番外編 朝と鍛錬
晴れ渡る空、雲一つ無い澄み渡り、清々しさを感じさせて来る。そろそろ春とは言い難く成って来るであろう季節の中、如何してここまで良い天気なのにも関わらずこうして道場に居り、剰え目の前に映る美しくも凛とした彼女と向き合って居るのか。道場の中を木の何とも言えない匂いを纏わせた風が通り抜け、ふとそう考えてしまう。それを話すには今から2時間程前に遡る事に成る。
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何時も以上に体が重たい、あの旅行が終わり漸く次の日に成った。疲れ切った体はとても重く、起きる事すら憂鬱にさせてしまう。
そんな体でも、いや。そんな体だからこそ習慣癖と言う物は抜けない。
朝、まだ誰も起きてすら居ない時間帯に起きてしまった。ゆっくりと目を開け、鬱陶しい目ヤニを手で擦りながら時計を見てみると4時ちょい過ぎだ。学生、しかも大きな行事後ならば確実にまだ夢の中の時間だろうが、如何にも癖として染み付けた物は疲れ程度では落ちないらしい。
目を開けるのと同様、ゆっくりと体を起こしながら自然と手を組み、前に伸ばしながら休みかと思い出す。
旅行、大きな行事の後には基本的に必ず休みがやって来る。今回は2日間と結構な休みがあら、らが、実質は土日があるので4連休と成る。
わざわざ休みのしかも疲れた体にムチを打つ様な変態チック溢れた行為をする程、僕はマゾでも無ければサドでも無い。が、これもまた習慣。
2日も休んでしまうと如何しても体が怠けてしまう。ので、体を本格的に起き上がらせ様とした瞬間、普段あまり感じない重さが腰辺りを抑え付けた。
ああ、思い出す様にそんな言葉が頭の中に浮かぶと、まだ体の半分も被さって居る掛け布団をズラして行く。すると見えて来たのは見目麗しい少女だった。小柄と言う程小柄どは無いが僕から見ればとても小さな女の子、日本人なのに外人の様に整った顔立ち、例えこれが同学年だろうと確実に捕まってしまうだろう可愛さを持つ妹。そんな夏海だが今はかなり可笑しな感じで眠りに着いて居た。
腰の辺りに手を回しながら猫の様に体を丸めつつも足を絡ませ、その年に不相応の大きなそれを押し付ける様に当てて居た。
妹ながら身内贔屓無しで結婚、夏海を嫁に出来る奴は幸せだろう。この容姿、朝起きた所から夜寝る所まで全てを自分の物に出来る、しかも家事や運動神経、その他全てに於いて同年代で夏海に勝る者は居ないだろう。
ただこの痛くファンシーな寝顔が誰かに取られると思うと、流石に殺したく成るな。まぁ変な能力を持って居る僕が言えた話でも無いか。
夏海のその笑顔を見る度に心臓が、僕の良心や心が切り裂かれた様に痛む。何時もの視線寄りもかなり楽な筈なのに、ほんと。僕って弱いな。
自惚れてるのかな?この力を持って居る限り、みんなが僕の事を見てくれるって。それでも良いかなって思って居る自分が居るって。
弱い、それ以上に卑怯だな。他人の行為に甘えてる人や他人の弱味を握って脅して居る人と、何ら差が無いや。ただ故意かそうじゃ無いかの違い。何方にせよやって居る事は同じだ。
ゆっくりと息を吸い、またゆっくりと吐いていく。リフレッシュにすら成らないが、それで良い。落ち着いた様に感じられるのなら。優しく、壊れ無い様に夏海の頭を撫でながら夏海から離れて行く。今、これ以上居ると自分のが自分で無くなる、過去の自分や今の自分、存在を否定しかね無いから。
夏海の腕や絡まった足を解く様に剥がす?何かそんな感じに離れて行き、最後に布団を掛けた瞬間、夏海の口から言葉が漏れた。
「お兄ちゃん、夏海はお兄ちゃんの事」それはとても怖く、でも暖かく、語る様な小さい言葉。区切られた言葉の続き、更に小さな声で「………だいしゅきだよぉ」と言ってくれた。たったそれだけの言葉、たったそれだけでも僕には嬉しい。たとえ寝言でも、しっかりと呂律が回って居なくても、今の僕には深く滲みる言葉だった。
和む様な笑顔が零れそうだが、妹の前でそんな事はしない。立ち上がった体をベットの方に曲げながら、もう一度優しく頭を撫でた。
僕の幸運全てを僕が好きな人達に巡る様に。そう願った。
ある程度動き易い服に着替え、部屋を出た。妹とは言え、女性が居る所で着替えるのは何とも不思議な気分だが、背に腹はかえられない。と言うか、廊下で着替えればそっちの方が危ない。
そしてまだ窓からあまり光が差し篭る事の無い廊下を歩きながら、いつも通り渡り廊下に向かった。まだ朝方は結構冷え込み、あまり長いしたく無い感じだが、体を動かせばその内熱く成るだろう。
かなり寒さが体に染み渡る渡り廊下を渡り、急ぎ目で道場の扉を開け、道場の中へと入った。もちろん道場の中には誰も居らず、また差程温度がある訳でも無い。
もう少し寒ければ息が白く、舞い上がって居ただろうが、流石にそこまで寒くは無いので良い方なのかもしれない。
何時も以上に気合いを入れる様に、道場の真ん中に移動して先ずは準備体操をして行く。とは言っても基本的な伸脚や屈伸、肩回し何かの小学校でやる様な準備体操をして、次は軽く走り込み。まぁこれも体が温まる程度で良いので10分程で終わり、はい。約15分間程の準備が終わり、やっと本番。
肩幅に開いた何方かの足を下げ、体を横にした所で突きをして行く。一撃一撃に気と精神を込めて空中を突き刺す。慣れた様に突きを繰り返す。しっかりと肩から入れる様にする事で威力が増すので、そう言った細かい所まで気を使い、放つ。
1時間、普通に考えれば馬鹿にも思えて来るが、それだけの時間を掛けてやる事に寄って、基礎がかなり身に付く事に成る。で、次は上段、中段、下段の空手などで使う蹴りの練習を始める。高々突きの練習をして居ただけだが、結構な体力は無く成って居る。実際、汗が出て服と体がくっ付いて何か気持ち悪い。そんな事お構いなしにやっては居るが、気持ち悪い事に変わりは無く、我慢は出来るが良い物では無い。
それからもう1時間、蹴りの練習をして次はまだ父さんも来ない事だし、仮想空間。ボクサーで言う所のシャドーボクシングをやって行く。頭の中に今まで会った中で1番強い人を思い出し、それを身体にトレース。反映させながら対処法や動き方などを目を閉じながら、まるで本物が居るかの様にして行く。
やる事自体は簡単だが、記憶力とかなりの体力を消耗して行くので、程々にする事が大事とされる。
では 目を閉じ、心を落ち着かせ父さんを思い浮かべ、昔父さんに言われた事を思い出す。
人間の身体はとても脆い、だから医学に精通する事に寄って弱い力でも相手を倒す事が出来る。
1番最初に父さんから言われた言葉、確かにある程度の強さと医学の知識さえ有れば、相手を殺す事も殺さずに捉える事すらも簡単にこなせるだろう。
ならば、目の前に浮かぶ父さん。間合いはお互い踏み込めばやれる距離。だとすると、腰を深く下ろし頭の中で何パターンものシュミレーションを行い、1番父さんがやりそうな動きをさせ、それに対して1番良い動きで返す。
今の場合だと、僕の動きを見た父さんは1度下がり、僕は追撃する様に深く下ろした腰から脚へとバネを作りながら、一気に追撃を掛ける。だが、父さんは読んで居たかの様に僕の突きを回避し、下段から蹴りを入れて来るので足の軸をズラしながら周り、裏拳をかます。が、それすらも読んで居た父さんは死角から攻めて来た裏拳を交わす。医学的な事を考えながら、父さんの動きを考えながらと、それを何万回と繰り返し、練習を始めてから3時間が経ち、やっと扉が動き、来たかと思い扉の方を見ると、そこには僕の考えとはまた違った相手がそこに立って居た。
長く綺麗な黒髪のポニーテールを纏う様に靡かせ、鍛えられた体のスタイルは眩いばかりに良く、またその中性的なイケメンであり美少女の様な顔が綺麗だ。
海斗、それが彼女だと直ぐに分かったが、休みのしかもこんな時間に会うとは思いもしなかった。と言うか、確かに海斗も僕同様に武術を嗜んでは居るが、基本は自分の家にある道場でやって居ると聞いて居た。それなのに彼女は肌に密着する様な着物に良く似た剣道着を着て居り、手には竹刀が握られて居る。
何故だろう、そう考えて居るとそれを打ち消す様に「やぁ、恋おはよう。朝から鍛錬とはご苦労だね」と挨拶をしてくれたが、何か刺さる様な物良いだ。取り敢えず挨拶をされた訳だし「えっと、海斗もおはよう。それと」とそこで言葉を止め、「ん、なんだい?」今度は笑って居るが明らかに目が笑って居ない表情をした海斗が見えてしまった。
怖い、普通にそう思ってしまうが、耐えながら「海斗は何か怒ってるの?」直球をそうぶつけてみると、更に綺麗な笑みなんだけど笑って居ない顔を浮かべながら「別に恋が宿泊中に構ってくれなかったとか、生徒会の皆とイチャイチャして居たとか全く気にして居ないよ」うん、それか。
勝手に納得してしまったが、まぁ原因は分かった。で、今日来た理由は構って貰えなかった分、ストレス発散と触れ合いも兼ねて来た訳か。にしても構ってくれなかったって、僕は優しいお兄さんの様な立ち位置に成った覚えは無いのだがな。
溜め息が出そうだが抑え、少し意地張ったこの状態を楽しんでも良いけど、それだと後で何されるか分からないし、まぁ無難に「ねぇ海斗、一緒に鍛錬しない?」と聞く事にした。
すると「ふ、ふふん。恋がどうしても、どうしても一緒にやりたいって言うんだったらやっても良いよ。本当は僕も忙しいのだが」急激なまでにニヤニヤとした海斗はそう言うと、竹刀を握り締め素振りを始めそうな勢いでそう成ったが、こう言われると虐めたく成っちゃうよね。
「あ、別に忙しいなら大丈夫だよ。海斗にも用事があるんだし、ごめんね。無理言って」と返してみた。
その瞬間、海斗は「ふぇっ」と言葉に成って居ない言葉を発して、追い討ちを掛ける様に「そろそろ父さんも来るだろうし」と言い、反応を待って居るとなんだろ。凄く何時もの様な凛とした雰囲気は無くなり、シュンと成りながら「……たいの」と小さい声をだし、続け様に「僕も恋と一緒にやりたいの!」と叫ぶ様にそう言った。
何か凄く可愛いな。今の海斗は。
と言う事が有って今に至る訳だが、取り敢えず組みからかな。
4m程の距離を取り、海斗と向かい合いながら先ず一撃、海斗の胸辺りを目掛け弱めの突きを放つ。
それを海斗は右手で否しながら、余った左手で僕同様に胸の辺りに向かって突きを放って来る。
これを10分程繰り返し、海斗のウォーミングアップが済んだ所で試合が始まる。海斗の手にはしっかりと握られた竹刀が有り、腰を低めにしながら居合い、抜刀術の様な形で構えて居る。逆に僕はシュミレーションで行なった父さんの動きを真似る様に、棒立ちにしてどの攻撃でも回避し、反撃が出来る様にした。
海斗は表情を硬くしながらも息を吐き、僕の目を見ながら呼吸を知ろうとして居るのが、目に見えて分かる。一様剣道も習って居るので独眼竜とか関係無く、基礎の動き程度なら手に取るように見える。
となれば、此方が早く海斗の呼吸を読み取り、海斗が攻めて来たのと同時に、小手先目掛けて竹刀を飛ばすぐらいの蹴りを放つ。
見事なまでに動きは決まり、海斗の竹刀は宙を舞、放物線を描きながら道場の端に吹き飛んだ。だが、これで引く程海斗は弱くは無い。
瞬時に合気道の様な構えに移った海斗は僕の足を掴み取り、掴んだ手を引きながら逆の手を足の下に掛け、関節を動かない様にさせながら引き上げた。
海斗の腕力自体は一般的な女性寄りも多少強い分類で、僕の事など持ち上げる事などは不可能だろう。が、蹴りの勢いを使った事に寄り僕は宙に浮かび上がった。
まぁ、こう成るのは何と無く予想通り。掴まれた足を軸にしながら、直ぐ様回し蹴りを海斗の首にやり、足で首をホールドして倒れた時には関節を決めた柔道の技、腕挫十字固めをした。
腕を伸ばした状態で固めて居るので海斗の全体の自由は僕にあり、肘が伸び切って居るため『てこの原理』を使う事に寄って腕を折る事すら出来る。
つまりこう成ってしまうと完全に僕の勝ちが決まり、海斗も分かったのか降参と言う顔をして居る。
にしても、何故海斗から離れ様としてるのに離れられないし。と言うか何故抱き付いてる。
はぁ、休む時間すら無いのか。
今回から番外編に入ります。番外編は4 話なのですが全体的に文の直しなどを入れるので、2〜3週間程休みを取るかもしれませんが、ご了承下さい。
では、次回もよろしくお願いします。




