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迷子とお礼

ゲームセンターからは出てきた時雨は平然と歩道を進んでいく。先ほど時雨が男たちを気絶させたゲームセンターでは騒ぎが起こっているようだが、時雨は何処吹く風と言った具合に次の目的地を考えていた。


-あぁあ、せっかくゲームセンターに行ったのにあんまり遊べなかったなぁ…。まだ11時半だし、後三十分くらいどうやって時間を潰そうかなぁ…。


当初の予定では昼頃までゲームセンターで時間を潰すはずだったのだが予想外の自体が起きてしまったせいで思ったよりも時間が経っていなかったのだ。引き起こしたのは時雨でもあるのだが。そんなこんなで暇をつぶせる店を探しているのだがレストランにコンビニ、書店に服屋などこれといって今は行かなくても別に良い店ばかりだった。そんな中、少し進んだ先で小さい子が蹲って壁に寄りかかっているのが見えた。


「うぅ…ひっく。おかあさん…」


小学生の低学年ぐらいの少女が人の往来している道で嗚咽を漏らしながら泣いていた。時雨は一度周りを見渡すが、少女の近くを通る人たちは意識はするもののまるで腫れ物を扱うように歩いていた。


-…文明が発達するとこうまで人どうしの付き合い方が変わるものなのかねぇ。あぁ…でも、そうでもないかな銀杏とかはケイウス王国でも珍しいほどの善人だしなぁ、酒飲み以外はだけど…。


時雨は銀杏の酔い具合を思い出し苦笑いを浮かべて少女の近くまで移動する。浮かべていた苦笑いを笑顔に変えて少女と同じ目線で声をかけてみる。


「ねぇ君…どうかしたのかい?」

「うぐぅ…うぅ」


どうやら聞こえていないらしい、よほど母親とはぐれたのが悲しかったのだろうか。時雨はどうしたものかと悩み、とにかく少女の気を引いてから話を続けることにした。時雨は少女の肩を叩いて時雨のほうを向かせる。


「見ててね」

「?」


時雨は少女の前で右手を握り少女に見えるように前に出す。少女は時雨の行動をキョトンと首をかしげながら見ていた。時雨は握り締めた右手を左手の指で三度叩く。


「1...2...3ハイ!」


時雨はタイミングを合わせて手を開く。


「わ〜!ウサギさんだ!」


時雨が手を開くとそこには手を握るまでにはなかったはずのシルクハットを被っていてステッキを持っているピンク色の小さなウサギのぬいぐるみが手のひらに乗っていた。少女は驚きに目を見開き改めてウサギを見ると手のひらをあわせて喜び始めた。


時雨は少女の喜びように満足して次に手首のあたりを軽くトントンと叩く。するとなんとうさぎが立ち上がりお辞儀をしてからステッキを使って踊り始めた。手のひらの上の小さな小さな劇は観客の少女の手拍子に合わせて舞い踊る。


やがて、うさぎは少女に一礼をする。少女は一層大きく拍手をし、うさぎは飛び跳ねながらシルクハットの中に入ってしまった。


「これにて閉館、ご観覧ありがとうございました」


芝居がかった仕草で時雨もお辞儀をする。少女はあどけなく笑い時雨にも拍手を送る。ちょうどその時、横から時雨たちに声がかかった。


「真依!」

「お母さん!」


時雨たちのほうに向かってきた女性はどうやら少女の母親だったらしい。少女は母親のところへ走っていき抱き着く。母親は少女を優しく受け止め、少女の頭を撫でた。


「もう、どこに行ってたの?怪我とかはしてない?」

「大丈夫!あのね、あそこにいるお姉ちゃんがね一緒に遊んでてくれたの」


そう言って少女は時雨の方に向かって指をさす。時雨は軽く微笑みながら少女の母親のところまで歩き一礼してから話す。


「どうも、刻遡 時雨です」

「初めまして真依の母親の斉藤 優芽ゆめと言います。真依に付いていてくださって本当にありがとうございました」

「いいえ、ちょっと遊んでいただけなので」

「ねぇねぇ、お姉ちゃん」


真依が時雨の服を引っ張って見上げてくる。時雨は優芽との会話を一度切ってから真依の話を聞いた。


「どうしたんだい?」

「うさぎさんはどこに行ったの?」

「あぁ…うさぎはねぇ…」


あのうさぎは実のところ時雨のケイウス王国で作った手製のぬいぐるみだった。手のひらで動いていたのは単にぬいぐるみを編む時に魔法を併用し、あの様に動くように魔改造されているのだ。渡すことは別に問題はないのだが、真依に渡すことで真依にとっての弊害が作られるかもしれない。だとすれば…。


「…うさぎはね、夢の世界に帰ったんだよ」

「夢の国?」

「そう、人間には行けない夢の世界に」


時雨は誤魔化して有耶無耶にすることに決めた。


「もう、会えないの?」

「そうだね、難しいかもね…じゃあ、これを君にあげよう」


そう言って時雨は真依の頭にうさぎの被っていたシルクハットを乗せる。


「君が願えば夢の中でならうさぎに会えるかもしれないからね。会いたい時はこの帽子を握って寝てみなさい。きっと会えるから」

「分かった!ありがとうお姉ちゃん!」


真依は小さなシルクハットを握り締めて時雨にお礼を言ってくる。その光景を見ていた親はキョトンとしていたが娘が喜んでいる姿を見て今は安心した表情をしている。


「重ね重ね、ありがとうございます。なにかお礼でも出来たらいいのですが…そうだ、家でお茶でもいかがですか?」

「是非…と、言いたいところですけどこれからちょっと用事があるので…申し訳ありませんが…」

「いえ、私の方こそ無理を言ったみたいで…」

「べつに大したことはしてませんしお礼はいいですよ」

「…それでしたら…これを受け取ってください」


優芽はバックの中から一つのブレスレットを取り出して時雨に渡す。


「ブレスレットですか」

「はい、厄除けとして効果があるのですが一つ余ってしまっていて。残り物のようで申し訳ないのですが」

「いえいえ、大切にさせてもらいますよ」

「…あなたに幸運が訪れますように」


最後の言葉は時雨にではなく誰かに祈るように優芽は言った。真依は「家に来ないの?」と、言っていたが「今度機会があったらね」と、言うと納得して優芽の元に帰っていった。


「それではそろそろ行きますね。ブレスレット、ありがとうございました」

「はい、また機会があればお会いしましょう」

「またね!お姉ちゃん」


時雨は二人に手を振ってその場を去ろうとしてふと言い忘れていたことを思い出した。


「僕男だから次に会ったときはお姉ちゃんはやめてね」


そう言って時雨は路地裏に入っていく、後ろからは驚きの声が響いていたが、時雨には聞こえなかった。

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