0ー6
記憶全てがほぼ鮮明なまでに呼び覚こされ、僕に当時の風景を思い出させた。
僕が3歳、いや明日で漸く3歳だから今はまだ2歳の頃の僕で、この年の頃だったら確か「れんだよ」と、平仮名で名前を言って居たと思う。
因みに今は夕食を食べ終わってからお風呂に入って、TVをお姉ちゃんと少しお腹を大きくさせた、確か妊娠をしているお母さんの隣、お父さんの膝の上に乗りながら見てる。その為、髪はまだ少し濡れているし、この時はメガネを掛けて居なかったから何か少し違う。
それにしても、何故にお父さんの膝の上なのか、とツッコミたくなるが、それはまぁ単純な話だ。この結構大きな一軒家の家だが、TVを置ける程にある程度大きな部屋は1つしか無く、その上で明らかに狙っただろ!と言う程までにソファーには3人が座れる程度しかない。
まぁそんな事は今は良いんだ。別に子供だったから恥ずかしくも何ともない。でもねぇ「おとうさん、あついからやめて」僕(メガネ?)にはあまり似合わないだろう、そんな少し暴力的な言葉で繋げてしまった。非はペタペタ引っ付いてくるお父さんにあるだろうし、お父さんだけが悪いよね。
それはそれとして、まだしっかりとは発音出来て無いから、名前以外も大抵は平仮名何だよね。
それにしてもお父さんは僕の事を、いや違うか。もともとお父さんの場合は親バカに近い状態で、しかも対象者である僕と昔の呼び方ならお姉ちゃん、そしてこの時はまだ生まれて居なくて、お母さんの中に居る夏海なんだろうけど、2人はお父さんの事を無視するし、お母さんもだから、結果的に僕に集中したんだよね。それと意外とまともな理由だったら、長男だからかな?
今は子供に甘い親バカ止りだから、まだ良いお父さんって感じに思えるよ。あと数日でこれがかなり高い超ウルトラ的な、何か凄い親バカになるんだよね。まぁそれはそれで嬉し、この状態でも嬉しいけど。素直には恥ずかしいから言えない。
あ?あ!あ、何か色んな『あ』が出たけど、語る方のお父さんに夢中になり過ぎて現実のお父さんの事無視してた。
と言うか、泣きそうにならないでよ!「だって、愛しの我が息子がお父さんの事を無視するんだよ!何時かは親離れが来るとは思って居たが、まさかこれほどまでにも早く、そして辛い物と『ガシガシ ガシガシ』辛い物と『ガシガシ ガシガシ 』つら『ガシガシ ガシガシ』つ『ガシガシ』黙ります!だからもう蹴らないで下さい!」お母さんとお姉ちゃんの攻撃に寄って、魔王成るお父さんは倒れた。
そして僕に癒しを求めて来た。どうしますか?昔懐かしRPG風に。
「れ~ん~みんなが虐めるよぉ~」いや、息子にそんな事言っても反応やら何やらに困るだけだから、辞めてほしいいんだけど。と言うか熱い、はぁ。心の中でそんな溜め息が子供ながらに出た僕であった。
その瞬間、何かは分からないでも何と無くだけど、ううん。何と無くだからこそ不思議な感じで僕は何かを感じた。それは胸がチクッと針が刺さる様な感覚に似て居て、でも何処か違う。どんなとは正確には答えられないだろう、だけど何処かしら深く気持ち良くて、何かに溺れる。そんな感覚が最後に体を襲うのは分かる。
一瞬で消えた、気のせいの様なその感覚を不思議と思ってはいたものの、何か詰まる訳では無く何も無いので忘れた?子供が大事な事以外を忘れるのと同じ感覚で、僕はもう一度お父さんを経由させながらTVの方に首を向けて、TVに集中した。
TVの画面には某グルメ番組が映って居て、巨大な体をした人が美味しそうな一般?レストランの料理を、これまたマンネリしたかの様な食べ方をする番組。因みに言うと流石に日付けはまぁ誕生日の前の日だから分かるんだけど、曜日は分からないからどの番組かは分からないや。
なんせ思い出して探そうと思ったら、番組の名前も曜日も分からないし、出てる人も顔しか分からない状態でかなり曖昧な状態になってた。さすが子供の頃だよね。
で、TVに戻るとして、この『うまい~』もとい『美味い/旨い』を何故、あのテンションでしかもあの文字変えて面白く、美味しそうに見えるのか。全く分からない、と言うべきでは無い…か。と言うか、この人はタレント?芸人?ダンサー?の何れに当てはまるんだろ?
まぁ今となっては「ああ、言ってるから美味しいのかな?」って何にでも言うから、まぁTVだから全部美味しいからしょうがないんだろうけど、やっぱりマンネリ化すると威厳が格段に下がるのが、こう言った一発芸的な物の1番の問題点。
これもまたしょうがない事何だろうけど、この人=美味しいになるんだから、この巨大な人も嬉しいのかな?よくは分からないし、芸能界に詳しくも無いからどうでもいいんだけど。
そう言えば、今は何処行っちゃったんだろ?あのダンスが踊れる相方さん。それと関係無い人だけどグルメリポーターの『まるで……や~』の人。
いやー、今は全く見ないから蒸発もとい、実質上のTVからの引退なのかなって思う時が、時たまなあるのが妙にリアルな信憑性を生むよね。
それにしてもこのTVに出てるハンバーグは本当に美味しそうだなー。ハンバーグの断面から出て来る溢れんばかりの肉汁、そしてしっかりと中まで焼けているわけでは無く、レアーだけど生過ぎず凄く美味しそう。
……………………あ、ヨダレが口から零れ、拭かなきゃ。
僕はヨダレを口から拭くと、目線がTVから逸れたが、また直ぐに戻しTVを見始めた。
それから1時間ちょっとが経って、9時に成り掛けた頃、僕はウトウトとしている様なフワフワとしている様な、何かそんな意識不明の中、僕はゆっくりと倒れたい?何かそれっぽい感じで歩きながら洗面台の所に来た。
「ね~む~」そんな言葉1つ1つが伸び、フニャフニャな声を出していると、後ろから誰かが脇に手を入れてしっかり歯が磨ける様に持ち上げてくれた。すると子供の頃に映っていた僕の世界は変わり、丁度今の僕くらいの高さになったのが分かる。
「さぁ恋、歯磨きは1人で出来る?」とお母さんのそんな優しくて暖かくて、これだけでも子守唄の様に眠気を誘う声が聞こえた。僕は「ん、ん~」と7割ぐらいが眠りに着いて来たせいか、『はい』か『いいえ』、『Yes』か『NO』かの返事に無意識になっていた。
因みに言うと、多分『はい/Yes』だったら『ん、ん~/ん~』で、『いいえ/NO』なら『んん~/んん』だと思う。
まぁ実際、子供の頃過ぎて覚えていない。ある種の脳が勝手に記憶を改竄、要らぬ想像が加わって出来ているんだろうけど。正直な話、過去の事を100%で覚えるのも、ましてや15%程度で覚えるのもあやふやだからね。
人間の脳は記憶を覚える為には作られてはいなく、脳と言うものは学習する為に作られている。
その工程の中に記憶すると言う行動があるだけであり、それ以上は絶対にあり得ない。
だが絶対記憶能力、瞬間記憶能力と言った能力を持った人達はまた別な話だろう。和えて言うならば、人間は消化する事に寄って進化していき、そして消化する事に寄って退化して行く。
覚え学習する度に人は進化するが、その分要らないデータを消さなければならない。だから人間は完璧を望み、不完全を望む、それが人間。
哲学だけで語ればこう成るだろうけど、トラウマと言う物は一生忘れないんだろう。
忘れたくても、関わりたく無くても記憶が、脳がその記憶を刻み込む。
さぁて、それじゃあ歯を磨いたし、眠ろう。
もう此処で寝て良いよね?お母さんが居るし、布団まで連れてってくれるだろうから。
「おや…すみ……なさーい」僕はフワフワとした意識と感覚を解き放ち、遠退いていく意識を感じながら眠りに着いた。
光が満ち溢れている。闇などは無く、ただ暖かく僕を包み込んでくれる。そんな楽園から僕は暗闇の中へと一瞬にして突き落とされた。
アダムとイブは禁断の実を食べてしまったばっかりに、楽園から追放され、そして暗闇とも光とも近い場所に落とされ、自由や快楽、堕ちていく生き物へとなり果てた。
『夢』と分かって居ても、怖い。とても言葉に表すには辛く、難しい夢。
誰が今を、誰がこんな世界を、誰が僕を望んだの?そんな問い掛けに答える者は無く、暗闇に吸い込まれ、消えた。
貴方は誰ですか?
貴方は私ですか?
貴方は神ですか?
貴方は真実を知っても尚、抗える事の無い混沌を歩み続けられますか?
暗闇の中、不意に聞こえたそんな言葉は耳に入り、スルリと抜け流れ、暗闇の先へと僕を辿り着かせた。
光の世界、闇があれば必ず光があり、光があれば必ず闇がある。
それが定着された世界は幾億もあるだろうが、この世界。少なくとも今現在で僕が見ている世界にその様な俗物的な言葉は無い。ただ僕が居て、それ以外には何も無い。
影をも壊す強き光、ただ漠然と佇む事を許されるのすら決まった人のみで、それ以外は灰の様に、塵の様に燃え上がった。
影すらも無くなった世界で、僕は見てしまった。いや、やっと見れた。
一瞬にして光は無くなり、僕の周りには優しい春の日差しと風が舞い、何処からか声が胸の中、頭の中に木霊した。
「愛し愛され、愛を忘れるな」昔の僕でも、もちろん今の僕でもあまり意味が分からないけど、何か重要な言葉の様な気がする。それだけは繊細なまでに記憶されていて、深くも浅い、そんな感じな言葉何だけど、それ以外は物の見事に途切れて居て曖昧な状況になって居た。
一瞬、たった一瞬でガラスが割れる様にこの世界は壊れ、体に要らぬ重さを残し消えた。
脱力された?そんな体に走る感覚、ゆさゆさと頭を揺らされながら「恋、朝だぞ」と言う声が聞こえ、僕にとっての『それ』は『いつも』なら憂鬱でしかなく、あまり関わりたくも反応をしたくも無い筈だが、今日は少し違う。
何時も以上に早く頭の回路は周り、その力を使いながら直ぐに目を開き、そして目の前に居るお父さんのお腹目掛けて、足を曲げたバネを活かした蹴りを思いっ切り放つ。僕の足がお父さんのお腹、鳩尾に入るのと同時に「ぐっほ!」と空気を無理矢理出した様な声を上げたが、まぁしょうがない。しょうがなくは無いんだろうがしょうがない。
まだ頭を撫でていただけならば良いのだろうが、流石に顔があれだろ、近い。具体的には数cm?だったからねぇ、この反応が「何をするんだ恋!せっかく僕の、いや僕と恋による家族のスキンシップを「おとーさん、いくらスキンシップでもあのきょりであのはんのう、ならいまのはんのーにはどっやって殺ればいいのか♡」」
あれ、どうしたんだろ?お父さんから大量に冷汗が出て居るや。因みに滝を連想させるくらいに。「れっ、恋!い、いや恋さん!そ、その何で、あそこだけがしっかりと漢字に「なんでだろうね?おとーさん「はっ、はい!」」お父さんが僕に敗北した瞬間であった。
それから、僕はゆっくりと体を起こしてパジャマのまま居間に降りて行った。まぁまだ子供だからフツー何だけど、何と無くドラマの印象からか居間に居る時点で、もう着替えてるのが当たり前になっているな。そんな事はどうでも良いとして、降りて来て居間に入るための扉を見た。そしてどう反応するべきなのか、とても悩まされてます。
当たり障りの無い普通の扉、昨日まではそう『だった』はずだが今、扉には白い紙が貼られていた。白い紙には『誕生日の準備中なので恋ちゃんは入っちゃダメよ。 可愛い可愛い恋ちゃんが大好きなママより』と。まぁ、その誕生日の事も『大好き』って書いてくれてるのは嬉しいんだけど、でもこうも堂々と宣言されると反応に困るし、その恥ずかしい。
あ、因みに今日は僕の誕生日ですよ。だから今日は何時もよりも早く目が覚め、体も起きました。そのせいかお腹も空いていますが、これでは入れませんしどうしましょ?何か口調が違うのはツッコミ無しで。
で、これが中学生の僕ならば悩みと言う程の悩みではありませんが、今の僕。あと数時間で3歳になる僕からすればかなり大事な悩みです。子供=食事、遊び、食事、眠ると大体相場は決まっています。それなのに食事を食べれないとなると、ある意味では死活問題になりえますよ!それより、何で僕はこんな口調なんだ!自分自身でツッコミをしちゃったじゃないか!
凄く無駄なまでに難しく考えていると、お父さんがお腹の下を抑えながらやって来た。
「恋、何時の間にこんな攻撃を覚えたんだ。いや子供と言う者は親が思うよりも早く成長していく。なら、恋も何時か彼女を連れて来た……………………………………………………………………………なら、その彼女を抹殺しなければなぁ。親である僕が子を、恋を絶対に守らなければならない。ならば、彼女など『いらない』と思ってくれる程に愛そう。先ずは今日は恋の誕生日だ。うん、あれをして、これをこうすれば」何かとてつもない事を、半分ぐらいトリップしながら言っているよ。これは神が僕に与えた試練?それとも無視しろと申しているのかな?
ーー取り敢えずツッコミを入れなさいーー
はい、分かりました?……って!貴方は誰ですか?もしくは神の声?まぁいっか。取り敢えずツッコミね。ツッコミ、ツッコミっと。
「なに、ぶっちょ、ぶっそうなこといったとおもったら、わけのわかりゃないこといってるの」噛んだ。と言うか舌足らずと言う奴だ。流石今日3歳になる僕。いやまぁ今となっては良い思い出兼の恥ずかしい思い出だね。
って、あれ?何でお父さんは細かく震えているの?何か怖いんだけど。たった数秒前の僕にはお父さんの様子すら理解が出来て居なかった基、分かりたくもない。
細かく震えるお父さんはゆっくりと、でも何故か早く近づいて来て、一瞬と言う言葉が似合う。そんな速度で僕の事を倒れながら抱き締めて来て「れ、恋。ぼ、僕の理性を壊すつもりかい?」うん、そんな事だって思っていたよ。いや、ちゃんとは分からなかったけど、何となくは分かったよ。
今の僕なら思えただろうけど、3歳に成ったばっかりの僕に分かる訳無いじゃん。ほら、無口に成ってるし。
「そんなこんなで、僕と恋は朝食を食べ終えて着替えをして、今は第二のリビング的居間であるダイニングキッチンに来ています。因みに言えば僕の実家は旧家の家庭なのでこの家は違いますが、実家の方はかなりの和風ぶりです「おとーさん、だれにむかっていってるの?「誰?そんなの皆に決まっているじゃないか、恋」」いやいや、そんな何当たり前の事聞いてるのみたいに言われても、分からないからねフツーは。
で、まぁ実際説明の手間が省けたので良しとしよう。うん、そうでもしなきゃ色々と持たないし……ねっ。うん、そうだ!その筈だ。
で、何がある訳では無くこの時間は過ぎて行った。この時までが僕の1番にして、最高の時間だった事すら知る余地も無く。
「よぉーし、それじゃあ恋、目を瞑ってくれるかな?」何かお父さんがそう言うと何か卑猥な感じがするのは、何と言うかアレだよね。うん、アレ何だ。詳しくは言えないけどアレだから。まぁ、子供の僕からしたら何か思い付く訳でも無く、ゆっくりと目を閉じてお父さんに手を握ってもらい、お父さんに身を委ねながら連れて行ってもらった。
もちろん、この時お父さんの息が少し上がっていたのは言うまでも無い。
閉じた眼には光が届く訳も無く、ただゆっくりと手を引かれながら僕は暗闇の中を進んだ。扉が開かれる様な音が聞こえ、その音が聞こえた方に引かれながら部屋に入ったのかな?そう思うと「恋ちゃん、目を開けても良いわよ」とお母さんの優しい声、安心出来る声が聞こえて来た。
僕はその声を聞き、目を開いたが見えて来たのは閉じている時とほぼ変わりがない暗闇だった。いや、多少と言えば多少だけど変わっている所も確かにある。そう、それはケーキのロウソクに灯された優しい火の光だ。
子供なら誰しもが少し大人な気分に成れる、そんな暖かいの光。勿論僕も例外では無く、僕は魅力された。ただ見つめているだけども飽きないと感じてしまう。
だが、それは何時までも眺めていることは許されない。「さぁ恋」お父さんのその言葉と共に僕は息を吸い込み、肺に貯め吐き出した。
口から出た空気に寄りロウソクの灯りは消え去る。その瞬間、僕に一瞬の激痛を、痛みを恐怖を、そして開かれたパンドラの箱を残した。正直、子供の僕でよく一瞬とは言え耐えられたと思える程の激しい痛み、いや。痛みと分からない程の一瞬だったけど『死にたい』と願ってしまう程の痛み。
そして次にこの暗闇が消え、光が付いた瞬間から僕の世界は、僕の未来は、大好きな人達が壊れ始めた。
誤字脱字などがありましたご報告をお願いします。そして次回も同じ様に月曜日に投稿します。