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名無しの男

 白い王宮...その王宮の中の部屋の中心で顎に手を起きながら机に肘をついて目を瞑っている男と資料に目を通している女がいた。


 肘をついて顔を崩して座っている男は、長く青い髪を一本にまとめており、端正な顔を崩している。お兄さんというよりもお姉さんといったところだ。その対面の資料をまとめている女は女性にしては身長が高く、赤い髪を背中まで伸ばし。目つきは鋭く資料を睨むように見ている。


 この状態が続いから数時間が経とうとした時に男がふいに目を開いていった。


「飽きた」

「...はい?」


 女は手を止め呆れた顔で男の方を向き咎めるように睨む。


「はぁ...確かに戦争が集結してから暇にはなりましたが」

「いやいや、そうじゃなくて」

「?...と、言いますと?」

「ん~なんといったものかな~」


 男は椅子に寄り、上を向きながら考え込む。女の方はいつものことだと思ったのか机から立ち上がり紅茶を入れることにした。


「そうだな~好奇心が駆り立てられないってかんじかな...多分」

「...どういうことですか」


 女が顔をしかめながら紅茶を運び男に問う。


「う~ん、もう知らないことがない感じ?」

「そんな...まだ16歳なんだから、知らないことだらけでしょ」

「じゃあ証明してみようか」


 男は席を立ち上がり部屋の隅にあった白紙と羽ペンを持ってきた。


「どうやってです?」

「ん~とだなこうやって」


 羽ペンを動かし白紙に何やら書き込んでいく。


「魔法陣ですか?」

「おう!この前作ったんだ~」

「また...魔法を作った場合はちゃんと報告してくれないと私が怒られるんだけど」

「あはは!必要ないさ。こんな魔法使う奴なんていないだろうしな。戦争が終わったなら尚更な」

「...どういう魔法ですか?」


 男は羽根ペンを止め白紙には幾何学的な模様が描かれていた。本来、魔法を行使する場合には魔法陣は必要ないのだが威力の強大な魔法や効果を持続させる場合には魔方陣を使い場合が多い。すなわち、これから使う魔法は一般的な魔法よりも強いものだということだ。


「な~に...ちょっとの間、自分の知識を相手に譲渡するだけだよ。脳が負荷に耐えられるか微妙だけど...頑張って」

「えっ!ちょっと待って!」

「じゃあ始めま~す!」


 バンっ!と、書いた魔法陣の上に手を叩きつける。叩いた瞬間に黒い魔法陣が虹色に光り出し虹色の光が女の頭へと入っていく。


「うっ...ぐぅ」

「さぁ~て、せっかく紅茶入れてもらったんだし冷める前に飲むか」


 苦悶の声を上げて床にうずくまっている女を放置して椅子に座り紅茶に口をつける。床でうずくまっている女を見ながら優雅に紅茶を飲む男...傍から見たら犯罪集の漂う光景だ。


「あぁ、そうそう。効果は1分だから、それを過ぎたらおぼろげにしか思い出せなくなるから少しは覚えておいてね」

「それを...先に...言ってよ!」

「にゃはは!なるべく使えそうな知識を覚えておくことをおすすめするよ」


 男を睨みながらも頭を抱え必死に知識を脳裏に刻み込んでいく。


 それから数秒たったあと効果が切れたのか女は頭に手を当てながらも起き上がり服の埃をはらいながら男のそばへ歩いていく。男はティーカップを机に置き女のほうを向き笑顔で言う。


「楽しかったかい?」

「先に言っておきます。ごめんなさい」


 そう言った途端に女は右腕を振り上げ男の顎を打ち抜く。ドゴォン!と、いう音と共もに男がかなりの速度で空中を舞い天井に突き刺さる。

 男は数秒間、天井で足をブラブラとさせたあとにとうとう動かなくなった。


「ふぅ、おかしい人を亡くしてしまいました...」


 右手をハンカチで吹きながら最初に座っていた椅子に座り直す。


「で?何ですか、あの膨大な量の知識は。私はほとんど一緒に行動していたと思うのですが」


 天井に突き刺さったままの男に向けて言葉を発する。普通は声が聞こえるはずがないのだが男は腕を動かして頭を天井から抜き椅子に着地する。


「いやぁ~きみといるとホントに飽きないねぇ~」

「はぁ~褒め言葉ととっておきますよ。というか、質問に答えてください」

「ん?質問?」


 男のおどけた態度にとうとう額に青筋を浮かべながらも平静を装って質問を続ける。


「ですから、あの馬鹿げた量の知識の話ですよ!あなたはまだ16歳でしょう。それに何ですかあれは!大陸の正確な測量値、世界中の人口の詳細。それに私に報告をしていない新しい魔法の数々!明らかに16年では足りません!てか、肌をぷるぷるにする方法なんていらないでしょ!」

「ちゃっかり覚えてんじゃん。まぁ...一人なら大変だけどね。こうすれば話は別でしょう」


 男は指をパチン!と鳴らす。そうした瞬間に男の姿がぶれ始め男のとなりの椅子にもう一人の男が座っていた。


「...へっ!な...なな、なんですかこれは」


 男は女が動揺しているあいだにも指を鳴らし続けて一人が二人、二人が四人、四人が八人といった具合に十六人にまで増えた。十六人の男は自我があるのか一人一人自由に行動している。


「「「「何って...影分身・魔力分身・単体分裂まぁ名称は決まってないんだよね」」」」


 男の声が重なりまるでエコーがかかったかのように部屋に響き渡る。


「そう...ですか。名前についてはとりあえずいいとして、それは全て実体があるのですか?」

「あぁ、あるよ。実体も自我もあるよ。しかも記憶なども共有できる。ひとつの個人といっても差し支えないほどだね」

「...いくら万能な魔素を使っているといってもそこまでできるものですか?」

「無理だね」


 男は断言する。確かに魔素は炎を出したり氷を生み出したり空間を歪めたりもできる。だが、生命を生み出したりはできない。この男が魔力による分身ならば実体は作り出せても自我は無理だ、なにせ魔力で作り出すならば魔力を操作するしか方法はない。つまり、生み出した本人が動かすしかできず自我などありえないのだ。


「無理って...ならばどうやって」

「簡単だよ。生命エネルギーを魔素に練りこんで魔法を使うのさ」


 そう言うと、男は両手に前にだし手のひらを上に向ける。右手には薄紫色の球体。左手には薄緑色の球体。二つの塊ができた。


「これが魔法使いなら誰でも知っている魔素を練り魔力に変えた物体」


 そう言いながら、薄紫の球体を上に投げる。


「こっちが生命エネルギーを体外へと放出した物体」


 今度は薄緑の球体を上へと投げる。そうすると、先に投げた魔力の塊にぶつかり空中で融合する。


「そして今回使ったのがこの魔力と生命力を混ぜ合わせたものだよ」


 空中で融合した物体を右手でキャッチし女に見せる。手に収まった球体は真っ赤な色をしておりまるで深淵を覗くように中心は真っ暗だ。


「な...なんですかそれは」

「あのさぁ。今説明しなかったっけ?魔力と生命力の合成物だって」

「いや、それはわかりました。私が言っているのはなぜそんな大事なことを報告しないのかということです!」


 女がそう言うと男はバツが悪そうに頭を掻きながら。


「いや〜実はみんな知ってることだと思ってたんだよね〜」

「そんな...せめて編み出したときに言ってくれれば」

「あははは、これを作ったのは3歳の時だったからね言おうにも言えないさ」

「3...歳って、会ってすらいないじゃないですか!」


 少し話が突飛すぎたのか、女は見当違いなところにツッコミを入れている。


「え〜と、まぁそうだね。でも、報告しないのなんていつものことじゃん」

「だからいつも私が頭を悩ましているんじゃないですか!」

「あはは、それもそうだね」


 女は激怒し机に身を乗り出して抗議するが、男は歯牙にもかけずに笑いながらいなしている。


「...はぁ、もういいです。で?それがどう関係するのですか?」

「つまり、魔素によって実体を作り出して、生命力によって自分の意思を共有する。と言った感じかな」

「...」


 女は口をあけた状態で唖然としている。


「分かんなかった?」

「いえ、知ってはいましたけど規格外過ぎてもうどうしたらいいのやら...とりあえず一発殴ってもいいですか?」

「え!?なんでそんな発想に至るの!てか、こっち来ないで!怖いから!」


 女が机を回り込んで男に近づいていく、女の目は虚ろでハイライトがすっかり消えている。


「いえ、もうストレスの原因を消してしまおうかなぁ〜と」

「...ふむ、消す...か」


 今まで椅子の上でビクビクと震えていた男は不意に止まり、手を顎にやって考え出す。


「...ねぇ、そのストレスをどうにかしたいと思うかい?」

「は?そりゃ...そうですね」

「ストレスの原因は僕なんだよね?」


 男はニヤニヤと笑いながら女に質問していく。女は意図がわからずに怪訝そうな顔つきになったが質問に答えていく。


「えぇ、そうですね。大まかはですけど」

「ふふふ...今、僕はそれを解決する方法を考えついたよ!」

「...と、言いますと?」

「ちょっとこっち来て」

「?」


 女は手招きする男に近づいていく、男との距離が30センチにみたなくなった時に男は女の額を...トン...と突いた。男の指先が当り指を額から離すと白い魔力が女の額へと入っていった。


 ―!?これは睡眠魔法!この野郎何を考えて!


 女は男の睡眠魔法に抗おうと体に魔力を巡らせて対抗する。しかし、男の魔法の威力が強すぎ無意味に終わった。女がウトウトとまどろみ始めたとき男が声をかけた。


「心配しなくてもいいよ。次に目が覚めるときには僕のことは忘れてるから...今までごめんねスージー。一応、知識もある程度は送っておくから上に報告するなり秘匿にするなりすればいいよ。それじゃあ、バイバイ」

「ま...て」


 スージーは男に手を伸ばすが睡魔の方が強く、ぼやけた視界で男を見送るしかできないのであった。


 ―あの野郎!起きたら見てろよ...絶対に墓に埋めてやる...ちくしょう、いつもいつもあの野郎は!...いつも?...いつもってなんだ?...いや、あいつって誰だっけ?...あれ?あいつは...


 そして、スージーの意識は途切れた。男のことをすっかりと忘れた状態で...。


 ―う〜ん、記憶を消すのはやりすぎだったかなぁ〜?でも、僕のことでストレスを感じているんだったらこれが一番早いしなぁ〜。まぁいいか、とりあえず召喚の間に行こう!


 男に罪悪感はなく足取りは軽く今にもスキップをしそうな程だった。

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