせてもらった(半ば強引に)感謝も込めて、笑顔で手を振って見送った。


 そんなことがあり、満足で心の潤いが顔にまで現れるほどに時雨はルンルンと鼻歌をしながら歩いていた。ちなみに裂かれた服などは時空魔法によって復元済みだ。


「ふんふんふん…ふんふっふっふん」


 周りの通行人からは怪しげな目を向けられているが時雨は気にしていないようだ。そんな中、時雨の背後から声がかかってきた。


「もしかして…時雨?」

「ん?その声は…雫かい?」


 時雨が振り向くとそこには雫と朔耶…そして、雫の頭の上にハルが乗っていた。二人は学校の制服を着ていて、黒を基調とした白いラインが入った上下似たようなデザインの制服だ。


「それにココとハルも…こんなところでどうしたの?」

「いや、どうしたの…って言われても」

「ここは公道ですし、会っても不思議じゃないですよ?」

「ニャァ」

「あぁ、そうだったね。忘れてたよ」


 時雨はケラケラと陽気に笑う、まだ、実験の余韻に浸っているようだ。雫と朔耶はキョトンと異様にテーションの高い時雨を見ていた。時雨は一頻ひとしきり笑ったあとに、そういえば…と、雫たちに聞いた。


「君たちなんでまだ制服なの?もう、学校は終わってるよね?」


 今は5時過ぎ…とっくに中学も高校も終わっている時間帯だ。時雨が聞くと雫と朔耶は苦笑いを浮かべると朔耶が口を開いた。


「そのぉ、実は結構前に学校は終わっていたのですが…。少しだけ遊ぶつもりでモックとかに行っていたのですが…」

「結果的に6時間近く遊んでいて…」

「こんな時間になっちゃったってことね」

「「…はい」」

「ニャー…」


 時雨は半笑いになって二人に言うと、肩を落としてしまった。そこで、時雨はふと、気になったことを聞いた。


「ん?さっき、6時間って言ってたけど、そんなに早く学校って終わるの?」


 6時間前といえば大体、12頃になる。学校が終わるにしては早すぎるのだ。二人は顔を見合わせると時雨に言った。


「今日は終業式だったから早く終わったの」

「院長に聞いていなかったのかしら?」

「あぁ、そう言う事…銀杏さんからは聞いてなかったよ」


 別に言う必要もないことだから銀杏も言わなかったのだろう。時雨としては雫たちと会っても問題は無かったので気にしないことにした。


「ところで…時雨さんも今帰りですか?」

「うん、ちょうど帰るところだよ。二人は?」

「ニャー!」

「あぁそうだった、三人だったね」


 ハルの抗議の鳴き声に行ったことを訂正すると雫がクスクスと笑って応えてくれた。


「私達も流石に帰るところだよ」

「そっか…なら、一緒に帰る?」

「うん!」


 雫が嬉しそうにそう言いいハルが尻尾を振って時雨の頭に飛びついてきた。一応朔耶の方も見てみるが、朔耶は笑顔で頷いていた。時雨は頭に乗ったハルを指で弄る。


「こらこらハル、危ないだろう?」

「にゃふっ」

「…反省の色が見られないな」

「まぁまぁ、とりあえず帰りましょう?院長さんにも怒られるかもしれないですし」

「怒られるとしても君たち二人だけどねぇ」

「うぅ…しぐれ〜」


 雫は助けを求めるように名前を呼ぶが、時雨ははっきりと笑顔で言ってあげた。


「頑張って!」

「いじわる!」

「ふふ、雫もそろそろ諦めなさいよ」

「無理!」


 銀杏のお叱りがとても嫌なのかそっぽを向いたまま歩き出してしまった。時雨と朔耶は顔を見合わせて肩をすくめると雫を追いかけて歩き出した。


「そういえば、君たちは同じ年齢だったの?」


 学校の制服のタイを見るに同じ色をしていたので同学年なのは確定だろう。そんな、時雨の素朴な疑問には朔耶が応えてくれた。


「えぇ、私も雫も14ですね。一応、私の方が4ヶ月ほど誕生日は早いので私の方が年上になりますけど」

「ふ〜ん、中二だったんだね雫」


 少しだけ前を歩いていた雫に向かってそう時雨が呟くと雫は振り返って不機嫌そうな顔で聞いてくる。


「…なんで私だけ?」

「いやぁ…だって、ねぇ」

「私に回さないでくださいよ」


 朔耶に同意を求めようとしたが回す前に拒否されてしまった。雫と朔耶の背の高さは雫がおでこ一つ分くらい朔耶よりも低く中学生ではなく小学生と言っても信じられそうなくらいだ。


「な・ん・で!私だけに言ったのかな?」

「いやさ、深い意味はないんだよ?深い意味は…」


 鬼のような形相でジリジリと詰め寄ってくるが傍から見ればじゃれ合っているだけにしか見えないだろう。実際に朔耶はニコニコしたままで仲裁に入ろうともしていなかった。


「ふぅん…ならどういうわけでそういう発想になったのかな?」

「えぇっと…」


 このままでは話が終わらないだろうと思い、一度咳払いをしたあとに腹を括って言った。


「雫の背で中学生って思うには…ちょっと背が低いかなって」

「し〜ぐ〜れ!」


 言った途端に雫が時雨のことを両手で思いっきり押し倒した。時雨は踏ん張ることもできたがそれでは雫の気が晴れないだろう思い素直に押し飛ばされることにした。だが、押し飛ばされるときに時雨の後ろにいた朔耶にも被害が及ぶ可能性があったので朔耶を抱き抱えて少しだけ後ろにジャンプするにとどめた。


「っ…と、危ないな雫…大丈夫だった?ココ」

「…あっ、はい大丈夫です…ん?」


 朔耶は時雨に抱き抱えられた状態のまま時雨の体の匂いをかいでいた。


「え〜っと、ココさ〜ん?僕、そんなに匂いますかねぇ」


 そんなに臭いのかと若干涙目になりながら朔耶を下ろして聞いた。朔耶は時雨の声にハッと、反応して「すみません」と言ったあとに詰め寄って聞いてきた。


「そういうわけではないのですが…その、時雨さん…今日、何かに会いましたか?」


 変な聞き方だ、どこかに行ったか…ではなく何かにあったかと朔耶は聞いてきた。しかも、真剣な顔で聞いてくるもので時雨も「人にならいっぱいあったけどねぇ」などと言える状態ではなく沈黙が続いてしまった。そんな沈黙を破ったのは雫の切羽詰った声だった。


「ふっ二人とも!いつまでくっついてるの!」

「にゃう!」


 雫が時雨と朔耶の間に強引に入ってきたおかげで居心地の悪い沈黙も途切れたがなぜ、そんなことを朔耶が聞いてきたかも聞けず仕舞いになってしまった。


「すいません…時雨さん、今のは忘れて下さい」

「…はいよ。で?雫さんは一人にされて寂しかったってわけですか?」

「う…そんなんじゃないもん」

「いやいやいや、さっきのは私も混ぜろって感じの入り方だったよぉ?ねぇ?ココ」

「そうですね、雫は昔っから寂しがり屋なところがありますからね」


 朔耶が口に手を当てて笑うと時雨も朔耶の真似をして笑う、雫は顔を真っ赤にして俯いてしまった。そして、急に顔を上げたかと思ったら…


「ば〜か!」


 と、言って孤児院の方へと走って帰ってしまった。ハルも頭に乗っていたが落ちてはいないようだ。時雨はやり過ぎたかと思いながらも朔耶と目を合わせて「行くか」と言って歩き出した。


 結局、なぜ朔耶があんなことを聞いたのかは分からずじまいのままだった…。

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