3ー11
天音姉さんに散々からまれながらも、1つの店をやるのが決まりなのか直ぐ様、海斗と夏海に僕から引き剥がされ、次の人が誰かを知ったのは数秒と経たずしての事だった。
自然と僕の横に移動するその人だが、余りにも良過ぎるプロモーションは目に焼け付けられ、多少だが目のやり場に困らせる。
そんな事も知らずに優しく、まるで割れ物でも扱う様に丁寧に愛おしく、だが独占する様に手を握り、そして1つの手を絡ませながら、僕の腕を柔らかく重量感のあるそれで挟み、もう1つの腕で完全に抱き着く。
良い匂い、落ち着く匂いって言うのかな?多分、母さんにも抱く事だろうけど、秋葉姉さんにも感じる。
久しぶりに甘えたいな、と思ってしまう僕が居るが、それを口に出す事はしない。
してしまった時、それは多分僕に取ってあまり良い瞬間では無いだろうから。
そう心の中で思いつつ、出来るだけ考えて居た事を消し、何時もの様に「で、秋葉姉さんは何処に行きたいの?」と聞いた。自分の顔まで正確には分から無いが、それでも何時も通りだった気がする。
秋葉姉さんも普通に「じゃあ、輪投げしたいな」そう言ってくれたし。
その言葉を聞き、確か一度通った場所に有ったのを覚えて居るので、結構奥に進んだが「こっちだから、戻ろっか」まぁ、いっか。
頭の中にある継ぎ接ぎだらけの地図を頼りにするのはあまり好ましくは無いが、僕の記憶が正しければあるはずだし、確かでは無いが輪投げ屋に向かって歩居て行く。
だが、少し歩き出した瞬間、常に横に居た秋葉姉さんが一瞬視界から消え、そして耳元である言葉を呟いた。それは今の僕には優しくもあり、無情な言葉にも聞こえた。
「時には甘えるのも正しい答えかもね、闇雲にやるのも良いかもだけど、休む事も必要だし」やっぱり、舞川の女は凄いな。
でも、焦っても休んでも、甘えても、見つからない答えって言う物も存在するんだよ。
世界は二面性しか持た無いから、『美しい』って言うのは同時に『醜く』もあり、『正義』って言うのは何時も反対には『正義』が居る。
例えそれがどれだけ歪んで様が、真っ直ぐだろうが、結局は自分の中にある感性の価値観だけは、自分でしか決められないから。
そして改めて自分の事を理解すれば、まぁ何と無くでも正しい答えが出て来るだろう。
夏の夜、熱帯夜と言うのには早過ぎる気もするが、今の僕にはこの暑さでさえ、そう感じられた。
輪投げ屋、良くも悪くもイメージ通りに看板を掲げ、子供から大人まで豊かな年齢層に楽しまれて居る、そんな輪投げ屋に着いた。
普通だ、まぁ感じるのが普通って言うのは可笑しい気もするけど、この反応すら普通なのかな。
だって、この輪投げ屋って確か舞川じゃ無くて、地元住民と市からの露店だし、やっぱり普通って言うのがあまり前だね。
何か色々と考えてしまうが、それは全て切り捨て、秋葉姉さんと共に輪投げ屋に入った。
丁度客足が途絶えた所に入ったのですんなりと金を渡し、輪を貰えた。
500円で3つと言うのは高いのか安いのか分から無いが、多分それ相応の値段なのだろう。
勿論、何回もやれば無駄な出費でしか無いが。
「先ずは、はい!恋ちゃん!頑張ってね」何故か輪を1つ渡して来る秋葉姉さんだが、取り敢えず投げろって事か。
いや、まぁ秋葉姉さんなら確かに簡単だろうさ。だからって、やりたいって言った本人から渡されるのはさぁ、何かね。
深くは考えない、そう区切りを付けて輪を持ちながら、軽く景品を眺めて見た。
景品には射程屋と一緒で色々と充実はして居るが、やはり良い物はそれなりに難しい位置に置かれて居る。
しかも、子供じゃ取れ無いだろうに、これも合わせて、普通なのかな。
あまり欲しい物も無いし、それに秋葉姉さんに良さげな物も簡単には無理そう出し、狙うだけ狙ってみるか。
輪を投げてみたが、成果はボウズでした。やっぱり取れはしないよね。
「次は私で、最後は一緒にね♡」続いては秋葉姉さん、だけど不吉な言葉が耳を過ったけど、幻聴だよね。あはは、はは。
乾いた笑みを感じながら、秋葉姉さんが投げた輪は見事に何故か僕の輪の上に行き、それを見て何故か笑顔の秋葉姉さん。
あれ、なんて言うのかな。嫌な予感がビンビンに感じるよ。
人って以外と予感が当たる事ってあるよね。
僕を覆う様に秋葉姉さんが後ろからくっ付き、秋葉姉さんの少し荒く成った息遣いが耳元に響く。
密着された事に寄って背中に感じる柔らかいそれ、甘いスイーツの様な匂い、頭が可笑しくなりそう。
そんな僕には触れず、嬉しそうに「上手く行くかなぁー」と言う秋葉姉さんが、羨ましくは無いけど少し見習いたいです。
姉さんの腕が降られ、更に背中に感じる柔らかい物が強くなり、手から飛んだ輪は又もや何故か輪の上に乗った。
「2人の愛が2人を包んだね」あっ、そう言う事か。コレで納得は出来無いよ。
また何時もの様に秋葉姉さんの手の上だったのか。
反省じゃないけど、終わったからいっか。
次で最後か。色々見たから、何気に時間が過ぎたけど、「次は母さんでしょ」そう言った僕の声に反応する様に、母さんが近づいて来た。
大人と言うか、可愛らしいお姉さんの様な優しい雰囲気をした、ふんわりとした髪、可愛らしさの中にある大人としての色香、正に秋葉姉さんや夏海の母親なのだろう。見た目だけなら姉妹でも通じるだろうけど。
そんな母さんの手には予め買って置いたのであろう、焼きそばとたこ焼きが握られて居る。
何故、と思うが思惑あっての事だろうし、和えて言うまい。
母さんは自分の顔をぼくの顔に近づけ、優しい匂い。秋葉姉さん以上に安心する匂いをさせながら「ええ、次はママですよ」と言うが、高校生の息子にママを強要するのはどうかと思うが、何時も通りだから大丈夫って言う思考に成るのが悲しいけど。
「で、母さんは何をするの?」そう言った瞬間から、まるで一瞬の出来事だった。
母さんの顔が待ってましたと言わんばかりの笑顔に染まり、そして「ママと一緒にご飯食べながら、花火見ようね」まるで母さんの言葉に合わせられた様に、同時に火薬の匂いが強くなり、そして鳴り響いた爆発音と共に夜空に花火が打ち上がった。
一瞬、呆気に取られてしまった。だが、理解も出来た。
ああ、だから最後だったんだ、と。
普段なら母さんが何時も近くに居るが、わざわざ最後に自分をしたのはこの雰囲気を作り出す為か。
全く、本当ならそれって男の仕事中だろうに。ただ何にせよ、自分の為にやってくれた事は素直に嬉しいよ。
だから、「いいよ」僕はそう言えた。
すると母さんの笑顔が空に上がる花火の様に、色取り取りの風物詩と言うのかな。可愛さから美しさ、全ての要素を持った笑顔が零れた。
それからは早かったかな。「あーん」と言う優しい声で母さんに食べさせてもらう。それがこの夏の夜、そして今年の夏祭り、最後の思い出と成った。
これで第3章は終わりです。
次は来週から番外編を少ないですが投稿していきます。




