4ー6
劇的なステージの幕が閉じた所で、副会長さんと飛鳥さんの番が終わり、また新たな所で待ち合わせる事に成ったのだが、今日の文化祭でのスタート地点とでも言っていい場所である、生徒会室らしい。
何故?と頭に浮かび上がるが、時は止まってはくれないので、体育館から出た僕は生徒会室に向かった。
2人は2人でまだパトロールの仕事が残っているそうなので、一緒に戻る事は無く、僕1人での移動。
1人で移動しているからか、さっきみたいに大量の視線を集める事は無くなったが、それでもまだある程度の視線は此方に来る。
ただまぁ、残念なまでに慣れてしまった。と言うのが、1番ダメなのだろう。
芸能人の気持ちが分かり過ぎる程に分かると言うのに、それは得てして良い方向では無い。
何時も寄り、かなり時間経過が遅く感じる中、生徒会室前に着いたのに、何故か扉を開ける気乗りがしない。と言うか、凄く開けたくない雰囲気が漂っている。
異様、少なくとも僕の目には異様以外の何物でも無いのだが、何でだろ?開けないって言う選択肢が存在しないや。
割とゲーム感覚じゃないと疲れてやって行けない、と思い始めている僕を他所に、思考と身体は別々に動き、そして生徒会室の扉を開いた。
そこには体のラインを見せる様に、少し小さくも感じる黒のスーツに身を包み、体を動かすだけで目を釘付けにしてしまう九条先生。
何時もの様にカジュアルな格好と言うのだろうか?薄く淡い色の服に、膝下ぐらいまで隠すふんわりとしたスカート、最後にカーディガンを身に纏いながら本来の年齢など感じさせない程に、美しく、木漏れ日の中を歩く木々の妖精と言うイメージを与える母さん。
ここまではまだ良かった。そう思った時には、最早時既に遅し、と言うやつだろう。
紫色の和服に生える様に咲いた薄い黄緑色の花々、ふっくらと膨らんだ唇に濡れる、そんな表現が似合いそうな肌、日本人形なのに現代人らしたさを醸し出した、あの日と何ら変わらない女将さん、田村 八雲さんがそこに居た。
僕は果たして良いのか、悪いのかは分からないがその3人に目を奪われた。
3人共、ジャンルも違えば雰囲気も違う、スタイルや僕への感じも少しづつ違うと言うのに、僕はその3人を見て綺麗や美しくと、そんな在り来たりな言葉が頭に沢山浮かんで来た。全て違うのに、行き着く先は全て同じ。それは不思議で、でもそれすらも無意味な程に、目の前の3人は凄く優美だった。
ただ、同時に3人の目線から飛ぶ火花、母さんの余裕そうな笑み、九条先生の笑みの奥にある頑張ろうと言う何か、女将さんのゆったりとした笑みに隠された何らかの思い、それもまた同時に感じ取れてしまう。
あれ?何かさっきも同じ様な光景を見たな。奇しくもセバスチャンさん達の時でも同じ様な感じだったからか、案外この状況に関してはすっと理解出来た。
取り敢えず、理解出来た所で「えっと、何で女将さんがここに居るんですか?」そう在り来たりと言うか、何の面白味の無い事を聞いた。
そこで漸く皆は僕の存在に気付いた様で、母さんは相も変わらずと言うか、母親の特権と言う奴だろう。「恋ちゃん、やっとママの所に来てくれたのね」そう言いながら、母さんは真っ正面から抱きついて来た。甘い匂い、優しく包み込んでくれる様な感触、何時もだけど離れたくない。って思っちゃうな。
ただ視界は母さんに抱きつかれたせいで見えなく成り、音だけで周りの状況が伝わって来る。
「恋くん!」そう僕を呼ぶ九条先生の声、そして続け様に「って、お義母さん!な、何をしているのですか!?」そう驚きながらも発せられた声、それと母さんと九条先生の色濃く成った火花の音が寄り一層に、僕の耳には幻聴の様に聞き取れた。あと九条先生の母さんの発音、何か違わない?
だが、母さんからすればそう、それは「えっ?ただの親子のスキンシップですよ、先生」らしい。
いや、絶対違うよ。だから「それが小学生ぐらいの子だったら、それでも良いですが、でも恋くんは高校生なんですよ、お義母さん!」九条先生の言葉は正論です。でも、やっぱり何か違う様な?
そんな事寄り、流石に年の功、母さんには絶対敵わない。「あと、私は恋ちゃんのママだけど、先生にお義母さんって呼ばれる筋合いはありませんよ」と、完全なまでに九条先生を切り離す。
でも九条先生も引けないのか「うっ、ですが、私は恋くんの事をしっかり愛しています!だから、私が義お母さんの事をお義母さんと読んでも、問題ありません!」始めて見る九条先生の焦った声、そして結構カオスなのが音だけでも分かるが、取り敢えず「母さん、一応今は離して」とお願いして、少し腑に落ちなさそうな顔をした母さんと目が合い「じゃあ、また後でママに抱き締めさせてね」と言われてしまった。
此処を拒否してしまうと、またさっきの現場へと逆戻りしてしまいそうなので、「腕だったら良いよ」とだけ言い、安堵の笑みを浮かべて居る九条先生を見ながら、同じだが「それで、何で女将さんが居るんですか?」と聞いた。
笑みを浮かべて居た女将さんは「それは、私がこの学校の卒業生だからです」別に不思議でもない解答だけど、地味にへぇーと思いながら「そうなんですか」と返した。
そして何故か先程の笑みとは違い、乙女の様な急に頬を染め、体を捩らせながらサラッと、僕に取っての爆弾を脳裏に蘇えさせた。
「あの約束を果たしてもらおうかと…………それに…………私の全てを」その言葉と共に爆発する様に駆け巡る脳内、浮かび上がる映像、身体中を逆流するかの様に巡る血流、身を熱くさせ、僕に沈黙を与えた。
苦笑、心の中でそんな笑い声が響く中、残酷にも母さんは切り込む。
「ねぇ、恋ちゃん。あの約束ってなぁに?ママにも教えて欲しいなぁ?」教えて欲しいが、凄く怖いのは僕だけでしょうか?
まるで冷戦下の中の様に、更に火花だけが激しく飛び散る。正直言って、どう反応すべきか悩みだけが僕の感情を支配する。
言えない、いや。言ったら色々と危ない。絶対にそう言う目をしている母さんを直視出来ず、固まっていると急激に、だがゆっくりと事態は変わり出した。
「子供と言う物は、多かれ少なかれ隠し事をします。だから、それを無理に聞いてはダメですよ。お母様、それに秘密めいた恋さんも素敵じゃないですか」そう僕を助けてくれた女将さん、そして母さんも「まぁ、私も恋ちゃんの嫌がる事をしたくは無いので、無理には聞きません」と言ってくれたので、この場は何とか収まった。
ただし、よく考えて欲しい。一体、この状況を作り出したのは一体誰だったのか?
………何だろう、裏を考えるのは辞めよう。疲れて来るから、それに助けてくれたんだから、悪いとは思ってくれてるだろうし。
酷く疲れた精神が身体中にのし掛かって来るが、顔に出す事無く、デートを始めた。
腕にはさっき言っていた通り、母さんが抱きつき、柔らかく何とも言えない感触を感じさせ、良い笑顔をして居る。そして九条先生はそんな母さんを見ながらも、抱きつくとまでは行かないが手を族に言う、恋人握りで繋ぎ、絡み合いながら女性独特の肌の柔らかさを感じる。
何故かって言うと可笑しな感じだが、何故か女将さんは一歩後ろを歩く様にして、気立てをしてくれている様に僕の後ろを歩いて居た。
何だか、過去に色々とやっているから、こう言った大和撫子、日本の女性らしい行動がとても新鮮に見えて来る。
そんな事を思って居た矢先「ねぇ、恋ちゃん。もっと体をくっ付けて来てよ♡じゃないとママ、寂しくて死んでしまいますよぉ♡」何時も寄りも対抗意識があるのか、甘やかす様に、甘える様に言って来る母さん。その姿はまるで大事に大事に育てられたお姫様の様で、とても煌びやかで可愛いらしい。
ただ、両手が塞がって居る以上、何か出来る事は無く、何をしようかな?と悩んで居ると、更に対抗意識が強いであろう九条先生の「恋くん、今度は先生と2人きっりで大人のデートをしましょうねぇ♡大丈夫、お金とか予約とかは、先生に任せておいて」と言った発言に寄り、またカオスな状況になってしまった。
しかも、後ろで何、余裕の笑みを浮かべながら楽しく見ているんですか!女将さん……あ、女将さんは流石に読心術使えないか。何だろ、読心術が使えるのが当たり前だって思って居るって、何かもう毒されているのかな。
少し、ガチで自分の事を見つめ直して居ると、やっぱり2人の会話は激しく、互いに論破し合う様な感じに成ってしまってる。
「私だって生徒との恋愛はご法度だって分かって居ます!でも、今この仕事を辞めてしまったら、恋くんとの繋がりを否定してしまうんです!だから、私は今のままで絶対に恋くんを愛してみます!」九条先生の嘆きにも似た悲鳴、でも母さんは母さんだ。
「だから、先生に任せるとか、先生だからとかじゃなくて、私が恋ちゃんを愛してあげて、私だけが恋ちゃんと付き合うの!」九条先生の話を根本から否定した言葉、いつからだろうか?こう言った僕の周りに何か、良くない事が多く成ったのは。
いつからだろうか?僕が、僕を中心とした口論を嫌いに成ったのは。
言葉を失い、頭に刺さる様に、ぶつけられる様に来る衝撃、痛い?何かぎ痛い。
空中を歩く様なふわふわとした感覚に揺らされ、突き落とされた。
ああ、視界が……歪む……
そう思った瞬間、世界は瞬きをした。
「恋さん」僕の名前を呼ぶ、まだ余裕の笑みの女将さん、って!「何で笑ってるんですかぁ!」突然、意図する事無く出た言葉。
「「恋ちゃん(くん)大丈夫?」」さっきまで口論してたのに、凄く白い目みたいなので見ないで。
もう疲れたよ。僕は心の中で深く、意識しているのに無意識の様に「ははは、はぁ」乾いた笑み混じりの溜め息を吐いてしまった。
これは女将さんが1番大人って事なのかな?と思っちゃう作者です。




