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RiNDA!!  作者: 前川 蛙
1/2

† Introduction + † One : 疑って已まない娘

 

 †Introduction


 「あぁ、金くれよ、金。俺の金はどこ行ったんだよ」

 男、寺下てらした たかしは、激怒と興奮を通り越して、一人虚無感に包まれうなだれていた。

 「……」

 バーテンは、赤黒い水が入ったグラスをただ見つめてるだけで黙っていた。

 「どうしたんですか?」

 一人の女が、心配したそうな声色で呟いた。正確には、話しかけただが。

 「話しかけないでくれ、今はそんな気分ではないんだよ」

 「まぁ、まずは顔を上げて」

 無理矢理顔を掴まれて引っ張られた。乱暴な女だなあと思いながら目を合わせてみれば、綺麗じゃねぇか。

 「どうしたんですか?私もあなたも、今は無駄な時間を過ごすことに変わり無いんです。だったら、愚痴ってもいいですから、お話しませんか」

 「……あ、まぁ、いいけど」

 妻との出会いは、運が良かったのさ。




 コンコン。

 「ん、ん?ノックされてんの?」

 それはノックと呼ぶにはあまりにも小さ過ぎた音だったが、曇りガラスの奥に人影が見えたので、間違いない。

 「アオト、出てくれ」

 「はい」

 ここ、「探偵事務所RiNDA」の所長、安瀬宮あぜみや 凛蛇楼リンダろうにコキ使われた碧砥アオト みなみは、たまたまドアの前を通っただけなのにー!と悔しい顔をしながらも、仕方なく接客モードへと気持ちを切り替えた。

 「はあい、どうぞ~」

 とても申し訳なさそうにドアノブが回り、ゆっくりと開き始めた。音が出るのを気にしているのだろうか?そうだとしたらその心配は無意味だ。何にしろこのドアは、

 ギギギギィィィー!

 「ひゃっ」

 立て付けが悪いのだ。

 「このドア、ゆっくり開けると変な音が出ちゃうのよ。あれ?お母さんかお父さんは?」

 「いいえ、依頼人は、私です」

 碧砥の目の前には、自分と同じくらいの身長の少女しか突っ立っていなかった。パっと見化粧乗りが良さそうな、綺麗な顔立ちをしている。

 「え、えぇ、分かったわ。こちらへどうぞ」

 「はい」

 端的に答えて、碧砥の後ろに着いて行く。

 「ん?変なの、珍しいな女の子一人って」

 久利生くりゅうも、他の所員も不自然に思っていた。




 所員の作業デスクとは別の、仕切りがいくつか立ててあるだけでそこは客室と呼ばれる。事務所内には、そうした部屋が三つある。その端っこを使って、碧砥は依頼内容を聞いていた。

 お茶を淹れに行っている間に書かせたシートには、少女の個人情報が書かれていた。名前は四ノしのみや 美優みゆ。遠成高校の一年生十六歳と書いてある。

 「私は、『探偵事務所RiNDA』の、碧砥あおと みなみって言うわ。所内では、『アオト』って呼ばれてるわ」

 碧砥は、胸ポケットから取り出した名刺を丁寧に目の前の少女に手渡した。

 「それで、ご用件は?」

 「実は、お母さんが、殺されちゃって」

 「……え!?」

 「それで、調べてほし――」

 「ちょっと待って、それって、もう解決されてるの?」

 「はい、先日、警察の方がきて、色々調べていたんですけど」

 「ですけど?」

 「何か、妙なんです」

 美優は、長い髪を掻き上げながら言った。

 「何が妙なの?」

 「この事件の犯人は、行きずりの強盗犯だっていう風になっているんですけど、私が思うに犯人は、……」

 「えぇ!?」




 「なんだってばよアオト、そんなに驚いて」

 話が終わってからも頭を悩ませていた碧砥に、久利生は呆れた顔して聞いた。

 「それがね、犯人が、お父さんだと思うらしいのよ」

 「あぁ?なんでィ」

 「眠っていたから何とも言えないけど、疑わしいことがあるみたいなの」

 「んだよ」

 久利生には見当が付かず、今度は不思議そうな顔をして聞く。

 「実はお父さんは、再婚相手で、再婚後すぐに遺産の相続権を自分と母に分割させたって」

 「あぁ?怪しさバリバリバリーじゃねぇか!」

 「そうなの、だからこれは、入念に調査するしかないわね」

 「犯人父さんで決まりだろ」

 「まだ断定は出来ないでしょうが!」

 「んで?明日からは何をするんだ?」

 「事件現場に行って、証拠を集めるわ」

 「警察に全部取られてるだろうがな、リンダに報告してきなよ」

 「はぁ、うん」

 この探偵事務所は特別だと思う。所員同士がとても仲良しだし、みんながみんな、あだ名で呼び合っているからチームワークも良い。所長なのにリンダっていうあだ名、でしかも呼び捨て。無理な緊張感も無く気軽に仕事が出来るんだろう。

 「リンダ、このシート、さっきの女の子の依頼をまとめたものよ」

 「ほう、えぇ!?」

 「やっぱり驚くと思った。だから明日は三人で行ったら?」

 「そうだな、こんなにとんちんかんなこと言われたら証拠収集にも苦労するだろう」

 「誰にしますk――」

 「この中でー!明日仕事内やついない!?」

 ……。

 突然そんなこと言われて反応する訳がないだろう。手を上げたら仕事を与えられるのだから。

 急に安瀬宮は一人一人のデスクを回り始めた。するとザザザザ!っと急いで皆が仕事にかぶりついた。この中に嘘の演技をしているものがいる。それを見分けるのが安瀬宮の仕事だ。

 「全くズルイぜー。おい久利生、お前はどうせ暇だよな」

 「……しょうがねぇなぁもぉ」

 「一人ゲットン♪。さて次は~」

 「あぁるえぇ~?一人、いねぇなぁぁ~」

 「ん?誰だ」

 「ミサキやけん」

 「ミサキじゃぁぁああああ!!」

 「そんな~!久利生さん酷いい~!」

 久利生に見つけられた佐倉さくら 美咲みさきは、事務所の奥でコーヒーを沸かしている。……フリをしていたのだ。

 「よし、明日は、俺とくりゅうとミサキで行くぞ」

 「おー!」

 「えぇ~」

 佐倉だけは残念そうだった。


 †One


 結局翌日、安瀬宮と久利生と佐倉の三人で現場に来た。

 都会の住宅街。とはいえ、どこもかしこも綺麗な訳ではない。そこは普通の住宅街だった。一軒家がずらりと並び、アパートがぽつぽつといった適当な説明の按配。当事者四ノ宮家にはその表現があまりにも当てはまる家で、一軒家の並びに面して建ち、家の後ろ側にはアパートがあった。どの家も小奇麗だ。

 午前十時だというのに、あまり人影が見えない。住宅街では当たり前か。

 くして、機密捜査が始まる。

 「じゃ、美優ちゃん今日はよろしくお願いします」

 「お願いします」

 「で、お父さんは今日はどうしたの?」

 「部活で学校に行ってます」

 「へぇ~、何部ぅ?」

 「テニス部の顧問なんです」

 「練習はぁ、何時から何時まで?」

 時々口を挟んでくるチャラ……いや、久利生が五月蝿いが、いつもリンダが質問係をしている。

 「朝十時から、昼の二時までです」

 「今はもう十時過ぎだから、丁度いいな。二時までには終わるぞ」 

 「終わるかなぁ」

 「頑張れよそこは」

 「うぃ」

 早速家に入り、事件の詳細を書類と照らし合わせて聞くことにした。




 殺されたのは、美優の母である、四ノ宮 莉子、四十五歳。夫に、四ノ宮 たかし、四十二歳を持つ。夫の孝と、娘である美優は血は繋がっていなかった。どちらも、配偶者との金銭トラブルから離婚をしていて、バツイチ夫婦だったのだ。思春期の再婚もあってか、美優はあまり孝になついてはいなかった。

 「一昨日おととい、夜の七時かなぁ……に目を覚めると、居間で母が倒れていたんです」

 「その日はぁ昼寝でもしてたの?」

 「はい。私はつい最近、風邪を引いてしまって。飲んでいる風邪薬の副作用かもしれません」

 「えぇ?そうかぁ?オレは飲んでもそんな眠くなんないけどな」

 「あの、くりゅう先輩知らないんですか~?そういうのは、個人差があるんですよ。効きやすい人と効きずらい人の」

 「いや、それはあるかもしんねぇけどさ、もしかしたらそういうタイプじゃねぇかもしんねぇじゃん」

 久利生の人相の悪さは、口調の悪さから来てるのかもしれない。さっきから「じゃねぇ」「その日はぁ」とか、小さい文字で伸びてるように聴こえる。特に「しんねぇじゃん」とか友達の前で話す時しか言わんだろ普通。それと似ているのか、佐倉はおっとり妹系女子みたく、「ですか~」と伸びているように聴こえる。結果二人共どっちも伸びている。まぁ頭が悪そうな喋り方しているのが久利生 桔梗ききょう、彼だ。

 「そうか、そういう見解も出来るな」

 「ん?何がだよぉ」

 「美優さん、その飲んでいる風邪薬の詳細が載っている紙、持ってない?」

 「あぁ、ありますよ」

 美優は勝手に椅子を立ち探しに行ってくれた。見せて欲しいと頼んでいないのに、判断力が高いのかな。

 「これのことですよね」

 美優が持ってきた紙には、薬の名前と効果、形、色、服用時の副作用などがまとめられていた。その紙をよくよく見てみると。

 「やっぱり書いていないな」

 「何がぁ」

 「副作用の欄に『眠気』って書いて無いぞ」

 「え!マヂでぇ!」

 「でも、そうやって考えたらまたおかしくないか?薬は自分で用意してるの?」

 「いえ、起きた時にはもうお父さんが用意してくれてました」

 「成程な、合点がいく」

 「リンダ先輩、やっぱり犯人はお父さんっていう風に見ていくんですか?」

 「その方が、自然な気がするんだよね」

 「そうですか~……」

 佐倉はまだ不安そうだった。それもおかしくない。事件性が見えてくるのはこれからだ。

 「で、起きてから?」

 「あ、はい。起きて母の遺体を見つけた瞬間、お父さんが帰ってきて、警察と救急隊の方を呼びました」

 「そうか。それは何とも言えないな。証言があるのはそこからなんだ、つまりその前の出来事を掘り下げることは中々難しいな」

 「私から言えることは、それくらいで……」

 数秒の沈黙を終えて、佐倉が何かに気付いたように、

 「ねぇ、お父さんはさ~、結婚してすぐに遺産の相続権を分割したって言ってたけど~、入籍してからどれくらい経った時なの?」

 「確か、二週間程です」

 「え、二週間だって!?」

 「は、はい」

 「そりゃぁひでぇ話だぜ、まるで遺産目的みてぇだ」

 「おい、言葉を慎め」

 「お、おぅ」

 「までも確かに、それは否定しがたい事実だな」

 「そうですよね。だから、警察の適当な調べだけで終わらせてほしくないんです!」

 警察は適当にやってる訳ではないと思うが、確かにこうした事件が沢山起こっていると、少し手が抜かれるってうか、そうした現象は人間にあってしょうがないとは思う。が、人が死んだ事件ということでは、重大な事件には何ら変わりは無いのだ。こうなってしまった現状に、しっかり向いてやるのが自分の仕事だ。まだ犯人は父と決まってはないが、行ける所まで行ってやる。

 「これだけでは、何とも言えません。暫定的には、犯人は強盗犯になってしまっているんだよ」

 「……はい」

 美優はとても残念窮ざんねんきわまり無い顔だった。

 「これから聞き込み調査と証拠収集に取り掛かる」

 「おっけぃ」

 「まずは家の中を探ってみよう、聞き込みは二時過ぎからだ」




 証拠を探るといったって、警察の捜査の後に探偵に依頼が来た場合は、余程の限りじゃなければ、事件と関係がありそうな物品はほぼ拝借されている。だから安瀬宮達は、事件のトリックから解いていくことにした。

 「警察の人達は、こういう事件だって説明してくれた?」

 飽くまでも仮説だが、一応聞いておこうでないか。

 「玄関の鍵が開いていて、普通に入られたって言ってました」

 「え?」

 そんな簡単なものか?

 「やっぱりそれは、鍵が開いていたからだよね?」

 「んなモン決まってんだろぉ」

 背中を縦に揺らしながら笑顔を向けてくる久利生は無視しよう。

 「それって、誰の証言?」

 「お父さんです」

 「なにィ!?そらまた怪しいじゃん」

 何だよコイツ。

 「そうか、仮に監視カメラがあったとしても、鍵を自分の背中で隠してしまえば、施錠しているのかしていないのかも分からないな」

 「監視カメラ?」

 美優が妙に反応した。

 「どうしたの?」

 「私の隣の家、庭に監視カメラが着いていたはずでしたけど」

 「なにィ!?そらまたやるじゃん」

 「右隣の家です」

 「後で聞きましょうね~」

 家中の窓を見てみたが、特に目についたものは見つからなかった。全ての窓がサッシ窓で、クレセント錠付きだった。しかも一階の、家の裏口の窓を別として、全ての窓に「防犯用シリンダー補助錠」がついていたため、日頃からかなりの防犯意識が強かったと思われた。が、そんな家が鍵を閉め忘れるなんてことはあるのだろうか?

 「ねぇ、美優さん。何で、この窓だけ補助錠がついてないの?」

 「そこは、物置の目の前なので、道具を出し入れする際に頻繁に開け閉めしていたんですよ」

 「一番危なっかしいところにつけないなんて、何だか滑稽だなぁ」

 「滑稽って意味知ってるんだ」

 「んなぁ!」

 他に何か見つからないかと、遺体があった場所の居間へと戻ってきた。

 「殺された莉子さんは、ここにうつぶせになって倒れていたと」

 久利生が同じ体勢で寝転がった。

 「ん?おぃなんだよコレはよ」

 久利生がフローリングの板の隙間を指差して言った。

 そこをよく見てみると、茶色い何かが挟まっている。

 「それは、コーヒーです。警察の方は、殺された時に落ちたものだと断定したそうです」

 「ふうん、どう考えても俺には断定は出来ないけどな」

 「何でですか?」

 「まぁまぁ」

 自分的には色々と見えてきたので、ここはあえて勿体振もったいぶった。みんながみんな、いぶかしげな顔を向けてきた。待っとれ。

 「莉子さんは、いつも決まった時間にコーヒーを飲んでいたの?」

 「はい」

 「コーヒーには、何か入れたりする?」

 「お母さんは、砂糖を入れてました」

 「市販の、グラニュー糖みたいの?」

 「そうです」

 「家族みんな知ってる?」

 「はい」

 「どこにあるの?」

 「ここです」

 美優は三人をキッチンの方へと招いた。IHコンロの下の引き出しに、ケースがズラリと並んでいた。勿論砂糖の他にも色々な調味料が入っていた。

 「どんな風に取るの?」

 「取る?」

 「下の方からすくうとか、上の方からちょっととか」

 とっても大雑把な説明だったが、感覚が伝われば。

 「あ、そういうことですか。上からちょこっとすくいます」

 美優は実演してみせようとしたが。

 「あぁぁ~、待って、動かさないで」

 頑張って落ち着いて美優を静止させた。本当は突発的に叫んですぐにでもやめさせたかったが、それでは証拠が動いてしまうかもしれなかったから、とても焦った。

 「何でィ」

 「その上の部分を調べる」

 「まっさかぁ」

 久利生は面白がって眉をひそめた。飽くまでもここは殺人現場だったので先程からの軽率な行動は謹んで欲しいのだが。

 安瀬宮は、ポーチの中から小指程度のビンを取り出し、少量持ち帰ることにした。

 「次は家の外周といこうか」

 サクサク進む。



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